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FEB/2019

“南極ではたらく母ちゃん”渡貫淳子さんの縛られない生き方「ママだから・女だから」でも、やりたいことは諦めない

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最低気温、−45.3℃。お湯はまたたく間に氷の結晶となり、凍てつく世界にウイルスも逃げ出す。1年のうち1カ月半は白夜で、日が沈まない。

そこは南極、昭和基地。東京から14000キロ、到着するまで飛行機と船を乗り継ぎ3週間。約1年間は、食料補給もない。

そこを“地の果て”と呼ぶ人もいるが、「どこでもドアがあったらいいのに」と、うっとりした眼差しで話すのが、第57次南極地域観測隊に調理担当として参加した渡貫淳子さん(45)だ。

南極観測隊 調理隊員 渡貫淳子

南極で1年も暮らすとなれば、困難なことも多いはず。実際、女性の南極観測隊員は極めて少ないのが現状だ。「女だから」「ママだから」「もういい歳だから」……そう言って自分の可能性に蓋をしてしまう人も多い中で、なぜ渡貫さんは夢に向かって行動を起こすことができたのだろうか。彼女の生き方から、人生をより豊かにする秘訣を学びたい。

理屈じゃない。私はただ、南極が大好き。

南極観測隊 調理隊員 渡貫淳子
第57次南極地域観測隊
設営・調理
渡貫淳子さん

1973年青森県生まれ。調理師。「エコール辻 東京」卒業後、同校で日本料理技術職員となる。出産後、いったん職場を離れて一児の母として家事・育児に奮闘する日々を送るが、一念発起して南極観測隊の調理隊員にチャレンジ。母親として初めて第57次南極地域観測隊に参加した。テレビやSNSで話題となった「悪魔のおにぎり」の考案者でもある。現在は伊藤ハム株式会社商品開発部に所属。南極観測隊での経験を著した初の著書『南極ではたらく:かあちゃん、調理隊員になる』(平凡社)を1月24日に上梓

「なぜ南極に行ったのか」って、よく聞かれます。でも、正直よく分からない。はっきりと言語化できないんです。理屈じゃなくて、ただ好きって気持ちが強いから。

最初に南極に興味を持ったのは、ある女性記者が、南極にたたずむ写真を新聞で見た時。「わぁ、素敵だな」と思ったけど、その時は子育ての真っ只中で、いつしか忘れていました。

その芽吹いた気持ちが一気にスパークしたのは、映画『南極料理人』を観てからです。『ドームふじ基地』で越冬する男8人が、任務をこなしながらむさ苦しく一年を過ごす映画なんですけど、それを観ていたら、「ああ、この人たちにご飯をつくってあげたいな」って、強烈に思ったんです。

どうすれば自分も南極料理人になれるのかって考えて、まずは南極観測隊OBの方に自分から連絡を取り、話を聞きに行くようになりました。OBの方々と話をするうちに、ますます南極の虜になっていったのを覚えています。

一方で、「体力が求められる南極観測では、性別も、年齢も、障壁の一つになる」と厳しいことも言われました。実際、一般公募で調理隊員として随行した女性は、これまで誰もいませんでしたし。でも、その時思ったのは、「前例がないだけで、絶対に行けないわけじゃない。私にだって可能性はゼロじゃないんだ」ということでした。

南極観測隊 調理隊員 渡貫淳子

南極へ行くと決めたら、試験に受かるかどうかも分からないのに、もう出発する準備を始めちゃいました。あとは、「南極で炉端焼きをやりたい」とか、「南極居酒屋をやりたい」とか、現地でやりたいことを思いつくままどんどん書き出していき、夢をさらに膨らませていって。

でも、選考試験は一筋縄ではいきませんでした。選考を受けられるチャンスは一年に一度だけなのですが、2回連続で落選してしまったんです。でも、諦めるという選択肢はありませんでした。気が済まなかったんですね。「また来年か……」と気持ちがしぼみそうになることもありましたが、南極の本を読み、観測隊OBの会に顔を出す度に、「やっぱり南極に行きたい」という気持ちが再加熱してっていうのの繰り返し。

遂に、3度目の試験で合格することができました。チャンスって、いつ舞い降りるか分かりません。だからこそ、いつでもそれを掴み取れるように準備しておくことが大事なんだなとつくづく思いました。

