超売り手市場で増えるミスマッチ転職――“お試し就職”に今、注目が集まるワケは?
国の女性活躍推進の後押しもあり、企業の女性採用が活発だ。
中でも、成長意欲が高い若手女性は超売り手市場。企業から「未来の管理職候補」と見込まれるポテンシャル人材なら、複数の企業からの内定も得やすい。
しかし、転職活動を始めたばかりの時期に内定が出やすいこの状況は、転職者にとってリスクになることも。
「企業選びの軸」が定まらない時期に内定を提示され、さらに内定承諾を迫られることにより、「せっかくもらった内定だから」と、焦って入社を決めてしまう人が多いからだ。
このような状況の中で「ミスマッチ転職をしてしまう女性が増えている」と話すのは、副業・転職のリファラルプラットフォーム『YOUTRUST』を運営する株式会社YOUTRUST代表の岩崎由夏さん。
岩崎さんは同社を立ち上げる前は、インターネット関連事業を行う株式会社ディー・エヌ・エーの人事として、数多くの転職者の採用に携わってきた。
また、ミスマッチ転職を防止する策として企業と転職者の双方から今注目されているのが、副業や社会人インターンなどを利用して転職前に“試しに他の企業で働いてみる”「お試し就職」だと岩崎さんは言う。
「お試し就職」とは具体的にどんなものなのか、どうすれば実現できるのか、岩崎さんに聞いてみた。
手間はかかるが“失敗”しない? 企業と転職者から「お試し就職」が注目される理由
いま、日本社会が直面しているのは労働人口不足という深刻な問題。大手・中小問わず、各社が「長く自社で活躍してくれる若手人材」の確保に必死です。
中でも、女性活躍推進の流れを受けて、将来的に管理職として活躍してくれそうな若手女性には熱視線が注がれています。
だからこそ、優秀な女性が面接に来てくれて、最終的に内定を出した場合、人事からすると「絶対逃したくない」というのが本音。「内定をはやく承諾してほしい」と転職者に返事を急かすことがあります。
しかし、ここで転職者がよく考えないまま入社してしまうとミスマッチが起こり、早期離職につながってしまうのです。
ただ、コストをかけて雇った社員が早期離職してしまうのは、企業にとってかなりの痛手。転職者にとっても、短期間で職場を転々としてしまうことはキャリアに良い影響を与えません。
そこで今、スタートアップ、ベンチャーなどの中小企業が注目しているのが、社会人インターンや副業などで「一度自社で働いてくれた人」を積極的に採用する方法です。
履歴書や面接だけでは見極めきれないその人の“信頼度”や“社風マッチ”を「お試し就職」期間に見定める方向に舵を切る企業が増えています。
中には、「一度自社で働いてくれた経験がある人でなければ採用しない」と言い切る企業も出てきているほどです。
また、「お試し就職」は転職者にとってもミスマッチ転職を防ぐ有効な手段になっています。
正式に入社を決める前に他社のリアルな状況を自分の目で確認できるので、手間と時間はかかりますが、自分に合う環境か合わない環境か、間違いのない判断がしやすくなります。
いまは国が副業推進に力を入れているので、営業や広報、エンジニアやデザイナーなどの職種の方であれば、本業を続けながら副業で他社の働き方を見るハードルも段々と下がってきていますよね。
本業と両立しながら週1〜2回だけ他社で働いたり、オンラインベースでできる作業だけ受けてみたり、正式に転職する前の“お試し就職”の機会が広がっていると言えます。
受け身の仕事はNG。お試し就職中は“等身大の自分”を見せよう
では、どうすれば「お試し就職」を経て、ミスマッチのない転職を実現するところまでつなげられるのか。
まずは「お試し就職」の職場をどう探すかですが、社会人インターン募集や副業(業務委託)募集は、公に情報が出ていないことが多いので、なるべく知人紹介など、人づてで探すのがいいと思います。
既に信頼関係のある人との仕事であれば、コミュニケーションコストがかからないので、スムーズに仕事を始められますしね。
