企業が“子育て中の女性”に熱視線。コロナショックが女性採用・転職に与えた影響とは?
未曾有のコロナショックは人材の採用・雇用にも大きな影響をもたらした。自粛要請による休業で雇用不安を抱える人たちも多い。緊急事態宣言は解除されたものの、いつ第二波が起きるかは誰にも予想できない。
長期戦が見込まれるwithコロナ時代。これからはどんな人が「市場価値の高い人材」として重宝されることになるのだろうか。キャリアアドバイザーのえさきまりなさんに、女性の転職に関する最新トピックスを聞いた。

えさきまりなさん
1986年生まれ。3度の転職を経て、HR関連会社で勤務しながら個人でもキャリアアドバイザーをしている。得意領域は、女性と若手キャリア。日経xwomanアンバサダーとしても活動中。
Twitter:@MarinaEsaki
雇用悪化は2021年以降? コロナ禍の採用市場のリアルとは

新型コロナウイルスの脅威は、今なおさまざまな業界にダメージを与えている。特に顕著な例として挙げられるのが、観光・外食などのサービス業界だ。休業期間を経て自身のキャリアを見直す人、今後の雇用危機を回避するべく早めに転職準備に入ろうとする人など、えさきさんのもとには多様な相談が寄せられているという。
一方で、企業の動きは大きく三つに分かれ ました。一つ目が採用活動を凍結した企業。二つ目が、採用を行う意思はあるものの、会社の体制やITリテラシーが伴わず、なかなかスムーズに選考を進められなかった企業。そして三つ目が、このピンチをチャンスと捉え、積極的に人材獲得に乗り出した企業です。
リーマンショックの際も、多くの企業が採用を控え、人材整理を断行する一方で、一部の企業が流出した優秀層の採用に成功し、事業成長の起爆剤に変える傾向が見られた。今回のコロナショックでも同様のケースが多く発生するだろうとえさきさんは予測している。
今後、採用の拡大が予想されるのが、IT・Webサービスや通信、医薬品・ヘルスケア、あるいはECや物流といった業界。特に、Web系のスタートアップは今後も爆発的な成長が期待できる企業が多くあります。
こうした業界はコロナ禍にかかわらず強い採用意欲を示していますし、求職者にとっても転職のチャンスがあると言えるのではないでしょうか。
新型コロナウイルスの感染拡大そのものが、まだまだ予想がつきにくいため、今後の採用トレンドについても不確定要素は大きいものの、先のリーマンショックの経験を踏まえた上で、えさきさんは今後の動きを次のように分析する。
一部の業界を除いて採用は縮小傾向にあるものの、本格的な影響が出てくるのは、これから1~2年先になるのではと考えています。リーマンショックの時も直後の2008年〜2009年より、2010年、2011年の方がより採用数が絞られる傾向にありました。
今回のコロナショックが業績にどれだけ影響を与えたのか。その結果に基づいて採用計画を練り直すのは、来年以降です。ですので、求職者にとっては来年の方がより厳しい状況になる可能性がある。
まだ転職に対する意識がそれほどではない方はしばらく様子を見てもいいかもしれませんが、できるだけ早く転職したい方は今から動いた方が逆にチャンスはあると言えますね。
子育て中の女性など「制約人材」の採用が活発に

