プリキュアはなぜ“完結することのない多様性”を描き続けるのか――「スタプリ」プロデューサーズが明かすヒットコンテンツづくりの舞台裏【柳川あかり×村瀬亜季】

プリキュア』は、子どもだけのもの。女の子だけのもの――。

そう思っている人がいるとしたら、それも一つの「先入観」にとらわれている証拠なのかもしれない。

スター トゥインクルプリキュア

女の子だって暴れたい」をコンセプトに2004年からスタートしたTVアニメ『プリキュア』(テレビ朝日)は、時代の変化を敏感にとらえながら、「多様性」を尊重した表現に重きを置き、「女の子はこうあるべき」というステレオタイプを乗り越えてきた。

そんな『プリキュア』シリーズの最新作、『スター☆トゥインクルプリキュア』(以下、スタプリ)の劇場版『スター☆トゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて』が10月19日(土)より全国で公開された。

そこで、テレビアニメ「スタプリ」プロデューサーの柳川あかりさん(東映アニメーション)と、劇場版最新作のプロデューサーを務めた村瀬亜季さん(東映アニメーション)に、作品づくりに込める思いを聞いた。

柳川あかり/村瀬亜季

(プロフィール)
柳川あかりさん【写真左】
2013年、東映アニメーションに新卒入社。『デジモンユニバース アプリモンスターズ』でアシスタントプロデューサー、『おしりたんてい』でプロデューサーを務めた後、2019年より『スター☆トゥインクルプリキュア』のプロデューサーを任されている

村瀬亜季さん【写真右】
2016年、東映アニメーションに新卒入社。『プリキュア』シリーズにアシスタントプロデューサーとして関わり続けた後、映画『スター☆トゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて』でプロデューサーに抜擢される

肉弾戦で敵を倒す、ロケットを操縦する……そういう女の子がいたっていいじゃない?

――スタプリに限らず、プリキュアシリーズでは一貫して「多様性」の表現を大事にされていますよね。どのような思いがあるのでしょう?

柳川:『プリキュア』の主なターゲットは3~6歳のお子さんです。ちょうど自我が芽生えてくるし、環境的にも保育園や幼稚園、小学校など家庭以外の場に身を置くようになる年齢ですよね。

柳川あかり

そういった場で何が起こるかというと、自分とは違う「他者」と関わり、自分とは全く違う価値観に初めて触れることになります。要は、未知のものに触れ、自分とは違うものを受け入れていく時期。そういうことを物語の中からも自然と受け取れる作品になればよいなと思って、「多様性」を主題の一つに置き続けています。

――スタプリでは「地球人」のみならず「宇宙人」も登場しますし、キャラクターそれぞれがさまざまなバックグラウンドを持っていますね。

スター トゥインクルプリキュア

~キャラクター紹介~
キュアスター(ピンク)
星座と宇宙が大好き!想像力豊かで好奇心旺盛な中学2年生。誰がなんと言おうとも「好きなモノは好き!」という強い想いの持ち主。興味があることはとことん突き詰め、直感で行動するタイプ。口癖は「キラやば~っ☆」。星のプリキュア「キュアスター」に変身!

キュアミルキー(ミントグリーン)
惑星サマーン出身の宇宙人。地球の年齢では13歳だが、惑星サマーンでは大人扱い。フワとプルンスと一緒にロケットに乗って伝説の戦士プリキュアを探す旅をしている最中、フワの力で地球にワープしてしまう。責任感が強くて真面目だけど、ちょっと抜けているところも。チャームポイントは頭についたセンサー。天の川のプリキュア「キュアミルキー」に変身!

キュアソレイユ(イエロー)
太陽みたいに明るくて、笑顔がとっても素敵な中学3年生。学校一の人気者で「観星中(みほしちゅう)の太陽」と呼ばれている。家は商店街にある『ソンリッサ』という名前のお花屋さん。6人兄弟のお姉さんで、忙しい両親に代わって弟や妹の面倒を見たり店の手伝いをすることも多い。太陽のプリキュア「キュアソレイユ」に変身!

キュアセレーネ(パープル)
おしとやかで、がんばりやさんな中学3年生。代々続く家柄のお嬢様で、お父さんは政府の高官、お母さんは世界的に有名なピアニスト。ピアノと弓道は全国大会で優勝するほどの腕を持ち、華道や茶道もたしなみながら学校の成績も絶えずトップの才女。みんなの憧れの生徒会長で「観星中(みほしちゅう)の月」と呼ばれている。月のプリキュア「キュアセレーネ」に変身!

キュアコスモ(ブルー)
レインボー星出身の宇宙人。宇宙怪盗ブルーキャットや宇宙アイドルマオなど、色々な姿に変化ヘンゲする能力を持つ猫型の種族。石化された仲間を救う方法を見つけるため、バケニャーンに変化してノットレイダーに潜入していた。宇宙のプリキュア「キュアコスモ」に変身!

