29 JUL/2019

【石山蓮華】家選びだって“電線ビュー”重視です! 生粋の電線オタクが「電線愛」を語り始めて人生が変わった話

<特集>#愛を語ろう

「愛」って恋愛だけじゃない――。この特集では、好きで好きでたまらないものがある人たちに、熱烈な“愛”を存分に語ってもらいます。自分の「好き」を深めるヒントや、「好き」を見つけるヒントをもらっちゃおう!

99%の人から見れば「何でもないもの」も、残り1%の人にとっては「最高に愛おしいもの」になることがある。女優・タレントの石山蓮華さんも、ちょっぴり人とは違ったものに愛情を注ぐ一人。

彼女が愛したのは、電線――。電線愛好家として同人誌『電線礼賛』やDVDをリリース。電線にまつわるエッセイを手掛けるなど、さまざまなところで電線愛を惜しみなく発信している。

電線への愛を語り始めたら、内面にも大きな変化があったそう。大好きなものが与えてくれた、その変化とは一体何だったのだろうか。

石山蓮華 電線礼賛

石山 蓮華(いしやま・れんげ)さん
1992年10月22日生まれ。埼玉県出身。ちゃお(小学館)誌上の「ニーナをさがせモデルオーディション2003」にて、審査員特別賞を受賞。芸能界デビューを果たす。女優・タレントとして活動するほか、近年は電線愛好家として注目を集めており、Instagramには自身の愛好する電線、ケーブル、配線の画像を多数掲載。2019年3月に、DVD「石山蓮華の『電線礼讃』」を発売
石山蓮華の『電線礼讃』
■Twitter:@rengege
■インスタ:renge_ge

電線はカオス。ぐにゃぐにゃ、ぐにょぐにょ
美しくて、面白くて、かっこいい

――電線がお好きということですが、例えば電線のどんなところに惹かれるんですか?

例えば、すぐそこに電柱がありますよね(窓の外の電線を指さしながら)。

――はい、あります。

で、電柱の上に変圧器がありますよね。そこから伸びてる太い電線がぐねっと曲がっているじゃないですか。あれとかいいですね。

あの電線って恐らく電圧は6600Vで、こう見ると柔らかそうですが、実際はかなり重くて硬いんですね。それが、そんなことをまるで感じさせない曲線を描いているところがたまらなくて。一見すると、CGで描いたみたいじゃないですか。

工業的なんだけど、ちょっと生き物っぽい雰囲気があって。さっきからずっといいカタチしているなあと思いながら、あの電線を見ていました。

――(さっそく目の付け所が違うな……) ちなみに、電線が好きだと気付いたのはいつ頃からですか?

覚えているのは、小学3年生の時。父親の会社がある赤羽に遊びに行って、そこがすごく電線が多かったんですね。それを見て、形が面白いなと思ったのが最初だったと思います。

石山蓮華 電線礼賛

――なぜ電線のカタチに興味を持ったんでしょう?

もっとルーツを辿っていくと、5歳の頃に『もののけ姫』を観たんですよ。その時、冒頭に出てくるタタリ神のうにょうにょとしたシルエットに衝撃を受けて。そういうグロテスクな感じと電線がリンクしたんです。

――言われてみると、確かに電線って生き物っぽいグロさがありますね。

あとは『クーロンズ・ゲート』というゲームに出てくる水銀屋というキャラクターが全身を電線でつながれているようなビジュアルだったんですけど、それが好きで。『新世紀エヴァンゲリオン』とか『攻殻機動隊』とか、生き物に何かしら線状のものがくっついているデザインになぜか惹かれるんです。

SF漫画『11人いる!』(萩尾望都)を読んだりもしていて、日常生活の中で一番身近な“ SF 的なもの”が、電線だったんじゃないかと。

あと、電線ってインフラじゃないですか。例えば高速道路とか団地とか他のインフラは何かしら設計する人がいて、きちんとデザインされた上で作られているわけですけど、電線って誰かによって意図的にカタチをデザインされたものではない。一見するとグチャグチャしているし、とてもカオス。

よく観察していると、一つ一つ表情が違って見えるのも面白い。柔らかい曲線を描いているものもあれば、電線の被覆の外側のテクスチャーもサラッとしていたりツヤがあったり。そういうところに「用の美」を感じるんです。

電線は最強
電線が意志を持ったら、人間は確実に征服されます

――電線の“愛でポイント”が何となく分かってきました。石山さんは普段、電線とどう触れ合っています?

とりあえず、外を歩いている時は、だいたい電線を見ていますね。同じ電線なのに、面白いところに気付くときもあれば、気付かないときもあって、それもいいですね。で、「あ、この電線いいな」って思ったら、写真を撮るようにしています。

――電線を見ながら何か考えたりしますか?

