人前で話すのが苦手な人に効くバスガイド式トーク術

人前で話すのが苦手な人に効くバスガイド式トーク術

働いていれば、会議で発言したり、プレゼンテーションを担当する機会は誰にでもあるはず。だが、人前で話すのは苦手という人は多い。

話し上手にはなりたい。でも、難しいプレゼンスキルやトーク術を勉強するのはハードルが高いし……。「そんな女性たちにおすすめなのが、バスガイドさんに学ぶ方法です」というのは、プレゼンテーション講師の伊藤誠一郎さん。

伊藤さんによると「プレゼンテーション=旅、プレゼンター=バスガイド、聞き手=旅行客」に置き換えられるそう。「バスガイドは人前で話す時の基本ルールをすべて押さえているので、彼女たちをイメージすれば自然と話すコツを掴めます」という伊藤さんにバスガイド式のトーク術を教えてもらった。

バスガイド式トーク術1
話の地図”を描く

自分は詳しく説明したつもりなのに、相手から「結局、何が言いたいの?」と突っ込まれてしまう。すると自分でも、「何を言いたかったんだっけ?」と混乱して、話が続かなくなってしまった……。

こんな失敗をするのは、聞く側はもちろん、話す本人にも話の全体像が見えていないから。途中で迷子にならないためには、事前に“話の地図”を描く必要がある。この時、押さえるべき点は「結論・要点・順番」の3つだけ。これを旅に置き換えると、「目的地・観光スポット・道順」になる。
「バスツアーの参加者に、この3つを知らせないバスガイドはいませんよね。これはビジネスの場でも同じこと。どこへ辿り着くか分からない話を延々と聞かされると、人はイライラするか、その話に興味を失うかのどちらかです」と伊藤さん。

例えば、「今日は業務を効率化するための改善案を提案します(=結論)」「現在、業務が効率的に進まない理由は3つあります(=要点)」「その理由を、優先度の高い順に説明します(=順番)」という3点さえ押さえれば、話の目的地もそこに辿り着くまでの流れも明確になり、聞く人の頭にも内容がスッと入るようになる。

バスガイド式トーク術2
“根拠”を伝えて判断を委ねる

プレゼンや商談を、「自分の会社や商品のメリットを並べる場」と思っている人は多いだろう。しかし、伊藤さんによれば、これが大きな間違い。「例えば、『私はすごく信頼できる人です』という人は、かえって信頼できませんよね。信頼できるかどうかは相手が決めることで、自分で言うことではないのです」と話す。

大事なのは、相手が決める一歩手前で話を止めること。自分の会社を信頼してほしいなら、会社の歴史や過去の実績といった信頼してもらうための“根拠”を話すにとどめて、最後は相手に「信頼できる会社だな」と判断してもらわなくてはいけない。

これもバスガイドに置き換えると分かりやすい。イチゴ狩りに行くバスの中で、「練乳がいらないくらい甘いイチゴですよ」と話してしまったら、実際に現地でイチゴを食べても、「あ、ほんとだ」で終わってしまう。「このイチゴは有機栽培なんです」といったおいしさの“根拠”でとどめるからこそ、イチゴを食べた時に「こんなに甘いんだ!」という感動が生まれるのだ。

バスガイド式トーク術3
脱・マニュアル朗読

「では、説明を始めます」と言うなり、目線はずっと手元の資料に落としたまま。あるいは、聞き手に背中を向けたまま、後方のスライドを読み上げるだけ。このように、聞いている人のほうを見ず、プレゼンや会議の場が資料の朗読会になってしまう人は多い。

バスガイドを思い浮かべてほしい。当然ながら、案内用のマニュアルを読み上げる人はいない。彼女たちは常に乗客を見ながら、「いかがでしたか?」「よく見えますか?」と語りかけたり、途中で間を置きながら話す。そして乗客が自分の話に納得や満足をしているか、話すペースが早過ぎてはいないか、などをちゃんと見ているのだ。

