“50代OL”――管理職でもパートでもない働き方――って、ありですか?
長く働きたいと考える女性でも、そういったロールモデルが社内にいなかったり、母親が専業主婦だったりすると、自分の将来像をイメージしにくいのではないだろうか。50代以上の働く女性といえば管理職としてバリバリ働くキャリアウーマンか、清掃やスーパーのレジといったパート勤務に従事している人という両極端な想像に偏っている人も多い。
「今のようにオフィスで一会社員として50代になっても働くってできないの?」という疑問を、株式会社ビー・スタイルで『しゅふ活研究室長』を務める川上敬太郎さんにぶつけてみた。これからの女性の働き方はどうなっていくのだろうか?
キャリアアップか、補助的業務か?
管理職でもパートでもなく、一般の会社員として働く50代。「これからは、そんな働き方を選ぶ女性が増えてくるのは間違いない」と断言するのは、株式会社ビー・スタイルの川上敬太郎さん。
「これまでの女性の働き方は、結婚や出産以前のキャリアを継続させるべく無理やりフルタイムで働くか、キャリアを諦めてパートやアルバイトで補助的業務に就くかの2択しかありませんでした。しかし、近い将来、日本は少子化の影響で労働力の確保が難しくなっていきますから、主婦を含めた女性全般が貴重な労働力となります。また一方で、社会のIT化が一層進み、オフィスにいなくても高いパフォーマンスを発揮できる環境に変化していく。つまり時短や在宅勤務といった働き方が当たり前になるということ。その頃には、50代女性の柔軟な登用はますます増えると考えられます」
2010年の労働政策研究・研修機構の調査によると、2020年には、必要労働人口に対し、実際の労働人口が670万人も不足すると指摘されている。これほどの労働力不足は日本企業に致命的なダメージを与えかねない。そんな背景から、時短や在宅勤務などの柔軟な働き方を織り交ぜながら50代、60代の人材を活用しようという取り組みが、少しずつ広がってきている。
“50代OL”だからできること

結婚前/後の女性の就職活動や仕事への関わり方、ライフスタイルなどを調査・研究し、企業・社会に発信する『しゅふ活研究室』http://www.b-style.net/research/
実際に、出産後16年間のブランクを経て、45歳のときに事務職としてビー・スタイルに就職を果たした“50代OL”がいる。「同じチームには、娘と同い歳の同僚もいるんですよ」と微笑む池田裕子さんは現在52歳。人材派遣事業のコーディネーターとして最前線で活躍する。年下の上司や同僚が多い中、年長者として心掛けたのは、「感謝と謙虚」の気持ちだという。
「同僚たちからすれば、わたしは母親みたいな年齢ですよね。だからこそ、上からものを言うのではなく、同じ土俵にいるつもりで話を聞いたり、言いたいことの半分は飲み込んで、受け入れる姿勢を大切にしていました。仕事以外の相談に乗ってあげられるのも人生経験のあるわたしならではの役割なので積極的にアドバイスしたりもしますよ(笑)」(池田さん)
50代OLとして若いころよりもできるようになったと感じるのは、クレーム対応や不測の出来事に対処するスキル。「年を経てさまざまな経験を積んだからこそ、まずは相手を受け入れるということが得意になった」と池田さんは話す。
そんな池田さんは、復職後も子育てや親の介護などの必要に応じて、週3日や4日勤務など、働き方をそのときどきに合わせて変えてきたそう。これからの企業はこうした選択肢の拡充に取り組むべきだと、川上さんは語る。
「この業務はフルタイムじゃないとできない、でもこの仕事は16時までに終わるから時短勤務でも任せられる、といったように仕事を分割・分配していく『仕事の加工』は、これからの企業に不可欠な作業です。一方の働く側は、企業側に『ぜひあなたにお願いしたい』と指名されるための能力を身に付ける努力をしなければならない。これは、男女問わず求められることだと思います」(川上さん)
50代の働き方を作るのは、まさに「今」の自分
同世代の女性たちが「パートタイムの仕事しか見つからないから」と諦める中、池田さんが45歳でオフィスワーカーとして復職できたのはなぜだろうか?
「20代のときに、どんな仕事も振られたものは全力で取り組み、やり遂げたという成功体験があるんです。それがこの年になっても『やればできる』と楽天的になれる原点かもしれません。だから若いうちは、将来の『やったことないから無理』をなるべく減らせるよう、遊びも仕事もいろいろな経験をしておいた方が良いと思います。それが後々の自信になりますから」(池田さん)
50代になっても楽しく働き続けるためには、産休や育休などのブランク期間の過ごし方が大切だと、川上さんは話す。池田さんのように長いブランクが生じたとしても、PTA活動や地域の中の活動といった社会経験の場として取り組めば、ビジネスと同じくらい重要な経験を積む機会なのだ。
「実際に50代、60代で企業に採用される人たちを見ると、趣味の分野で講師やインストラクターをしていたとか、社会活動に積極的だったなどという人が多いですね。たとえブランク中であっても、家庭だけに収まらず、いつでも社会に参加できるという選択肢は持っておくべきだと思います。また、仕事のIT化はさらに進みますから、スマホやPCを敬遠せず、インターネットにもできるだけ接しておいた方がよいですね」(川上さん)
仕事には、その人ならではの人生経験が役に立つ側面が必ずある。キャリアアップして揺るぎない地位を築くのか、家庭を最優先にする時期は仕事から遠ざかるのか、はたまた50代OLとして自分のペースを保つのか――。将来の働き方の選択肢を増やすのは、まさに今。20代のうちの働きぶりと積み重ねた経験であると言えそうだ。

株式会社ビー・スタイル ヒトラボ編集長 兼 しゅふ活研究室長 川上敬太郎さん
大手人材派遣会社で営業職として従事し、人材紹介事業部の責任者としてキャリアコンサルティングに携わった後転職。メディカル専門の人材サービス事業の立ち上げや、『月刊人材ビジネス』編集委員などを経たのち、主婦に特化した人材派遣モデルの先駆けである株式会社ビー・スタイルにて、しゅふ活研究室を運営
取材・文/朝倉真弓