15 FEB/2021

「求人数が過去最大級に」2度目の緊急事態宣言下、“女性採用”に起きた変化とは?【森本千賀子】

まだ収束の兆しが見えない世界的パンデミック。

今後の経営の見通しがつかないことから、昨年の緊急事態宣言の際には、企業の採用活動が一気に停滞。2020年度の有効求人倍率は1.18倍と前年度から0.42ポイントも低下する結果となった。

女性採用

一方で、キャリア不安から転職を検討する人は増加傾向にある。

今年1月に発出された2度目の緊急事態宣言以降、「転職サイト利用者や、人材エージェントに登録する求職者が激増している」と話すのは、人材紹介やコンサルティング事業を手掛ける株式会社morichの代表取締役・森本千賀子さんだ。

では、企業の女性採用には、どのような変化が出ているのだろうか。コロナ禍の転職活動だからこそ、特に気をつけたいポイントとあわせて森本さんに話を伺った。

森本千賀子さん

森本 千賀子さん
1970年生まれ。93年、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)に入社。累計売上実績は歴代トップ。入社1年目にして営業成績1位、全社MVPを受賞以来、全社MVP/グッドプラクティス賞/新規事業提案優秀賞など輝かしい実績を残す。2017年3月、株式会社morich設立、代表取締役に就任。25年在籍していたリクルートを17年9月で卒業。同年10月に独立。HRに限定せず外部パートナー企業とのアライアンス推進などさまざまなソリューションを提供している。 Twitter: morich_Corp

求人数は過去最大級。企業の女性採用も活発化

パンデミック

――新型コロナウイルスにより各業界が打撃を受けています。昨年から今年にかけ、2回の緊急事態宣言も発出されていますが、企業の採用活動にはどのような影響が出ていますか?

2020年度の有効求人倍率は1.18倍。近年、有効求人倍率は右肩上がりに上昇し、2018年度は1.62倍を記録していたことを考えると、コロナショックで人材採用も“自粛”傾向にあったと言えます。

ただ、リーマンショック直後の2009年度の有効求人倍率は0.45倍。数値で比較すると、リーマンショック時ほどの落ち込みではないんですよね。

それに、今年に入ってからはまた、企業の採用活動が大きく動きが変わりつつあるんです。

――どういうことですか。

求人数が急増しているんです。私たちのような人材エージェントが利用するデータベースがあるんですけど、そこに登録された2021年1月の求人数は2541件。これは過去最大級の登録件数なんです。

このデータベースの登録求人数も2020年6月時点では約1400件にまで落ち込んでいたのですが、その後、毎月着実に数字を戻し続け、この1カ月で一気に200件近く増加しました。

コロナによって一時期的に冷え込んだ求人も底は脱したと見ていいと思います。

パンデミック

――求人数回復の背景として、どんなことが考えられるでしょうか。

まずは単純にオンライン化が進み、ニューノーマル時代の採用・研修体制がある程度整備されてきたというのが一つ。

そしてもう一つはビジネスのデジタル化が進み、企業がAIやIoTなどのテクノロジーを取り入れていく中で、それに対応する人材のニーズが増加していることです。

こうしたポジションは、求められるスキルが違うため、なかなか既存社員では埋められない。結果、即戦力として業務を遂行できる人材を、今、企業が求めているのです。

――女性採用という点にクローズアップすると、いかがでしょうか?何か変化は出ていますか?

かなり活況ですね。特にニーズが高いのがスタートアップやベンチャー企業です。

――その理由は何なのでしょうか。

コロナ以降、リモートワークが広まり、働き方が一変したことが大きいと思います。働く上で時間と場所の制約がなくなった分、子育て中の女性、地方に住んでいいる女性など、採用対象が広がったことが挙げられます。

求職者の女性も、「リモートワークで働けるなら」とマッチングしやすくなりました。そこで、さまざまな企業が全国にいる優秀な女性の採用に乗り出しているんです。

――なるほど。今後のライフイベントも考慮した上で、なるべく柔軟な働き方ができる会社で働きたい女性のニーズとマッチするようになったんですね。

女性採用

そうなんです。特にお子さんを育てながらお仕事をされている女性にとって、ベンチャー企業への転職は、関心はあってもハードルが高かった。

それが、リモートワークなら子育てと仕事を両立できるということで、今まで検討外だったベンチャーを視野に入れて転職活動を行う方も増えています。

あとは社外取締役とか非常勤監査役といったポストに女性を迎えたいという企業の声も多いですね。

――昨年1月のダボス会議でゴールドマン・サックスのCEOが「女性など、多様な取締役メンバーがいない企業については、そのIPO(新規株式公開)の主幹事を引き受けない」と宣言して大きな反響がありましたよね。