そして、そこでどんな仕事をするかも重要です。
オススメしたいのは、未経験の仕事ではなく、これまでの経験やスキルを生かせるような仕事を選ぶこと。
業務委託として他社で働く場合、社員とは扱いが異なるので要注意。先輩や上司もおらず、仕事を教えてもらえない、仕事をサポートしてもらえないケースがほとんどです。
ですから、「何でもやります!」と言って仕事が来るのを受け身で待ち続けていても、全く依頼が来ない……なんてこともよくあります。
つまり、誰かに指示されたり、働き方を管理されたりしなくても、自ら働きかけ、役立てるような職場、仕事を選ばなければ、「お試し就職」は実現しにくいのです。
先程、「受け身で待っていても仕事はこない」とお話しましたが、「お試し就職」を始める際にスタンスを間違えてしまう女性は実際のところ少なくありません。
ミスマッチのない転職先を探すための期間にしたいなら、ただの“お小遣い稼ぎ”程度の感覚で臨んではダメ。入社後、自分が正社員として働くのと同様、即戦力として何ができるのかを示すよう心掛けてください。
ただ、ミスマッチ転職を防ぐという意味では、「お試し就職」期間も見栄を張らず、等身大の自分を見せながら働くことも大事。
その結果「この会社と自分は合わない」と分かれば儲け物。本番の転職で失敗するのを防げるわけですから、それはそれでいい結果です。
こうやって他社の実情を知るようにすると、副産物として、自分が今いる会社の良さに気付く場合もありますね。「お試し就職」を経験した方の中には、「私には今の会社がすごくマッチしてたんだ」と仰る方も。
“外を見てみる経験”は、転職先探し意外の面でも皆さんに良い影響を与えてくれると思います。
「お試し就職」からの転職。“嘘偽り”のない退職交渉を
そして、「お試し就職」を経て内定をもらい、「いざ転職しよう」と思った場合はどうすればいいか。
今いる会社での退職交渉については、特別なことは何も必要ありません。
旧来の転職活動と同様、今働いている職場の上司に退職の意思を伝え、いつから次の会社で働こうと思っているかなど、聞かれたことにはウソ偽りなく答えましょう。
時々、「お試しで働いていた会社にそのまま入社しちゃうなんて、何だか不義理かな…?」と心配して事実と異なる情報を上司に伝えてしまう女性もいます。
でも、そういうことは後々バレることがほとんど。すると、これまで築いてきた信頼関係が最後の最後に崩れてしまいます。
気遣いが裏目に出てしまい、大切なつながりを無くしてしまうことになるのです。
もちろん、「お試し就職」をした会社から内定をもらったけれど「この会社は自分に合わない」と心の底で思っているなら、「せっかくチャンスをもらったのに断るなんて悪いかな……?」なんて心配せず、はっきり内定を辞退してOK。
いずれの場合も、あなたがどうしたいのか、本音を伝えることが一番大事です。
実際、「自分がどうしたいか」を伝えることが苦手な女性は多いと思います。相手の顔色を伺って嘘をついてしまったり、自分の本音とは違うけれど「相手が求める答え」をつい口にしてしまったり。
私が人事をしていた時も、女性の転職者に対して「もっと本心を聞かせてほしいのに……」と感じたことは幾度となくありました。
ただ、私たちは「自己犠牲」や「他者を尊重すること」を良しとして育ってきたので、そういう反応をしてしまうことは仕方のないこと。
だからこそ、それをちゃんと自覚することで、意識的に人生やキャリアの主導権を自分で握っていくようにしなければいけないとも思います。
「お試し就職」で自分が今いる会社以外の働き方を知り、自分はどんな環境なら心地よく働けるのかを経験の中からじっくり考えてみる。その上で、他人の希望に引っ張られず、自分の意思で「自分に合う」と感じるものを本音で選び取っていく。
そうやってぜひ、“後悔しない転職”を実現してほしいと思います。
取材・文/栗原千明(編集部) 撮影/桑原美樹