話す際は相手を見るのが基本中の基本。そして、相手にうなずきがあるかを確認しながら話を進めるのがポイントだ。

「うなずきというのは、自分の話している内容が、相手にとってありがたみがあるという証拠。もし、聞き手がまったくうなずかない場合は、自分が相手にとって意味のないことや心に響かないことを話していると気付くべきです」(伊藤さん)

バスガイド式トーク術4
キラーフレーズ「皆さん」

部署を代表して視察に行った展示会の社内向け報告会の日。「この企業の取り組みが興味深いと思いました」「このコーナーは盛り上がっていました」などと一通り報告したのに、上司の口から出たのは「で、それがうちの部署とどう関係あるの?」

相手に「この話は自分に関係ない」と思われたら、真剣に聞いてもらうことはできない。こんな失敗をしないために、実は簡単な方法がある。それは、「皆さん」という言葉を意識的に使うことだ。

「『皆さん』と呼びかけた以上、聞き手に関係のない話をするわけにはいきませんよね。このキーワードを盛り込むだけで、自然と相手を意識した話ができるようになります」と伊藤さん。先ほどの場合なら、「皆さん、この企業の取り組みは、うちの部の商品開発にも取り入れられないでしょうか」「皆さん、このコーナーの盛り上がりには、私たちも参考になる仕掛けがあったんです」というように、話の内容を聞き手とうまくつなげられる。

確かにバスガイドも、「皆さん、今日は暖かくて旅行日和ですね」「皆さん、海の幸を堪能してくださいね」などと、このキラーフレーズを使って、旅という非日常の時間へ乗客を引き込んでいる。話が苦手な人でもすぐ真似できるテクニックなので、ぜひ取り入れてみよう。

バスガイド式トーク術5
書いたら暗記

「それにつきましては、そういった意見があることは承知していますが、それはその方向で検討しますので……」

 こんな指示語ばかりの話を聞かされる側は、「“それ”ってどれ!?」と混乱するばかり。他にも、話をつなぐ言葉が全部「要するに~」だったり、語尾がいつも「~と思うんです」だったりと、聞いていると違和感のある話しグセがついている人は多いが、本人はそれに気付かないことがほとんどだ。

そこで伊藤さんがすすめるのは、話す内容を事前に書いてみること。

「書くと頭の中にある言葉が整理されて、無駄な言葉や曖昧な言い回しも減るし、同じフレーズを繰り返さないように注意できるので、話す言葉が洗練されます。聞きやすいスピーチは、1分間に300字前後なので、それを目安に書けば、内容を詰め込み過ぎて早口になってしまうこともなくなるでしょう」

そして、書いた内容はできれば丸暗記してしまおう。バスガイドも、まずは分厚い教本を暗記するところから始まる。地名や由来、建物や山の高さ、歴史の年号など、案内に必要な内容をすべて覚えてしっかり基礎ができているからこそ、その場に応じたアドリブや語りかけを入れる余裕が生まれるのだ。

また、話す内容を書いてみると、ここまでに紹介した「メリットばかり並べていないか」「うなずきのポイントがあるか」などの点も確認しやすい。話すのが苦手な人こそ、書く習慣をつけてはいかがだろうか。

伊藤誠一郎さん

伊藤誠一郎さん

株式会社ナレッジステーション代表取締役、プレゼンテーション講師。医療業界において、医療機器販売やシステムコンサルティング、新規事業の立ち上げなどに15年間従事。2009年より、医療関連企業へのコンサルティングを行うかたわら、株式会社ナレッジステーションを設立。ビジネスパーソン向けのスキルアップセミナーや企業研修を手がける。なかでも「バスガイドさんに学ぶプレゼンセミナー」は人気が高い講座のひとつ。著書『バスガイドになりきればプレゼンは絶対成功する(仮)』阪急コミュニケーションズより6月上旬刊行予定。公式ブログプレゼン個別指導

取材・文/塚田有香