あれもこれもと手を出すだけではなく、
噛みしめることを覚えた28歳

中川さんの20代前半は、「世の中、今しかできないことが多過ぎる」という焦りでいっぱいだった。もっと本を読みたい、もっと歌を歌いたい。アニメも見たいし、ゲームもしたい。覚えたいことも学びたいこともたくさんある。そんなさまざまなことに手を出し、睡眠時間を削りながらドタバタと過ごしていた。

もちろん今も、あれこれ手を出しながら走り続けていることに変わりはない。けれど今は、それに加えて「噛みしめる」楽しさにも気付くことができたと話す。

「たくさんのことをわぁーっと流していくだけではなくて、噛みしめて受け止める。それは、“黒歴史”の自分を振り返り、しみじみと『大変だったけれど、あれはあれで良かったんだな』と消化していく作業にもつながりました。たぶん20代前半の私は、封印したかった“黒歴史”な部分を埋めるべく、いろいろなことを詰め込んでいくのに焦っていたように思います。だからこの映画のお話が、28歳というタイミングで来てくれて本当に良かったと思うんです。やっと自分の“黒歴史”と握手することができました」

映画で使われているピンクのファーのヌンチャクは、中川さんが中学生のときに手作りし、ブルース・リーをまねて練習していた私物だ。この映画を通して中川さんは、自ら“黒歴史”と呼んでいる思い出したくない過去がすべて肯定され、良い栄養に変わっていくような穏やかな気持ちになったという。

「事務所の社長には『28歳でその衣装か…』って言われちゃったんですけどね（笑）」と自虐的に話す中川さんだが、辛かったころの自分が笑顔になれるような映画にしたいと考えて臨んだ撮影を終え、その目的は、十分に果たすことができたようだ。

歌も絵も、Twitterもブログも、
生きた証を残したいという衝動が原動力

「睡眠時間を削りながらドタバタと過ごしていた」ころから、中川さんはたくさんの言葉をTwitterやブログで発信し続けている。また、大好きな絵や歌にも精力的に取り組んでいる。それもこれも、「生きた証を残したいから」だという。

「たぶん、生きた証を残したいという気持ちは、人一倍強いと思います。その中でも、映画は特別です。映画は海を超え、時も超えて繰り返したくさんの人に見てもらえる。映像の中に時代も空気感もそのまま残る、何よりも力強い“生きた証”だと思うんです。それも、私一人ではなく、井口昇監督や原作の大槻ケンヂさんはじめ、たくさんの出演者やスタッフの愛が乗っかっている。素晴らしい証が残せたなって満足しています」

彼女が「生きた証」にこだわる理由。それは、いつも中川さんの周りにある「先祖からのつながり」への想いがあるから。

「最近、９歳のときに亡くなった父とのつながりを感じることが多いんです。例えば、深海魚に夢中になったら、父が描いていた深海魚のスケッチが大量に出てきたり、化石を集め始めたら、父の化石コレクションが見つかったり。父が亡くなってからの方が長く、２人で話し合ったこともないのに、私はいつの間にか、父の趣味や、歩んできた道をたどって生きているんですよね」

時代を超えて同じものを愛した父と娘。この“つながり”が中川さんの今の生きる意味であるという。

「父だけではなく、先祖代々すべての人たちの軌跡がこの細胞や血になっていると思うと、脈々と受け継がれたものを途絶えさせてはならぬ、と。たぶん、まだ見ぬ我が子孫も絶対に、私が好きなものを好きになると思うんですよね。だから、今、一番したいことは出産です！（笑）」

生きた証を残すべく、たくさんの爪痕を残しながら走り続ける中川さん。これからも過去の自分と寄り添いながら、未来への歩みを止めることはないだろう。

映画『ヌイグルマーZ』
2014年1月25日(土)より新宿バルト９ほか全国ロードショー

中川さんが映画初主演を果たした特撮アクションコメディ。大槻ケンヂ氏率いるバンド「特撮」の楽曲『戦え！ヌイグルマー』の世界観を映画化し、中川さん演じる冴えないロリータファッションの少女・鮎川夢子（通称：ダメ子）が、ピンクのテディベア、ブースケと合体することにより「ヌイグルマー」へと変身し、ゾンビを使って世界征服を目論む悪党タケシらと激闘を繰り広げる姿を描く。監督は『電人ザボーガー』『デッド寿司』の井口昇氏。中川さんとは、漫画『脳子の恋』（原作井口昇、中川翔子著）以来のタッグとなる 公式HP：http://ngz-movie.com/ （C）2013ヌイグルマーZ／フィルム・パートナーズ

取材・文／朝倉 真弓　撮影／柴田ひろあき　ヘアメイク／高橋 雅子（☆Nerine☆）スタイリスト／宮崎真純（likkle△more）衣装／マミタス

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