「オーシャンズ11型の働き方」がポスト平成を生き抜くカギ――“タコつぼ型”社会に埋もれてしまうリスク
2018年9月7日、シェアリングエコノミー協会が主催する『SHARE SUMMIT 2018』が開催され、「SHARE×○○」をテーマに5つのトークセッションが行なわれた。今回は、その中の一つ「SHARE×WORK~働き方の再定義21世紀の働くとは」をテーマに行なわれたトークセッションの内容を一部紹介しよう。
昨今、複業やリモートワークが可能な会社が増え、新卒から退職まで1社で働く人の方が珍しくなりつつある。そんな時代を生きるため、私たちに問われているのは「個人の力をシェアし合うような、オーシャンズ11型の働き方だ」と登壇者は語った。
「オーシャンズ11型の働き方」とは、一体どんな働き方なのだろうか?
「個人で働く=一人で仕事をする」と考えない方がいい
この日モデレーターを務めたクラウドワークス 代表の吉田浩一郎氏は、「テレビの影響や、国の働き掛けによる追い風もあって複業が広まりつつある今、“個人の力”という言葉をよく耳にします。一方、本日の会場を見渡すと、まだまだスーツ姿の方も多いのも事実。実際、個人として働く方に出会わなければ、なかなか想像もできないでしょうから、“個人”というところにスポットを当ててみたいと思います」と冒頭にテーマを提示し、WeWorkの高橋氏とMirai Instituteの小柴氏へつなげた。
吉田 浩一郎さん(以下、吉田):小柴さんが運営しているシェアオフィス「みどり荘」には、どのようなユーザーが多いのでしょうか?
小柴美保さん(以下、小柴):デザインや映像制作関連のお仕事をしていらっしゃる個人のユーザーが多いですね。その一方、普段は個人で仕事をしているけど、プロジェクトによって「オーシャンズ11型の働き方」をしている方が多いように感じます。
吉田:オーシャンズ11型!? それは、どのような働き方なのでしょうか?
小柴:プロジェクトや課題に対して、必要なスキルや知見を持ったメンバーを集めて、チームとしてクリアしていくやり方ですね。私たちが運営しているみどり荘は単なるワークスペースとしての役割だけではなく、企業に代わる組織としての側面も持っているんです。
吉田:クラウドワークスもよく言われるのですが、それってスキルが高い一部の人だけが参加できる環境なんでしょうか?
小柴:そんなことはないですね。実際にみどり荘には、インターンシップやアシスタントとしてプロジェクトにジョインしている方もいます。そういう方たちの場合は、誰か一人のもとでアシスタントをやるのではなく、みどり荘にいる何人かのメンバーのアシスタントとしてシェアされながら、スキルアップしていきます。
吉田:おもしろいですね。WeWorkさんは、どんな方がユーザーに多いイメージでしょうか?
高橋正巳さん(以下、高橋):WeWorkって始まりは、スタートアップのためのコワーキングスペースだったんですね。でも、それがいつしかコミュニティーとしての意味を持つようになりました。だから、フリースペースや個人デスクを契約するフリーランサーの方もいれば、フレキシブルな働き方をしながら情報共有し合いたいという企業の方が数十名で入居するケースもあります。実際に本拠地であるニューヨークでは、働く人の100人に1人がWeWorkを利用しています。起業する人たちから見ても、一人で立ち上げを行なうよりも何名かが集まった環境で情報を共有しながら立ち上げを行なう方が、事業を始めやすいというメリットもあるようです。
吉田:コワーキングスペースとして考えた時に、会費が高い印象があるのですが、それでも入居者が絶えないのはなぜでしょうか?
高橋:やはり知識や情報をシェアできるというのが大きいようですね。WeWorkでは、日々ヨガからブロックチェーンまで、さまざまなイベントが行われているのですが、それがきっかけとなって知り合い、ビジネスにドライブがかかることも多いようです。
吉田:単なる仕事をする場所としてではなく、ネットワークやコミュニティーとしての働きが大きいのですね。
日本人は個人として生きていくリテラシーが低い
吉田:フリーランスや自営業など、個人で働く人については社会保障などの面でも課題があるようにも感じます。例えば、堀さんがお勤めの生命保険会社では、どのように個人のサポートを考えていますか?
堀 竜雄さん(以下、堀):シェアリングエコノミー協会の方と話す中で、個人の方はまだまだ健康診断を受ける機会がないなと感じています。今までは、企業に訪問すれば保険をお届けしたい方に出会えましたが、個人となると合うのすら難しい。サポートする方法はあるのですが、その必要性を感じてもらうところにハードルがあります。
吉田:クラウドワークスのユーザーさんを見ていて感じるのが、日本人は個人として生きていくリテラシーが低いということ。だから、社会保障は当たり前、民間の保険はアドオンという認識があるんですよね。また、個人の働き方が変わっていくことに関して、国が啓蒙していくべきことって何だと思いますか?
