日本の女子学生の理系割合はOECD最低水準。ジェンダーギャップ解消の鍵とは?【Waffleイベントレポ】
「理系に進学するのは男性」「エンジニアは男性の職業」――このような意識をいつの間にか抱いてしまっている人は、少なくないのではないだろうか。
事実、日本において理系の女子学生の割合は、世界の先進国と比較して極めて低い水準にある。そんな課題を解決すべく活動しているのが一般社団法人Waffleの田中沙弥果さんと斎藤明日美さんだ。
「IT分野のジェンダーギャップを教育とエンパワメントを通じて是正する」というミッションを掲げ、女子中高生対象のプログラミング講義や女性IT起業家育成のための女子中高生向けアプリコンテストの運営などを行っている。
一方、Waffle創設者の田中さんと斎藤さんは「女子学生へのアプローチだけでは、理系の世界に女性がいない問題は解決しない。その背景には構造的な問題がある」と語る。
構造的な問題とは何か、理系女子が少ないことによって生まれる弊害とは何か——。1月28日、メディア・官公庁向けに開催されたオンラインイベントで、二人はその詳細を語った。
なお、本イベントのモデレーターはフリージャーナリスト、『「男女格差後進国」の衝撃: 無意識のジェンダー・バイアスを克服する』(小学館)著者の治部れんげさんが務めた。
本記事では、田中さん・斎藤さんの二人による講演パートの内容の一部をまとめてご紹介しよう。
中・高・大と、どんどん減っていく理系女子
斎藤:現在内閣府は第五期科学技術基本計画の中で “Society5.0”というものを掲げています。これは、サイバー空間とフィジカル空間を融合させたシステムによって経済発展と社会課題解決を両立する、という社会のビジョンです。
難しいことのように感じる人も多いかもしれませんが、実はとても身近なものになりつつあります。
例えば、最近ではコロナ禍でZoomを使った会議が当たり前になりましたが、このようにデジタルツール、AI、ドローンなどのIT技術が社会の隅々まで入っていくことによって、よりいっそう便利な社会になりましたよね。
今後、“Society5.0”を実現するためには科学技術の発展そのものが不可欠なわけですが、そこで「教育の問題」が浮き彫りになってきます。
何が課題なのかということを見ていく前に、まずはジェンダーギャップの現状をご説明します。
一般的に、日本の教育では高校生の進路選択で文系・理系のどちらかを選びますが、そこから大学、大学院と進むにつれて理系の女性割合はどんどん減っていく傾向にあります。
高校生の時点で、すでに理系を選択する女子学生は3割程度しかいませんし、その後、大学では理学部・工学部に進学する女子学生がそれぞれ27.8%、15.7%に、大学院では23.9%、14.1%とさらに減っていきます。これはOECD諸国の中で最も低い数字なんです。
この状況はもちろんその後の就職先にも影響を及ぼしています。概算ですが、科学技術系の専門職として働いている女性は、全体の13.5%しかいません。
最近では技術職の女性を増やそうと努力している企業も多いですが、そもそも学生の時点で理系女子が少ないので、すごく小さいパイの取り合いになってしまっているんです。
つまり、女性の技術職を増やすのであれば、それ以前の教育の段階からテコ入れをしなければなりません。
「女子は理系が苦手」は間違い。ジェンダーギャップ解消の鍵は「親」と「学校」
斎藤:こういう話をすると必ず言われるのが「そもそも女子は理系の科目が得意ではないのでは?」ということ。でも実際は、そんなデータはありません。
小中高の理数系科目の学力調査では、男子・女子のどちらも大差ないという結果が出ています。では、学力に問題があるわけでもないのに、理系に進む女子が圧倒的に少ないのは何故なのでしょうか。
それは、外部環境にすでにジェンダーギャップが発生しているからなんです。
例えば、保護者による影響です。子どもたちはいくらSNSなどでたくさんの情報を得ていたとしても、最終的に一番身近にいる保護者の影響を大きく受けます。
実際に、女性の保護者の最終学歴が理系だった場合、文系の場合と比べて、20%も多くの女子学生が理系を選択しているという調査結果があります。
また、子どもの進路に関しても、男子学生の保護者の方が、子どもに理系の仕事に就くことを期待する傾向があります。
