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APR/2021

【綾野剛・清水崇インタビュー】孤独になっても人とぶつかっても、「新しいもの」を生み出したい

2021年4月2日、俳優・綾野剛さんが主演を務める映画『ホムンクルス』が劇場公開された。

本作の原作は、山本英夫さんが描く人気漫画『ホムンクルス』(小学館)。物語の主人公となるのは、記憶も感情も社会的地位もなくしたホームレスの男・名越進だ。

ホムンクルス

「生きる理由」を求めて頭蓋骨に穴を開ける実験「トレパネーション」を受けたことをきっかけに、自身の左目に人間の心の歪みや闇が“ホムンクルス”という異形となって見える特殊能力を持つことになる。

ホムンクルス

本作の監督を務めたのは、『呪怨』シリーズや『犬鳴村』を代表作に持つ清水崇さん。人間の脳内にある暴力的な狂気を、リアリティーたっぷりに実写化した。

ホムンクルス

そして今回、綾野剛さんと清水監督による特別対談が実現。強い信頼関係で結ばれたお二人に、本作の撮影を通して感じたこと、チームで仕事をする時に大事にしていること、それぞれがプロフェッショナルとして貫くこだわりについて聞いた。

「爆弾みたいな存在」でいようと覚悟を決めた

ーー今回の『ホムンクルス』の撮影現場で、綾野さんが特に大事にしていたことは?

綾野 「逸脱」することですかね。俳優部はどこまでも監督が作りたいと思うものにまず寄り添いたい。同時に「それだけじゃない」というふうに思うところもあって。

自分から予定調和を崩して期待を裏切ることよって、偶然撮れてしまった「歪み」のようなものを監督や皆さんに見てほしいなと。

ホムンクルス

綾野 決まったことを決まった通りにやれば、物事はスムーズに進むのかもしれない。けれど、そうしているうちに、作品づくりは間違いなく退屈な方向へ進んでしまう。

だから、時に孤独になったり、面倒がられ、何をしでかすか分からない「爆弾みたいな存在」でいようと覚悟を決めていました。

清水 綾野くんがそうしてくれて、僕はすごくうれしかったんですよ。面倒くさかったけど(笑)。そういう考えでいてくれるから、原作をトレースするだけではない今回の映画ならではの世界観ができ上がったと思うし、名越という人物に生命が宿ったとも思います。

ーー原作を映像化する難しさはありましたか?

清水 はい。「原作マンガがあるんだから、実写作るの楽でしょ」って言われることもあるんですけど、むしろその真逆。原作をトレースしてはいけない部分って、山ほどあるんですよ。原作がある中で、その世界観を現実に持ってきたらどうなるのか、考え抜かないといけない。本作の原作は写実的に描かれているからこそ難しいところです。

「俺たちは原作と違うことをするよ」って思いながら、観る人たちを裏切っていかないといけないし。その辺は、綾野くんとめちゃくちゃ話し合ったよね。

綾野 はい。原作からの濃い抽出から、ある種、オリジナル作品へ。それくらいの気持ちでやってましたね。

自分一人ではたどり着けない場所までいくために

ホムンクルス

ーー清水監督がチームで「いい仕事」をするために大切にしている事は?

清水 みんなが率直に意見を言い合える空気をつくること。そのために、自分が周りを萎縮させないように、なるべく監督然としない。気取らないことですかね。

みんなにあれこれ意見を出してもらって、良い意見が出たときは「いいね、それいただき!」ってすぐ採用させてもらう。もちろん、感謝しながら。

綾野 俳優部の中でも、「監督や主演の人のやり方に合わせておこう」みたいな空気になってしまうことが時々ありますね。でも、「監督が言ったから」、「主役が言ったから」って思考停止させてしまうのは違う。オリジナリティーが無くなる瞬間でもあるので。

ーーキャリアを積めば積むほど、どうしても周りが気を使ってくれるようになりますしね。

綾野 だから、基本的に僕は役者が役者に演出することはありません。もしも後輩がカメラの前で特殊な場所に立っていたとしても口にはしません。その人の選択を否定せず、まず受け止める。

ホムンクルス

ーー「それはダメだよ」とか「こうした方がいいよ」とか、つい言いたくなってしまいますけどね……。

綾野 そういうのって、結局、ちゃんとやろうとしてる人なら、後から自分でいろいろ気付くんですよ。映像を見れば分かるので。気付かなくてもそれが物語になる瞬間も多々ありますから。まず芝居に答えはあっても間違いは無いんです。

ーー先ほどの綾野さんのお話にもありましたが、「こうした方がいいよ」っていうアドバイスは親切ですけど、それを続けていくと、新しいものが生まれにくくなりますよね。

清水 ええ。現実の世界って、いろんな視点を持っている人がいるわけで、本当はそれらがちゃんと浮き彫りになっていることが自然だと思うんです。

でも、それにふたをして発言力の強い人の意見だけを採用し続けていると、通り一辺倒なものしかできなくなってくる。すると、「生きた人間の話」なんて作れっこないんですよね。

ホムンクルス

綾野 そこの思いが僕と清水監督の共通点。何か新しいものを生み出そうと思ったら、自分たちだけでは到底考えつきもしないようなところまでたどり着くために、針に糸を通すような作業になろうとも、みんなが意見を出し合える環境にした方がいい。いつか必ず糸は通りますから。

清水 『ホムンクルス』は、撮影前に僕が考えていたものと、出来上がったものでズレはあるんですけど、それがよかったなって思ってるんです。みんなが知恵を絞って、アイデアを出し合って、工夫してきたからこそ思いもよらないものが出来上がった。そういう瞬間が一番ワクワクします。

「慣れで仕事してる自分」にまずは疑問を持つこと

ホムンクルス

ーー綾野さんがプロとして仕事をする上で、常に貫いているポリシーってありますか?