考えますね。電線って上にも張り巡らされているし、地中にも伸びているじゃないですか。だからもし電線が意志を持ったら、私たちは上からも下からも電線に攻められちゃうじゃないですか。そうなったらもう逃げられない。電線はそういう意味で、マジで最強ですよ。電線がその気になったら人間は間違いなく征服されますから。

――征服!?(真面目な顔してめっちゃ面白いこと言い出した!)

あとは今、地球をかたどっている物質の中で電線だけを残して、それ以外すべて消滅したら、地球サイズの電線が張り巡らされた球体のオブジェができるのかなって……。これは想像するだけで、めちゃくちゃアガりますね。

――それは確かに見てみたいかも(笑)。電線を見るために旅行にいくことも?

石山蓮華 電線礼賛

行きます。特に温泉旅行に行くときは、あえてうらぶれた雰囲気のところを選ぶようにしています。そういうところの方が電線が多いので。

――選ぶ基準が、温泉の効能とか、良い宿かどうかとかじゃないんだ。

そういうのはおまけですね(にっこり)。

特に、坂の多い温泉街は電線を撮るのに最高のスポットなんですよ。群馬県の伊香保温泉なんかは、急な坂が多くて、高低差の関係で目線の高さに電線が迫ってくるんですよ。そのダイナミックな迫力は一見の価値ありです!!

――まさかとは思いますが、家選びのときに電線が影響することも?

ありますよ(即答)

――あるんだ。

この前、ちょうど引っ越しを考えて、いろいろと内見に行ったんですよ。そうしたら、条件的に良い物件があって、しかも、窓の外にすっごいかっこいい電線があったんですよ。もう、最高の電線ビュー

――オーシャンビューというのはよく聞きますけど、電線ビューという言葉は初めて聞きました(笑)

早速申し込んだんですけど、残念ながら先に別の人に決まっちゃって……。すごい残念でした。

それ以来、不動産屋さんも「いい電線が見える部屋が出たら、すぐに連絡します」って言ってくれています。

――賃貸のポータルサイトには「電線が見える」っていうチェック項目はないですからね。

そうなんです。なので、Googleのストリートビューで、物件の近くに良い電線があるか、自分で調べるようにしてますね。

電線は寡黙な働き者
いくら愛を注いでも「重い」って言ってこない

石山蓮華 電線礼賛

――好きな電線の側に住みたいっていう願望は、初めて聞きました。

そうですか? 例えるなら、好きなアイドルとかタレントさんの隣に住みたい、みたいな感覚ですかね。推しのアイドルの隣に住めたら嬉しくないですか?

――え、それはいいですね。

そういう気持ちです。でも、実際、推しが隣にいると思うと、緊張したり、物音が気になり過ぎたりして、多分疲れちゃうじゃないですか。

でも、その点、電線はどれだけこっちが一方的に想いを寄せていても「重い」とか思われないし。ただそこにいるだけっていうのがいいですね

――(妙に納得感があるな!) 「こんなに好きで重いかな」とか気にせず、思う存分愛せるわけですね?

そうです。すごく良くないですか?

人間が相手だと、どうしても愛を注いだ分だけ見返りがほしくなるけど、電線は何も返ってこないのが当然だし、そこがまた魅力。電線は寡黙な働き者なんで、こっちが好き過ぎても嫌がらない。いくらこじらせてもいいので、全然楽です。

――課金しなくてもいいし。

貢がなくていいんです! 強いて言えば、好きな電線を見に行くために使う交通費ぐらい。とても経済的な趣味です。

――アイドルみたいに、いきなり卒業することもないですしね。

いや、それがあるんです。

――え! それはどういうことですか?

大好きな電線が架け替えとかで様子が変わっちゃうことがあるんです……。これは言わば推しの卒業と同じ。人間界からのログアウトです(絶望)。

――そう考えると、電線を愛するのもまた「推せるときに推せ」精神なんですね。

そうなんです。だから私はいいなと思った電線は必ず写真に撮るようにしています。

東京都心でいえばセンター・コア・エリア(東京圏の中核エリアのこと)の90%以上で電柱の地中化が進んでいます。東京という街の新陳代謝の中で消えてしまう電線は、絶滅危惧種的な部分があるのかなと。そういう儚さも伝えていくことで、面白がってくれる人が増えれればいいなと思っていますね。

好きなものへの愛を語ることで、社会的な規範から自由になれた

石山蓮華 電線礼賛

――石山さんは同人誌を発行したり、電線愛を各方面に広めていますが、その布教活動の根底にはどんな想いがあるのでしょう?