だって、私の人生だから。「南極、行ってきます!」

飛行機、船を乗り継いで夢にまで見た南極に到着すると、すぐに仕事が始りました。調理担当として特に意識したのは、日本にいるときと変わらない「普段どおりの食事」を出すこと。時が経ち、隊員の好みや健康状態も分かってくると、段々と「あの人にあれを食べさせたいな」とか、一人一人の顔を想像して料理をつくれるようになっていきました。

南極観測隊 調理隊員 渡貫淳子
南極「昭和基地」にて

今振り返っても、そういう環境で料理を作ることができた南極での日々は、料理人冥利につきるものでした。なんて幸せな時間だったんだろうって思います。

南極観測隊 調理隊員 渡貫淳子
「昭和基地」での調理は、隊員一人一人の顔を思い浮かべながら

ですが時々、「よく南極に行かせてもらえたね」というようなことを言われることもあります。普通のお母さんが1年以上も家を空けるとなれば、そういう声も上がるのは分ります。ただ、日本の女性は周囲にお伺いを立て過ぎじゃないか、とも思うんですよね。

私も、20代とか30代の時は、無意識のうちに家族に「許可」を求めていたんです。例えば、「今日、飲みに行ってもいい? 帰り遅くなっても大丈夫?」って、聞いたりして。でも、「何で私だけ許可を求めているんだろう?」って35歳くらいの時に急に思い始めて。

ささやかなことかもしれないけれど、それ以降、日常のあらゆるところで自分の行動に許可を求めることをやめてみました。その流れの中で、南極も「行っていい?」じゃなくて、「行ってくるね」って報告して。これはさすがにやり過ぎかもしれませんが(笑)

南極観測隊 調理隊員 渡貫淳子

「自分勝手」だとか「お母さんなのに」とか、そういう声が聞こえてくるのは当然です。絶対にアンチの意見はあるものですからね。でも、私は気にしない。自分の人生だから、自分で責任を取ります。

あなたの「やらなきゃいけないこと」は何ですか?

私の場合、南極に行ったのは40代に入ってからですが、「いい歳なのに」という人も中にはいますね。でも、夢を叶えるのに年齢なんて関係ない。

それに、私は30代後半から人生がとても楽しくなってきました。これもやりたい、あれもやりたいって、たくさん出てくるし、それを実現できるようになってきたんです。

やりたいことをやるためには、何にでも「私できます」って言っちゃうのが大事。はったりだらけだったとしても、「やれる」って言った人のところにチャンスは舞い込んできます。だから、「私できます」って口癖みたいに言ってみて。きっと夢に近づけるはず。

南極観測隊 調理隊員 渡貫淳子

それから、人生をよりいっそう楽しむためには、無理しないことも大切ですよ。嫌いなこととか、苦手なことを、無理矢理頑張らなくていいと思っています。例えば、料理が嫌いな人も中にはいるでしょう? いいんですよ、手を抜いたって。もちろん健康には気を付けてほしいですけどね。

最後は、繰り返しになりますが、これだけはやらないと後悔するぞって思うことがあるなら、一度はとにかくチャレンジしてみるべきです。

私にも、まだまだいっぱいやらなきゃいけないことがあるんですよ。南米にも行かなければいけないし、スペイン語の勉強もしなきゃいけない。それからもう一度、あの景色を見に行かなくちゃ。私の人生だもの、これからも存分に、ワクワクして生きたいじゃないですか。

取材・文/石川 香苗子 撮影/赤松洋太 企画・編集/栗原千明(編集部)


【書籍情報】
南極観測隊 調理隊員 渡貫淳子
『南極ではたらく:かあちゃん、調理隊員になる』(平凡社)
平凡な主婦の料理と生き方を変えた南極での1年4ヵ月の挑戦を綴った初の著書。出産後は、いったん職場を離れ、母として家事・育児に奮闘する日々を送ってきたが、一念発起して南極観測隊の調理隊員にチャレンジ。三度目の挑戦で見事合格を果たし、母親としては初の調理隊員として第57次南極地域観測隊に参加した。何歳からでもチャレンジできることを伝える、多くの女性たちを応援する一冊。テレビやSNSでも話題の「悪魔のおにぎり」誕生秘話と特別レシピを初収録!
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