03 APR/2014

「背中を見て育て」が若者を潰す!? 新卒社員の教育係がやってしまいがちなNG指導

「背中を見て育て」が若者を潰す!? 新卒社員の教育係がやってしまいがちなNG指導

ついこの間まで学生だった新卒社員が入社してくる新年度。先輩社員として、フレッシュな彼らの面倒を見てあげる機会もあるだろう。中には新卒社員の教育係に任命された、なんていう人もいるのでは? 知っていることは何でも教えてあげたいけれど、どう接し、どんな伝え方をしてあげたらいいのか不安を抱えている人も多いはず。

最近の新卒社員は不安感が強い?
払拭のカギは密なコミュニケーション

「希望に満ちた新卒社員というのは、少し前のイメージ。最近の新卒社員は希望よりも不安が大きく、『本当にこの会社でやっていけるだろうか?』などという疑問が常に頭の中にある」と、企業における人材育成に詳しいシックス・スターズコンサルティング株式会社の原田由美子さんは話す。

また、最近では教師と生徒が密にコミュニケーションを取れるような、対話型の教育が一般的になっており、新卒社員世代は1対1で丁寧に教えてもらうことに慣れている。

「だから、『先輩の背中を見て仕事術を盗み、育ってほしい』という無言の指導は通じないと考えたほうがいいですね。やるべきことはきちんと言葉で伝え、行動に対してもこまめにフィードバックしてあげましょう。本当に困っていそうなときにしか手を貸さないという方法では、新卒社員の不安感はますます大きくなってしまいます」

自分が新卒時代に受けた指導が、残念ながらそのまま通じるわけではないよう。そこで、先輩社員がついやってしまいがちな、新卒社員への誤った指導を教えてもらった。

NG指導その1
「優しい先輩キャラでいこう」
⇒本来の自分とは違う人格を無理して演じる

キャラクターを作って接しても、ふとしたときに素の自分が出てしまうもの。そのギャップに新卒社員は戸惑ってしまう。そもそも、教育係は厳しくあるべきでも、優しくあるべきでもなく、「あくまでも自分の素のキャラで対応することが基本」と原田さん。

「指導とはこうあるべきなどという『べき論』は考えなくていいんです。厳しくても優しくても構わないので、素の自分の姿のまま接することが大切。もし自分が厳しい人間だという自覚があるのなら、『余裕がないときにはものの言い方がキツくなるかもしれないけれど、あまり気にしないでね』などと、あらかじめ伝えておくといいでしょう」

また、男性と女性でコミュニケーションの濃淡を変えるなど、人によって接し方を変えるのも避けたい。基本的には、いつ、誰に対しても同じスタンスであることが大切だ。

NG指導その2
「まずはこれをやってくれればいいから」
⇒仕事の全体感を伝えず、やるべき部分だけ教える

手順だけを伝えて「やってね」では、やる気も出ない。仕事の全体感からブレイクダウンして説明する一手間があるだけで、仕事の意義を理解し、主体的に取り組んでくれるもの。

「例えば経理の仕事なら、『経営者が会社の現状を把握し、意思決定をするために必要な数字を明らかにするのが経理の仕事。だから、お金の動きをタイムリーに把握しなければならない。そのために、まずは伝票を整理し、入出金を明確にすることが基本になる。その基本の部分をお任せしたいから、こういう手順でやってね』といった具合です。仕事全体のどこの部分を任せたいのか、具体的に伝えるようにしましょう」

NG指導その3
「誤字脱字が、ここにも、あそこにも!」
⇒つい細かいところばかりをチェックしてしまう

細かい気配りに長けている女性だからこそやってしまいがちなのが、ささいなミスのチェック。
「あまりにも細かいことばかりをチェックすると、新卒社員は萎縮してしまいます。まずは、その仕事の出来や方向性、視点などの全体感を見るように心掛けましょう。その上で、『誤字脱字があると会社としての信用を失うこともあるから気を付けて』などと、指摘すると良いですね」

NG指導その4
「こんな感じで」「こういう雰囲気で
」⇒漠然とした言葉で指示を出す

新卒社員相手に話をするときは、上司や同僚に対する話し方以上にロジカルな話し方を意識しよう。仕事ができる人は多少漠然とした伝え方でも意を汲んでくれるが、新卒社員はそうはいかない。

