女性が管理職になる前に知っておきたい「男性部下の本音」
「女性管理職の比率を上げよう」という世の中の気運のなかで、今後のキャリアについて思いを巡らす女性も多い。「自分が管理職として働くことになったら……」と考える際に、不安に思うことの一つが、メンバーのマネジメントではないだろうか。特に異性である男性の部下が何を考え、何を求めているのか、イメージするのは難しい。そこで女性上司の下で働いたことのある男性社員3名に、働く上での悩みや考え方、女性上司に対する思いなど、その本音を聞いてみた。
男性部下は仕事一直線が多い?
ワークライフバランスを考える人も増えている世代
――女性上司の悩みとしては、男性が働き方やキャリアに対してどう考えているのか、自分と違う性別だし理解できていないのではないか、という不安が多いと思います。実際男女で違うと思うことはありますか?
井神慎介さん(以下、井神):僕の周りの多くの女性社員は、結婚・出産後の復職時にどうやって仕事と家庭を両立するのか、といった、女性としての将来のキャリアについて考えていると思います。それを見ていると、男とは違うと感じますね。僕はとにかく自分の成長のために暇さえあれば会社に行って、がむしゃらに仕事に打ち込んでいるのですが、女性の場合はそう単純な話ではないのかな、と。
松野裕二さん(以下、松野):僕も今のところ、頭の中は99%仕事が占めています。男は体力がありますし、仕事に時間を費やしやすいのではないかと思います。
宇須井亮さん(以下、宇須井):僕は二人とは違って、私生活あっての仕事、というスタンスです。平日は全力で働いて、土日は完全にオフ。バランスを取ることも重要だと思っています。
井神:たしかに、仕事に没頭し過ぎて視野が狭くなっていると感じることはあります。意識的に外を見て、社外の人ともっと交流していかなくては、と思いますね。ただ、女性の場合だと、社外の人からの影響を受け過ぎてしまう印象があります。結婚して子供がいる、他業界で働く同世代の女性の話を聞いて「このままでいいのか?」とモヤモヤしている人をよく見る気が……。
――男性はライフステージの変化に対する不安はあまりないものなのでしょうか?
井神:実は先週婚約したんですよ。パートナーも一生働くことを希望しているので、ちょうど僕も仕事とプライベートの時間配分を考えていかないといけないタイミングです。まだ1週間しか経ってないので、イメージしきれてないですけど。
松野:僕は当面は仕事を中心にしていきたいので、結婚は30代後半くらいかなーと漠然と考えてます。だから、まだ全然想像できないですね。
宇須井:僕もまだ予定はありませんが、ちょうど弊社の社長がつい先日、2020年までに男性社員の育休取得率を100%にすると宣言をしたこともあり、育休は絶対に取りたいと思っています。僕たちの世代だと、男が育休を取ることに大きな抵抗はないと思うんですが、復帰後に自分のポジションがあるのか、不安に感じて取得できないと考える人は多いでしょうね。
長所を生かして働く姿に
最初の抵抗は尊敬に変わっていった
――男性のワークライフバランス意識も高まっているようですが、仕事観の違いはやはりありそうですね。そう考えると、最初に女性上司の下で働くことになったときに気持ち的には抵抗があったのでは?
