勝地涼が“前髪クネ男”のジレンマを乗り越え学んだ「他人からの評価」の生かし方【キャリアインタビュー】
仕事をしていれば、自分の評価について悩むことはいくらでもある。
もっと違う領域にチャレンジしたいのに、任されるのは過去の成功体験の焼き直しのような仕事ばかり。認めてもらえないもどかしさに、情熱の火がくすぶってしまいそうなこともある。
俳優・勝地涼さんも、かつて自分についたイメージからの脱却にもがいていた。2013年、連続テレビ小説『あまちゃん』に“前髪クネ男”として出演。たった1話の出演ながら、前髪をくねらせ、腰を振りまくるそのコミカルで強烈なキャラクターは、視聴者の記憶に深く刻まれた。
以降、“前髪クネ男”的なキャラクターを求められることが増え、人知れず悩みを抱えた時期も。勝地さんはそんなジレンマをどう乗り越えたのだろうか。そこには、私たちの仕事にも通じるヒントが隠されていた。

自分が『消費されていく』感覚でした
「正直に言うと、今まで積み重ねてきたものが崩されるような感覚がありました」
勝地さんは“前髪クネ男”フィーバーを、そう振り返る。
「その当時、月9にも大河ドラマにもいい役で出ていたのに、話題になるのは“前髪クネ男”のことばかり。番宣でバラエティー番組に出ると、“前髪クネ男”をやってほしいと、それしか言われなくて。『消費されていく』感覚でした」

芸能人は、一人の「人間」であると同時に、「商品」であることもまた事実。旬を逃さないというのは「商品」の戦略としては正しい。けれど、一人の「人間」として見たときに、自分が消費されていく焦りや不安が勝地さんを襲った。
「それで“前髪クネ男”以降、コメディー作品が続いて。似たような役柄ばかりを求められることが、しんどくなった時期がありました」
勝地さんのデビューは2000年。『永遠の仔』で見せた繊細な演技で一躍注目を集め、『亡国のイージス』で第29回日本アカデミー賞新人賞を受賞。10代にして実力派の地位を確立した。決してコメディーだけが得意なわけではない。もっといろんな振り幅がある。
だけど、求められるのは“前髪クネ男”的なぶっ飛んだキャラクター。自分で自分の当たり役を再生産していくような構図に危機感を抱きながら、ハイテンションな演技の裏側で俳優としての意地を示し続けた。
「たとえコメディーであっても、『ノリでは絶対にやらない』と思っていました。僕らのやっていることはコントじゃないから、ただの面白いキャラになるのが嫌だったんです。たとえば明るいキャラなら、なぜこいつはこんなに明るいのか、それを常に考える。当たり前のことですが、そこはすごく大事にしていました」
本当の自分よりも、人から必要とされることに応える方が大事
そんな葛藤を乗り越えて、今は心境が変わったと勝地さんは言う。
「人から求められるのがコメディーなら、無理に逆らおうとしなくてもいいなって。本当の自分とは違うとかそういうことよりも、人から必要とされることに応える方が大事だって考えられるようになりました」

そうすっきりとした顔で今の自分に胸を張れるのは、少なからずこの作品に出演したことが影響しているだろう。11月27日(金)公開の劇場版『アンダードッグ』。負け犬たちの不屈の闘いを描いた本作で、勝地さんは二世タレントの宮木瞬を演じている。
宮木は有名俳優を父に持つお笑い芸人。だが、笑いのセンスは乏しく、ギャグはいつもスベり気味。父親から与えられたマンションはパリピに悪用され、おバカキャラを演じながらも、そんな滲めな現状に悔しさと反骨心を抱えているキャラクターだ。
「宮木の辛さが分かるんです。そんなふうに見られたいわけじゃないのに、どうしても世の中からの見られ方に合わせて嘘をつかなきゃいけなかったり、バカにならなきゃいけなかったり。そういうのがすごくよく分かるから感情移入しやすかったですし、宮木という役に自分が入っているような感覚がありました」
お調子者として振る舞う宮木は、どこか勝地涼のパブリックイメージと重なる部分がある。
「確かに“前髪クネ男”のイメージがしんどいと感じた時期はあった。だけど、そこで僕のことを知ってくれた人がたくさんいるのも事実。それに、面白い役をやっているからこそ、その逆の役をやったときに驚きが生まれるわけで。
きっとこの映画を観たら最初、僕が芸人役として面白いことをやっているのを見て、『勝地涼、またいつものような役』と思う人はいると思う。でもそれが“フリ”として効くんじゃないかなって。だから、観た人の反応が楽しみなんです」
“前髪クネ男”がなかったら、この役はできなかった
『アンダードッグ』は前後編にわたる大作だ。そして前編のキーマンとなるのが、勝地さん演じる宮木瞬。番組の企画でボクシングに挑戦することになった宮木は、かつての日本トップランカー・末永晃(森山未來)との試合に向けて、練習に打ち込む。クライマックスで繰り広げられる森山さんとの本気のボクシングは、この映画最大の見せ場だ。
「撮影は辛かったですね。本気ではないものの未來くんの強いパンチが来るんです、ガードをしていても。ずっとパンチを食らっていると、徐々に振動や痛みが頭に来て。1日目の撮影が終わった後、念のため病院で見てもらったくらいです」
まさに身を削るようなファイト。でもそれが、観客の魂を揺さぶる。拳をぶつけ合う二人の表情は、とてもお芝居とは思えないほど真に迫っていた。
「この日の撮影のために何カ月も前からボクシング練習をしてきて本当に辛かったです。でもその辛さがあったからこそ、出せたものはあると思う。そういう意味でも練習をやってきてよかったなと思います」