今や女性活躍推進やダイバーシティは企業にとって最も関心の高いテーマ。そうした時代の流れを受けて、女性役員を増やしたいというニーズが高まっています。

コロナ禍でも採用が活発なのは、DX企業とカスタマーサクセス

女性採用

――いま、中途採用が特に活発な業界はどこでしょうか。

デジタル技術を活用し、ビジネスモデルや業務プロセス、サービスや製品の改革を行う企業のことを「DX銘柄」と呼びますが、こうした企業は非常に活発です。

サブスクリプションモデル、つまり製品を売って終わりではなく、契約期間の間サービスを利用できる継続課金型のビジネスモデルに、今、世の中全体がどんどんシフトチェンジしていますよね。

こうした製品・サービスを提供しているBtoB企業は今後も業績の伸びが期待できますし、必然的に人材ニーズも上昇し続けます。

企業規模で言うなら、大手はまだ採用を抑制しているところも多いですが、スタートアップやベンチャーは採用を活発に行っていますね。

――IT・Web系の業界は専門性が高く、なかなか未経験の人が飛び込むのは難しいイメージがありますが、いかがでしょうか。

職種によりますが、業界未経験の方でも転職のハードルはそう高くはないと思いますよ。

例えば、最近需要が高まっているのが、カスタマーサクセスというポジション。この職種のミッションは、顧客がサービスを利用することで課題を解決し、ビジネスを成功に導くためにさまざまな提案や支援を行うこと。

先ほど説明したサプスクリプションモデルのビジネスをしている企業にとっては必要不可欠の職種です。

簡単に言うと、成約後のフォローアップが主な仕事。専門的なIT知識より、きめ細やかなホスピタリティーが求められます。他の業界で接客や販売といった職種経験のある方の経験が生かせる仕事です。

リモートワーク下で重要なのは、自律性と感度の高さ

女性採用

――緊急事態宣言下で転職相談に訪れる女性たちの声として、印象的なものは?

ご相談で多いのは、コロナ以降の自社の対応に不満を持っているケースですね。

特に、職種的にリモートワークができるにもかかわらず出社を強要されたり、デジタル化が進んでおらず、ハンコのためだけにわざわざ出社するような非効率的なケースに違和感を持つ女性が多いです。

そこで経営者の器が見えてしまうんですよね。緊急事態にもかかわらず既存の価値観から脱却できず、時代に逆行した経営判断をしているトップに不安を感じるという声がたくさん寄せられています。

――企業側が求める人材に何か変化はありますか?

特に需要が高いのは、自律型で仕事ができる方ですね。リモートワークになったことで、日々上司が横にいて細々とマネジメントをしたりモチベーティブすることができなくなった。

そういった状況の中でもちゃんと自分で目標設定をして、時間管理をしながら成果を出せる人を、今、いろいろな企業が求めています。

女性採用

――“自律型の人材”は以前から求められているものではありますが、リモートワークの普及によって、よりそれが顕著になったかたちですね。

そうですね。あとは、感度の高さです。たとえば、今、『Clubhouse』という新しいSNSがブームになっていますよね。それに限らずですが、トレンドをいち早くキャッチアップし、まずはトライしてみるアンテナ感度は非常に重要になってきます。

――それはなぜでしょうか。

コロナ禍によってどの企業も事業の構造から抜本的な変革を求められています。そういった中で重要なものは、新しいものを常にチェックし試してみる姿勢です。

逆に言うと、待ちの姿勢はNG。自分の業務の枠を飛び越えて、新しい仕事やネットワークを獲得していけるような主体性がないと、VUCA(※)の時代と呼ばれる予測不能な社会では勝ち残っていけません。

)VUCA(ブーカ):Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)という4つのキーワードの頭文字から取った言葉。現代の経営環境や個人のキャリアを取り巻く状況を表現するキーワード