新型コロナウイルスは日本人の働き方にも大きなパラダイムシフトをもたらした。では、withコロナ時代に求められる「市場価値の高い人材」とはどのようなものなのだろうか。
現時点ですでに傾向が見えているのが、“制約人材”に対する評価の上昇です。子育てをしながら時短で働きたい。あるいは、育児によるブランクを乗り越えてもう一度社会で働きたいという方たちを、今、積極的に企業が採用しようとしています。
保育の関係でフルタイムで働けない。育児に専念していたため、数年間のブランクがある。こうした「制約」はこれまで転職市場で「ハンデ」になると言われていた。その構造が逆転したのは、withコロナ時代ならではの「あるスキル」が再評価されているからだ。
緊急事態制限が解除されたのちも、企業の間ではリモートワークが広がっていくと考えられています。
在宅勤務のときに求められるのは、生産性と自律性。上司の監督がない中でも、ちゃんとその日のやるべき業務を迅速に処理できる能力です。時短勤務を希望する方たちは、これらの能力に長けているし、改善意識も高い。
いわゆる“リモート耐性”というべきスキルが、今後はより重要になってくると思います。
また、選考プロセス自体もコロナショックを経て変わりつつある。直近で気を付けておくべきことは、選考期間の長期化だ。
まだまだリモートワークが続いている現状では、企業側のIT体制が整っておらず、なかなかスムーズに選考の日程が組めなかったり、経営・人事・現場の連携がとれず、意思決定に時間がかかることも。
そのため、なるべく早めに転職したいという方も、入社が決まるまでは今の企業に退職の意思を伝えるのは避けた方が賢明。会社に在籍しながら転職活動を進めることをオススメします。
Web面接だからこそ見極められる企業のカルチャーとITリテラシー

現在、各企業の間でWeb面接が導入されつつあるが、これも新型コロナウイルスが収束したのちも引き続き定着するのではないかと、えさきさんは予想している。
対面ではない分、その企業のカルチャーを直に感じにくいデメリットもあるWeb面接。だが逆に、Web面接ならではの見極めポイントもありそうだ。
たとえば、同じWeb面接でも有料のツールを使用している企業は、ITリテラシーの面でも信頼できるし、システムや環境に対する投資をいとわない傾向はありそうですよね。
逆にURLや、ID/PASSの発行がもたついたり、一回で済ませられるはずのやりとりが何回にもわたる企業は、入社後もそういったフロー面でのわずらわしさに悩まされることはありそうです。
何より対面とWebという選択肢ができたこと自体が、その企業のカルチャーを計る判断材料となる。
一概には言えませんが、Web面接を行う企業は効率性・合理性を重視し、変化対応力も高い。その分、ドライな面もあると言えるかもしれません。
一方、対面面接を行う企業は生産性の面では気になるところはあるけれど、ウェットなコミュニケーションを好み、人物重視。
どちらが良くてどちらが悪いというわけではなく、自分がどちらのカルチャーにフィットするかを見極めるポイントの一つになると思います。
サポートタイプより、リーダータイプの女性が採用される時代に
私たちの日常を一変させたコロナショック。総じて言えることは、今後しばらくは求職者にとってシビアな状況が続くということだ。
これまで企業は未経験であったりスキルが低くても、その後の成長に期待する“ポテンシャル採用”を行ってきました。けれど、当面は企業も入社後に育てている余裕はない。求められるのは、即戦力人材です。
今までのように「入社してから勉強します」という受け身の姿勢では採用してもらえない。チャンスを掴むには、これまでの自分の実績が活きる職種を選ぶこと。そして自ら進んでスキルを学び、それらを何かしらのかたちで証明できるだけの積極性と結果が必要だ。
あとは、これはコロナ以前から言われ続けてきたことですが、リーダーポジションに就く覚悟ですね。女性の中には、そういった責任のある立場を敬遠し、『私は二番手の方が生きる』というようなサポートタイプの方が多いのですが、企業が求めるのはやっぱり責任ある仕事を牽引できるリーダータイプの女性なんです。
特にこうした危機的状況になると、その傾向がより鮮明になる。責任あるミッションに対し周囲を引っ張りながら遂行できる力を、女性たちは磨いていかなければいけません。
自分を変えようとしても、なかなか変われないのが現実。だけど、これだけ大きな変化に直面すれば、否が応でも変わらざるを得ない。のちのち振り返ったときに、あのコロナショックが自分のキャリアのターニングポイントだったと言えるかどうか。私たちは今、大きな分岐点に立たされている。
取材・文/横川良明