“週末婚”が今の私に一番フィットする――型にはまらず人生を楽しむ営業女子のワークライフバランス
結婚したら夫婦は一緒に暮らすもの。そう当たり前のように思い込んでいたけれど、果たしてそれは本当に自分にとって当たり前なのだろうか。夫婦の数だけ、夫婦のカタチはあるはずなのに、ついお仕着せの夫婦のカタチにおさまろうとしているだけなのかもしれない。
そんな多様な夫婦のあり方の素晴らしさに気づかせてくれたのが、株式会社サイバーエージェントで働く竹内ひのさんだ。
2007年、同社に入社し、3年後に結婚。以降は夫の地元・名古屋に拠点を移し、夫と二人暮らしをしていたが、13年、大阪支社への異動に伴い、“週末のみ”夫婦で一緒に過ごす「週末婚」スタイルに。平日の5日間は離れて暮らすが、「このスタイルが今の私に一番フィットしている」と笑顔だ。
世の中の「型」にはまらず、自分らしい生き方を追求する竹内さんの姿から、改めてこの時代を生きる私たちならではの幸せのカタチについて考えてみたい。
週末婚の提案に戸惑う夫。その価値観を変えたものとは……?
私が「週末婚」を決めたのは、仕事での異動がきっかけです。後に現在の部門に繋がる新チームが大阪で結成されることになり、そのマネジャーを私が任されることになりました。それまですっとプレイヤー一筋だった私にとって、新しいことにチャレンジできるチャンス。仕事の領域自体も魅力的で、迷わず「やります!」と手を挙げました。
夫には完全に事後報告(笑)。異動というよりも、「ちょっと出張が多くなるかも……」なんて言い方で説明していました。実際、最初のうちは完全に大阪に生活拠点を移すのではなく、朝は名古屋の自宅から新幹線に乗って大阪に通勤するなど、名古屋と大阪を行ったり来たりする毎日。ただ、仕事にのめり込めばのめり込むほど、もっと集中してやりたいと考えるようになり、異動から半年が経った頃、正式に「週末婚」というスタイルを夫に提案しました。
実は、私の夫は「結婚したら女性には家庭に入ってほしい」というタイプの人でした。そもそも結婚したときも私が仕事を続けることに驚いたくらいです。そんな夫ですから、「週末婚」という提案に最初は戸惑っていたように見えました。でも、私はどうしても仕事を思い切りやりたかった。だから、その気合いを夫にプレゼンして(笑)。夫も「それだけやりたいなら」と応援してくれることになりました。
「週末婚」を始めて良かったことは、とにかく仕事に集中できるようになったこと。平日も名古屋に行き帰りしていたときは、落ち込んでいるメンバーがいても、本当はじっくり話を聞いてあげたいのに、なかなかそれができなくて、精神的な負担になっていました。でも今は何も制限がない。このお客さまのところに行きたいと思ったら迷わず行けるし、メンバーとの時間も思い切りとれる。自分がやりたいと思ったことをやれるというのは、仕事をする上でもすごく気持ちのいい環境です。まさにストレスフリー。
そうした環境の後押しもあって、グループ内の総会でベストマネジャー賞をいただくこともできました。私自身、この3年間ですごく成長させてもらえた実感があります。それまでの私はマネジャーと言っても、単なるまとめ役という感じで。でも今はちゃんとメンバーに対して目指したいビジョンを提示した上で、そのためにどういうことをしていく必要があるのか提言できるようになった。この成長は大きいなと思います。チームも立ち上げ当初は3人しかいなかったのに、今ではその約5倍の規模に。社内のいろんな人が「このチームで仕事がしたい」と言ってくれるようになったのは、すごく嬉しいですね。
平日はほぼ連絡ナシ。その分、週末を大事に過ごせば夫婦関係の問題もナシ!
