エンジニア女性2人の事例に見る、“長く働く”を叶えられる職場とは?【アスクル松尾さん&今藤さん】

「女性のロールモデル」が少ないエンジニアの世界。 “好きな仕事”を続けている女性たちのインタビューから、自分らしいエンジニアライフを築いていくためのヒントを探してみよう。
女性エンジニアの多くが抱える「どんなキャリアが実現できるのか分からない」「ライフステージが変化してからの働き方がイメージできない」という悩み。ロールモデルの少なさから、将来のキャリアに不安を感じる人も少なくない。
今回お話を伺ったアスクル株式会社の松尾まり江さんと今藤陽菜さんからは、不安な様子など微塵も感じられない。

アスクル株式会社 松尾まり江さん(写真左)
新卒でSIerに入社し、さまざまな開発プロジェクトに参画。2016年1月にアスクル株式会社に入社し、フロントエンドチームに配属。19年に産休育休を取得した後、20年7月に復職し、システム企画担当へ
アスクル株式会社 今藤陽菜さん(写真右)
高等専門学校卒業後、2019年にアスクル株式会社に新卒で入社。BtoC向けECサービス『LOHACO』のフロントエンドエンジニアとして、サイトの新機能や改修に関する提案、開発、リリースを担当
アスクルでは、さまざまなライフステージの女性エンジニアが活躍しているという。事実、松尾さんに関しては自身も産休育休を取得した経験を持つ。
口をそろえて「長く働くイメージが持てる」と語るお二人に、その理由を聞いた。
【今藤陽菜さん】
提案からリリースまで自らの手でやりきる。入社1年目で得た成功体験

――まずは今藤さんにお話を伺います。アスクルに入社した理由をお教えください。
学生時代から理系科目が得意で、高専では物質や機械、電子など幅広く学びました。その中でも、パソコン一台で完結するプログラミング技術の面白さに惹かれて、Webサービスやソフトウェアを開発するエンジニアになりたいと思ったんです。
アスクルに入社したのは、EC業界に将来性を感じたから。高専在学中の5年間のうちに、みんながSNSを始めて、スマートフォンやPCで買い物をすることが当たり前になりました。世の中のECに対するハードルがどんどん下がっていくのを実感して、今後需要が高まりそうな業界で働けたら面白そうだな、と考えたんです。
――現在はどのような業務をしているのですか?
BtoC向けECサービス『LOHACO』のフロントエンド開発です。Webサイトの新機能や改修に関する提案、開発、リリースを担当しています。
トップページの商品表示に用いているフレームワークの刷新や、お客さまの流入経路別に商品をレコメンドする機能の開発などを行ってきました。
企画の専任担当ももちろんいますが、エンジニアであっても「もっとこうしたら良くなるのでは?」という気づきを実際にサービスの改善につなげていけるので、面白いですね。

――実際に今藤さんの提案でリリースされた機能などもあるのですか?
あります! サイトの読み込み速度を改善したい、と考えていた時、商品登録の際にアップロードされた画像を自動圧縮する仕組みがあれば良いのでは? と思いついたんです。
その後、詳細を詰めてチームに提案し、実際の開発からリリースまで自分でやらせてもらいました。
入社して1年にも満たない時期でしたが、自身の提案がかたちになったこと、自らの手でやりきれたことに、大きなやりがいを感じましたね。
――経験や年次に関係なく、自分のアイデアを実現できるのは魅力的ですね。
はい。すでに仕様が決まっている機能を開発するだけでなく、チームや他の部署の人と相談しながら決めていけるからこそ、楽しく働くことができているのだと思います。
チームの大半が女性。「自分も長く働き続けられる」と当たり前のように思える
――女性比率の少ないエンジニアという職業。長く働き続けられるかどうか、不安を感じたことはありますか?
そうですね。入社前は「産休や育休を取得した後も働き続けられるかな」と不安でした。
ですがアスクルに入社してみると、女性のエンジニアが大勢いたんです。私が今いるチームは、私も含めて5人で活動することが多いのですが、そのうち4名が女性なんですよ。
結婚している方はもちろん、お子さんのいる方も活躍しています。
――ライフステージの変化を経験した先輩が、すでに身近にいる環境だったのですね。
はい。おかげで今は「将来出産することがあっても、ここで働き続けられるだろうな」と当たり前のように思えています。復職後のイメージも持ちやすいので安心ですね。
――なぜ先輩たちは、ライフステージが変化しても働き続けられているのでしょうか?
現場でのサポート体制がしっかりしているからかな、と思います。
体調不良や家族の事情などで急に休まざるを得ないことは、誰にでも起こる可能性がある。そんな時、男女関係なく受け入れてくれる体制があるんです。
みんなプライベートも大切にしているので、嫌な顔をする人は一人もいません。そういう雰囲気があるから、安心して働けるんだと思いますよ。