“前髪クネ男”を足枷のように感じたこともあった。だけど、その中でジタバタしている自分を見てくれる人がいたから、『アンダードッグ』へとつながった。たとえ自分の意向と100%沿うものでなかったとしても、腐らず、全力を出し続けていれば、必ず見てくれている人はいる。きっとチャンスはやってくる。
「この役ができてよかったと単純に思います。よくぞこの役をやらせてくださいましたって。もちろんどの作品も出させていただけることに感謝していますけど、『アンダードッグ』に関しては特にその気持ちが大きいです。
きっと今の年齢でないとできなかった役。“前髪クネ男”で話題になったとき、その流れに抗って変にカッコつけようとしていたら、この役は来なかった。求められるものに応え続けてきてよかったと思います」
やりたいことがあるなら行動あるのみ
自分のしたい仕事はこれじゃない。自分の居場所はもっと他にある。そんなふうに迷ったり悩んだりする時期は、長いキャリアの中で付きもの。一つのトンネルをくぐり抜けた勝地さんは、もしそんなふうにキャリア迷子になっている人たちがいたら、何と声をかけるだろうか。
「行動あるのみですね。もっと上に行きたいとか、他にやりたいことがあるなら、行動を起こさないと何も始まらない。僕の場合だったら、一緒にやりたい演出家さんがいたら、自分から扉をノックしに行きます。その人の舞台を観に行くし、好きなんですって必ず伝える」

「宮藤(官九郎)さんと仕事がしたいと思ったら、何度もノックしに行きます。それもうるさいって言われるぐらいしつこく(笑)。そんな下心が見え見えのことはできない、と言う人もいるかもしれないけど、『やりたいからやりたいと言う』ってすごくピュアなことだと思うんです」
叶えたいことは口にする。何かを変えたいなら、行動に出る。それは、どんな業種や業界でも変わらない、夢をかたちにするための絶対条件だ。
「あとは、与えられたことを全力でやること。それが、大前提。もし目の前に『こんな役やりたくない』って言ってる役者さんがいたら、今の俺自分なら『だったらその役ちょうだい』って言います。動かないでグチを言ってるのは好きじゃないんです。文句を言うぐらいなら、目の前の仕事をちゃんとやらないと」
まずは与えられた場所でベストを尽くすこと。その上で、自分からアクションを起こすこと。そうやって勝地さんは20年という役者人生を自分で切り開いてきた。
「今も共演したい役者さんがいて。その人と舞台がやりたいって、仲の良い演出家さんに言ってるんです。それも、たぶん近いうちに叶うと信じてる。言ったもん勝ちじゃないけれど、言わなきゃ叶わないから」
そう勝地さんは、言葉に力を込めた。

ヘアメイク 池田晋一朗(IKEDAYA TOKYO)、スタイリスト 上井大輔(demdem inc.)
ジャケット¥33,000(Iroquois/IROQUOIS HEADSHOP/03-3791-5033)パンツ¥32,000(Azuma./Sakas PR/03-6447-2762)その他スタイリスト私物
もっとこんなことがしたいのに。本当の自分はこうなのに。そんなふうに悩むことは悪いことではない。でも、それよりももっと大事なのは、人から求められることにまずは全力で応えること。そこから逆転のラウンドが始まるのだ。
取材・文/横川良明 撮影/KOBA
【プロフィール】
勝地 涼さん
1986年生まれ、東京都出身。2000年にドラマ『千晶、もう一度笑って』でデビュー。以降、映画・ドラマ・舞台とさまざまなフィールドで活躍。近年の主な出演作に、ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』や、『破天荒フェニックス』『ハケンの品格』、映画『銀魂2』『マスカレード・ホテル』など
Information
映画『アンダードッグ』2020年11月27日(金)より、ホワイトシネクイント他全国で <前編><後編>同時公開!
※配信版『アンダードッグ』は、ABEMAプレミアムにて2021年1月1日~配信開始
出演:森山未來、北村匠海、勝地涼、瀧内公美、熊谷真実、水川あさみ、冨手麻妙、萩原みのり、風間杜夫、柄本明 ほか
監督:武正晴
原作・脚本:足立紳
企画・プロデュース:東映ビデオ
製作プロダクション:スタジオブルー
配給:東映ビデオ
製作:AbemaTV 東映ビデオ
©2020「アンダードッグ」製作委員会
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