29 JAN/2015

自分に甘いワケではない? 「言ってることとやってることが違う上司」が抱えるジレンマ

堂園稚子
上司に対する「何で? どうして?」をズバっと解説
堂園姐さんの「上司のキモチ」翻訳講座

上司に対して日々感じている「なんでそんなこと言うの?」「どうしてそういうことするの?」という不満や疑念。それを直接上司にぶつけたいと思っても、「余計に怒られるんじゃないか」「印象が悪くなるんじゃないか」とモヤモヤしたまま自己完結してしまっている女性も多いのでは? そんな働く女性たちの疑問に、最強ワーキングマザー・堂薗稚子さんが、上司の立場からズバッと解説! 上司って、ホントはすごくあなたのことを考えてるのかも!?

堂薗稚子(どうぞの・わかこ)
株式会社ACT3代表取締役。1969年生まれ。1992年上智大学文学部卒業後、リクルート入社。営業として数々の表彰を受ける。「リクルートブック」「就職ジャーナル」副編集長などを経験。2004年に第1子出産を経て翌年復職。07年に当時組織で最年少、女性唯一のカンパニーオフィサーに任用される。その後、第2子出産後はダイバーシティ推進マネジャーとして、ワーキングマザーで構成された営業組織を立ち上げ、女性の活躍を現場で強く推進。経営とともに真の女性活躍を推進したいという思いを強くし、13年に退職し、株式会社ACT3設立。現在は、女性活躍をテーマに、講演や執筆、企業向けにコンサルティングなどを行う
自分に甘いワケではない? 「言ってることとやってることが違う上司」が抱えるジレンマ

みなさま、こんにちは。堂薗です。

今回のテーマは「言うこととやっていることが違う上司」です。

以前取り上げた「言っていることがコロコロ変わる」「人によって言うことが違う」というのとはまた違う、イライラ感が感じられるコメントが並んでいました。

「『何でも聞いてよね』と言われて質問に行くと『今じゃなきゃだめなの?』とあからさまに迷惑顔をされた」、といった具体的なエピソードをあげてくださっている方もいらっしゃいましたが、コメントの多くに一言一句違わず「言っていることとやっていることが違う」と書いてあるのが特徴的に感じられました。

たぶん、このテーマには2種類の上司が混在しているのではないかと思います。1つは「基本的なスタンス」を口にして部下に強く求めるくせに、自分には甘くて「正しいこと」をやっていない、というパターン。もう1つは上記のエピソードの上司のように、「良い人風な発言をする」割に「全くその通りじゃない」パターンです。

正しいことを言わなければならない上司は
できていない自分に後ろめたさを感じている

両パターンとも、「やっちゃってました、私……」と思い当たることがあります。特に前者の方は、ものすごく後ろめたい気分の上司がたくさんいるのではないでしょうか。例えば、「会議に遅れることは許さない!」とメンバーを厳しく指導しているのに、自分自身がアポが長引いて会議に遅れそうな時なんかは、そりゃもう必死の形相で駅の階段を駆け上がり、エレベーターのボタンを何度も押したりして、汗ダクダクで会議室に滑り込んでみたり。また、納期に遅れがちなメンバーに、「社会人として提出期限を守るのはマスト!」と口うるさくお説教した数日後、自分もうっかり書類のチェック締め切り日を忘れていて、そのメンバーに指摘されたこともありましたねえ。謝罪の言葉が思い浮かばないくらい動揺しました。こういうときの冷たい部下の視線、気まずい空気、感じていない上司なんていないでしょうね。本当は心が凍るような思いをしていると思いますよ。

これは、母親としてはもっとよくあることで、「好き嫌いしないで全部食べなさい」と子供には言うけれど、自分が苦手な納豆は絶対に食卓に並ばない、みたいな(笑)。小学校の先生が「廊下を走っちゃだめ」と子供たちを叱っているのに、廊下をダッシュしているところを見られちゃうとかの類です。これらは基本的な、それも生活態度や人としての言動について言っているので、母親も先生も上司も、とても正しい。そして自分自身もその正しさを全うすべきであることは痛いほどわかっているのです。だけど、未熟な人間なのでそれが出来ないこともある。それでも正しいことを言わなければならないしんどさ。正しいことを言って導く立場だからこそ、「ごめん、できなかった」とちょこんと可愛く謝るってわけにもいかない。後ろめたさ満載のまま、神妙に謝ってみたり自分の事を棚に上げてみたり、右往左往するのですよね。
「自分に甘くて、人に厳しい」と批判するのは簡単です。でも、人に厳しくするということは、自分に対してもっと厳しさを課すということに他なりません。自分に甘いということは、そんな自分を許しているということ。そんな上司はほとんどいない、と私は思います。だから基本的で正しいことを言われたときは、「あなたもやっていないじゃない。だから私だってやらなくてもいい」なんて考えないでほしいなあと思います。もちろん、「あの人、言うだけ言ってダメだな」と思うのは仕方ない心理だとは思いますが、自分も出来ていなかったと素直に反省し、逆に「なぜそれは正しいことなのか」を理解するように努めた方が、精神衛生的にもずっと良いはずですよ。

「何でも聞いてね」の「何でも」にはギャップがある
受け取り手の期待の方が大きいことを心得て

一方の「良い人風発言するけど、口ばっかり」な上司の方は、実はあまり自覚がないかもしれませんね。「オレは女性が働くことをすごく応援しているんだよ」と発言する上司の奥様が実は専業主婦だと聞いて何だかがっかりしたり、働く女性たちに配慮のない発言を無邪気にしているのを見てしまったり。それは、上司にとっては「充分そう考えている」のだけれど、受け取り手はもっと大きなものを期待していることが多くて、その期待値ギャップがギャップのままになってしまっていることによるのかもしれない、と思います。先に出てきた「何でも聞いてね」も、「何でも聞いてほしい。答えるつもりだ」と本気で思ってはいても、両者の「何でも」に差があるわけです。だから答えてくれない上司に対して、「言ってることと違うじゃん!」と受け取り手は感じてしまう。

上司の方は何も言われなかったら、そのギャップには気付かずに過ごしてしまうかもしれません。上司も言葉足らずなのですが、部下の方もそのまま黙ってしまうとギャップはずっと埋まらないままになってしまいます。「何でも聞くように言っていただいたので、質問したのですが」と挑戦的な目つきで言い返したりしたら、「何でもっていっても、時と場所、内容によるでしょ」とムッとされる可能性もあるから難しい。でも、基本的には、受け取り手の期待の方が大きいものだと知っておけば、「え?これもストライクゾーンじゃないの?」とそのゾーンを探すようになり、結果としてギャップが早く埋まっていくのかもしれません。

ただ、身に覚えのあることは、すごくベーシックなことが多いんだと改めて気付かされます。お互いに、人として信頼関係があれば、小さなギャップにいちいち腹は立たないだろうし、コミュニケーションを深めてそのギャップを埋めていきたいと思うはずですよね。その人がそれを言うから腹が立つ、のであれば、その「言葉」だけを聞いて正しいかどうか判断するのもありかもしれません。人として未熟でも、ちゃんとしたことを言い続けなければならないのが上司。それが一番つらいところかもしれないですが、部下に厳しくしながら自身を必死に律しているのもまた上司だと、私は思います。

堂園稚子

【著書紹介】

『「元・リクルート最強の母」の仕事も家庭も100%の働き方』(堂薗 稚子/1,404 円/KADOKAWA/角川書店)
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