――男女問わず、急な欠勤を「当たり前に起きること」と捉える風土があるのは素敵ですね。長く働き続けるために、今藤さんが個人的に心掛けていることはありますか?
今関わっているフロントエンド領域だけでなく、Webサービス全体の知識を学びながら開発するようにしています。
フロントエンドの技術は日々新しくなりますが、サービスの根幹となる技術は急激に変わるものではありません。もし今後、産休などで現場から長期間離れることがあっても、サービスの全体感さえ把握できていれば「何を新たに学ぶべきなのか」が明確になるので、より早くキャッチアップできると思うんです。
新たにインプットしたことに関しては、技術ブログなどでアウトプットすることも心掛けています。どんなに調べても分からなくて、自分自身が苦戦した課題だったとすれば、きっとどこかに同じように悩んでいる人がいるはずなので。
実際、「役に立ちました!」というコメントがつくこともあって、嬉しいんですよね。インプットとアウトプットを繰り返し、楽しみながら知識をつけるようにできればと考えています。
――最後に、今藤さんの今後の目標を教えてください。
まずは現場で開発経験を積んで、技術のトレンドを追い続けたい気持ちが強いですね。将来的にはフロントエンド以外の領域にも挑戦したいです。
本音を言うと、フロントもサーバサイドもインフラも全部やってみたくて。だって、マルチでできたらかっこいいと思いませんか(笑)?
特に気になっているのは、インフラエンジニア。インフラ領域で経験を積めば、まさにサービスの全体感を学べると思うので。フットワーク軽く、いろんな領域の知識を積み重ねていきたいです。
【松尾まり江さん】
育休復帰のタイミングでキャリアチェンジ。エンジニアの経験を生かし、企画担当へ

――お次は、システム企画担当の松尾さんにお話を伺います。まずはこれまでのご経歴をお聞かせください。
もともと「日本のものづくり」に興味があり、あらゆる業界のものづくりにシステムやWebサービスを通じて貢献できるIT企業に惹かれて、新卒でSIerに入社しました。
SEとしてBtoBのシステム開発に携わっていたのですが、その中でアスクルのプロジェクトに参画することになりました。とても活気のある雰囲気で、皆さんの人当たりがとても良かったんです。
プロジェクトを終えて現場を離れる時には、メッセージ付きのプレゼントをくださったりと、パートナー企業の一人である私にとても丁寧に接してくださったことが印象的でした。
その後、SIerで働いて3年が経ち、そろそろ転職しようと考えていた時にアスクルの求人が目に入って、応募しました。
――入社後は、どのような仕事をされてきたのでしょうか。
最初はフロントエンドのチームで『LOHACO』のトップページや特集ページなどの開発や保守・運用を担当していました。
入社3年目に産休育休を取得して、昨年の復職のタイミングでシステム企画のチームに異動したんです。現在は『LOHACO PayPayモール店』のシステム企画や、問い合わせ対応などを行っています。
――エンジニアからシステム企画へ、キャリアチェンジなさったのですね。松尾さんのご希望あってのことだったのでしょうか?
はい。いずれは企画担当に挑戦してみたいと思っていたので、ずっとタイミングを考えていました。なので、育休からの復職を機に異動させてもらったんです。
毎週の1on1で直属の上司にもキャリアの希望を伝えていたので、スムーズに異動できました。

――一人一人の希望に合わせて、柔軟なキャリアパスを描ける環境にあるのは良いですね。実際に異動してみて、いかがですか?
いろいろな人たちとやり取りしながら仕事を進めていくので、社内の人脈が増えて面白いです。
もともと資料を作るのも好きですし、たくさんのタスクに素早く対応できたりすると達成感がありますね。自分の性格にもフィットしていると思います。
もともとエンジニアとして『LOHACO』に関わっていたので、要件定義書やスケジュールを作成するときも「これだと伝わりづらいだろうな」「この進め方だと無理があるかな」などが分かるんです。エンジニアとしての経験が生かせている実感が持てますね。
産育休の取得、そしてフルタイムで復職
次の世代の女性エンジニアにとってのロールモデルに
――産休・育休を経験して、アスクルの環境や制度に支えられたシーンなどはありますか?
私がもといたチームでは、各自の抱えているタスクの優先度と進捗状況を毎週の朝会で共有していたので、誰かが抜けたとしても、他の誰かがその人の作業をサポートできる体制になっていました。
妊娠中は通院が多いですし、体調不良にもなりやすいもの。そんな中でも休みやすいのは助かりましたね。メンバーにも「体が第一だから」と気遣ってもらいました。
復職後は、コアタイムなしのフレックス制が導入されているので助かっています。フレックスなら、その月の中で勤務時間の調整がしやすく、時間の融通が利きますしね。
例えば、忙しい週に1時間ずつ多く働いたとしたら、5時間のプラスが生まれますよね。その5時間を使って別の週に用事を済ませたり、子どもを病院に連れて行ったりできる。わざわざ有休を消化しなくても済むんです。
自分の生活スタイルに合わせて働く時間を選べるのは、子育て中の人には最適だと思います。この制度があったので、時短勤務ではなくフルタイムで復帰できました。

――フルタイムでの復職は難しいケースが多いですが、確かに松尾さんの働き方なら可能なイメージが持てますね。
実は私、エンジニアとしては初めての産休の取得者だったんです。
いざ産休に入ろうと思ったら、それまで使っていたアカウントのクローズや引き継ぎなど、エンジニア特有の手続きが意外とあって。チームメンバーや人事と、一緒にタスクを洗い出しながらお休みに入りました。
私の時に分からなくて困ったことも含めて、今は全て整理された状態になっています。なので、これから産休に入る人は、それを見ればスムーズに準備ができると思いますよ。
――松尾さんが後輩女性たちのロールモデルとなっているのですね。最後に、長く働き続けることに不安を感じている女性エンジニアへメッセージをお願いします。
今「不安だな」と感じていることがあるのなら、早いうちから周囲に伝えておくのが大切だと思います。キャリアパスのことも、産休のことも、事前に伝えておけば周囲もサポート体制を取りやすいですし、自分自身も安心して頼ることができるはず。
特に上司とは、普段から気軽に話せる関係性をつくっておくと、いざというときに心強い存在になってくれるのではないでしょうか。私はそんな存在が周りにいたので、とてもありがたかったなと思います。

取材・文/一本麻衣 撮影/赤松洋太
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