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MAY/2018

【おっさんずラブ】の舞台裏、貴島彩理プロデューサーが明かす――「『あげないよ』は遣都さんのアドリブです」

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そのピュアなラブストーリーが熱狂的なファンを生み、Twitterの世界トレンド1位という偉業を達成したドラマ『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)。ポンコツだけど誰より優しい主人公・春田創一(田中圭)、ダンディーだけど乙女な部長・黒澤武蔵(吉田鋼太郎)、そしてドSだけど健気な後輩・牧凌太(林遣都)の男3人を中心に繰り広げられる予測不可の恋模様を、今、日本中が固唾を飲んで見守っている。放送は深夜枠。視聴率も決して高いというわけではない。にもかかわらず、なぜ『おっさんずラブ』はこれだけ熱い支持を集めているのか。

6月2日の最終回を前に、プロデューサーの貴島彩理さんを緊急取材! この春一番の話題作の舞台裏を語ってもらった。

おっさんずラブ 貴島彩理 プロデューサー テレビ朝日
貴島 彩理(きじま・さり)さん
1990年3月20日生まれ。東京都出身。慶應義塾大学卒業後、12年、テレビ朝日に入社。バラエティー部でAD、ディレクターを経験した後、16年にドラマ部へ異動。『オトナ高校』で連ドラ初プロデュースを担当。『おっさんずラブ』は連ドラプロデュース2作目となる ■『おっさんずラブ

「別れのシーンは、圭さんと遣都さんへの挑戦状でした」

――6話は全視聴者が思わず悲鳴をあげる展開となりました。貴島さんはこの“衝撃回”のオンエアをどんな気持ちで迎えたのでしょうか?

視聴者の皆さまが、各キャラクターの幸せを本気で願ってくださっているのを肌で感じていたので「これ、放送したらどうなるんだろう……」って怯えていました(笑)。すごく仲の良い現場で、座長(田中圭)の呼び掛けのもと、よくオンエアをキャストと一緒に観ているんですけど。6話に関してはTwitterが炎上しているのを見ながら、「大変なことになっている……」って。ヒヤヒヤ半分、嬉しさ半分という気持ちでした(笑)。

――あの「1年後」には正直驚かされました。

連続ドラマの良いところって「来週どうなるの?」ってドキドキしながら1週間頑張って生きられるところだなと思っていて。『おっさんずラブ』に関しても、毎週、そんなふうに楽しんでもらえるラストを心掛けていました。6話は最終回の前の大切な山場だし、誰も予想のつかない展開にしたくて。「土曜日まで待てない!」「誰と幸せになるの?」って身悶える終わり方にしたいなぁと考えて、ああいう形になりました。

――何と言っても春田と牧の別れのシーンが視聴者の涙腺を直撃しました。貴島さんはどんな気持ちであのシーンをご覧になりましたか?

あのシーンは私の中で、圭さんと遣都さん、お二人への挑戦状というかラブレターみたいな気持ちもあって。あれだけお芝居力に長けた彼らに、全力で感情をさらけ出すシーンを演じてもらったら、何が起こるんだろうと、期待を込めて作ったシーンでした。撮影当日は、お二人ともすごく真剣で、それを察してスタッフも全然喋らない。いつもと全く違う空気でした。

おっさんずラブ 林遣都
おっさんずラブ 田中圭
おっさんずラブ 貴島彩理 プロデューサー 林遣都 田中圭 

――春田が流した涙は、台本には書かれていなかったと聞いています。

はい。牧が声を詰まらせてボロボロ号泣する姿を見たら、いつの間にか春田も泣いていて。きっと牧のことも好きだし、遣都さんのことも大好きだから、その気持ちがないまぜになって涙が出てきたのかなぁって。

これは春田と牧なのか、圭さんと遣都さんなのか、見ている私も分からなくなって「今すごいものを撮っているな」ってゾクゾクしました。カットがかかった瞬間、後ろから鼻をすする音が聞こえて。振り向いたらスタッフがめっちゃ泣いていて(笑)。ビックリして「ちょっと! みんな泣いてますよ!」って監督に声をかけたら、監督も記録さんも泣いていて。そんな光景、初めてでした。それだけ圭さんと遣都さんの“役を生きる力”が物凄かったし、お二人がつくり上げた春田と牧というキャラクターにみんなが感情移入をした、とても幸せな撮影でした。

――何かお二人に声はかけましたか?

