「華やかなだけじゃない」広報の仕事の役割とは? 普段はオモテに出ない“ウラ話”をベンチャー企業の広報に聞いた

華やかでキラキラしている、何だか楽しそうな仕事。「広報」という仕事に、そういったイメージを持ってはいないだろうか。求人サイトでは事務系職種に分類されていることもあり、事務職希望の女性が広報職も志望するケースも多い。しかし、経験者であれば「華やかなだけの仕事ではない」「事務とは言えない」と、広報の仕事を語るのではないだろうか。

未経験から転身し、経営コンサルティングを手掛ける急成長中のベンチャー企業、プロレド・パートナーズで広報として働く田原恵美さんもその一人だ。「広報は、決してラクじゃない。泥臭い仕事です」と言い切る。

広報職ならではの厳しさや、それと同時に味わうことができる醍醐味など、普段はオモテに出てこない“広報のウラ”話を聞いた。

「華やかなだけじゃない」広報の仕事の役割とは? 普段はオモテに出ない“ウラ話”をベンチャー企業の広報に聞いた

株式会社プロレド・パートナーズ
営業本部広報課
田原 恵美さん

短大卒業後、アパレル企業の販売員としてキャリアをスタート。3年勤めた後、株式会社プロレド・パートナーズにコンサルタントのサポート事務として入社し、2カ月後に広報へ転身

地道な“営業活動”で3年越しに企画が実現することも

前職はアパレル企業で販売の仕事をしていたんですが、当時は雑誌の取材対応を広報がしていることくらいしか知らなくて「華やかな仕事だな」くらいに思っていたんです。

そんな私が今の会社で広報になったのは、転職後の上司とのミーティングで「今後携わりたい仕事はあるの?」と聞かれ、「もし関われるなら広報がしたいです」と答えたことがきっかけ。もともとはコンサルタントのサポート事務として入社したものの、デスクワークが性に合わず、もっと外に出て人と接する仕事がしたいと思い始めていたところだったんです。好きな商品の魅力を人に伝えるという点では販売員とも共通点があるし、何よりメディアを通して会社の魅力を伝えるのは、シンプルに「楽しそう」だと思ったんです。

こうして広報になったわけですが、実際の仕事はすごく地道で泥臭いものでした(笑)。企業に知名度が無い場合、メディアに電話をしてみても担当者にすらつないでもらえない。1日に何十件も電話をしてアポを取って、まさに営業活動です。やっと担当者につないでもらっても、提案した企画が通らず結局メディアに取り上げてもらえないことも多々。諦めずに毎年企画を出し続けて、ようやく3年越しに通ったこともありました。

「華やかなだけじゃない」広報の仕事の役割とは? 普段はオモテに出ない“ウラ話”をベンチャー企業の広報に聞いた

しかも、広報は社内に私一人で、仕事のノウハウを教えてくれる先輩はゼロ。だから、社内外の人に声を掛けたり、Facebookを使ったり、広報コミュニティーにもとにかく顔を出して、他社の広報との人脈を広げて勉強していきました。

「中途半端な想いでやってほしくない」代表に突きつけられた一言が、私を変えた

入社当時は事務職だったこともあって、「コンサルティング会社のことは、そんなに詳しくなくてもいいか」って甘く考えていたところがありました。でも、自分が会社に興味を持ってないと広報の仕事はできないから、最初は結構苦しかった。

今だから言えますが、「もう辞めたい」と思った時期もあったんです。仕事にもそれが表れていたんだと思います、その時に代表から呼び出されて、「中途半端な想いで広報をやってほしくない」と言われてしまいました。今振り返ると、その通りだなと思います。

先ほどお話しした通り、広報には泥臭い仕事がたくさんあります。経営層と同じレベルで話ができなければ会社のことを正しく人に伝えられないし、彼らの考えを常に汲み取らなければいけない。「社長が言っていることだから飲もう」ではなく、時には意見をぶつけて、対等に議論をする必要も出てきます。

大変なことはたくさんあるけれど、それを乗り越えてでも「会社のことを知りたい、伝えたい」という想いがなければ広報は務まらないし、やるべきではない。プライドが傷ついても、代表に怒られても、負けずに会社のことを真剣に考える覚悟が必要です。

社員の想いを聞くうちに、会社のことがどんどん好きになっていった

でも今、私は会社のことも、広報の仕事も、とても好きなんです。自分の中ではっきりと意識が変わったのは、当社のブランドリニューアルの一大プロジェクトに携わったこと。3人の役員と私の4人で、約1年かけて進めたプロジェクトです。会社のコンセプトをゼロから生み出し、ロゴやホームページも全てイメージを統一して刷新しました。

この過程で、初めて真剣に会社のことを考えたんですよね。社員全員に会社の良いところ、悪いところ、どんな会社にしたいかをヒアリングして、分析し、それをカタチにしていく。「コンサルタントはこんなことに悩むんだ」とか、「こういうところにこだわるんだ」とか、色々な発見があって、これまで以上に深く会社のことを考えました。そうするうちに会社の面白いところが見えてきて、どんどん会社が好きになったんです。

「華やかなだけじゃない」広報の仕事の役割とは? 普段はオモテに出ない“ウラ話”をベンチャー企業の広報に聞いた

広報は、社外同様、社員にも会社のことを伝えていかなければいけません。新しいコンセプトを社員に浸透させることも大事なミッションの一つでした。ロゴ一つとっても、慣れ親しんだものから新しくなることに違和感を抱く人もいる。そんな風に想像しながら伝え方を考えて、沖縄での社員旅行の時にプレゼンをしたんです。そうしたら、話をし終えた後に「田原さんが広報にいてくれて本当に良かった」「会社の想いが伝わってきた」と、いろいろな人が声を掛けてくれて。いつも厳しい社長も「初めて田原さんに助けられたよ」って言ってくれたんです。広報として、初めて認めてもらえた気がして、すごく嬉しかった。

「正しいことを正しく伝える」それが広報の仕事だと思う

今年の7月、当社は東証マザーズへ新規上場しました。立ち上げ間もなかった入社当時から上場までに携わることができ、広報としてとても貴重な経験をさせてもらったと思います。

また、会社の上場に向けて、「広報哲学」をつくりました。広報のミッションは、企業のブランド価値を高めること。その結果として、会社の「信頼度」を上げることだと思っています。

認知度を上げるだけなら広告をたくさん打てばいい。でも、それではブランド価値や信頼度は上がらない。だから、例え影響力の大きいメディアからお声掛けいただくことがあったとしても、企画が当社のカラーに合わなければ掲載を断ることもあります。

どんな取材なら受けるか? という判断基準や、取材時の服装、話す内容など、これまでは行き当たりばったりに決めていたことに対し、「広報哲学」では細かくルールを決めています。私以外の人が広報を担当しても、軸がぶれないようにできたと思います。

「華やかなだけじゃない」広報の仕事の役割とは? 普段はオモテに出ない“ウラ話”をベンチャー企業の広報に聞いた

今、私がこうやって頑張れるのは、“明るい未来”が見えるから。私にとって広報は、正しいことを正しく伝える仕事。正しい情報を伝えることで会社の可能性を広げ、良い方向に進めることができる、影響力の大きい仕事です。だからこそ、会社を実際よりも大きく見せて「こんなにすごいんですよ」って伝えることはしたくない。もともと持っている素質や魅力を見つけて、それを世の中に広めていくのが私の役割だと思っています。

今後は、誰も思いつかないアイデアを出せる広報になりたい。当社の代表や取締役に「広報といえば田原さんでしょ」って言われるぐらいの存在になりたいですね。ハードルはすごく高いし、やればやるほど課題も見えてくる。だからこそ100%自分の仕事に自信を持てるときは一生来ない気もするけれど、広報という仕事一つに的を絞れば社内で一番の存在にはなれるかもしれない。

一度は辞めたいと思った仕事が、いつの間にか「一生続けたい仕事」になっていました。そう思えるのはすごく幸せなことだから、どこにいっても通用する、高いレベルで仕事ができる広報になりたいですね。

取材・文/天野夏海 撮影/栗原千明(編集部)