「女性は昇進したがらない?そんなのウソですよ」カルビー元会長・松本晃のダイバーシティ論
「ダイバーシティで儲かるかって? そんなの、あたり前やんけ」
ダイバーシティを推進すれば、企業の利益は上がるのかという問いに、カルビー元会長の松本晃さんは、そう迷わず答えた。
2019年7月7日(日)東京・台場で開催された『第24回国際女性ビジネス会議』のトークセッション「企業成長とダイバーシティの関係」に登壇したのは、カルビー株式会社元会長兼CEOの松本晃さん、帝人株式会社代表取締役社長執行役員の鈴木純さん、ネスレ日本株式会社代表取締役社長兼CEOの高岡浩三さん、OECD東京センター所長の村上由美子さん(モデレーター)。3人の経験豊富な経営者たちが、企業経営とダイバーシティの関係を痛快に語った。
「この国はどんどんダメになっている」
まやかしの経済成長に騙されてはいけない
今、世の中は「働き方改革」ブームに続き、「ダイバーシティブーム」の様子を呈している。
「何のためのダイバーシティなのか本来の目的を忘れ、ダイバーシティ推進そのものを目的化してしまっている企業も少なくないのではないか」(村上さん)
トークセッションの冒頭で、OECDの村上さんはこんな疑問を投げ掛けた。
何のためのダイバーシティか。ネスレ日本の高岡さんは、「ダイバーシティ推進の目的はイノベーションだ」と答える。
「今、企業はイノベーションを起こさずして稼げなくなっています。イノベーションとは、新しい商品やサービスをつくるということではなく、経営のやり方そのものを変えていくこと。世の中の変化にあわせて経営改革を行おうとすれば、さまざまな立場の人の視点が間違いなく必要になります」(高岡さん)
鈴木さんは「儲けのためというよりも、企業の存続を懸けて取り組むべき課題だと考えている」と続ける。
「僕らは、“未来の社会を支える会社になろう”ということを言っているんですが、それはつまり、今よりももっと多種多様な人が暮らす社会を支えていくということ。それなのに、自分たちの会社がそうじゃなかったら、絶対に判断を間違えてしまう。ダイバーシティで儲かるかどうかの前に、それがなければ会社がなくなってしまうという危機感の方が大きい」(鈴木さん)
元カルビー会長の松本さんも、「ダイバーシティが大事かなんて議論すべき時は、もうとっくに過ぎているんです」と主張。日本の経済成長は、まやかしだとも指摘する。
「日本の経済成長は、絶対的な成長であって、相対的な成長ではありません。昨年と比較して少し景気が良くなったと言っても、世界の国々と比較すれば、この国はどんどんダメになっている。その理由は何か。世界は変わっているのに、この国が変わろうとしてこなかったらです。日本人・男・シニア・大卒、そういう人たちしか世の中を動かす立場にいないのですから、変わりようがありません」
ダイバーシティで企業は成長するのか。その答えはもちろんイエスだ。少子化などの理由で年々市場の拡大が見込めない中、カルビーを8年連続で売上・利益ともに伸ばし続けてきた松本さんの実績が、それを何より裏付けている。
「女性は“勲章”だけでは動かない」責任に見合った報酬が必要だ
先にも述べた通り、世の中はいまダイバーシティブーム真っ只中。「組織にダイバーシティは必要ない」なんて、大ぴらに口にする人は、ほとんどいないだろう。だが、職場を見渡してみてほしい。性別、年齢、国籍、学歴、価値観、人生経験……似通った人たちばかりが集まってはいないだろうか。管理職や経営者など、意思決定をするポジションは“おじさん”で埋め尽くされていないだろうか。
なぜこの国では、ダイバーシティがなかなか進まないのか。松本さんが、明確な答えをくれた。
「大抵の経営者は、口では『ダイバーシティが大事だ』というけれど、結局はやる気がないし優先順位を上げたからないんです。だからといって、ダイバーシティについてボトムアップで議論して推進しようとしても、絶対にうまくいかない。なぜならこれは、既得権益を奪うことと同義だからです。
いくら女性管理職を増やそうとしたって、管理職のポストには限りがある。今、そのポストにいる男性を引きずりおろさなければ女性管理職は増えません。そうなると、男性管理職は当たり前のように反発するわけです」(松本さん)
また、ダイバーシティを推進しようとする松本さんのところには、男性管理職から「うちのメンバーの女性は偉くなりたがらないんです」「女性自身が、管理職になりたいと思っていないから上にあげられない」という声も寄せられたという。しかし、「それは真っ赤なウソだ」と松本さんは言い切る。
「彼女たちは管理職として意思決定ができる立場に就くのが嫌なわけではなく、責任と報酬のバランスが見合わないことが『嫌だ』と言っているに過ぎないんです。男のように管理職という勲章を与えておけば満足するような女性は、ほとんどいないでしょうね」
実際、ジョンソン・エンド・ジョンソンに在籍していた時に、松本さんは数々の女性たちに「管理職になってほしい」と打診をしてきた。しかし、「NO」と言った人は誰一人いなかったという。
「その理由は明白で、管理職の待遇をとても良くしていたからです。同時に、働き方改革も進めていました。『こんなの割りに合わない』と思うような環境さえ変えてしまえば、自然と女性管理職は増えていくものです」
この言葉を聞いて、はっとした人もいるのではないだろうか。女性たち自身も、自分がなぜ管理職になりたくないのか、言語化できていないケースも多いからだ。本当はチャレンジしてみたいのに、「今の環境では……」と思っているなら、上司や人事に本音で相談してみよう。まずは、自分の意思や考えを、周囲の人に伝えることが、職場を変える第一歩となるはずだ。
取材・文/栗原千明
■『国際女性ビジネス会議』次回開催情報
2020年9月27日(日)開催予定
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