「出世や昇進を目指していたわけではない」CEOまで上り詰めたキャリアの裏話―ジェットスター・ジャパン鈴木みゆき社長×藤井佐和子さん対談企画・後編

株式会社キャリエーラ 代表取締役 藤井 佐和子(ふじいさわこ)
大学卒業後、大手光学機器メーカーの事務職を経て、インテリジェンスにて女性の転職をサポート。現在は株式会社キャリエーラを設立し、キャリアコンサルタントとして、女性のキャリアカウンセリング、企業のダイバーシティーサポート、大学生のキャリアデザインなどに携わる。カウンセリング実績は1万2000人以上。オフィシャルブログ「藤井佐和子のキャリアカウンセリングブログ」も好評。

ジェットスター・ジャパン株式会社 代表取締役社長 鈴木みゆきさん
1960年生まれ。幼少期と学生時代の大半を海外で過ごす。イギリスのオックスフォード大学を卒業後、1983年にロイター入社。1997年、同社の東南アジア代表取締役に就任。その後、eコマース会社の新規拠点の立ち上げや起業を経験した後、2002年に日本テレコム入社。専務執行役員兼コンシューマー事業本部長として、インターネットサービス『ODN』など消費者向けサービスを統括。2006年、KVHのCEO就任。2011年12月より現職

ジャーナリスト志望だったものの
ロイターでは営業部門への配属に
藤井:鈴木さんはお若い頃から、いずれ経営者になりたいというキャリアビジョンをお持ちだったのですか。
鈴木:いえいえ、まったく。私はイギリスの大学を卒業したのですが、当時は文章を書くのが好きだったので、ジャーナリストになりたいと思っていました。それでロイター通信社の面接を受けたのですが、「うちにはすでに何万人ものジャーナリスト候補がいるから、新人は必要ない。それより、マーケティングや営業の人間が欲しいんだ」と言われたんです。それでも私が渋っていたら、「じゃあ、営業として半年働いてみて、どうしても嫌ならジャーナリストを目指せる部門に配置転換してあげる」と言われて、そういうことならと入社を決めました。
藤井:営業の仕事はいかがでしたか。
鈴木:それが、やってみると意外に楽しくて(笑)。私が扱っていたのは、ニュースや為替情報を専用の端末で配信するシステムをパッケージ化した商品だったのですが、男性の同僚たちは、お客様に対して、まず「この商品を買うと、こんなことができます」という機能を説明するんですね。でも、私はそんなやり方ではダメだと思いまして。お客様に会ったら、最初に「いま一番お悩みになっていることは何ですか?」とお聞きするようにしたんです。つまり、お客様の視点に立つところから始めたんですね。私自身は、男女の性差に敏感な方ではありませんが、その時に初めて「男性と女性にはこういう違いがあるのだなあ」と思った記憶があります。
藤井:相手の気持ちにたって考えるというのは、確かに女性の方が得意かもしれませんね。
鈴木:そんなわけで営業成績は悪くなかったので、そのままキャリアを積んで、マーケティングも経験した後、最終的には東南アジアを統括するジェネラルマネジャーまで進みました。でも、別に最初から出世や昇進を目指していたわけではなくて、忙しく働いているうちに、気付いたらそこにいたという感じですね。
日本的な企業を初めて経験
カルチャーギャップにびっくり