綾野 過去の成功体験を一回一回捨てること。経験は残すけれど、慣れとかおごりとか、そういうものはできる限り捨てていく。

どこでも使える正攻法を持っていることは良いことでもありますけど、そればっかり繰り出すようになると、自分が仕事で心から闘えなくなる。

清水 分かります。僕も「ホラーの人」ってラベルを貼られるようになってから、迷いはありました。そんなイメージがあったことで得したこともあるかもしれないけれど、仕事が楽しくなくなってしまったんですよ。

というのも、似たような事ばかり求められるようになって、慣れやおごり高ぶりが生じた結果、「みんなが欲しがるのってこういうものでしょ?」ってたかをくくって作品を作る部分が出来てしまって。一時期、映画をつくることがつまらなくなった。

そして、あるレベルまで行ったら、その過去の経験値でやった仕事が全然通用しなくなったんです。自分のおごりや周囲へのこび…それは作品に出てしまうし、お客さんだって感付く。結局、それは自分もキャストもスタッフも、映画もお客さんも裏切っているって事で。

ーー必勝パターンに甘えていると、いつの間にか置き去りになってしまう?

清水 世間から求められるものを作るんだとしても、やっぱり、自分の中では「いかに違った真新しいものを作ってみせるか」って気持ちでいないと、仕事も作品自体も面白くならないですね。

あと、結局そういうスタンスってお客さんにも伝わっちゃうんですよ。あ、慣れでやっちゃってるなって。癖や嗜好(志向)はあっても、慣れに溺れたら最悪ですよ。

ーー慣れを捨てるのって、言葉で言うほど、実際には簡単ではないですよね。

ホムンクルス

綾野 一回成功した経験があると、人は大体それを踏襲する。でも、まずはそこに疑問を持つことが、慣れを捨てる第一歩ではないでしょうか。

ーー綾野さんも、慣れを捨てるのには苦労なさっている?

綾野 もちろん。経験値は増えていく一方なので、慣れはどうしても生まれ続けます。

しかし、映画やドラマは毎回チームも違うし、生きる役も違う。強制的に経験がゼロにリセットされる部分はありますね。現場ごとに違うやり方がありますし、似たようなキャラクターを生きることが続いたとしても、一人一人は名前もバックグラウンドも全く違うので。

「似たような役は存在しない」、だからこそひとくくりにしないというのは、役を愛し尊重するという事につながります。

ホムンクルス

ーーすごく誠実ですね。役に対しても、俳優という仕事に対しても。

綾野 予定調和を壊すとか、成功体験を捨てるとか、新しいことに取り組んで、新しいものを目指し創作している証拠ですから。

清水 そうですね。それがなくなったら終わり。ラクにこなせる仕事より、大変でもやりたいと思える仕事を続けていきたいですね。

ホムンクルス
清水監督と綾野剛さん。メイキングカット

<プロフィール>
綾野 剛

1982年1月26日生まれ、岐阜県出身。 03年に俳優デビュー、数多くの映画やドラマに出演する。『日本で一番悪い奴ら』で第40回日本アカデミー賞優秀主演男優賞、『閉鎖病棟−それぞれの朝−』で第43回日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞。近年の主な出演映画に『新宿スワン』シリーズ(15-17)、『ピースオブケイク』(15)、『怒り』(16)、『64-ロクヨン-』(16)、『亜人』(17)、『楽園』(19)、『影裏』(20)、『ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-』(20)、『ヤクザと家族 The Family』(21)などがある

清水 崇
1972年7月27日生まれ、群馬県出身。ブースタープロジェクト所属。 大学で演劇を専攻し、同郷の小栗康平監督作『眠る男』(96)の見習いスタッフで業界入り。小道具、助監督を経て、自主制作した3分間の映像を機に98年、関西テレビの短編枠で商業デビュー。東映Vシネマで原案・脚本・監督した『呪怨』シリーズ(99)が口コミで話題になり、劇場版(01,02)を経て、USリメイク版“The Grudge”:邦題『THE JUON/呪怨』(04)でハリウッドデビュー。日本人初の全米興行成績No.1に。続く“The Grudge 2”:邦題『呪怨パンデミック』(06)も全米No.1に。近作に『9次元からきた男』(16)、『ブルーハーツが聴こえる/少年の詩』『こどもつかい』(共に17) 『犬鳴村』(20)『樹海村』(21)など。ジャパンホラーの巨匠としてホラーやスリラーを中心に、ファンタジーやコメディー、ミステリー、SFなどさまざまなジャンルに取り組んでいる

映画情報

映画『ホムンクルス』2021年4月2日(金)より期間限定公開中
4月22日(木)よりNetflixにて全世界独占配信スタート

出演:綾野 剛 成田 凌 岸井ゆきの 石井杏奈・内野聖陽
監督:清水 崇
原作:山本英夫「ホムンクルス」(小学館「ビッグスピリッツコミックス」刊)
配給:エイベックス・ピクチャーズ
In association with Netflix
(C) 2021 山本英夫・小学館/エイベックス・ピクチャーズ

取材・文/栗原千明(編集部)

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