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MAY/2018

【てぃ先生・治部れんげ・田中俊之・今尾朝子】働くママを苦しめる「母ギャップ」問題について語る

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働くママたちの、毎日は忙しい。「自分の時間」を確保するのは至難の業。仕事に、子育てに、もう精一杯頑張っている。それでも、時折ふと込み上げる、「私は、いいママなんだろうか?」という問い。

仕事も子育ても、頑張りたい。でも、思うようにできない。そんな、働くママたちが抱える悩みの種を「母ギャップ」と名づけ、「#スタンダードは私が決める」というキャッチフレーズのもと、子育て中の女性を応援するプロジェクトムービーを発表したのが人気女性誌『VERY』(光文社)とヘアケアブランド『パンテーン(PANTENE)』だ。

上記の動画公開日と同日、今回のプロジェクト発足の背景でもある「母ギャップ」問題について、『VERY』編集長の今尾朝子さん、ジャーナリストの治部れんげさん、Twitterで人気の保育士てぃ先生と、社会学者(男性学)田中俊之さん、によるトークセッションが開催された。

「母ギャップ」の正体とは何か。働くママたちを取り巻く社会はどうなっているのか。そして、女性たちが今後、より伸び伸びと仕事と子育てを両立していくための方法とは……? 4人の識者が語った。

「育児は女性が無償でやるもの」
そんな価値観がずっと変わっていない

【てぃ先生・治部れんげ・田中俊之・今尾朝子】働くママを苦しめる「母ギャップ」問題について語る

『パンテーン(PANTENE)』が行った調査によれば、日本のママの多くが、「理想のママ」と現実の自分には大きな差があると考えているという。自分自身が抱く理想のママ像と現実の自分は程遠い。家族など身近な人が求める「立派な母」像と自分は全く違う。世の中が掲げる「いいお母さん」像になんて全く近づけそうにない……。ママたちの自己評価は非常に低く、「母ギャップ」が生まれているというのだ。

司会:こうした調査結果を、田中先生はどう見ますか?

田中:これって現代の母ならではの悩みなんですかね? 過去のデータがないから比べようがないですが、もしかしたらこういった母ギャップ問題っていうのは、昔からあったのかもしれない。『朝日新聞』のデータベースを見てみると、「カギっ子」っていう言葉は1964年に初めて紙面で取り上げられていました。これって、当時の働くお母さんにとっては、すごく心苦しい現象だったはずです。新聞は、「お母さんが外に出て昼間家にいないから、子どもがかわいそうだ」っていう論調で『カギっ子』現象を報じています。

また、1975年は、日本において女性の子育て世代の労働力率が最も下がる年です。つまり、専業主婦が激増する中で、外で働くお母さんたちは「ひどい母ね」と責められていた。ここから見えるのは、育児って、女性が無償で母性愛にもとづいてやるもんだっていう認識が50年前からあって、それは今も地続きになっているということ。裏返せば、有償労働を男がフルタイムでやって当然だっていう考え方もいまだに変わってない。「父親ってどういうものなんだろう?」ってことも一緒に再定義しないと、母ギャップ問題だっていつまでたっても解消されないのではないかと思います。

【てぃ先生・治部れんげ・田中俊之・今尾朝子】働くママを苦しめる「母ギャップ」問題について語る

てぃ先生:男女間のギャップもあれば、世代間のギャップもありますよね。最近、保護者の方から聞いたお話なんですけど、お子さんが風邪をひいて病児保育を使おうとしたけれど、空きがなくて実家のおばあちゃんに「1日だけ預かって」と連絡したそうなんですよ。そうしたら「ご近所の人に預けたらいいじゃない」って言われたらしくて(笑)。当時はそれでうまくいったのよっていう、善意でのアドバイスだったと思うんですけど、今は全く現実的じゃない。子育ての状況が変わっているっていうことが、理解できない人も多いから、それで今のお母さんたちが苦しむっていうのはあると思いますね。

司会:子育て方法一つとっても、今と昔では常識が全然違いますよね。

てぃ先生:よく話題にあがるのは、スマホを子どもに使わせるべきかどうかってこととかですね。でも、これからの時代を生きていく子たちが、スマホやタブレットを使いこなせないなんて、逆にそっちの方が困るでしょう? だったら、早いうちから使わせてあげればいいんじゃないでしょうか。自分たち、大人が生きてきた時代を前提に物事を子どもに押し付けるのはやめた方がいいですよ。

司会:子どもにスマホを使わせるかどうかは、多くのお母さんたちが悩むところですね。

てぃ先生:それで言うと、1個実践していただきたいのは、スマホやタブレットで動画を見て遊んでいる子どもに、「これを見て、どう思った?」って後で聞くことですね。その一言があって、子どもが考えるだけで、それが映像学習になります。ただ遊ばせているだけでは大人側も罪悪感を抱きやすいけれど、学習の一つとして動画を見せていると思えば、気が楽になりませんか?

司会:確かにそう感じます。また、『VERY』と『パンテーン(PANTENE)』の調査によると、働くママたちは非常に自己肯定感が低いんですが、それについて治部さんはどう考えますか?

