22 JUN/2020

オンライン商談でクライアントと信頼関係を築くには? 営業女性の悩みにコミュニケーションのプロが回答

持つべきものは、頼れるメンター!
「後輩たちへ」

長く仕事は続けていきたい。でも、どんな仕事が自分に合っているのか、そもそもどんな人生を送りたいのか、自分のありたい姿が明確にならない女性も多いはず――。そこでこの連載では、さまざまな人生経験を積んできた『Mentor For』のメンターたちが、“豊かなキャリア”を描いていくためのヒントを後輩女性に向けて送ります

Woman type読者の皆さんこんにちは、『Mentor For』公式メンターの中野敬子です。私は、「異文化コミュニケーション」を中心とした研修やコンサルティングを行う米国企業、ジャパン インターカルチュラル コンサルティング社の日本支店代表を務めています。

オンライン商談

近年、働き方改革が叫ばれながらも、日本ではなかなか定着しなかったリモートワーク。今回コロナショックを受けて、一気に浸透した感がありますね。

今は緊急事態宣言が解除されていますが、オンライン会議などの文化は、今後もますます浸透していきそうです。

そこで今回は、不慣れなオンラインでの商談に課題を感じているという営業職Cさんのお悩みに、私のこれまでの経験から助言してみたいと思います。

先輩に聞きたい!
今回の相談内容

(Cさん/32歳/営業)

営業の仕事をしていますが、コロナショック以降、オンラインでの商談や打ち合わせが増えています。対面だと何となくできていたような信頼関係の構築が、難しく感じています。

オンラインのコミュニケーションでも、相手に信頼され、いつでも頼ってもらえる存在になりたいと思いますが何かいい方法はありますか?

オンライン商談に対する苦手意識は、あって当たり前のもの

オンライン会議、オンライン商談、オンライン研修から、社内・社外を問わずのオンライン飲み会まで……。この3カ月、私たち皆が「新しい日常」に戸惑い、試行錯誤してきたと思います。

さて、現在、オンライン営業を頑張っていて、新しいやり方でも信頼される存在になりたい!と思っていらっしゃるCさん。その姿勢、素晴らしいと思います。

ご相談内容から、クライアントの信頼を勝ち得てきた誠実な努力家だということが伝わってきます。

オンライン商談

一方で、オンラインではクライアントとの信頼関係の構築が難しく感じているとの事ですが、その気持ち、とてもよく分かります。

私自身も多分に漏れず、これまで集合研修が中心でリモートワークとは程遠い環境下で仕事をしていましたので、まさにCさん同様、コロナをきっかけにオンラインへ移行することになりました。

4月初めに公表された厚生労働省とLINEの共同調査によると、「仕事はテレワークにしている」との回答した人の割合はわずか5.6%でした。コロナショックが始まった時点で、約95%の人は、テレワーク未経験だったことが分かります。

初めてのことで、やり方のノウハウや経験もない。教えてくれる先輩もいない。その上、一歩外に出れば、原因不明のコロナの感染リスクという恐怖もあるわけですから、心がざわざわ落ち着かなくなるのは当然です。

そんなとき、私たちが感じやすいのが、「現状維持バイアス」だと言われています。ごく単純化して説明すると、慣れ親しんだ今までのやり方が良かったなと思い、変化を嫌う、誰にでもある自然な心の動きのことです。

そこで今回は、急激な外的環境の変化に漠然とした不安を感じ、自分が圧倒されそうなとき(つまり、自分の中の「現状維持バイアス」に気付いたとき)の私の対処法をご参考までに紹介します。

自分が不安に感じていることを“深堀りして”書き出してみる

自分が不安に感じていることを“深堀りして”書き出してみる

まず、自分が何に不安を感じているのか、何を問題だと思っているのか、徹底的に書き出してみます。今回は、私がCさんになったつもりで、三つの要素に分けて考えてみました。

1) オンラインの営業はやったことがないし、オンラインの営業では信頼してもらえなくなるのではないかと不安
2) 私の得意な対人スキルが、オンラインではうまく使えない気がする
3) 相手の反応がオンラインではよくわからないので、自分が最適なサービスやソリューションを提供できているのか、よく分からない/自信がない

続けて、一つずつ更に深掘って考えてみます。

1)オンラインの営業はやったことがないし、オンラインの営業では信頼してもらえなくなるのではないかと不安

確かに不安ですよね。でも冒頭でご紹介したように、世の中の95%の人がオンラインで営業をしたことも営業を受けたこともないわけです。今回はみんな同じスタートと考えるとちょっと安心しませんか?

次に、自分の強みは本当にオンラインでは発揮できないか、立ち止まって考えてみましょう。Cさんのお客さまは、Cさんのどんなところを高く評価し、信頼してくれているのでしょう?

「じっくり話を聞いてくれる」ところ? 「誠実な人柄」? 「いつも最適なサービスを提案してくれる」ところ? あるいは「時間に正確」や「清潔感」 なんていうのもあるかもしれません。

本当に、これらは全部オンラインでは表現できませんか?

少し工夫すれば、自分に高評価をつけたCさんだけの「強み」を、オンライン上で表現する方法が見つかりそうな気がしませんか?

