「女性リーダー3割目標延期」は何を意味する? 女性活躍への影響とは

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「女性管理職3割目標『20年30%』から『30年まで』に先送りへ」
「『女性登用30%』先送り 安倍政権の看板政策つまずき」

先日、政府が「2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%にする」との目標を断念し、「できるだけ早期に(達成する)」と変更することになった……という報道が相次ぎました。

目標が未達のまま、なし崩し的に達成時期が延期される現状について「これってどうなの?」とモヤモヤしている読者の方は多いのではないでしょうか。

私もそんな一人です。もともと目標が設定されたころから、現状からするとかなりストレッチな目標でもあり「達成は難しいのでは…」とは言われていました。

ただ、あえて野心的な目標を設定することで、既存の枠組みを越えた積極的な取り組みを誘発するねらいがあると信じていましたし、この間に女性活躍推進法をはじめとするさまざまな政府施策が積極的に行われてきたのは事実です。

しかしながら、「女性管理職比率」に代表される統計調査を見てみると、残念ながら施策が成果に結び付いているとは言いがたいのが現状です。

「目標先送り」が働く女性に与える影響は?

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厚生労働省が毎年発表している「雇用均等基本調査」では、課長相当職以上の管理職に占める女性の割合は最新の令和元年で11.9%。平成21年度の段階で10.2%なので、直近10年でわずか1.7%しか伸びていません。

世界の主要国における女性管理職比率は30%~40%前後が一般的なので、あきらかに差があります。

世界経済フォーラムが毎年公表している男女格差をはかるジェンダー・ギャップ指数において日本が153か国中121位とふるわない(前回は149か国中110位)のも、経済・政治分野における格差が特に大きいことが要因です。

こうした状況の中、冒頭のような「目標先送り」の話が出て企業の女性採用や、社内でのキャリアアップなど、仕事場面で影響は出そうか……不安に感じていらっしゃる方もいるかもしれません。

結論として「大きな影響はないのではないか」、むしろ最近の流れは女性にとっては「追い風」なのではないかと私は感じています。

「女性管理職比率」という平均的なデータで見てしまうとこの10年間、変化はほとんど起きていないように見えてしまいます。

ですが、私は2013年にWaris(ワリス)を創業し、女性たちの転職や独立のお手伝いをしてきていますが、ここ数年、明らかに風向きは変わったと感じています。ネガティブな理由での退職が減っているように感じるのです。

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創業時は「妊娠を機に退職勧奨を受けた」「育休復帰後、もともと従事していたのとはまったく違う部署に異動させられてしまった」「短時間勤務をしていることで責任ある仕事をまかせてもらえない(適切な評価が得られない)」などの理由でやむなく現職を退職したいと転職や独立のご相談にいらっしゃる女性たちが中心でした。

最近はそういった理由でのご登録がないわけではないのですが、かなり減りました。最近の傾向としてはより前向きに「自分らしく生きる・働く」を求めた結果として、フリーランスとして働きたい方が増えました。

背景にはここ数年のワークライフバランスの意識の浸透はもちろん、ダイバーシティ推進、働き方改革、女性活躍推進などの大きな流れがあることは間違いありません。

つい先日も日本の人口が前年に比べて50万人以上減ったことが話題になりました。これは過去最大の下げ幅です。

こうした人口減少の傾向は今後も続きますし、コロナショックによる多少の採用の手控えはあったとしても中長期的に見れば日本は圧倒的な労働人口減少で、限りある人的資源をしっかり生かしていく必要があります。

ESG投資、テレワーク浸透が女性活躍を後押し

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加えて昨今のESG投資の流れも注目に値します。

ESG投資は財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance/企業統治)要素も考慮した投資のことで、ESG評価の高い企業は事業の社会的意義、成長の持続性など優れた企業特性を持つとして近年注目を集めています。

Socialには地域活動への貢献や労働環境の改善に加え、女性活躍の推進もふくまれます。

また、新型コロナウイルス感染防止策の一つとして今年浸透が進んだテレワークも働く女性にとっては追い風です。

「テレワーク」と「女性の活躍」……どう関係しているの? ピンとこない方もいらっしゃるかもしれませんが、これまでは働く場所がオフィスに固定化されていることで、女性が管理職としてステップアップしづらい状況がありました。

日本ではどうしても育児や家事・介護を女性が担う傾向があります。このためライフイベント(結婚・出産・子育てなど)の変化による時間的制約に女性の方が直面しやすかったのです。

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管理職は監督的地位という役割上、時間的制約から短時間勤務を選ぶとなかなか登用されません。テレワークが浸透すると働く場所の自由度があがり、女性が時間的制約から解放される可能性が出てきます。

例えば私が経営しているWarisではリモートワークとフレックスタイムを全社員に対して導入しています。

そうすると、入社時に「子育てとの両立を考えると短時間勤務を選びたい」と話していた人が、入社後に働く時間・場所の自由度が高いことで実際にやってみると「あれ?フルでもいける?」となってフルタイムに転向することがあります。

仮にオフィスへの通勤時間が片道1時間だとすると、リモートOK在宅OKにするだけで往復2時間を業務時間にあてられるわけですから当然かもしれません。弊社の管理職メンバーも全員ママ・パパばかりです。テレワークは実は女性管理職誕生には強力な後押しになりうるんですよね。

ここまで読んできて「え、でもわたし別に管理職になりたくないんですけど…?」っていう方もいらっしゃいますよね。

たしかに一般的に「女性が管理職になりたがらない」と言われています。パーソル総合研究所「働く1万人の就業・成長定点調査2018」によれば、下図のように「管理職になりたい」比率は男女で大きな差があることがわかっています。

たとえば20代女性では18.7%(男性は44.7%)にとどまっています。

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しかし同じ調査で「成長を重視している人の割合」を見てみると、むしろ男女が逆転しているのです(下図)。

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私はこれまでさまざまな女性のキャリアのお話をお伺いしてきましたが、たしかに「管理職になりたい」女性は多くはないです。しかし成長意欲があって「いい仕事をしたい」女性は多い。

「管理職になる」は目的ではなく、あくまで手段。外的環境は整ってきていますし、管理職であっても自分らしく生きる・働くは可能です。

もし、それが難しい環境であれば、自由度の高いワークスタイルが実現できるように自分から周囲へ働きかけるのも手ですし、そういったコミュニケーションすら難しい環境なのであれば、より良い環境を求めて積極的に転職や独立を検討されるのも選択肢です。

意欲にあふれた女性が、自分らしく生き生きと想いを実現することを私もお手伝いしていきたいと思っています。

田中美和

【この記事を書いた人】
Waris共同代表・国家資格キャリアコンサルタント
田中美和

大学卒業後、2001年に日経ホーム出版社(現日経BP社)入社。編集記者として働く女性向け情報誌『日経ウーマン』を担当。フリーランスのライター・キャリアカウンセラーとしての活動を経て2013年多様な生き方・働き方を実現する人材エージェントWarisを共同創業。著書に『普通の会社員がフリーランスで稼ぐ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。一般社団法人「プロフェッショナル&パラレルキャリア フリーランス協会」理事