女性採用

――他にも、今後マーケットバリューが下がっていくだろうと考えられるのは、どんな人ですか。

承認欲求の強い人ですね。言い換えるなら、認めてほしい、自分のことをよく見ていてほしい、構ってほしいという要求が強過ぎる人。

誰しもそういう気持ちは少なからず持っていますが、承認欲求の強い人はリモート下で不満をためやすく、マネジメントコストがかかるので敬遠されがちです。

コロナ前は、上司から褒められることでモチベーションを上げる方もたくさんいましたが、リモートが前提の今の社会では上司もそこまで目配せはできません。

上司や仲間など、「他人から認められること」が自分のモチベーションになっているという場合は要注意。それが満たされにくい方向へと世の中は向っていますから、この機会に自分のマインドを変えてみる必要があるかもしれません。

まっすぐ仕事に向き合って、成果を出すこと。そして、自分の機嫌は自分でとること。これがwithコロナ時代に重要性を増すスキルです。

長期ではなく、1~2年の短いスパンでなりたい自分をイメージする

女性採用

――いま、女性採用自体は活発ということですが、世の中がどうなっていくか分からない中で自分の人生を左右するような決断をするのは勇気がいります。すぐに転職してもいいのか悩んでいる人には、どのような助言をしていますか?

実際、私の元に相談にいらっしゃる方の中にも、環境が変わることへの不安や抵抗を感じている方は大勢いらっしゃいます。

ただ先が見えないのは、コロナに限らず、これから先もずっと同じです。実際、ほんの2年前にこうした状況になることを予測できていた人はほとんどいないと思います。

もう3~5年のタームで将来設計ができる時代は終わりました。今は長くても2年。現実的には1年単位の視野で、細かく目標を決めてキャリアをデザインしていくしかない。

じゃあ、まず1年後どうなっていたいのか自分に問うてみる。そのときに、今の場所にいる自分をイメージできない、あるいはワクワクしないのだとしたら、一歩踏み出していいのではないでしょうか。

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――逆に、転職をしない方がいいケースとは?

直近で昇進が見えている方だったり、今の会社で大きなチャンスを掴めそうな兆しがある方はもうすこし今の場所にとどまって考えてみてもいいと思います。

転職する以上、今まで積み上げてきた実績やポジションはリセットされ、また新しい職場でゼロスタートになる。そうすると、同じようなチャンスに辿り着くまでには一定の時間がかかります。

だったら、まずは今いる場所でチャンスを掴んで、その上で新しい自分の道を考えてもいいのではないでしょうか。

――なるほど。では、転職活動に踏み出した場合に気を付けた方がいいことは?

自分の主張ばかりを面接の場で話し過ぎないことですね。

転職動機を聞かれると思いますが、そういう場で、現在の会社に対する不満を口にする人がいるのですが、不満をどうにかしたいという主張が目立つと悪印象につながりかねません。

例えば、先ほどお話しした通り、「今の会社で在宅勤務ができない」ということに不満を持っている女性が多いので「フルリモートじゃなければ嫌です」という自分の希望ばかり押し付けてしまうことがあります。

働き方の希望を事前に伝えることは大事なのですが、それだけではNG。企業の状況も踏まえながら、どこまでなら折り合いがつけられるのか、細かく話し合っていくことが大事です。

もちろんフルリモートワークが転職の絶対条件なら譲る必要はないので、もともとそうした働き方を実践されている企業に応募してみるとよいと思います。

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――最近はフリーランスという形態も広まってきましたし、もしフルリモートが絶対条件なら、そういった働き方を検討してみてもいいのかもしれませんね。

そうですね。ただ、コロナ以降、フリーランスの方がまた社員に戻るケースが増えているんです。

リモートワークが広まって、社員でも通勤電車に乗る必要がなくなったり、働き方が自由になった。そうすると、フリーランスのうまみがなくなり、むしろ雇用の不安定さの方が気になるようになってきたらしいんですね。

もう正社員だから働き方が固定化しているとか、フリーランスだから自由とは言えない時代になってきました。

ですので、自分が転職で一番手に入れたいものは何かを明確にした上で、それが叶えられる場所を選ぶということが、基本ですが大事だと思います。

取材・文/横川良明