2)得意な対人スキルが、オンラインではうまく使えない気がする

私の知る限り、ほとんどすべてのビジネスパーソンが、オンラインでのミーティングや営業で、得意な対人スキルをうまく使えないと悩んでいます。

「一を聞いて十を知る」、「空気を読む」、「あうんの呼吸」などの言葉にもみられる通り、日本人は、「言語に依存しないコミュニュケーション」(ノンバーバル・コミュニケーション)をとても重視する、世界的にずば抜けてユニーク(独特)なコミュニケーション法を大切にしています。

同じ空間にいれば、相手の顔色や表情、声のトーン、しぐさなどから、相手の気持ちを汲み取り、「そうそう、分かっているね!」と思われるリアクションを取ることができる。

でも、デジタル機器の画面上では、そうした「非言語」のニュアンスを読み取ることは難しくなります。

オンライン商談

発言のタイミングがかぶってしまったり、逆に譲り合って変な沈黙が続いたり、相手の表情から意図が読み取れず焦ったり、私たち日本人にとっては気まずい時間が流れることもあります。

そこで、いつもより自分の表情やリアクションをオーバーにしてみる自分の声のトーンを少し高めに変えてみるといったことを試してみてはどうでしょうか。

それだけで、相手に明るい印象を与えると同時に、画面上でCさんと話しているお客さまにもそうしたやり方が伝播していく効果も期待できます。

また、対面(リアル)と違い、「何となく分かったような気になる」ことの少ないオンラインだからこそ、要点を整理しながら話すスキルも大切になります。

例えば、話題が変わるごとに、「○○についてですが」と見出しを付ける。また、話をポイントごとに区切って「ここまで大丈夫ですか?質問はありませんか?」と相手の理解度を小まめに確認する

さらに、自分が話し終わった後の間を少し長めに取ったり、「○○さんはどうですか?」と振ったりして、相手に積極的に発言してもらいやすい環境をつくる

こうした「ファシリテーション力」の他に、正確に確認したい数字やキーワードなどについては、あえてチャット機能を使い、文字で視認できる手段を併用するなどの工夫をすることで、オンライン上のコミュニケーションで起きがちな、誤解や認識のズレも少しずつ埋める事ができるはずです。

3)相手の反応がオンラインではよくわからないので、自分が最適なサービスやソリューションを提供できているのか、よく分からない/自信がない

コロナ禍が始まる以前から、Cさんは、対面・メール・電話・チャットなどなど、いくつかの方法を組み合わせてサービスを提案していませんでしたか?

今回は対面がオンラインに変わっただけです。メールや電話は今まで通り使えます。オンラインでのコミュニケーションに少し不安があるとしたら、Cさんがこれまでも使いこなしていたはずの電話やメールも最大限活用してコミュニケーションギャップを埋めてみましょう。

「ソーシャルディスタンス」で控えるのはリアルな対面だけ。心の距離まで広げる必要は無いのです。

新しい環境の利点にも目を向けて

かく言う私も、4月から役職が変わり、組織の代表になりました。本来であればクライアント企業への挨拶回りをしなければなりませんでしたが、外出自粛期間と重なってしまい、断念。

私もCさんと同じように、初対面の方とオンラインでスムーズな人間関係や信頼関係をつくれるのだろうか、と悩みました。

でも、対面が解禁される時期を待っていては、遅過ぎます。これは新たな環境に適応しないことの大きなデメリットです。

オンライン商談

そこで、「オンライン着任挨拶」を提案したのです。これによって、自分自身、そしてお客さまにとっても「人生初」となる、印象的な経験が共有できました。

むしろ、初対面でも、全世界共通の「コロナショック」という話題があることで、働き方の工夫や悩みを語り合ったりすることで、所属組織の垣根を超えた「仲間意識」さえ芽生えていると思いませんか?

感染拡大は残念なことですが、一方で、オンラインには対面とは違った良さがあるなと思い始めています。

以上3点が、Cさんの悩みに対する回答になりますが、いかがでしょうか?

まずは、自分の中の「現状維持バイアス」を認識した上で、不安や問題に客観的に向き合うこと。そして、自分の強み、今できそうなことに加え、オンラインの良い点にも目を向けてみると、自分のやるべきことがクリアになりませんか?

私自身、今回オンラインで沢山のミーティングをしてみて分かったのは、魅力的な人は画面越しでも魅力的だということ。

笑顔、声、分かりやすい話し方に、フォローのメールのタイミングの絶妙さや、文章の明快さ……。オンラインでもファンになりますし、だからこそリアルで会える日を心待ちにしてしまいます。

Cさんは既にリアルでの営業スキルをお持ちです。自信をもって、今回アドバイスさせていただいたポイントを活用してみてください。

そして、オープンマインドで新しいオンラインの営業のスキルを磨いてみましょう。きっとCさんだけのハイブリッドな営業スタイルが確立できると思います。Cさんのことですから、どんな時もお客さまに信頼してもらえる存在になれるはずです。

中野敬子さん

【この記事を書いた人】
中野敬子

Mentor For」公式メンター。「異文化コミュニケーション」を中心とした研修やコンサルティングを行う米国企業「ジャパン インターカルチュラル コンサルティング」社の日本支店代表。国家公務員として15年勤務、英語教育ビジネスの起業を経て現職。経営者や組織のリーダーへのエグゼクティブコーチやキャリア女性へのメンターとしても活動中。1児の母