そして、教員も大きなロールモデルの一つです。
中高では数学・化学・物理・生物など多くの理系科目を学習しますが、それらの全ての科目の教員が男性だった場合と一人でも女性の教員がいた場合を比較すると、女子学生が理系を選択する割合が11%も異なるんです。
女子学生は外部環境の影響を受け、気付かないうちに自身をステレオタイプにはめ込んでしまう傾向があると言えます。
女性が存在しないまま発展する科学技術と、そのリスク
斎藤:では、このようなジェンダーギャップは、どうして問題なのでしょうか。実は、科学技術の発展に女性の存在が抜け落ちていることが、大きな問題につながっているんです。
例えば、これまで自動車の衝突実験を行う際に使用するダミーの人体は、男性の体をモデルに製作されていました。つまり、女性や妊婦が事故に遭った場合の影響を十分に想定することができていなかったのです。
2002年にようやくボルボ社が妊娠36週目の妊婦を想定したバーチャル人体を使用して実験を行うようになりました。現在は他社も追随しているようですが、2002年まで女性の体を想定しなかったなんて怖いですよね。
また、薬についても、女性の体に起こり得る副作用を正しく把握できていないケースが存在しています。というのも、治験に使われる実験体の男性割合がとても多いため、女性の体に対する影響がしっかり計測できていないリスクがあるんです。
実際にアメリカでは、薬が販売されてから女性の副作用リスクの高さが判明して、認可が取り消された、という事案も発生しています。このように科学技術の世界で女性の存在が抜け落ちることのデメリットは身近に存在しているんです。
また、最近多くのビジネスで取り入れられつつあるAIにもジェンダーギャップ問題は潜んでいます。
AIには膨大なデータを学習させますが、そのデータそのものにジェンダーバイアスが存在していると、AIに導き出された結果にもバイアスが存在してしまうんです。
例えばGoogleで「CEO」と画像検索すると、女性CEOが写っている画像の割合は11%ですが、実際のアメリカのCEOの女性割合は27%です。
つまり、「CEOといえば男性だ」というジェンダーバイアスがAIに組み込まれ、検索結果などを通じてわれわれはバイアスのかかった表示を見ているということになります。
もっと現実的なところでいうと、例えばアメリカではAIの技術を使って顔認証のセキュリティーを行政機関で使用することがありますが、AIに学習させるデータに白人男性のデータが偏って多いため、有色人種かつ女性の顔認証の精度が低いという問題が発生したこともあります。
実際にサンフランシスコなどではこのシステムの使用が禁じられました。こうしたことを避けるためにも、今後社会の基盤になる科学技術の世界に女性が参画することが極めて重要なのです。
構造的課題を解決すべく、政策提言を実施
田中:私たちはこれまで、ITのジェンダーギャップを是正すべく女子中高生に対して直接アプローチをしてきましたが、これまで話してきたようにジェンダーギャップの背景には構造的な問題があります。制度や教育を変えていくためには、やはり政策提言をしなくてはいけないんです。
そこで先日、ユース団体とともに第五次男女共同参画基本計画へのパブリックコメントを提出し、直接政府に声を届けました。
今後は、今回の基本計画に基づく予算配分においても、IT教育や女子教育の分野にしっかりと予算が配分されるよう働き掛けを行っていきたいと思っています。
治部:私はこれまで企業の女性活躍推進など、大人の社会におけるジェンダー平等について取り組んできました。メーカー企業の話を聞いていると、女性社員を雇いたいんだ、と皆さんおっしゃいますが、そこで必ず問題になるのが、理系女性が少ないということなんです。
斎藤さん、田中さんのお話を聞いていると、そもそも大学の専攻の時点ではすでに遅くて、中高生の時点で働き掛けをしなければいけないということがよく分かりました。
私自身も子どもを二人育てていますが、先日ある中高一貫校を見学しに行ったところ、たしかに美術の先生だけ女性で、それ以外はほとんど男性だったんです。私は愕然としましたが、これが現実なんですよね。
教育におけるジェンダーギャップの問題をひしひしと感じました。ぜひ、力をあわせてこの問題の解決に取り組んでいきましょう。
文/太田 冴