藤井:ロイターにはどのくらい在籍したのですか。
鈴木:16年間です。その間に、8カ国の支店を経験しました。色々な国の文化を体験させてもらったことは、今でも感謝しています。ロイターを辞めたのは、シンガポールにいた頃に、ヨーロッパのeコマースの会社から「アジア・パシフィックの拠点を立ち上げるので、力を貸してくれないか」とお話をいただいたから。当時はドットコム企業の設立が盛んな時期でしたから、私もこのインターネット革命に携わりたいと思い、その挑戦を引き受けることにしました。その会社がドイツで上場を果たすところまで見届けた後、2002年からは日本テレコムに移って、「OCN」や「マイライン」など消費者向けの事業を手掛けることになりました。
藤井:その時も、やってみないかと声が掛かったのですか。
鈴木:正確には、ボーダフォンからお声を掛けていただいたんです。ちょうどボーダフォンが日本テレコムの株を取得して傘下に収めたタイミングだったので、赤字に陥っていた日本テレコムを再生してほしいと言われまして。
藤井:大変な時期に仕事を引き受けたわけですね。かなりご苦労をされたのでは?
鈴木:私がそれまで働いてきたのは外資系企業ばかりで、いわゆる日本的な企業は初めてでしたから、カルチャーショックは大きかったですね。びっくりしたのは、毎朝8時45分にブザーが鳴るんですよ。それが何かというと、朝礼が始まる合図なんです。そして12時なるとまたブザーが鳴って、社員は全員ランチに行って、午後1時のブザーが鳴るまでに席に戻っていないとペナルティがある。そして5時45分になると、またブザーが鳴って、一斉に家に帰るという光景が繰り返されたんです(笑)
藤井:なんか軍隊みたい(笑)
鈴木:そういうのは一切やめて、ランチの時間も自由にしましょうと提案したんですが、皆さん喜ぶかと思ったら「昼休みがバラバラになったら、12時までの会議ができなくなるじゃないですか」と戸惑われてしまって(笑)。いやいや、それは自分たちで調整すればいいんですよ、というところから少しずつ社内の雰囲気を変えていきました。
藤井:日本的カルチャーと闘ったわけですね。
鈴木:でも、社員の皆さんは、本当に真面目で優秀な方ばかりでしたから、毎日接しているうちに、その仕事への熱心さは素晴らしいと思うようになりました。確かに最初のうちは、私が「もっと合理化を進めなければ、会社は破産してしまいますよ」と言っても、「いえ、私たちは今まで通りにやります」と抵抗を受けました。でも、いったん納得して危機感を共有できるようになったら、その途端に合理化の方向へ一気に走り始めたんです。その真面目さというのは、日本企業が持つ強さの一つだなと印象深かったことを覚えています。
平日は毎日夕食を作ってくれる
ご主人のサポートで仕事に専念

藤井:そういう色々な経験があって、今の鈴木さんがあるわけですね。ちなみに鈴木さん、ご結婚は?
鈴木:結婚したのは10年前です、きちんと籍を入れたという意味では(笑)。実際は、主人とはもう20年近く一緒に過ごしています。主人はイギリス人で、ロイター時代の同僚なんです。私が日本テレコムにいた頃、主人はシンガポールで働いていたのですが、遠距離を続けるのも大変だから、彼が日本に来ると言ってくれて。じゃあ、ビザはどうしようかと考えたら、結婚するしかないねと。結果的に、彼が日本でもロイターに就職できたので幸いでしたが。
藤井:鈴木さんの仕事を優先してくれるなんて、素敵なご主人ですね。
鈴木:今でも「優先するのはみゆきのキャリアで、僕はそれをサポートするよ」と言ってくれます。仕事が忙しいとどうしても帰宅時間は遅くなりますが、夕食は主人が作って待っていてくれることが多いんです。週末や時間が取れるときは、私が作ったり、一緒に作ったりして、料理に合うお酒と共に楽しんでいます。
藤井:きっとご主人も、鈴木さんがご自分の仕事をいかに大事にしているか、よく理解されているんでしょうね。鈴木さんのように自分らしくキャリアを重ねたいと思っている女性たちは多いと思いますが、その点で何かアドバイスはありますか。
鈴木:最初にも言いましたが、謙遜なんてしないで、もっと自分に自信を持っていいと思いますよ。自分が自分を信じなければ、他人が自分を信じるはずがないので。日本経済をより活性化させるためにも、多くの女性たちがビジネスの世界で力を発揮してくれることを期待しています。私もジェットスターを、社会や経済に貢献できる企業に育てたいと思っています。我々が就航することによって地方への観光客を増やして、地域経済を発展させたい。日本は長く景気後退が続きましたが、私たちは明るいニュースを提供できるような存在になりたいですね。

対談を終えて――
様々な国で働いた経験があるので、その場の環境や状況に応じて、柔軟な視点で物事を見られるのでしょうね。だからこそ新しいビジネスを生み出せるのだし、逆に同じことを続けていたら物足りなくなるタイプなのだろうと思いました。お話していて感じたのは、非常にフラットな方だということ。社長であっても、上から目線のようなものが一切感じられないのは、鈴木さんが出世を目的にしてきたわけではないからかも。純粋に仕事を楽しむことが目的で、経営者になったのは、あくまでそのための手段に過ぎないんでしょうね。きっと社員の方たちにも信頼される社長さんなのだろうと感じました。(藤井)
取材・文/塚田有香 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER)


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