松野:いやー正直、最初はめちゃくちゃありました。失礼ですけど、気分のムラが激しくて……。でも一緒に働くうちに、僕のことを一番よく見てくれているということが分かっていったので、そこからは信頼感が深まりました。
宇須井:ゴリゴリの男性社会だった営業部門から、半分女性でトップも女性という部署にやってきましたが、全く抵抗はなかったですね。
井神:僕も男女を意識したことはないですね。管理職女性に感情のムラを感じることもないです。ただ、これは女性のメンバーと働いていて思うことですが、本心がどこにあるか分からない、というのは感じます。昨日と今日で言っていることが違っていたりすると、「本当はどっちなんだ??」と思ってしまいます。ですから体調や感情を含めて、セルフマネージメントがしっかりできることが、女性が出世するための条件のような気がします。
松野:今はもう女性上司でも抵抗はないですが、1つだけ困るのは、職場で下ネタが言いづらいこと(笑)。うっかり言ってしまったときに冷たい目でスルーされると、かなりツライです。愛想笑いでいいから、笑ってくれたらうれしいですね。
井神:あとは、朝まで飲んで仲間や取引先との結束を深める、などという場合には、裸でバカ騒ぎができる男性上司のほうが優位でしょうね(笑)。でも、女性が上司であることもデメリットはそのくらいしか思い浮かばないです。
――思っていたより深刻な抵抗はないんですね。皆さんの周囲の女性上司に対して「さすが女性ならでは」と思えるところなどはありますか?
松野:前に上司だった方は、既成概念にとらわれない人でした。一緒に営業に行ったとき、契約前だというのに契約書を「じゃじゃーん! 作ってきちゃいました!」と茶目っ気たっぷりに取引先に披露したんです。そしたら、それで場が和んで契約が取れた。男だと「取引先の人は立てないと」「きっちりスーツを着て、敬語も正しく」と考えてしまいがちですが、女性はその枠組みを簡単に超えていける。営業に限って言うと、普通にやっていたら男性は女性にかなわないんじゃないかな?
宇須井:分かります! 僕は社内で肩書きや年齢が上の人と接する機会が多いんですが、どうしても緊張してしまって……。でも女性の上司を見ていると、どんな相手であっても、スッとフトコロに入って会話をしているんです。そういうところは女性の強みだと思いますね。コミュニケーション能力が男性よりはるかに高い。
井神:みんなから慕われている女性上司は、人当たりが良くて柔らかいだけでなく、やるべきことはきっちりする人。フランクで打ち解けやすいけど、言うべきことはしっかり言う。そのメリハリがすごいです。
松野:人の良いところを見てくれるのも、女性上司の素敵な部分ですよね。男同士だとどうしても張り合うというか、「先方とそんな接し方じゃダメだ!」と部下の良さを認めてくれない部分がある。けれども女性だと、「そういうキャラなら、それでいいんじゃない」と認めてくれた上で、もっと良くしていくためにはどうしたらいいかを教えてくれる。
――女性ならではの長所を生かしているところが男性部下の皆さんにも好評なのですね。では最後に、これから管理職を目指す女性に応援メッセージをお願いします!
井神:女性の働き方や生き方の、魅力的な選択肢を見せてもらいたいです。弊社にはエンジニアやデザイナーなど、いろいろな職種の女性社員がいるんですが、それぞれのジャンルでみんなの憧れになっていってほしい。そうすれば若手女性たちが、「私も○○課長のように働いていこう」と、未来をイメージできると思うんです。僕自身もどういう将来が女性にとって理想的なのかが分からないですし、いろいろなパターンの働き方が出てくるといいですよね。
松野:弊社は女性社員の比率を上げようと取り組んでいるところ。これから事業のグローバル化を目指して行く中で女性ならではの細やかな視点はきっと大切になってくると思うので、今後に期待しています。
宇須井:我が社の女性上司は、経理や人事といったバックオフィスに多いのが現状。でも最近は、営業部で活躍している若手女性も増えています。彼女たちが支店長や所長、部長などの管理職になってくれたら、男性社会の営業部門に良い変化がもたらされると思うんですよ。僕は今人事の仕事をしているので、一人でも多くの女性が管理職になりたいと思えるように、サポートしていきたいと思っています。
男性社員たちは女性上司に驚くほど好意的であるよう。コミュニケーション能力の高さや細やかな視点、柔軟なマネジメント能力は、やはり女性ならではの強み。男性が女性上司にどのような印象を持ち、期待をしているのかが理解できれば、男性部下をマネジメントする上での不安はきっとなくなるはずだ。
取材・文/萩原はるな 撮影/柴田ひろあき