柳川:はい。キュアソレイユはビジュアル面で分かりやすい違いがあったので注目して頂きましたが、実はみんな少しずつ肌の色は違うんです。

あとは歴代のプリキュアシリーズの中には、髪の長い女の子のキャラクターが多いのですが、キュアミルキーは変身しても髪は短め。コスチュームも『プリキュア』の多くがスカートを採用する中、彼女はかぼちゃパンツです。

女の子のアニメキャラはロングヘアーでスカートという決めつけはせず、容姿や価値観にもバリエーションを持たせるようにしました。

村瀬:映画版においても、シリーズ開始当初から守り続けている「女の子だって暴れたい!」というコンセプトは大事にしています。

スター トゥインクルプリキュア

柳川:それまで戦うヒロインはいても、魔法での攻撃がメインで、肉弾戦で敵をやっつける女の子はいなかった。そんな中、女の子がパンチやキックで戦う描写を取り入れたのが『プリキュア』シリーズの新しいところでした。本作も、シリーズディレクターの宮元宏彰さんがそこには強いこだわりを込めています。

柳川:キュアミルキーは自分でロケットを修理したり操縦したりするんですが、そういう設定にしたのも、「パイロットや整備士は男性の仕事」という先入観をぬぐいさりたいという願いもあってのこと。

大前提、私たちはお子さんが楽しめるアニメをつくるということを目指しているので、「ジェンダー意識を変える」ことは主目的ではありません。ただ、こうやって子どもの時に継続的に観たものによって価値観が形成されていく側面は少なからずあると信じているんですね。

だからこそ、子どもたちの可能性を閉ざすようなことはしたくないし、プリキュアと出会ったことで夢を広げられたらとは思いますね。

「誰も傷つかない表現」は存在しない。だから、言葉を選び続ける

柳川あかり/村瀬亜季

――柳川さんは幼少の頃、アメリカで生活されていたと聞いています。当時の体験が、「多様性」を描くという面に影響を与えているところも?

柳川:それはあると思います。すごく覚えているのが、私がまだ小さかった頃って、アニメのお姫さまといえば西洋系のキャラクターばかりでした。そんな中、ディズニー映画の『ムーラン』が公開されて初めて目にした時、すごくうれしかったんですよ。

それに、欧米のドラマや映画の登場人物の多くが白人の中、たまにアジア系の子が出てくると、自然と親近感が湧いたりして。その時の仲間を見つけたような喜びとか、親しみのようなものを覚えているからこそ、なるべくいろんな子たちが自分を投影できるようなキャラクターをつくりたいと思うのかもしれません。

柳川あかりさん/村瀬亜季さん

――多様性を表現すること以外の面で、プリキュア作品をつくる上で常に意識していることってありますか?

柳川:多くの人が不快にならない表現を探すことですね。それは不可能なことでもあるのですが、テレビという誰でもチャンネルを回せば無料で見られる媒体の特性上、さまざまな視聴者を想定しなければなりません。その上で、私たちが意志を持って表現を選択していくことが大事なのではないかと。

――それは、具体的にいうとどんなことですか?

柳川:例えば、キュアソレイユのことを説明するときにも、「ハーフ」と呼ぶべきか「ダブル」と呼ぶべきか、これって媒体によってもルールが違うんです。受け手がどう感じるかは人それぞれ。はっきりとした正解がないなら、少しでも「正解ではない」と感じる表現は選ばないようにしたい。

だから、キュアソレイユのことは、「メキシコ人のお父さんと、日本人のお母さんがいる子」というのが公式での表記。「ハーフ」とも「ダブル」とも言いません。脚本会議で誰かが引っかかる表現があれば、その価値観を尊重し、逐一立ち止まって議論した上で言葉を選んでいます。

村瀬:ただ、こういう話は大人が敏感なだけで、お子さんたちは純粋に物語を楽しんでくれているように思いますね(笑)。キュアソレイユに関しても、「肌の色が違う」っていうことも含め、「そういう子だ」って自然と受け入れている。その頭の柔らかさに、私たちが驚かされたりするくらいです。

村瀬亜季

柳川:ちなみに、スタプリでは5人のプリキュアたちがそれぞれ個性を持っていますが、お子さんたちからの人気もバラバラなんです。衣装を着てショーに遊びに来てくれるお子さんを見ると、どことなくプリキュアとの共通点があったりして、キャラクターの個性がその子に響いて重なったのかなと思うと、作り手の思いが通じたような気がしてうれしくなります。

ヒットコンテンツづくりの要は、作り手の「直感」にある

――お二人はプリキュアという15年以上続くコンテンツの制作に携わっています。ヒットコンテンツをつくり続けるために心掛けていることはありますか??

村瀬:私はお子さんのいるチームメンバーのところに行って、「これ、どう思いますか?」って素直に聞きますね。

柳川:私もそれはよくあります。

村瀬:自分たちはもう、プリキュアの視聴者とは同じ目線にはなれません。だとすれば、どういう内容だったら親御さんが安心してお子さんに見せたいと思うのか、普段お子さんがどんなことで喜ぶのかを知ることが大切かなと。

柳川あかり/村瀬亜季

――子どもたちの反応は、親御さんが一番よく知ってますもんね。

柳川:そうですね。その上で、最後は自分の直感なんです。プリキュアでもユーザー調査は行いますが、最終的に信じるのはマーケティングで出てきたデータではなく、個々の感性なんです。

村瀬:データも見るし、いろいろな人から話を聞くことも大事だけど、最後は自分が本当に面白いと思えるかどうかが決め手ですよね。自分がつまらないって思っているものを世の中に出すのは不誠実だし、自分で自分に嘘をつくとたいていずっと心にモヤモヤが残る。「嘘のない決断をする」っていうのが、プロデューサーの役目かなとも思います。

――何だか、『プリキュア』を見る目がまた少し変わりました。

村瀬:ありがとうございます! 特に映画最新作では、私たちにとっても新しい挑戦がたくさんあって。未知との出会い、友だちとの絆……どんな方が見ても楽しめるようにつくっていますので、映画を観ていただき、感じたことを友だちや家族、いろいろな方と話していただけたらと思います。

取材・文/横川良明 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER) 企画・編集/栗原千明(編集部)

作品情報

<映画>
スター☆トゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて 10月19日(土)ロードショー!

>>公式サイト

<TV放送情報>
スター☆トゥインクルプリキュア  ABCテレビ・テレビ朝日系列にて毎週日曜朝8:30より放送中

>>公式サイト