おっさんずラブ 貴島彩理 プロデューサー テレビ朝日

もう全面的に信頼しているので、特に話すことはなかったです。撮影が終わった時は、なぜか握手をして「ありがとう。お疲れさま」とだけ声をかけたかな……。あんまり記憶がないですけど。もう、言葉はいらないな、というのが正直な気持ちでした。

あの涙に、春田の愛される理由が表現されていた

――これだけ視聴者を夢中にさせているのも、ひとえにメイン3人のキャラクターによるところが大きいと思います。まず主人公の春田創一についてですが、2016年に放送された単発ドラマのときはもう少し同性同士の恋愛について拒否感が強いキャラクターだったように見えました。今回、春田の人物像を設定する上でどんなことを意識されたのでしょうか?

連ドラ化の際に圭さんご本人から、ダメ人間の春田がなぜこんなにも人々に愛されるのか、理由が必要だと思うと相談を受けて。春田の魅力ってなんだろうと。そこで色々話し合いをしていく中で、今の“ポンコツだけど憎めない春田”が出来上がったのかなと。

あとは圭さんご本人の力に引っ張られたところが大きくて。第1話で部長に告白されたとき、春田がポロリッて泣いてしまうのですが、台本にはそんなト書きはなくて。あの涙は、決して男の人に告白されて困ったからではなく、尊敬している部長に愛を告白されて、嬉しいけど応えられないという春田の優しさから溢れたもの。圭さんがあの涙で“春田が愛される理由”を見事に表現してくださったと思っています。

私も見ながら「春田、いいやつじゃん!」って惹きこまれました。当時、ちょうど4話以降のお話をつくっている最中だったと思うのですが、圭さんに演じて頂くことによって、その後の春田の進む道が、少しずつ影響された気がします。

――男性同士の恋愛と言うと、普通はどう観ていいか視聴者も困惑するところなのですが、それをコメディーとして万人に楽しんでもらえるつくりにしたのが吉田さん演じる黒澤部長だと思っています。

おっさんずラブ 黒澤部長

鋼太郎さんは単発のときからご一緒しているので、もうこちらが何か戦略を立てるというよりは、彼に身を委ねさせて頂いた印象です。何より鋼太郎さん演じる部長が可愛すぎて、圭さんも本気で鋼太郎さんのことが好きになっていましたし、「恋愛対象ではないけれど好き」というところに二人の関係を持っていけたのは鋼太郎さんのお力のおかげだなと。

唯一意識したことがあるとすれば、部長からのラブアプローチはこの時代、一歩間違えるとセクハラ・パワハラと言われがち。でも本当全然そうじゃなくて。部長は今まで男性に恋をしたことがないので、春田への想いはある意味“初恋”のようなもの。つい女子高生みたいにハイテンションになったり、周りが見えず先走ってしまったり、それは端から見たら滑稽かもしれないけれど、片想いをした経験のある人なら誰しも共感できること。あくまでも、誰より心根はピュアなでまっすぐな部長をつくっていくことを心掛けました。

――そして連ドラ版から新たに登場したのが、牧です。ドSな後輩という設定が非常に効いていると思っているのですが、このあたりはどんな狙いを込めたのでしょうか。

おっさんずラブ 貴島彩理 プロデューサー テレビ朝日

まず部長と逆のキャラクターにしようと最初に考えました。部長は、なりふり構わず恋に向かって一直線で突き進むタイプ。逆に牧は、小さい頃から男性が好きで、そういう自分と向き合いながら生きてきた人間。だから、あまり自分の感情を表に出さない、我慢しがちなキャラクターにしたいなと。でも人間そんなにカンペキじゃないはず、どこか揺らいでいる人間味をプラスしようと考えたときに浮かんだのが、ドSという設定でした。精神年齢は高いのに意外に沸点が低いというか、オトナなのにどこか子供というか。人間として完成されていない“一種の危なっかしさ”があった方が深い魅力になるなと思って付け加えた設定を、宣伝的に「ドS」と呼んでいたイメージです。

遣都さんからも最初の頃にドSという設定についてどう捉えればいいか相談をいただいたんですけど、「ドSってワードにすると漫画みたいだから、気にしないでほしい」と伝えて。監督も「キャラに振り回されずに、遣都さんの中にあるモノの中からつくっていこう」と。現場で圭さんとも出会って関係を作る中で、いつの間にか“牧”という人間が生まれていました。急にタメ口を挟むとか、怒っているようで喜んでいたりとか、いろんなところで牧の人間味を繊細に表現してくださった印象です。

――そこ、気になるところなんですが、どのあたりまで台本で、どこからアドリブなんでしょうか?

どうなんでしょう(笑)、台本を変えているというよりは、広げてくださっているイメージで。カットをかけずに放っておいたら生まれてきた奇跡のようなものを、素敵だからそのまま放送しちゃっている……というか。

――例えば、第1話の告白シーン。牧は「好きです」ではなく「好きだ」と伝えますよね。

おっさんずラブ 田中圭 林遣都 テレビ朝日
あれは台本の段階で「好きだ」でした。「どうして『好きです』じゃないんですか?」と遣都さんからも質問をいただいて。「ここは敢えて『好きだ』にしたんです」っていろいろ話しながら演じていただきました。

――そこで「春田さんが巨乳好きなのは知ってます。でも、巨根じゃダメですか?」という衝撃的な告白の言葉が飛び出します。このあたりはネタとしてはギリギリのラインでしたが、結果的にこの台詞が視聴者に大きなインパクトを与えました。

遣都さんも「牧はどうしてこんなことを言ったんでしょう」って言っていて(笑)。当然の質問だなぁと思いました。ただ、好きになると何も見えなくなることってありますよね。「何であんなことを言ったんだろう」って翌日、自分でも理解できなくて後悔するんだけど、その時頭に血がのぼった自分にとっては、それが正解なんだと思って、つい言ってしまう“一言”って誰にでもある。牧にとっては「巨根じゃダメですか?」もそのラインじゃないかって。いつもの牧なら120%言わないと思うけど、人って完璧じゃないから。少しの歪みで事件は起こるというか。

キャッチーな台詞ではあるから、普通だったらもっとキャッチーに演じることもできたと思うんですけど、それを遣都さんは“本気で言える”状態まで、牧の気持ちをつくってくれた。そこが遣都さんのすごいところで。この台詞がきちんと告白の言葉として成立したのは、林遣都という俳優の力があったからだと思います。

「俺も食べたい」「あげないよ」どちらもアドリブです

――SNS上にこのドラマにのめり込んでいる視聴者の声が溢れ返っています。これだけ視聴者を熱狂させた最大の理由は、春田と牧というカップルの力だと思いますが、これだけの反響というのは想定内のことだったのでしょうか?

いえ、全く想定外です。私自身、BLについて全然詳しくなくて。“牧春”という言葉も皆さんがSNSで使っているのを見て、初めてそういう言い方があるんだと知りました。今はスタッフ間でも使っていますし、うちの母親も“牧春”って言っています(笑)。

――なぜ春田と牧という二人はここまで視聴者に愛されたのだと思いますか?

おっさんずラブ 貴島彩理 プロデューサー テレビ朝日

やっぱり役者さんたちのおかげだと思います。圭さんも遣都さんも、ちゃんと春田と牧として生きてくれている。お二人に限らず、『おっさんずラブ』のキャストは皆さん嘘をつきたくないということをすごく大切にされていて。思わずツッコミたくなるような台詞や設定でも、ちゃんとそこで生きることにこだわっている。そういう姿勢が、まるですべてのキャラクターが実際に生きているような世界観を生んでいるんだと思いますし、それを見て多くの方たちが応援してくださっているのかなと捉えています。

――春田と牧のシーンはかなりアドリブも多いと聞きました。

そうですね。むしろSNSでバズっているシーンの多くが、台本にはない部分な気もします。例えば、第5話のラスト「牧と一緒にいることは俺にとって全然恥ずかしいことじゃないから」というシーン。台本に書かれているのはここまでで、その後、春田が牧に帽子をかぶせるのも、牧が春田を追いかけるのも、すべて圭さんと遣都さんのアドリブです。

――第6話の副音声でその話が出ていて驚きました。

他にもいろいろあります。第4話で話題になった「俺も食べたい」「あげないよ」もアドリブです。カットをかけずにしばらく待っていたら、二人がイチャつきはじめたので、「ええやん」みたいな(笑)。私もスタッフも「あげないよ」と聞いた瞬間、「あげないよ!?」って色めきたちました(笑)。

――6話で牧がかつての恋人の存在をにおわせたときに春田が面白くない顔をして。そこで牧が「気になる?」と聞きますよね。あそこももしかして?