「週末婚」を始めたときに決めた二人のルールは2つ。週末の家事は私がやること。そして、一緒にいられる時間は必ず二人で食事をすることです。
今の生活スタイルは、月~金は東京・大阪で仕事に集中。土曜のお昼に名古屋の自宅に着き、そこから1週間分の掃除・洗濯・買い出しなどの家事を片づけ、後は夫との時間を楽しみます。日曜の朝は少しゆっくりして、お昼頃に行きつけの純喫茶でモーニングを食べる。それが私たち夫婦のお約束。そして、のんびり1日過ごして、月曜の朝はまたそれぞれ仕事へ。そうやって1週間を過ごしています。
平日離ればなれで暮らすことで「夫婦の関係は大丈夫?」と心配されることもあるのですが、やってみてはっきり言えることは、まったく問題なし。一緒に暮らしていた頃と何も変わらないです。むしろ最初は私が仕事を続けることに少し懸念を抱いていた夫が、今では「やるならとことんやりきって!」と背中を押してくれるように。夫も思い切り働く私を見て「自分ももっと頑張ろう」って刺激をもらっているみたいです。
ちなみに平日は、ほとんど連絡は取りませんね(笑)。付き合っていた頃からそうなので、あまり気になりません。お互いまめなタイプじゃないんですね。マイペースな感じで、今くらいが私たちにはちょうどいいんだと思います(笑)
自分にフィットする生き方は、その時々で違って当然
結局、夫婦のカタチって誰かに決められるものじゃないんですよね。自分たちがどうありたいか、それがすべて。お互いの大事にしているものを尊重し合えるのが、私の理想の夫婦像。だから、これでいい。これがいいんです。
とは言っても、何も私は家庭より仕事が大事という性格ではありません。むしろその逆。プライベートあってこその仕事だと思っています。じゃあどうして今のスタイルを選んだのかと言うと、“今は”仕事が楽しいから。それだけです。つまり、私にとって「週末婚」というスタイルは、仕事を優先にしているわけでも、家庭を犠牲にしているわけでもなく、自分がそのとき楽しいと思うことを全力で楽しむことを大事にした結果。だから、これから先もずっとこのスタイルを続けていくという強い意志があるわけでもありません。
この先、私がお母さんになることがあったら、またそのときにどういうスタイルが一番いいのか考えることになると思います。でも、先のことなんて誰にもわからない。1年先のことだって想像もつきません。まだ起きてもいない不確定要素をあれこれ案じても仕方ない。出産とか育児とか介護とか、いろんなことがこれから起きるのかもしれないけど、その時々で考えて、自分にフィットする生き方を選んでいけたらいいと思っています。
私たちは、もっと欲張りでいいし、わがままでいい。
私にとっては「型」にとらわれないことが何よりも大事。つい他人のことを既成の「型」にはめたがる人っているけれど、そんな声はいい意味で流しちゃうのが一番。私も「旦那さんが可哀相」なんて言われることがたまにあります(笑)。でも可哀相かどうかなんて他人が決めることじゃないし、わざわざそういう人に「私はこうだから」って反論するつもりもない。人は人。自分は自分。それでいい。自分のやりたいことを貫いていくためには、ある程度のスルースキルも重要です。
女の人って真面目だから、つい「こうしなくちゃ」って世間の常識や周りの声に従おうとしてしまいがちですが、そんなの自分が息苦しくなるだけじゃないかなって私は思います。それに、いつか自分にとってマイナスなことが起きたとき、「あの人のせいで……」って他人を恨んでしまうことになりかねません。私は、自分の人生を誰かのせいにはしたくない。だから、我慢はしません。わがままと言われたとしても、誰かが決めた「型」におさまるために、自分が楽しいと思うことを犠牲にしたくはない。
私たちは、もっと欲張りでいいし、わがままでいい。それが、「週末婚」を通じて学んだ、私なりの幸せの法則です。
取材・文/横川良明 撮影/栗原千明(編集部)