【ももクロ・百田夏菜子】大嫌いだった自分の声が武器に。“どんな仕事も楽しむ自分”でいられる秘訣
今をときめく彼・彼女たちの仕事は、 なぜこんなにも私たちの胸を打つんだろう――。この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心を掴み、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります
メールのレスポンスが速い人。見やすい資料を作れる人。プレゼンやファシリテーションが巧みな人。仕事のできる人の条件は人それぞれ。
だけど、一緒に仕事をしたくなるのは、どんなときも明るくご機嫌で、その人がいるだけで周りまで楽しくなるような人なんじゃないかなと思う。
ももいろクローバーZの百田夏菜子さんは、まさに一緒にいる人の気持ちまで上げる力を持った人。

百田夏菜子(ももた・かなこ)
1994年7月12日生まれ。静岡県出身。ガールズユニット・ももいろクローバーZのリーダー。同ユニットメンバーでメインキャストを務めた映画『幕が上がる』でグループとして報知映画特別賞と第39回日本アカデミー賞話題賞を受賞。2016年、連続テレビ小説『ぺっぴんさん』に出演するなど、アイドルだけでなく女優としても活躍。近作に『プラスティック・スマイル』『約束のステージ ~時を駆けるふたりの歌~』など
だから、あの有名な“エビ反りジャンプ”で一躍トップシーンに駆け上がってから10年経った今も、こうしていろいろな場所で百田夏菜子という存在が求められているのだろう。
そんな百田さんの最新作が、3月12日(金)公開の映画『すくってごらん』。本作で、百田さんはある秘密を抱えたヒロイン・生駒吉乃を演じている。
アイドルとして、女優として、輝きを増し続ける百田さんは、どんなことを大切にしながら日々の仕事に向き合っているのだろうか。
百田夏菜子は、コンプレックスをどう乗り越えたのか
映画『すくってごらん』は、挫折を知る者たちの再出発を描いた、ポップで不思議な新感覚エンターテインメントムービーだ。
百田さんが演じるのは、金魚すくい店「紅燈屋」を営む美女・吉乃。劇中、百田さんは、軽やかな奈良弁を披露。撮影中は、慣れない方言に悪戦苦闘したそうだ。

劇中、「最初の一匹ってほんまにうれしいですよね」って台詞があるんですけど、その一言がすごく難しかったんですよ。
「最初の“一匹”ってほんまに“うれしい”」って、どんどんイントネーションが上がっていくんですけど、もうこれ以上高い声出ません! って思いました(笑)
そう百田さんは少女のように屈託なく笑う。
映画の中で見せたちょっとミステリアスな表情とは別人。百田夏菜子は内側からパワーが湧き上がってくるような女性だ。
だけど、演じた吉乃と重なる部分もある。ピアノを弾くことが大好きな吉乃だが、そんなピアノが吉乃のコンプレックスにもつながっている。
カメラの前で、ステージの上で、いつもファンを笑顔にする百田さんもまた同じようにコンプレックスに悩んだ時期があった。
私、自分の声がすごくコンプレックスだったんです。
歌が思うように歌えないのはこの声のせいなんじゃないかって思っていて。いま考えると、声は全然関係ないって分かるんですけど(笑)
当時は、カッコいい歌声が出せないのは、「全部この声のせいだ」って考えていたんです。
耳にするだけで百田さんだと分かるその特徴的な声は、百田さんにしかないオリジナルのもの。でも、誰しも人と違うことにコンプレックスを抱いてしまう時があるもの。
すごく悩んでいた時期は、お母さんに「こんな声、嫌いだ!」って言っちゃったこともありました。
今も思い出すと、ちょっとほろ苦い気持ちになる。そんなコンプレックスを克服できたのは、周りの人のおかげだった。
一番は、私の声を好きだと言ってくださる方たちがいてくれたことですね。私は自分の声は好きじゃないけれど、この声を好きだと言ってくれる人もいる。
だったら、きっとそこに私ならではの良さがあるんじゃないかなって思えるようになりました。

最近は、声優の仕事に取り組む機会も増えてきている。オファーが入る度、思い出すのは母から言われた一言だ。
お母さんが、「ほら、声を嫌いになることはなかったでしょ? その声が、あなたなんだから」って言ったんです。
「こんな声、嫌いだ」なんてひどいことを言ってしまったこともあったので、その言葉はすごく響きました。
今、自分の声は好きですか――。そう尋ねると、「そうですね。好きです」と自分に確かめるように百田さんは答えた。
これが私の声なので。もちろんあんな声を出したいな、こんな風に歌いたいなって、いろいろ目標はあるんです。
それはなかなか難しいことなんですけど、だからこそ追求のしがいがあるし、自分ができないと思っていることには伸びしろがある。
そう考えたら、受け入れられるようになりました。
成功体験はない。満足しない気持ちが、プロ意識をつくり上げた
『すくってごらん』の主人公は、東京本店から田舎の支店に出向になった銀行員・香芝(尾上松也)。出世コースから転落した香芝は、はじめのうちは地元名物である金魚すくいをただの遊びだと小馬鹿にしていた。
だが、あるきっかけで金魚すくいに挑戦し、その難しさと楽しさを思い知る。