あれもアドリブですね。6話で言えば、春田が牧の看病をするシーン。あれも台本では「もち米使ったんですか」の後は「もう家の物、触んないでもらえますか?」で終わりだったんですが、遣都さんが「僕、春田さんにつくってもらったものなら、どんなにイラッとしても食べると思うんです」とおっしゃって。それで実際にやってもらって、ああいう愛らしいシーンになりました。

――あのベロッと舌を出すところが可愛かったですね。

おじいちゃんみたいで、すごくいいですよね(笑)。もちろん基本は台本に沿って演じてくださっているんですけど、台本を読み込んだ上でキャラをどんどん広げていく役者さんたちの力は本当にすごいなと驚くことばかりですし、そうやってカットをかけずに役者から出てくるものを待つという監督の撮り方があってこそ生まれたシーンがたくさんあります。どれも私の当初の予想を超えるものばかり。結果的に、そういう生のものが反響につながっているのだと思います。

おっさんずラブ 田中圭 林遣都

これは、人を好きになることが分からないダメ男が一歩成長する物語

――春田と牧のネクタイが揃っていたり、カミングアウトした夜に春田の好物の唐揚げが食卓に出たり。そこからいろんな考察をする視聴者もいます。

皆さん本当に細かいところまで見てくださっていて、ビックリしています。ネクタイに関しては遊びでちょっと揃えてみたところもあるんですけど、半々くらいで。私たちが意図していなかったところまで読み取って想像を膨らませてくださる視聴者の皆さんには、本当にありがとうという気持ちでいっぱいです。

キャストもそうなのですが、スタッフもすごく愛をこめて作品をつくってくれて。春田の営業日誌や虎の巻も、現場の助監督さんがつくってくださったものがあまりに面白くて「このヘタなイラスト描いたの誰~(笑)」「文章も最高だからインスタにも載せようよ」って。

5話のデートで春田がメロンソーダを飲んでいるのも、スタッフのアイデア。私のプロデュースを遥か超えたところで、各スタッフが愛をもってつくった部分が反響につながって、この時代にこんな“視聴者との対話”があるんだなと思います。春田の家のマグカップとか、牧の服が売り切れになっているという話も純粋に嬉しいです。どれもひとつひとつ意味を込めてスタッフが選んでいるので、小さなところまで気づいて愛してくださるファンの方がいることが、スタッフにとってもすごく力になっています。

おっさんずラブ 田中圭 春田

――最終回は目前ですが、その後の展開を期待する声も大きいです。なかなか公に言えることは少ないと思いますが、こうした声を貴島さんはどう受け止めていますか?

今までにないくらいたくさんのご声援をいただいて。だからこそ、頂いたお声の分だけ形にしたい、という想いで日々頑張っています。楽しみにお待ちいただければと思いますし、皆さんのお声がなければ実現しなかったものばかりなので、熱い応援をくださったすべての方に本当に感謝しています。

――最終回が来るのをドキドキしながら待っている視聴者がたくさんいます。ぜひ、皆さんに最後にメッセージをいただけますか。

このドラマは、30歳を超えても未だ“人を好きになる”ことがどういうことか分からないポンコツダメ男が一歩成長する物語。6話でダメージを受けた方もいらっしゃると思うのですが、「もう観ない!」と言わず(笑)、最終回までご覧いただけたらと思います。幸せの形は人それぞれですが、『おっさんずラブ』らしいハッピーエンドを、ぜひ最後まで温かく見守ってください。

取材・文/横川良明(@fudge_2002) 撮影/栗原千明(編集部)
(C)テレビ朝日

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