【てぃ先生・治部れんげ・田中俊之・今尾朝子】働くママを苦しめる「母ギャップ」問題について語る

治部:今の20代、30代の働く女性たちって、高学歴の人の割合も増えたし、結婚、出産後も働き続けるのが当たり前という考え方がありますよね。でも、家事は女がやる、みたいなステレオタイプも捨てきれてない。だから、パパみたいにバリバリ働くけど、家では自分のお母さんがしてくれたみたいにちゃんとしなきゃとも思っていて、二つの顔を保つことに必死になってしまいがちなのかなと。

司会:まさに母ギャップを感じますね。本当は誰より頑張っているのに、できない部分にばかり目が向いてしまって、過小評価しています。

てぃ先生:パパたちはきっと自分のことをもっと過大評価しそうですよね。どうですか? 田中先生。

田中:「乱暴、不真面目、大雑把」これが、男性というものです。一方で、女性は「優しい、真面目、細かいところに気が付く」です。すると当然、男の自己評価は甘くなると思いますよ。それでいいし、むしろ、それがいいと社会的にされているわけですから。

あと、日本の女子高生にアンケートを取ると、世界の女子高生に比べて、自分の容姿などへの自己評価がかなり低いというデータがあります。そういう人たちが、これから母になるんです。「優しい、真面目、細かいことに気が付く」は、美点にもなるが、弱点にもなり得ます。だって、子育ては合理的なものじゃないから、そもそもそれを真面目モードにやろうとすると、必ず齟齬が出るんですよ。

子どもは非合理そのものです。それに、大人だって、非合理ですよね? 日々の生活全てが計画通りにいかないことなんて当たり前じゃないですか。そういう思い通りにならない毎日をたくましく生きるには、大雑把さとか、自分を過大評価することもある意味大事なんですよね。

司会:今尾編集長は、働くママたちの苦しさは、どうしたら解消されると思いますか?

今尾:「母は偉大」みたいな呪縛ってありますよね。特に日本は、「母」に対する期待感が強すぎる。子どもを第一に、不真面目ではならぬという。そういうのは、少しハードル下げてもらわないと、苦しいですよね。『VERY』読者に関していえば、「良いお母さんになりたい」というマインドの人がすごく多いと感じます。子どもが大事だからそういう気持ちがあるのは自然なんですけど、どうしても完璧な母を目指してしまう。SNSを開けば、すごいスキルを持ったママがいて、すごい細やかなお弁当を作っていたり、ママ友が優雅な休日を過ごしていたりする姿が目に入ってきます。そういうものを見てモヤモヤしたら、「あ、これは母ギャップかな」って自覚して、「私は私でいいんだ」と思い直す作業をしてもらえたらなと思いますね。

【てぃ先生・治部れんげ・田中俊之・今尾朝子】働くママを苦しめる「母ギャップ」問題について語る
司会:自分の“マイスタンダード”を持つということですね。

治部:それは大事なことですね。うちの子が通っている幼稚園は、「手作り」をすごく大事にする校風があるんですよ。例えば、入園時点でリュックサックを保護者が手作りするとか。「えー、そんなことできない!」って最初は思ったんですけど、いざやってみると、意外と楽しめました(笑)。今まで男社会でバリバリのサラリーマン生活をしていた私にとっては、刺繍なんて未知の世界だったわけですが。

司会:それはすごいですね(笑)

治部:中には、プロみたいな刺繍をしてくるお母さんもいるんですよ。で、「うわすごい、これは私にはできないよ……」って思ったりもします。でも、同じ園に子どもを通わせている別のお母さんの中には、「普通はそんなことできないから!」って言ってくれる人もいて。「できる人はすごいね~」「私たちはいいよね、あそこまでは」とか言い合って過ごしています(笑)。でも、そういう会話ができる相手を見つけたことで、私もだいぶ楽になったんですよ。「私にはこれは無理です」とか、そういうマイスタンダードを口に出していると、それに共鳴してくれる人が身近に現れて仲間になってくれたりするので、隠さず外に出していった方がいいなと思った一件でしたね。

田中:かつて「カギっ子」の時代は、働くママたちが心苦しい思いをしていたかもしれないけれど、今は専業主婦やパートの女性の方がつらいかもしれませんね。女性活躍だ、共働きが前提だって言われて、「専業主婦は怠けている」などと叩かれたりする。それって、世の中から叩かれる人が変わっただけで、結局ダイバーシティーアンドインクルージョンにはなっていないですよね。一人一人がスタンダードを決めて良い。それがダイバーシティー。でも、ダイバーシティーを許容し、インクルージョンする社会にならないと、ずっと誰かが苦しいままです。

司会:いろいろなお母さんたちがそれぞれのスタンダードを発信して、多様性認め合う社会にしたいですね。

てぃ先生:結局、世の中には皆が乗っかれるスタンダードなんてないはずなのに、それがあるように錯覚してしまう。こうすべき、ああすべきっていう“べき論”だけが一人歩きしている気がします。本当は、正解なんてないのに。だから、一人一人がどう生きるか、どう働き、どう子育てをするのか、決めるのが大事です。

今尾:今回作成した動画に出演していただいたママは4名いるんですけど、他にもたくさんのママたちにインタビューさせていただきました。すると、自分の子どもには「自分らしさを見つけてほしい」と語る方がすごく多かったんですよ。私たちも、ママたちが「自分らしさ」「マイスタンダード」を発見するお手伝いをしていけたらいいなって思っています。自分のスタンダードをしっかり持っている人が増えれば、お互いの違いを認め合って、優しくなれますからね。きっと世の中も変わるはずです。

取材・文・撮影/栗原千明(編集部)

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