【kayoko】「人の言いなりで生きてきた」元薬剤師の人生を180度変えた整理収納との出会い
生き方も、働き方も、多様な選択肢が広がる時代。何でも自由に選べるって素敵だけど、自分らしい選択はどうすればできるもの? 働く女性たちが「私らしい未来」を見つけるまでのストーリーをお届けします

なんとく大学を出て、なんとなく就職して、「できれば働きたくない」と思いながら、日々の仕事をする。かつてのkayokoさんは、そんな女性だった。
彼女が変わったきっかけは、長野県にある自宅の整理収納を始めたこと。
今やInstagramのフォロワーは11万人にも上り、新刊『暮らしが整う「片付けない」片付け』(アスコム)を刊行するなど、人気の整理収納アドバイザーとして活動している。

※kayokoさんのインスタグラムより引用
たかが整理収納と侮るなかれ。部屋をきれいにし、理想の暮らしを実現することは誰にとっても「自分の未来」をつかむ第一歩となり得る。
「かつてはガサツで家も汚かった」というkayokoさんのストーリーから、その理由を探ってみよう。
強迫症で仕事が苦しかったときに出会った、整理収納
私は大学の薬学部を卒業して、薬剤師として薬局に就職しました。出産を機に退職してからは、子育てや二人目の出産の合間に、パートで薬剤師の仕事をする日々。
ありがたいことに手に職があったので仕事に困ることはなかったのですが、当時の私にとって、仕事は生活費を稼ぐために仕方なくするもの。できれば働きたくないのが本音でした。
というのも、一人目の子が生まれた頃に強迫症(強迫性障害)になってしまって。「家の鍵閉めたっけ?」みたいなことを、何回確認しても、確認した気になれないのが強迫症の特徴。
仕事でも患者さんにお渡しする薬を何回も繰り返し確認してしまって、やたら時間がかかってしまう。「早くやらなきゃ」と焦ってしまって、苦しみながら働いていました。
そんな時に出会ったのが、整理収納です。結婚して長野県に家を建てて自分の持ち家ができたことで、「部屋をきれいにしてみたい」と思うようになって。実際に家中を整えてみたら、楽しかったんです。
それまでは本当に片付けができなくて家も汚かったんですけど、「こんな自分でも部屋をきれいにできるんだ」って自信がついた。
また、その頃はちょうどインスタが流行り出した時期で、私も家の中のお気に入りの場所を投稿するようになりました。
投稿を始めた意識としては、誰かに見てほしいというより自分用のメモという感じ。当時はインスタグラマーという言葉もなかったので、純粋にプライベートで記録を投稿しては楽しんでいました。
そうやって整理収納にはまっていったら、整理収納アドバイザーの資格があることを知って。ちょうど隣の市で一日講座があったので、軽い気持ちで参加しました。
それで2級を取ったんですけど、人に教えたり、お金をいただいて人の整理収納を手伝うには1級が必要だと聞いて。その時に初めて、整理収納が仕事になることを知りました。
その時は強迫症の影響もあって「じゃあ、1級を取らないといけない!とらなきゃ!」って思い込んでしまいまして……。東京で試験を受けて、2018年に1級を取りました。
結果的に、ここで1級を取れてよかったです(笑)
365日ずっと整理収納について考える毎日が楽しい
整理収納アドバイザーの資格を取ってから1年くらいは、自宅や友達の家をきれいにしてインスタに投稿したり、他のアドバイザーと一緒に講座をやったりと、薬剤師のパートをしながら細々と活動していました。
でも、インスタを通じてお声掛けいただき、1冊目の本を出版した頃、強迫症の症状がまた強く出るようになってしまって。パートをお休みしたことで時間ができたので、フリーランスのママが集まる会に参加することにしました。
そこで「長野にもこういう人がいるんだ」「こんな働き方があるんだ」と知ったことが、整理収納アドバイザーとして独立するきっかけになりました。
今は、公民館や長野のママ向けの雑誌、企業などで講座をやらせてもらっています。ほとんど家で仕事をしていて、子どもの成長を側で見ていられるのもうれしいですね。
私が整理収納アドバイザーの仕事で気をつけているのは、嘘をつかないこと。特にインスタでは、「本当に自分が思ったことだけを、分かりやすく、簡潔に」書くことを心掛けています。
うちの子どもは小学生と年長ですけど、帰ってくると一瞬で部屋が汚くなるんですよね。一つ一つの物を片付ける場所は全て決まっていますが、普段はどうしても散らかる。
「とても写真には撮れないな」って思うこともありますけど、そういうひどい状態の部屋もインスタには載せています。

