今、女性が大手企業に見切りをつけるワケ――年功序列、望まない部署異動「悠長にキャリアを積んでいる暇はない」

大企業の倒産、メガバンクの大量リストラなど、世の中を騒がせている昨今のニュースを見ていれば、「大企業神話の崩壊」をリアルに感じられる。

学生に対して行われる就職に関する意識調査では、まだまだ大企業人気は根強いが、既に働いている20代~30代女性の間では、「大手離れ」とも言える現象が起きている。

先行きは分からないとはいえ、福利厚生の充実、高い給与水準など、大企業勤めならではのメリットもあることは確かだ。だが、それを捨てても女性たちは、何を手にしたいと思うのか。「大手に見切りをつけた」その理由を当事者たちに聞いた。

裁量が持てない、専門スキルが身に付かない。「このままでいいの?」将来への不安が募る

今、女性が大手企業に見切りをつけるワケ――年功序列、望まない部署異動「今の時代、悠長にキャリアを積んでる場合じゃない」

2012年に大手飲食メーカー(アルバイトも含む従業員数約4000名規模)に就職し、現在は社員数約40名弱のインターネット広告企業アキナジスタ株式会社に転職した井手香織さんは「グローバル展開をしながら成長していく前職の環境は、非常に魅力的だった」と話す。

しかし、実際に担当した仕事はルーティーン業務がメイン。アシスタント業務のような位置づけだったため、裁量を持って働くことが難しかった。

「このままずっとこの仕事を続けていて大丈夫なのか。自分のキャリアパスが不透明で、不安でした」(井手さん)

株式会社キュービックの井上さんは、前職ではEコマース、カード、証券などインターネットサービス事業を行う企業で働いていた(従業員数約1万6000名)。そこで経験したジョブローテーションに強い違和感を抱いたと明かす。

「前職では、社内のいろいろな部署を、半年~1年で異動するカルチャーがありました。やっと仕事がものになったと思うとすぐ異動が来てしまい、昇進・昇格も難しい

自分だけでなく先輩たちもそうだったので、理想のキャリアをここで描くのは難しいと感じるようになりました」(井上さん)

20代のうちに子どもがほしい、出産後も長く働き続けたい、そう考えていた井上さんは、はやいうちから専門的なスキルを磨き、社内でも確固たるポジションを築いておきたかったという。

部署異動に個人の希望が反映されにくいことや、社内でのキャリアパスが制限されてしまうことは、大手企業によくある事例だろう。

年功序列・終身雇用の仕組みは女性のキャリアに合わない

今、女性が大手企業に見切りをつけるワケ――年功序列、望まない部署異動「今の時代、悠長にキャリアを積んでる場合じゃない」

井上さんと同じく、株式会社キュービックで働く初野美咲さんは、かつて、行政系システムのSIerとして社員数約15万人規模のメーカーで働いていた経験を持つ。

前職への入社動機としては「やりたいことが実現できそう」という思いがあったが、「両親を安心させたかったというのもある。でも、実際就職活動時の自分の会社選びの視点は、甘かったと思う」と本音をこぼした。

終身雇用前提のキャリアパスが、女性には合わないと痛感したんです

例えば、私はシステム開発のPM(プロジェクトマネジャー)をやることを第一段階の目標として置いていたのですが、私の部署ではそのポジションに就くまでに10年はかかる仕組みだったんです。

20代のうちに子供が欲しかったけれど、中途半端なポジションのまま育休は取りたくない。

安心して育休に入りたかったから、それまでにビジネスパーソンとしての市場価値を上げておきたいと考えていました。だとすると、年功序列・終身雇用が根強い会社は自分に合わないと感じたんです」(初野さん)

かつて大手広告代理店グループ企業で働いていた経験を持つ株式会社CINRAの竹中万季さんも、組織の年功序列制度に違和感を抱いた一人だ。

「新しいチャレンジや個性、思考を柔軟に受け入れてもらえる環境ではなく、成長が阻害されていたように思う」と話す。

「与えられた仕事の中で得意なことは見つかっていったけれど、自分が本当にやりたいと思えることにはなかなか出会えない環境だった。

自分の個性や考え方を活かして働ける企業であれば、長く働けるのではないかと感じ、これまでの経験を活かせる今の会社への転職を決めました」(竹中さん)

竹中さんと同じく、株式会社CINRAで働く山本梨央さんも、大手通信サービス企業からの転職者だ。

「大手ではあるもののベンチャー気質がある会社だと思って入社した前職では、上長から『10年かけて営業を一人前に育てる』ということを何度も言われました。

この会社で、20代のうちに一体どれくらいのチャンスが自分に回ってくるのか、と不安を感じました」

結果的に、転職時点での年収を下げてでも、“経験を買える”ような職場に転職しようと決意した。

会社の規模が小さくなったなったとしてとも、納得できる環境で、納得できる仕事をしたい。そういう自分の価値観が、明確になっていったんです」(山本さん)

「この会社でずっと働きたい」そう思える職場を選ぶこと

今、女性が大手企業に見切りをつけるワケ――年功序列、望まない部署異動「今の時代、悠長にキャリアを積んでる場合じゃない」

卸売業及び流通加工業などを行う5000名規模の企業から、約100名が在籍するインターネット広告事業を行う株式会社アイモバイルに転職した谷澤留理さんは、「大手企業だからこそ確立されていたルールが、自発性を失わせ、自身の成長を妨げていた」と過去を振り返る。

「大手ならではの給与や福利厚生などの充実を、手放すことに多少迷いはありました。でも、いざ転職してみたら、その程度のことはリスクと思わなくなりました。

今の私にとっての『安定』は、この会社でずっと働きたいと思えるかどうかです。制度が充実していたところで、その会社で業務を続けられなければ、それこそ不安定です。

自分が会社にいる存在価値を感じられるか、自分自身がここで働き続けたいと思えるかどうかが一番重要なのではないでしょうか」(谷澤さん)

「大手勤めであることや、企業のネームバリューは、結局些細なこだわりに過ぎません。転職してみて分かったのは、自分自身の夢や、スキルアップを重視することの方が大事だということ」

そう話すのは、経営コンサルティング会社の株式会社プロレド・パートナーズ(従業員数約80名)で働く新美奈々さんだ。かつては大手航空会社に勤務していた。

「『安定』をほしがる女性は多いと思いますが、それは企業に紐づくものではなく、人に紐づくもの。今の時代、どんな大手企業でも破綻することはあります。

これをやっておけば絶対大丈夫、という保障もありません。だからこそ、企業に依存するのではなく、自分自身のスキルを磨き、高めておくことが最大のリスクヘッジになると思うんです」(新美さん)

周囲の声や世間の常識にまどわされることなく、自らの意思で転職を決意した女性たちの言葉からは、“納得感”を持って働き続けていくためのヒントが数多く含まれている。

場所を問わず使えるビジネススキルを20~30代のうちに磨いておくこと。そうして人生の選択肢を広げ、自分で自分の働き方や生き方を選び取る力を身につけること。それこそが、真の安定と言えるのかもしれない。

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取材・文/栗原千明(編集部)