子育てをしながら、リクルート時代3度のMVP入賞――仕事と子育ての両立がその後の人生を何倍も豊かにする
女性営業の人材育成を主とし、ライフワークとして「営業部女子課」も主宰する太田彩子さん。学生時代に、結婚・妊娠・出産を経験し、その後、離婚。シングルマザーとして子どもを育ててきた。子どもを持ちながら自らのキャリアをどのように切り拓いてきたのだろうか。
突然の妊娠判明!
産婦人科医の言葉に背中を押され出産を決意
リクルートを経て起業し、女性営業などを支援する教育・研修事業を展開する太田彩子さん。執筆したビジネス書がいずれもヒットするなど、注目を集める女性起業家の一人だ。そんな太田さんが一人息子を出産したのは21歳の時のことだった。
「妊娠は予定外のことで驚きました。周囲と同じように、就職活動をして勤めて何年かしたら結婚して出産して専業主婦になろう……なんて思っていたくらいですから(笑)」
戸惑いをふっ切るきっかけになったのが、担当の産婦人科医が掛けてくれた言葉だった。
「『せっかく命を授かったのだから大切にしてね』と言っていただいて。みんなと一緒の人生じゃなくてもいいのかな、と背中を押してもらいました」
出産後は、家業を手伝いながら育児に専念。その後、リクルートの契約メンバーとして働き始めるが、「完全な“お荷物社員”だった」と振り返る。
「子育ての片手間に仕事をするという甘えがどこかにあったのでしょう。当然ながら成績も上がらず、逃げるように退職しました」
時間に制約があるから
「あと1件」の粘りの営業手法が身に付いた
ところがリクルートを退職して1年後、再び太田さんは同社で働くことになる。
「前職の上司が声を掛けてくれたのがきっかけです。クーポン情報誌『ホットペッパー』創刊に合わせて人員が必要ということで……」
同じころ、太田さんは夫と離婚。自立して働く必要があると感じていた。
「もう25歳になっていました。そろそろ腰を据えて一人前の大人として働かないと、子どもに対して申し訳ないという気持ちでいっぱいでした」
それからの太田さんは、以前とは別人のような真剣さでバリバリと仕事に取り組むようになったという。
子どもは幼稚園に預け、両親や、ベビーシッターの手を借りながら育てることに。自分と息子を支えてくれている人のことを思うと、仕事の手は抜けない。常に緊張感を持って毎日を過ごした。
「子どものいない同僚と比べると、動ける時間は限られてしまう。でも、それを言い訳にしたくなかった。ですから、とにかく人より多く行動することを意識していました。『これくらいでいいや』ではなく、『もう1件、あと1件』と可能な限りアポイントを取って客先を回る、そんな粘り強さと集中力が身に付いたのは、子どもがいたからこそだと思います」
全力で仕事に取り組んだ結果、太田さんは在職中に3度の表彰を受賞。輝かしい業績を残して、2006年に起業した。
子どもにはイキイキ働く
親の背中を見せるのが一番だと信じていた
現在、息子は高校1年生になった。先日、仕事上で気に掛かることがあり、家でため息をついていたところ、息子に怒られてしまったそう。
「『自分は働かせてもらっているんだから、感謝しなきゃ!ため息なんてついちゃダメだよ』って諭されてしまったんですよ(笑)」
それでも小さいころは、仕事へ行こうとすると「行かないで!」と泣いて止められたこともあった。
「泣かれるのはつらかったですが、子どもにはイキイキ働く親の背中を見せるのが一番だと信じていたので、『ママは家族の幸せのために働いているのよ』と丁寧に何度も言い聞かせました。小学校高学年くらいからは『ママ、カッコいいね』と、積極的に応援してくれるようになりましたね」
太田さんは、「女性が出産や育児で働くことをやめるのはもったいない」と強く言う。
「未就学児の時は確かに手間も掛かります。ただ、長いスパンで見ると、ほんの数年のこと。キャリアは積み重ねです。子どもの手が掛からなくなった後の人生を豊かに過ごすためにも、働き続けてほしいですね」
取材・文/田中美和 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER)