将来が不安…悩みの裏に必ずある“本当の願い”とは? 自分を正しく導くセルフコーチングのコツ【cotree櫻本真理】
どう働き、どう生きるか。私たちの人生は選択の連続でできている。
さらに、コロナ禍という未曽有の事態によって社会の在り方が大きく変わったこの1年。働き方や生き方の多様化は加速するばかりだ。
そんな今、無数の選択肢を前に不安を抱える女性が、オンラインカウンセリングを利用するケースが急増しているという。
生き方の多様化がますます進む時代に、後悔しない選択をするためにはどうすればよいのだろうか。
オンラインカウンセリング・コーチングサービスを提供する株式会社cotree(コトリー)の代表・櫻本真理さんに聞いた。
「選ばなきゃ」という焦燥感。解消の第一歩は自分を知ることから
――2014年からオンラインカウンセリングサービス『cotree(コトリー)』を提供されています。まず、どんな人がどんな相談を寄せるのか、傾向を聞かせてください。
コトリーの利用者は7割が女性で、20〜40代が中心です。人間関係のほか、自分の役割について課題を抱えている方が目立ちます。
例えば「ビジネスパーソンとして」「母親として」「娘として」など、女性は複数の役割を担って生きている場面が多いですよね。
人が悩むのは、葛藤を感じるとき。
「これがやりたいけれど、あれもやりたい」、逆に「あれはやりたいけど、それに伴って生まれるこれは避けたい」など、両立しないニーズが衝突するときに、どちらかを選ぶことができずに悩んでしまう。
加えて、女性は人との関係性を重視する傾向があるので、幾層にも重なった人間関係の中でがんじがらめになることも。その意味で、女性は男性よりも悩みを抱えがちなのかもしれません。
さらに、新型コロナウイルスの影響で社会全体の生活様式や働き方に大きな変化が生じたこの1年で、変化そのものがストレスとなってカウンセリングの必要性を感じた女性は増えているようです。
当サービスのご相談数も3倍近く急増しました。
――コロナ禍でより多くの女性がカウンセリングを求めている。なぜでしょうか?
物事の選択肢が増えたからだと思います。
コミュニケーションのオンライン化が急速に進み、住む場所を変えて地方移住したり、副業を始めたりと、生き方・働き方を見直す人が増えてきました。
環境が大きく変わろうとする中で、「自分らしく、好きなことをしながら生きていきたい」と行動する人の姿が至る所で見られるようになったことで、「自分も同じように」と願う人が以前よりも増えてきた。
けれどその願いは、本心である場合もあれば、キラキラと輝いて見える周りの人に刺激されて無理に“願わされている”場合もあります。
本当は安定的な生活を望んでいるはずなのに、世の中の流れに追いつこうと焦ってしまう。
自己選択が推奨される時代になったからこそ、「自分の生き方を自分で選ばなきゃ」と追い立てられ、でも、自分が本当に何をしたいのかも分からずにモヤモヤを抱える。そんな葛藤を抱えるケースが目立ちます。
――自己選択をしたい。でも、その決め方は分からない……ということですね。そんな迷いに対して、コーチングやカウンセリングを受ける価値とはどんなものなのでしょうか。
コーチングやカウンセリングが提供できるのは、人が主体的であるための対話の技術なんです。
主体的な選択をするために内省をし、自己発見をし、自分の内なる願いを言語化するプロセスをサポートしていく。
自分がどういった人間で、どういうときにどんな反応をして、何を手に入れたいと思っているのか、一つ一つ解きほぐしていきます。
これまで自分の人生に深く向き合ってこなかった人にとっては、時に苦痛を伴うものですが、「なぜうまくいかないのか」「本当はどうしたいのか」が明確になることで、次のアクションを踏み出せるようになります。
ご利用者さまの実際の変化を見ていると、自分自身の解像度が上がることで、他者に対する見方も変わり、コミュニケーションが楽になったという方が多いですね。
悩みや不安の裏側にある、“自分の願い”に目を向ける
――『cotree(コトリー)』では「話す」または「書く」という二つのアプローチで、自身を見つめ直すサポートをしていますね。自分でもできるセルフコーチングのコツがあれば教えてください。
まず前提として、「悩みがある」という状態はイコール「願いがある」状態なのだと気付くことが一番大切なことではないかと思います。
不安や葛藤、憂鬱といった感情はネガティブなものと捉えがちですが、その元にあるのは「本当はこうなりたい、こうしたい、こうありたい」という願い。
その願いが満たされなければ、ネガティブな感情も根本的には解消されません。
ですから、不安や迷いを抱える自分に気付いたら、「このモヤモヤの裏側にある願いはなんだろう?」と考えてみるといいと思います。
例えば、「将来がなんとなく不安」という言葉が出てきたとすると、「じゃあ、どんな将来を私は望んでいるんだろう?」「何を手に入れたいと思っているんだろう?」と考え、「それを手に入れるために、何ができるんだろう?」と問いを深めていく。
――まず、不安を素直に見つめることから始めて、その裏にある願いを探っていくのですね。
そうです。さらに言うと、このステップの前に必要になるのがセルフモニタリングです。
自分の感情に気付ける状態を保つことが大切なのですが、多くの人は自分自身が不安な気持ちを抱えていることにすら気付けていないんです。
自分の感情に気付くためには、定点観測が効果的。例えば、寝る前の5分間、深呼吸をしながら自分の心の状態に意識を向けてみるとか。
毎日続けることで「普通の状態」の感覚がつかめたら、「あ、今日はちょっと引っかかる感じがあるな」といった小さな変化を発見できるようになります。
セルフモニタリングを続けていると、自分がどんなときに幸せを感じ、どんなときに嫌な感情を抱くかという傾向も分かってくるんですね。
すると、自分自身の好き嫌いや人生観の輪郭がだんだんと明らかになり、「私はこういう人間」というセルフイメージが醸成されます。
何か選択肢が現れたときに、自分の願いに従って選べるようになるので、迷わない自分に近づいていくんです。
――「書く」という手段も有効なのでしょうか?
有効です。人が悩んでいるときには、思考が前に進んでいないことが多いんです。何でもいいから思っていることを書き出してみると、モヤモヤの一部が言語化されてクリアになりますよね。
同時に、「クリアになっていない部分」も明確になるから、思考を進めることができるんです。「じゃあ、これについてはどうだろう?」と問いを重ねることで、漠然とした不安が明確な課題に変わっていく。
課題が見えれば、解決策を具体的に考えられるステップになります。
書き出す内容は漠然としたもので大丈夫。「今、私は不安である」でもいい。文字にして可視化することで「いつから不安?」と次の問いが生まれ、徐々に解きほぐされていきます。
選択は「0か100か」とは限らない。感情を無視せず、大切に
――中には「自分自身の不安を直視するのが怖い」という人もいるのではないでしょうか?
それは不安をネガティブに捉えているから。先ほどお話ししたように、「不安は願いの裏返し」です。「不安を抱える自分はダメな人間だ」と考えるのではなく、「願いがあるからこそ、不安が生まれるんだ」と考えてみてください。
選択に迷ったときには、まずどんな選択肢があるのかを全部書き出してみるのがおすすめです。迷いながらも、選択肢すら明確にしていないケースは意外と多いんですよ。
選択肢を書き出したら、それぞれの良さと問題点を書き出してみる。
その上で、最良の選択肢を選ぶといいのですが、「AかBか」という発想だけでなく、「Aの良さもBの良さも満たす、新たな選択肢Cはないだろうか?」と発想してみるといいと思います。
狭い視野で考えないことが大切です。
――「選択肢はこれしかない」と思い込まないようにするということですね。
はい。そしてもう一つ、大切なポイントがあります。選択するときには“感情”を無視せず、きちんと扱うこと。
自分の感情を無視して、メリット・デメリットだけで判断した結果、モヤモヤが残り、やがて心の不調につながることは多いように思います。
私たちの社会生活、特にビジネスの世界では「感情を表に出してはいけない」と言われることもありますが、「感情を見つめる」のと「感情を表現する」のは別物。
自分の感情を無視せずきちんと見つめる意識を持ちたいですね。
怒りや悲しみも含めて、感じてはいけない感情はないので、感情をしっかり出し切る。自分一人で「私は今、怒っているな」と感じるだけでもいいですし、信頼できる人に話してみるのもいいと思います。
口にしてみた途端、「あれ、私、本当に悲しいのかな」と違和感を覚えて整理できることもよくあります。感情を感じ切った上で、それからどうしたいかを考える。その順序を守れるといいと思います。
――確かに、仕事やキャリアについて考えるときにはつい感情面を後回しにしてしまう、という人は多そうです。
日本の女性は良くも悪くも謙虚で、控えめな方が多いですからね。
本当はとても能力が高くて夢もあるのに、自分のやりたいことを表現することに罪悪感を抱いてしまう。でも、自分の可能性にふたをしているのは自分自身だけで、実は周りの人は「もっと開花してほしい」と期待しているケースは少なくないと感じています。
私も最近、出産という大きなライフイベントを経験し、新しいステージに立ちました。
出産・育児は女性のキャリアにとって「制約」となる面もあるかもしれませんが、逆に「その制約をどうやったらなくせるか?」と考えることで新たなクリエイティビティも生まれてくると実感しています。
0か100かではなく、その間の選択肢に道はないか、考えるプロセスも自分の成長につながっていくと思います。
同じ出来事や環境に直面しても、自分の考え方次第で、可能性を広げることも狭めることもできます。私自身は、迷ったら可能性が広がる方を選ぶと決めています。
今、自分はどんな枠の中にいるのか? その枠は本当に取り外すことができないのか? あるいは、その枠の中でもっとできることはないのか? と問いを投げ掛けながら、可能性を広げてみられるといいと思います。
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取材・文/宮本 恵理子 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER)
<プロフィール>
株式会社cotree(コトリー) 代表取締役
櫻本 真理さん
1982年、広島県生まれ。京都大学教育学部卒業後、2005年にモルガン・スタンレー証券に入社。06年よりゴールドマン・サックス証券の株式調査部にてテクノロジー業界のアナリストとして勤務し、10年退社。複数のスタートアップやプロジェクトに携わった後、14年5月に株式会社cotreeを設立。20年1月、人を生かしチームを育てるリーダーを育てるマンツーマンプログラムの株式会社コーチェットを設立し、代表取締役に就任(現任)
Twitter:@marisakura
『私と仕事のいい関係』の過去記事一覧はこちら
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