伊藤禎則(以下、伊藤):フリーランス3000名を対象に政府が行なった調査で見えた課題が2つありまして、それはセーフティーネットの問題と、スキルアップや学びの場がないということでした。でも、これって別にフリーランスだからとか、会社員だからという問題ではなくて、個人の意識の問題でもあると思うんですよね。ですから、制度を整える一方で、受け身の姿勢ではなく、自分の持ち札や必要なスキルを見極めて、一人一人が学び続けていく力が必要なのではないかと思います。
「Do what you love」
何ができるかより何がしたいかを重視しよう
副業解禁の内容が条文が完成し、保険会社が未病の対策を始め、個人同士がつながるネットワークやコミュニティーが顕著になった2018年は、「副業元年」とも呼ばれている。登壇者たちは、今後のシェアリングエコノミーはどのようになっていくと感じているのだろう。
小柴:個人が主役になる時代が当たり前なると思っています。私たちの目標で言うと、みどり荘が企業に代わってセーフティーネットの役割をするように、今後は法務や税務などのバックオフィスサービスをうまく組み込み、働きやすい環境づくりを進めたいですね。
あとは、働くとプライベートが切り分けられていた時代から、生きることと働くことの境目があいまいな時代になってきています。だからこそ、自分の意志や価値観で働き方も選び取っていかなきゃと思いますね。
高橋:弊社のモットーの1つに「Do what you love」というのがあります。一人一人が仕事にワクワクを感じる世界があれば、能動的に働くことが増えるのではないかという意味です。それに基づいて、個人と個人が交流し、情報をシェアし合い、個人がやりたいことを見つけていける、一人一人が生きがいを感じながら過ごせるのではないのかなと思っています。ぜひ、皆さんとそういう日本を創っていきたいです。
堀:健康寿命が延びればいいですね。私たちの健康増進という価値観を提供することで、健康な方を増やし、社会全体の活力が増すのかなと思っています。これから個人で働く方が増えていく中で、私たちはおろそかになりがちな健康増進保険というところを、どのようにお届けできるかを考えていかなければいけませんね。
伊藤:小柴さんが言っていた「オーシャンズ11型の働き方」ってすごくキーワードだと思うんですよね。企業で見ても、営業部だけで解決する仕事って今ほとんどなくて、いろいろな部署が連携してプロジェクト型の働き方が当たり前になっていると思います。でも、まだまだそこに気付けている人が少ない“タコつぼ型”の社会なのは事実。今後は、フリーランスだとか、企業だから、行政だからとか関係なく連携していける世の中になるよう、私たちも取り組んでいきたいです。
【登壇者プロフィール】
経済産業省 商務情報政策局 総務課長
伊藤禎則さん
1994年 東京大学法学部卒業、入省。米国コロンビア大学ロースクール修士号、NY州弁護士資格取得。エネルギー政策、筑波大学客員教授、大臣秘書官等を経て、産業人材政策室参事官として、政府「働き方改革実行計画」策定に関わる。兼業・フリーランス・テレワークなど「多様な働き方」の環境整備、リカレント教育、HRテクノロジー推進などを担当。2018年7月から現職。経産省のAI・IT政策を統括。
Mirai Institute株式会社
小柴美保さん
1981年生まれ。京都大学法学部卒。シティーグループ証券入社後、グローバルマーケッツ部にて日本株の取り扱いに従事。ビジョンを持った社会創造の必要性を感じ2011年に退社し、2012年にIDEE創業者の黒崎輝男たちとシンクタンク Mirai Institute株式会社を設立、「これからの働き方」の実証の場としてシェアオフィス「みどり荘」を立ち上げた。現在都内に中目黒、表参道、永田町3拠点を運営し、働くにまつわる書籍事業も行っている。
WeWork Japan ゼネラルマネージャー
高橋正巳さん
シカゴ大学卒業後、ソニーに入社。2007年パリ転勤。2011年に INSEAD で MBA を取得後、シリコンバレーで勤務し、ベンチャー企業の発掘、買収・投資案件に従事する。2014年に Uber Japan 入社、執行役員社長として日本における事業展開を牽引。東京で Uber Eats を立ち上げ、過疎化が進む地域で住民の移動を支える実証実験を手がける。2017年に WeWork Japan 入社、ゼネラルマネージャーに就任。
住友生命保険相互会社 営業企画部長
堀 竜雄さん
1969年生まれ、福岡県出身。早稲田大学法学部卒業後、住友生命に入社。業務勤労課長、茨木支社長、営業企画室長を経て、2017年に現職の営業企画部長に就任。営業企画部では南アフリカDiscovery社へ出張し、国内初となる健康増進型保険Vitalityの開発・導入に携わる。現在はシェアリングエコノミー協会をはじめ各種ベンチャー企業、スポーツ関連団体との提携を通じて、従来の生命保険に対する価値観を覆す数々の取組みを主導しており、さらなる企業価値の向上を目指している。
株式会社クラウドワークス 代表取締役社長 兼 CEO
吉田 浩一郎さん
パイオニア、リードエグジビションジャパンなどを経て、ドリコム執行役員として東証マザーズ上場を経験した後に独立。事業を拡大する中で、ITを活用した時間や場所にこだわらない働き方に着目し、2011年11月に株式会社クラウドワークスを創業。翌年3月に日本最大級のクラウドソーシングサービス『クラウドワークス』を開始、「”働く”を通して人々に笑顔を」をミッションとして事業を展開。2014年12月東証マザーズ上場。2015年、経済産業省 第1回「日本ベンチャー大賞」審査委員会特別賞(ワークスタイル革新賞)を受賞。2016年、一般社団法人新経済連盟理事に就任。
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取材・文/於ありさ