吉乃のアドバイスを受けて、初めて金魚がすくえた時に出てくるのが、百田さんが苦戦した「最初の一匹ってほんまにうれしいですよね」という台詞だ。
初めての成功体験は、どれだけキャリアを積み重ねても忘れられないもの。
百田さんにとって“最初の一匹”はいつだったのだろうか。そんな質問に返ってきたのは、意外な、だけど百田さんらしいプロ意識が伝わる答えだった。
成功したって自分で実感できた瞬間って、意外とないかもしれないです。
ライブとかもそう。めちゃくちゃ楽しいし、周りの方から「すごく良かった」と言ってもらえることはあるんですけど、自分の中で100%納得できたことはなくて。
終わった後は、もっとこういうことができたなって思うことばかり。満足したことがないんです。
そんな高いプロ意識を育んだのは、子ども時代の思い出だった。
私、昔からずっと負けず嫌いなんですよ。兄弟も親戚の子も全員男の子だったからかな、一緒に遊ぶときも絶対負けたくないって思っていました(笑)
ただ、その負けず嫌いの中身は昔とだいぶ変わっていて。人と比べて負けたくないと思うことは一切ないんです。
今、私が負けたくないのは自分自身。
できないことが多過ぎるからこそ、「もっとできるようになりたい」って気持ちで日々勉強するし、挑戦するたびに納得のいかないことが出てくるから、「よしまた頑張ろう」って思うんです。
その繰り返しですね。
自分で自分の機嫌を取る方法を知っておくこと

まだ26歳ながら、10代の頃から芸能界で活躍してきた百田さんの言葉には、柔らかいのにプロとしてのブレない芯がある。
百田さんが思う“プロフェッショナル”とは、どんな人だろうか。
自分の仕事に誇りを持っている人ですね。誇りを持っているからこそ、細かいところにまで意識が向けられる。
もちろん誰もが好きなお仕事に就けているわけじゃないと思いますし、何のために働いているかその理由も人それぞれだと思いますけど、好き嫌いにかかわらず、自分の仕事をまっとうしている人はカッコいいし、プロだなと思います。
「自分の仕事をまっとうする」プロであるために百田さんが心掛けているのは、「気持ちの持っていき方」だという。
自分がやりたくないなと思うことでも、それをやることで誰かのためになっていたり、誰かが助かったりすることってあるじゃないですか。
だから、まずは自分の仕事の先にいる人たちをイメージしてみる。それだけで、やりたくない仕事でもやる意味を感じられる気がします。
百田さんの言葉は、ちょっとだけ温度が高い。言葉に躍動感があると言ってもいい。質問の答えを考えるときも、「何だろう。難しいな」と悩みつつ、そうやって答えを探すこと自体を楽しんでいるように見える。
だから、百田さんの話を聞いていると、こちらまで楽しくなってくる。弾むようなその言葉に、周りの気持ちまで弾んでくるのだ。
何でそんなに元気でいられるんだろう。思わずそう聞くと、「なんでだろう(笑)」とびっくりしたように笑って、彼女は言った。
私は、何をするにしてもまず自分が楽しくいることを心掛けていて。どうしたら自分が楽しくいられるかなって考えるんです。
お仕事をしていても、今日はすごく緊張するなとか、うまくいかないかもしれないなって心配するときもあるんですけど、そんなときこそ自分のテンションを上げる!
全然難しいことじゃなくていいんです。時間を見つけてスタバに寄って、好きなドリンクを買うとか。そうやって自分で自分の機嫌を取る方法を知っておくことが大事なんじゃないかなって思います

好きなことを仕事にしている人もそうじゃない人も、働いている以上、悩みやコンプレックスは付き物。だけど、人から求められる人は、自分の不機嫌を決して職場に持ち込まない。
良いパフォーマンスを出すために、ちゃんと自分のメンタルをコントロールする術を持っていることが、プロの共通項だ。
自分の機嫌は自分で取る。百田さんのハッピーマインドに、求められ続けるプロの真髄を見た気がした。
取材・文/横川良明 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER) スタイリスト/関 志保美 ヘアメイク/チエ(KIND)
企画・編集/栗原千明(編集部)
作品情報
『すくってごらん』 3月12日(金)TOHOシネマズ 日比谷 ほか全国ロードショー
【出演】尾上松也 百田夏菜子 柿澤勇人 石田ニコル ほか
【スタッフ】監督:真壁幸紀 脚本:土城温美 音楽:鈴木大輔
【原作】大谷紀子『すくってごらん』(講談社「BE LOVE」所載)
予告編 https://youtu.be/znoQpQ96K-Q
公式サイト:https://sukuttegoran.com/
配給:ギグリーボックス
(C)2020映画「すくってごらん」製作委員会 (C)大谷紀子/講談社
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