まずは電線そのもののカッコよさをお伝えしたいというのが第一。その上でなんですが、電線って社会的に煙たがれる存在じゃないですか。でも、そういう存在も、ほんのちょっとでも見方を変えると楽しいんだよっていうことを伝えられたらと思っているんです。

生きていれば、嫌なことはいっぱいある。でもそれだって見方一つで実は面白くなるっていうことが十分あり得ると思うんですね。そういう気付きを広めたいというか。

そのために、イベントなどで若い女性たちに電線にさわってもらったりしているんです。「電線なんて汚いし、なくなっちゃえばいい」と思っていた人が、よく観察したり触ってみたりした結果、「案外これ楽しいぞ」ってなってくれたら、電線のバーターとしては満足です。

――「電線のバーター」ってすごい(笑)。石山さんみたいに、愛してやまないものがある人生って素敵だなって思うんですけど、そういうものってどうしたら見つかると思います?

よそ見をすることですかね。

――というと?

私、小さいころからよく、よそ見しながら歩く子で。今も外を歩くときは路地の間を覗いたり、壁の質感の違いを確かめたり、看板のフォントのバランスを楽しんだりと、あっちこっちいろんなところに目線が行っているんです。そこで、気になる花を見つけたら写真に撮って画像検索して名前を調べたり。

そうやって外に出て、いろいろよそ見をするだけで、世界って広がります。いつも通勤に使ってる道でも、キョロキョロしたらきっと新しい発見がある。

普段見えてなかったものが目に入ると「あれって何だろう」って思いますよね? それをどんどん調べたりしていると、好きなものが見つかる可能性って高そうじゃないですか? 気になったってことは、何か感性に触れたわけだし。

だから、転ばない程度に、どんどんよそ見をしてみてください

――石山さんは、電線をとことん好きになって、「電線が好き」って公言し始めて、ご自身の人生にはどんな良い影響がありました?

はっきり言って、生きるのが相当楽になりましたね。

石山蓮華 電線礼賛

私、子どもの頃から電線は好きだったんですけど、こうやって広く公言するようになったのは、大学を卒業してからで。こんなマイペースな性格ですけど、他の女の子がどう振る舞っているのか、周りの大人に何を期待されているのか、結構気にしていたんだと思うんです。

例えば、仕事で会う女の子たちの多くは、ジェンダー規範に則った服装をしていて、ほとんどの人がコンサバな赤文字系ファッション。それに合わせた方がいいのかなって思ったりしたこともあって。「女の子には清楚で可愛らしくいてほしい」みたいな期待を寄せてくる大人も多いじゃないですか。ただ、そういうものには違和感しかなかった。

ですが、「電線好き」を公言するようになって、電線愛好家として活動するようになったら、誰も私に清楚とか可愛いとか、求めなくなったんですよね。私は普段、Tシャツ、スニーカー、リュックみたいな、ラフなスタイルが好きなんですけど、電線見てまわってるんだから、誰もそれを「カジュアル過ぎる」とは言いません(笑)。これは、私にとってはかなり大きな変化でした。

自分はこういう人間なんで、こういう服装を選び取っていますということに、納得してもらえるようになったのかもしれませんね。一人の人間として、すっぽりおさまるようになった感覚があります。

――好きなものを好きだと発信していくことが、ある種、自分を理解してもらうためのツールになるということですね。

そうです。同じ価値観を持った人ともつながりやすくなりますし、人間関係もだいぶ楽になりますよ。自分のことをちゃんと好きになってくれる人が、周りに集まってくるという意味で。

“常識らしきもの”に無理に自分をあわせて変えるのではなく、そのままの自分を出すことで楽になれたっていうのは、私的には大発見。それが、好きなものを語ることで得た一番のプラス効果だと思います。

石山蓮華がアガる!都内の電線スポット3つ

ミスタードーナツ 下北沢ショップ
「二階にある広い窓は通りに面しており、下北沢の電線を目の高さでぐるりと眺めることができます。暑さも寒さも感じることなく、ドーナツ片手に電線を愛でられる優雅なスポットです。普段はあまり目の高さで見ることのない電線にガラス越しで近寄れる水族館的な楽しさもあります」


原宿 原宿通り(東)
「竹下通りから明治通りを渡り、イベントスペースの『VACANT』などがあるあたりの通りは、細い道に意外と電線が多く架けられています。よく見てみると電線の先がどこにもつながっていないまま架けられた線や、丸く巻かれた線が発見できるかもしれません。お買い物や散策の間にも電線を愛でられます」


代々木上原駅 南口2
「細めの通りの空を横断するように架けられた線を、坂の下から見上げられる穴場のナイスビュー! 東京メトロ代々木上原駅の改札を出て、駅構内の通路から南口2へ抜けたところに初めて出たときついうっとりしてしまいました。坂の角度が、電線を愛でるのにちょうどいいんです。お洒落なイメージの代々木上原ですが、代々木八幡の方へ向かう細い通りにはボリュームのある電線が架けられた電柱もあるのでぜひお散歩してみてください」

取材・文/横川良明 撮影/竹井俊晴