カシオ 辻 彩子さん/『G-SHOCK』の外装を作るおっとり理系女子の芯の強さ【連載:ワーキングビューティー・アルバム Vol.17】
仕事でもプライベートでも輝いている女性をクローズアップ! 自分らしいワーク&ライフスタイルで充実した毎日を送っている女性たちから、ハッピーに生きるヒントを教えてもらっちゃおう。
今回紹介するワーキングビューティーは、衝撃に強い、タフな腕時計でおなじみ、G-SHOCKシリーズの外装設計を手掛ける辻彩子さん。理系女子、通称“リケジョ”ならではのこだわりが詰まったお仕事とプライベートを覗いてみよう!
初めて自分で買った腕時計が『G-SHOCK』
まさか自分が作る側になれるなんて!
編集部:現在のお仕事内容を教えてください。
2008年に新卒で入社してからずっと、G-SHOCKの外装設計を担当しています。具体的には、デザイン部門からあがってきたデザインを基に、時計のエンジン部分となるモジュール、その部品全体の耐衝撃性や防水性などを考えながら、バンドやケースなど外側の部品を設計するのが主な仕事です。新規の構造の場合には、試作を繰り返し最終的に品質保証などのOKが出たら、メーカーに部品を発注して実際に作る工程にまわしていきます。
編集部:む、難しそうなお仕事ですね(笑)。“ど”理系のお仕事だと思いますが、いつ頃からこういった分野に興味を持たれたのですか?
両親が理系だったことが関係あるかもしれませんが、小さい頃から理科は好きでした。いつから好きかと言われると、高校で学んだ物理科目の力学が理系への目覚めですかねぇ。物が落ちるスピードや運動の法則など、“目に見える現象はすべて理由がある”ことがものすごくおもしろくて。もっと力学が学びたいと思い、大学は機械系の学部へ。学年160人中、女子は5人だけでした(笑)。
編集部:かなり専門分野を鍛えた学生時代だったのですね。就職先選びはどのようにして?
材料力学の知識を活かしてものづくりがしたかったんです。そして、できれば身近な製品がいいな、と。そこで見つけたのがカシオでした。電卓や時計といった、昔から親しみのある製品を作っているところに惹かれて。さらに、中学生のとき初めて自分で買った腕時計がG-SHOCKで、大のお気に入りだったんです!そんな思い入れもあり、入社してG-SHOCKの部署に配属されたときは、とても嬉しかったですね。
スケジュールが遅れ大ピンチ!
小さな部品にアイデアと工夫が凝縮される過程
編集部:G-SHOCKは数多くのモデルがありますが、最近はどんなお仕事を担当されたのですか?
今日も持ってきたのですが、パイロット仕様のスカイコックピットシリーズ『GW-A1000』です。このりゅうず部分を担当しました。りゅうずというのは、腕時計の文字板の横についているネジのようなもので、時計の針を止めたり、回したりすることができる部分です。『GW-A1000』では、電子式りゅうずで各種機能を簡単に操作でき、かつ、確実にロック・操作解除できることも求められました。さらに大型のりゅうずで使いやすさも追求しなくてはならず・・・。通常の開発期間を過ぎてもなかなか構造が決まらなくて大変でした。
編集部:あんなに小さな部品一つなのに、そんなに時間がかかるのですね!
そうなんですよ(笑)。当たり前ですが、りゅうずが決まらないと、時計は完成しません。全体的にスケジュールが押してしまい、営業・販売、さらには発売日を心待ちにしてくださっているお客さまもお待たせしてしまうギリギリのラインにまでなりました。それでもりゅうずの設計がうまくいかず、休みの日もずっとりゅうずのことを考える日々。何十回も試作を重ねたのですが、りゅうずを回したときの「カチッ」というクリック感がどうしても出せなかったんです。何をやってもダメで、焦りと不安で押しつぶされそうでしたね。大きな壁にぶつかるというのは、このことなんだって思いました。
編集部:その状況は、どうやって乗り越えたのですか?
当時の上司から「トラブルが起きたときこそ、成長のチャンスだ」と言ってもらえたことで、まずは精神的に立ち直れました。自分にとってこの状況はマイナスじゃない、苦しくても最後までやり遂げようって思えたんです。それまでは最初に考えた構造を基にサイズを変えるなどしていたのですが、一度すべてを捨てて、ゼロから違うものを考えてみることに。時計以外のあらゆる機械の仕組みを調べたりもしましたね。そんなとき思い浮かんだのが「バネ」の働く力の方向を変えること。それが最終的にはうまくはまり、りゅうずを完成させることができました。構想からリリースまで2年もかかってしまいましたが、ものすごく思い入れのある時計です。
編集部:2年もりゅうずに向き合っていたのですね! そこまで1つのものに打ち込めるのはすごいですね。
投げ出したくなることも、もちろんあります。でも、逃げても良いことなんて1つもないって思って。実際、新卒時代に任された仕事がどうしても自分でできず、担当変更されてしまったことがあったんです。そのときに味わった悔しさと、最後まで自分でやりたかったという強い思いが、ずっと忘れられないんですよね。
趣味はマラソンと山登り
苦労して乗り越えた後の爽快感が仕事との共通点
編集部:マラソンや山登りがお好きだそうですね。どちらも、ゴールまでの道のりがとてもハードなイメージがあります。
仕事もそうですけど、走る距離が長かったり、登る山が高ければ高いほど、終わったあとの達成感は言葉で表しきれません。あの感覚が好きなんです(笑)。とくに走ることは大好きなので、週末の夜に5キロほど近所をランニングしています。仕事で嫌なことがあっても、体を動かすことで気分もスッキリして、ほどよい疲労感でぐっすり眠れるんです。
編集部:とても健康的ですね!技術職は徹夜なども多いイメージですが、食生活や美容で気をつけていることはありますか?
確かに毎日帰りが遅いので、夜遅くなったときの食事はサラダや納豆など、ヘルシーで栄養のあるものにして控えめに。その代わり、朝と昼はしっかり食べますよ。また、美容に関しては肌がとても乾燥するので、保湿をしっかりするようにしています。寝るときのスチーマーも欠かせません。というのも先日、同僚から「新卒のころは働きすぎてて、肌がカサカサだったよね」なんて言われてしまって(笑)。どんなに仕事が忙しくても、最低限のことはしっかりしないと、と改めて思いました。
編集部:最後に、お仕事の目標を教えてください。
「新しいものを作りたい」という気持ちは忘れないようにしたいです。また、小さいサイズの時計になると難易度も高いので、当社の女性向けブランド『Baby-G』の外装設計もいつかチャレンジしてみたいですね。
取材場所に現れた辻さんは、ふんわりしたスカートにストレートの黒髪をハーフアップにした清楚なスタイル。だが、腕にはめられたスケルトンの『G-SHOCK』に違和感を覚えたのもインタビューが終わるまでのこと。時計の構造や、りゅうずの機能などについて、目を輝かせながら話す彼女は、まさに探究心旺盛な“リケジョ”! どんな困難にぶつかっても、最後まで諦めずに業務を全うするタフな姿は、まるで、彼女が愛して止まない『G-SHOCK』そのものだった。
取材・文/岩井愛佳 撮影/赤松洋太
『ワーキングビューティー・アルバム』の過去記事一覧はこちら
>> http://woman-type.jp/wt/feature/category/rolemodel/beauty/をクリック