「例えば、情報収集のために本屋に行くと良いとアドバイスしたいとき。『週に一度は本屋に行くといいよ』とだけ伝えても、何のために、何をすべきかが汲み取れず、ただ本屋に行っただけで終わってしまう、なんてことになりかねません。『営業トークに生かすために、雑誌や週刊誌の見出しをチェックしてトレンドを追うと良い』など、具体的に何をするといいのかまで伝えてあげましょう」

NG指導その5
「こうするのが当たり前でしょ?」
⇒自分の常識を当然のように押し付ける

社会人としての常識が身に付いていない新卒社員がやりがちなのは、努力の方向の勘違い。「資料を見やすく」という指示に対し、学生ノリのカラフルな資料を作ってくる、なんてことも起こりがちだが、「なんでこんな余計なことをしたの!?」と責めたい気持ちはグッと押さえて。

「自分が思っていたアウトプットと違うものが出てきたら、まずは自分の伝え方が悪かったと考えるべき。頑張るポイントが違ったとしても、本人は良かれと思って一生懸命やっているので、『見やすくしようとしてくれたんだね。でも、仕事の資料は3色以内にしたほうがスッキリしていいよ』と伝えてみるなど、工夫や努力は認めてあげましょう。不安があるときは『ここまでできたら確認にきてね』と声を掛けると良いですね」

NG指導その6
「分からないことはすぐ相談してね」
⇒そう言いながら、話し掛けやすい雰囲気を作らない

新卒社員にとって一番つらいのが、先輩が忙しそうで聞きたいことが聞けないという雰囲気。その結果、やるべきことを自己判断して間違った方向に進んでしまうと、教育係、新卒社員ともに時間的なロスが大きくなってしまう。
「そうならないために、何よりも新卒社員を優先させる『コミュニケーションタイム』を決めておきましょう。朝と夕方の30分など、あらかじめ時間を確保してしまうのです。また、すべきこと、やったこと、できるようになったこと、分からないことなどをまとめておくノートを新卒社員に持たせて、忘れないうちにこまめに書き留めさせると良いでしょう。コミュニケーションは、そのノートを介して行えば完璧です」

NG指導その7
「自分は残業しません!」
⇒斜に構えている新卒社員を正そうとする

一人で仕事をすることができない新卒社員は、時には朝早く出社して自習をしたり、不慣れゆえに仕事が終わらず、残業することもあるだろう。にも関わらず、中には何度言っても始業ギリギリに出社したり、「自分は残業しません」と宣言してはばからない新卒社員もいるかもしれない。注意の一つもしたいところだが、そんな“困ったちゃん”たちはあえて放っておくのも一つの手だという。

「そういうタイプは、自分が『しまった!』と思わない限り態度を改めようとしないものです。例えば残業しないと宣言している新卒社員には、常識がない印象を周囲に与えてしまうことや、仕事を任せられないと判断され、チャンスを逃してしまう可能性があることをまずは伝えましょう。納得していないようであれば、しばらく放っておいて様子を見る。いずれそんなことを言っていた自分を恥じる時がきます(笑)。ただし、見過ごすときは周囲に意図を伝えて、了承を得ることを忘れずに。あまりにも手に負えない場合は、一人で抱え込まず、進んで周りの人の力を借りましょう」

新卒社員の教育は、自分の仕事を見つめ直すチャンスでもある。この機会に、毎日何気なく行っている行動を洗い出し、一つ一つの意味を考えてみよう。周囲の人にも協力してもらって、ずれがないかをチェックできれば理想的だ。教育係を任されたということは、あなたのスキルや人間力が認められているということ。あくまでも自分のキャラのまま、新卒社員と一緒に学び直すぐらいの気持ちで頑張って!

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お話を伺った方
シックス・スターズコンサルティング株式会社
代表取締役 原田由美子さん

大手生命保険会社に営業職として入社。1995年、人材育成コンサルティング会社へ転職。企画営業職、取締役営業統括職としてキャリアを積む。2006年、Six Stars Consulting株式会社を設立、代表取締役に就任。中堅・中小企業の独自性を際立たせ、業績向上につなげるための人材育成体系づくりや、オリジナル教育プログラムの開発に携わる。手がけた組織は150以上。2010年、日刊工業新聞社ビジネスリーダーズアカデミー講師
ブログ:ひといくNow!~人材育成の今とこれから~

取材・文/朝倉真弓