21 OCT/2013

尾野真千子&真木よう子『そして父になる』特別インタビュー【今月のAnother Action Starter Vol.12 Special】

尾野真千子真木よう子

尾野真千子(おの・まちこ)

1981年、奈良県生まれ。中学生のころ河瀬直美監督に見出され、『萌の朱雀』で主演デビューを飾る。この作品は第50回カンヌ国際映画祭でカメラ・ドールを受賞し、自身も他の海外映画祭などで主演女優賞を受賞。2007年、再び河瀬監督とタッグを組んだ『殯(もがり)の森』がカンヌ国際映画祭グランプリに。2011~12年にNHK連続テレビ小説「カーネーション」で主演を務めるなど、日本を代表する女優として活躍中
真木よう子(まき・ようこ)
1982年、千葉県生まれ。2001年女優デビュー。06年『ベロニカは死ぬことにした』で映画初主演。同年『ゆれる』で、第30回山路ふみ子映画賞新人女優賞を受賞。テレビでは2010年にはNHK大河ドラマ『龍馬伝』で坂本龍馬の妻、お龍を好演。本年のドラマ『最高の離婚』(13年/CX)も話題になる。また7年ぶりの単独主演映画『さよなら渓谷』は本年度第35回モスクワ国際映画祭審査員特別賞を受賞するなどいま最も期待される女優の一人である

6年もの間、大切に慈しんできた息子が赤の他人の子だったら?
産院で息子を取り違えられた二つの家族を通して、血のつながりや家族の意味を問いかける映画、『そして父になる』。福山雅治さんが演じる大企業のエリートビジネスマンを主人公に、家族の葛藤や選択を丁寧に描いた感動作だ。

今回の『今月のAnother Action Starter』はスペシャル企画として、映画『そして父になる』に出演し、「育ててきた子は実の子ではない」という衝撃的な現実に向き合う2人の母親を演じた、尾野真千子さんと、真木よう子さんにインタビュー。この役柄について何を感じ、女優としてどう取り組んでいったかを語ってもらった。

演じたときにどういう感情がわくか、
想像がつかない役どころだった

――まずは、台本を読んだときの感想をお聞かせください。

尾野:難しいなと思いました。題材が特殊ですし、分からないことだらけで。まず、わたしはまだ“母”ではないので、母親であるとはどういうことなのかが分からない。その上、子どもの取り違えという事件に関しても、どう理解し、どう受け止めればいいのか、まったく分かりませんでした。
ですから、その「分からない」という気持ちを大事にして、台本を理解しようとするのをあえてやめました。芝居をしていく過程で感じたことを、正直に出していきたいと思って臨んだ作品でしたね。

真木:わたしが台本を読んだ最初の印象は、「すごく衝撃的だな」ということ。それから、福山雅治さんが演じるエリートサラリーマンがどんどん父親になっていくというエピソードがとても素晴らしいと感動しました。
でも、母親として育てた子が自分の子ではないと分かり、その事実を受け入れていくシーンを撮るにあたり、自分にどういう感情が生まれるかは、わたしもまったく想像がつきませんでした。真千子と同じように、「現場に立つまではどうなるか分からない」と思いながら入っていきました。

――――では、役作りというのは特に意識されなかったのですか?

尾野:そうですね。現場で感じたことや、子どもたちが見せてくれる芝居とか表情とか、そういうものを大事にしてきました。

真木:是枝監督のやり方なのですが、わたしたちは台本をもらっているけれど、子役たちには台本は渡されないんです。子どもたちがどう動くか本当に分からないから、台本通りになんていかない(笑)。わたしたちは、その場その場で子どもたちの動きに対応していく感じでした。

――そのせいか、映画の中のお二人の母親姿はとても自然に見えました。

尾野:演じている最中はずっと、母親としてこれで本当にあっているのかなと不安でした。映画を見た人たちにはどう見えるんだろうとか……。

真木:そうだね。わたしもそれは気になってます。

尾野:わたしは納得していたとしても、見てくれた人たちも違和感なく「母」だと感じてくれるかどうかは別ですから。芝居を通して感じた気持ちはすごく大事にしましたが、結局ただの自己満足かもしれないので、皆さんの目にもそう映っていたら嬉しいですね。

二人の役を入れ替えたかった?
自身の性格とは真逆の役柄

真木よう子

――――まったく境遇の違う二人の母親を演じる二人ですが、プライベートではとても仲良しと伺いました。撮影現場では、お互いの存在をどう感じていたのでしょう。

真木:わたしの役は、真千子の役とは全然境遇が違うんです。田舎で、子どもがいっぱいいて……。

尾野:もう、てんやわんやしてたよね。

真木:うん、まさにてんやわんや(笑)。でもそれがリアルな母親の雰囲気になったのかも。だから、真千子を見ていて、1対1の描写って本当に大変だなって思っていました。一人息子だし、母親として揺れているシーンがたくさんあったから。わたしが子どもたちとてんやわんやしながら、パッと真千子を見ると、真千子が一人静かにじーっと下を向いて集中していることもありましたね。

尾野:そうそう、真逆ね(笑)。

――お互いに役柄に関して相談したり、話し合ったりは?

尾野:「役どころを交換したほうがいいんじゃない?」みたいな話はしたね。

真木:そうそう。したよね(笑)。

尾野:どっちかというと、わたしはよう子が演じている「ゆかり」のような人間なので。山育ちの自然児だし、キャラクター的にもリリーさんと一緒のほうが似合うんじゃないかって。都会暮らしという設定や、福山さんが夫という関係性は、よう子のほうがぴったりなんじゃないかと思っていました。

真木:確かに、性格と役柄が逆だって言ってましたね。

尾野:母親らしさに関しては、わたしはよう子の動きをじっと見て学びました。よう子を見ていると、やっぱり立ち居振る舞いや子どもとの接し方が「母親」なんですよ。
よう子はこういうときにどうするんだろう、この子に対してはどう接するんだろう、とか。今回ほど、間近でよう子をよく観察したことはありませんでした。

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