さとうほなみ「30代も変わらない」ありのままの自分を受け入れて。ABEMA『30までにとうるさくて』最終回を経て思うこと

「30までに結婚しないと」「バリバリ働くなら、30までに」——。恋愛や結婚、出産、キャリアなど正解のないシビアな選択を迫られるアラサー世代。特に、「30歳」という節目の年齢を意識したことがある女性は多いはずだ。

そんな、悩み多きアラサー女性から「ブッ刺さりすぎてつらい」とまで言わしめた共感度200%のドラマが『30までにとうるさくて』(ABEMA)だ。

30までにとうるさくて

本作は、現代の東京を生き抜く29歳独身女性4人の恋、キャリア、性、友情の物語をユーモラスかつ痛烈に描いた作品だ。

物語の主人公、バリキャリ女子・美山遥は、5年間付き合ってきたパートナーにプロポーズされるも、実はセックスレスに悩んでいる。

そんな遥を演じたのが、俳優のさとうほなみさん(32歳)。人気バンド「ゲスの極み乙女。」のドラマー、ほな・いこかとしても活躍している。

30までにとうるさくて

【Profile】さとうほなみ さん
1989年8月22日生まれ。東京都出身。俳優としてだけでなく、「ゲスの極み乙女。」のドラマー、ほな・いこかとしても活動。主な出演作に、NHK連続テレビ小説『まんぷく』、NETFLIX映画『彼女』がある。2022年は、ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アグリーインチ』や、映画『愛なのに』が話題となっており、映画『恋い焦れ歌え』やドラマなど、出演作が多数予定されている
Twitter:@honami_s インスタ:honami__s

「実は、『30までにとうるさくて』がこんなに皆さんに共感される作品になるなんて、とびっくりしたんです」と明かすさとうさん。「30代からの人生はとびきり楽しい」とはつらつとした笑顔を見せる。

「30代になっちゃう……」というネガティブな発想に陥らずに済んだ理由は何なのだろうか。自分らしく、充実した30代を迎えるための心掛けについて聞いた。

30歳前後の今演じたからこそ、リアリティーがあった

30までにとうるさくて

アラサー女性を中心に、大反響のうちに2022年3月に最終話の放送を終えた『30までにとうるさくて』。SNSには「ハマりすぎてロス」の声も散見されるが、さとうさん自身は視聴者の反応をどう受け止めているのだろうか。

さとうさん

放送中は、普段連絡をとっていないような友人からも『観てるよ、すごい刺さる!』とたくさん連絡をもらって。すごくうれしかったですね。

特にこのドラマは、演じている私たち自身も30歳前後のアラサー世代。今まさにこの年齢を迎えている私たちが演じたからこそ、さらにリアリティーがあったのかなと思っています。

セックスレスや選択的シングルマザー、LGBTQ——4人の主人公が抱える事情は、苦しくなるほどにリアルで切実なものばかりだ。

中でも、セックスレスに悩む遥がパートナーに「セックスセラピーを受けよう」と提案するシーンは、反響が大きかったという。

30までにとうるさくて
さとうさん

まず、5年付き合って同棲中、プロポーズもされているんだけど実はセックスレスで……っていう2人の絶妙な空気感がとてもリアルなんですよね。

それで、遥が思い切ってセラピーに行ってみようと恋人に打ち明けるんですが、セックスに対する価値観の違いで言い合いになってしまう。

さとうさん

セックスの問題って、デリケートだから誰にも相談できないじゃないですか。だけど、遥は勇気を出してパートナーに伝えた。だから、視聴者の皆さんは「よくぞ言ってくれた!」って思ってくれたみたいです(笑)

また、主人公4人が渋谷のバーで「子どもが欲しいかどうか」を語り合うシーンも、さとうさんにとって印象的だったという。

さとうさん

「今すぐにでも欲しい」という花音(演:佐藤 玲)に、「自分のために時間が使えなくなるから欲しくない」と言い切る恭子(演:山崎紘菜)。

一方遥はというと……「うん、いつかは」と答える。この「いつかは」ってセリフがすごくリアルだなと思って。

「いつか」は子どもを持ちたいけれど、仕事も楽しい……。仕事との両立を考えると、漠然と「今じゃないのかも」と躊躇してしまう人は多いのではないでしょうか。

30までにとうるさくて

劇中、主人公たちは毎晩のようにバーに集い、仕事の愚痴から深刻な悩みまで、包み隠さずぶちまける。誰かがどん底にいたらともに泣いて怒り、うれしいときには全員で喜ぶ。本音で語り合える女友達の存在をうらやましく思った人も多いだろう。

「これまで悩み事を周囲に相談しないタイプだった」というさとうさんだが、このドラマをきっかけに考えに変化があったのだとか。

さとうさん

性の話でもあけすけに相談し合う4人の絆がすごいなと思って。私もためしに信頼できる友人に普段言わないような相談をしてみたんです。

そうしたら、とても真剣に考えてくれて。 こんなに自分のことを考えてくれる人が実は身近にいたんだ、相談するって自分を知ってもらうことなんだ、というのが新しい発見でした。