※kayokoさんのインスタグラムより引用
「そういう身近さと、リアルな生活を見せていることがkayokoさんの人気の理由なのでは」と編集担当の方にも言っていただけて。
インスタではガサツな私の一面も見ていただいて、「自分も整理収納にチャレンジできそう」と思ってもらえたらうれしいですね。
そしてもう一つ、仕事をする際は「その時の全力を出すこと」を心掛けています。
というのも、過去に淡々と作業としてこなしてしまった仕事があって。言われたことを期限通りにやって、なんだかすごく後悔したんです。
もともと私は大雑把で、その場がどうにかなればいいやって思うタイプ。その“淡々とやった仕事”について何かクレームがあったわけでもないんですけど、「もっとちゃんとやればよかった」って、後から悔しくなって……。
それ以来、その時にできることを最大限やろうと思っています。後悔のない仕事をしよう、と。
独立してからは、365日ずっと整理収納について考える毎日。薬剤師の頃は仕事を終えたら仕事のこと一切考えなかったけど、今は寝ている時以外はずっと整理収納のことを考えています。
やらなければ進まないし、頭をひねらないとアイデアは出てこない。ぼーっとしていられないので、ダラダラ過ごすこともほとんどなくなりました。
「あれもこれも考えなきゃ」っていう生活は大変ですが、それほどストレスはなくて。「どうやったらうまくいくかな」って考えるのは、結構楽しいんです。
薬剤師の仕事をしていたときは「どうしたら与えられた仕事を間違えずにできるか」ばかりを考えていて。でも今は「どうしたらいいか」っていう方向に、考え方が変わった。
仕事への向き合い方は、薬剤師時代と比べて全然違うと思います。
整理収納は「自分らしさ」を見つける最初の一歩

実は私、これまで人生で「自分で決める」ことを全くしてこなかったんです。
高校も大学も親から言われて選びましたし、薬剤師になったのも、薬学部で資格を取ったから。「資格があるから薬剤師として働かなきゃいけない」と勝手に思っていました。
そんな私が「薬剤師の資格を持っていても、別の仕事をしてもいいんだ」と気付き、今の仕事をするようになったのは、整理収納を通じて「自分で決める」ことを初めて体験したからだと思っています。
整理収納では、いる・いらない、使う・使わないの判断も、収納の仕方も、全部自分で決めます。それを繰り返すうちに、だんだん自分の「好き」「嫌い」が分かるようになって。
面倒だった片付けもやってみたら気持ちが良いことに気付いたし、「お迎えに行ったときに、子どもが走って来てくれるのがうれしいな」とか「料理ってこうやってみたら面白いんだな」とか、「やらなきゃいけないこと」を楽しいと思えるようにもなりました。
これまでは自分の感覚に蓋をしていたみたいに、特に日常の中で「心が動く瞬間」のことを考えてこなかったんです。
でも、今は「自分はこうしたい」「自分はこれが好き」っていうことが分かったから、素直にやりたいことができるようになった。
今の私は「自分らしさ」が見えてきた感覚がありますが、自分らしさを知るには、やっぱり自分で選ぶ訓練をすることが大切なのだと思います。
片付けや整理収納は、その最初の一歩。自分で選ぶ訓練ができます。
自分自身の「こういう暮らしがしたい」という欲求をもとに、残す物を選んだり、部屋に置いたりしていくと、目の前に「自分らしさの塊」ができていく。
振り返ると、整理収納を始める前、自分の身の回りに物があふれかえっていた頃は、自分の好きなものも見えてこなかったなと思っていて。
だから、かつての私のように自分で選ぶことが苦手な人は、まずは自分がよく使っているものや好きなものだけを手元に残していくことから始めてみてください。
私は、自分の講座を受けてくれた人が「これが大事だったんだ」「これをやればいいんだ」と新しく何かに気付く瞬間が好きで。
中には、「ごちゃごちゃしてはいるけど、この家には必要なものしかないってことが分かって、気持ちが良くなった」とおっしゃってくださる方もいます。
自分で今の自分に納得することで、少し前に進めるんだなと実感しますね。
私はこれまで生活のために仕事をしていたけれど、今は「お金のために」という感じではなくなりました。仕事を「どうやったらいいのか」を考えるようになって、「これがやりたい」という気持ちが大きくなった。
もしも宝くじに当たって、お金の心配がなくなったとしても、整理収納は続ける気がしています。
インスタに写真を投稿したり、自宅を綺麗にしたり、人にちょっとしたアドバイスをしたり。趣味のような感じで、これからも続けていくと思いますね。
インスタグラム:kayo.home00
取材・文/天野夏海 画像/ご本人提供
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