大人にならなきゃ、を手放した。30代も直感に従って生きる

今年32歳を迎えたさとうさんは、「30歳という年齢を特に意識していたのは、25歳くらいの時だったかな」と明かす。

さとうさん

当時は、ちゃんとした大人にならなきゃという焦りがあったんだと思います。私の中で、「30歳=大人な女性」っていうイメージがあって。

でも、まだ気持ちが全然追いついていなかった。

それなのに、20代後半になった時から急に「アラサーだね」と言われるようになって。それでちょっと焦ったんですよ。

私自身は何も変わってないのにって。

さとうさん

でも、実際に28歳、29歳と歳を重ねていくにつれて、「やっぱり私は全然変わらないんだな」って気づいて。

もちろん周りから見たら成長している面はあると思うんですが、思い描いてた「大人」になることはこの先もないんだろうなって何となく分かったんです。

私はこれまでもこれからも、きっと根本的な部分は変わらない

それでずっと楽しく生きてきたんだから、30代になったってそれでいいかって。無理に大人になろうとしなくていいんじゃないかなと思えるようになったんです。

諦めたわけじゃない。これまでの自分の生き方を肯定したからこそ、年齢という数字をフラットに受け止めることができた。実際に迎えた30代は「相変わらず楽しい」とあっけらかんと笑う。

さとうさん

このくらいの年齢って、20代の役もできるし、30代の母親の役もできる。その意味で、演技の仕事の幅が広がった実感があります。

一方で、一つ一つの仕事を「その場しのぎ」にだけはしたくないという思いも強くなっていて。

すべての作品に全身全霊で臨みたいと思っています。

「30代だから」というのは関係なく、今まで通り目の前のやりたいと思えるお仕事に全力で向き合い続けたいですね。

人気バンドのドラマーと女優。パラレルキャリアの多忙な日々すらも、「やりたいことに思い切り挑戦しているので、どの仕事もワクワクすることだらけです」とさとうさん。

やりたいことを仕事にする。言葉にするのは簡単だが、実際にそれを実現できるのは一握りの人間かもしれない。なぜ、さとうさんは自分らしく働き続けられるのか。

さとうさん

昔から、何をするにも自分がキュンとできるかどうか、の直感を大事にしています。
今振り返っても、その感覚を信じて間違ったことはなかったから。

そして「絶対にやりたい!」「好きだ!」と思うことには、良い意味でも悪い意味でも周りが見えなくなるくらい一直線。

自分がやりたいと思ったことには、いつだって全力で取り組みます。

それは、小学生くらいの頃からずっと変わらないんですよね。このまま年を重ねて大丈夫なのかなって、たまに心配になります(笑)

「やりたいこと」が仕事じゃなくてもいい。悩める今を楽しんで

自分の心の声に敏感に、直感に素直に従う。これがさとうほなみの人生哲学だ。

さとうさん

もちろん自分の好きなことややりたいことが誰かの役に立って、仕事にできているなら素晴らしい。

でも私は、好きなことを必ずしも仕事にしなくてもいいと思っていて。

好きなことはプライベートの時間にするというのも一つの生き方。「こうじゃなきゃ不幸だ」と決めつけてしまうのはもったいないなと。

自分にとって「楽しい」と思えることが1日のどこかに一つでもあったら、それだけで豊かな人生だと言えるんじゃないかな。

SNSを見ていると、「好きを仕事に」夢をかなえた人たちがやたら眩しく見える。でも、「やりたい仕事がない自分はダメだ」なんて思わなくていい。その言葉に救われる人も多いはずだ。

また、さとうさんは「悩んでいる自分を受け入れて」と呼び掛ける。

さとうさん

女性には妊娠や出産などの体の問題もあるし、年齢を重ねていく上で悩むのは当然だと思います。だから、「みんな年齢にとらわれるな」とは言えない。

でも、そうやって悩む自分を否定しないでほしいんです。

だって、それは一生懸命自分の人生に向き合っている証拠だから。それに、悩めることがあるのも素晴らしいじゃないですか。

30代も新しいことを吸収する時期に

自分はいつまでも自分のままで。変わらない自分を受け入れて迎えた30代、さとうさんはこれからも今まで通り「新しいことにどんどん挑戦していきたい」と意欲を見せる。

さとうさん

音楽についても、俳優業についても、まだまだ新しいことを吸収していかないといけない時期だと思っています。

今やらせていただいているお仕事も、毎回新しいチャレンジの連続。私はきっといくつになっても、やりたいことは尽きないんじゃないかな。

あと、今は習い事を始めるのもいいなと思っています。お仕事以外でも、知らない世界をもっと見てみたいんです。

新しいことに挑戦するとき、不安や迷いはない? そう質問すると、「やってみてから考えます!」と実に清々しい答えが返ってきた。

アラサー世代の私たちを取り巻く現実は、時にシビアで残酷だ。だからこそ、自分の選択を正解だと信じられなかったり、時に他人と比べて苦しくなったり、悩み立ち止まる瞬間もあるだろう。

けれど、そんな時間すらも慈しんで——さとうさんのように、自分の心が動くものに、もっと素直になってみてもいいのかもしれない。

作品情報

30までにとうるさくて

30までにとうるさくて
「どうして私たちは、年齢に縛られて生きなきゃいけないんだろう? 」 女がゆえ抱えるリアルな悩み/焦り/怒りをユーモラスかつ痛烈に描く。 現代の東京を生き抜く29歳独身女性たちの恋とキャリアとセックス、 そして友情の物語。 これはきっと、今を生きるあなたの話。

取材・文/安心院 彩 編集/栗原千明(編集部)