堀江愛利「自信も特別なスキルも一切いらない」どんな女性も起業家になれる超シンプルな理由
「私なんて……」つい口にしてしまうこの言葉。それを「私ならできる」に変えたなら……? 本特集では、常識にとらわれないチャレンジで自分らしいキャリアを切り開いた女性たちのストーリーをお届けします
会社員に限らない、多様な働き方ができる世の中になった。とはいえ、自身のキャリアの選択肢として「起業」がある女性は少数だろう。
2021年に東京商工リサーチが発表した調査結果では、女性経営者の数自体は増えているものの、全企業に占める女性経営者の割合は14.2%とまだまだ低い。

そんな現状に対して「No」を突きつけるのが、シリコンバレーで女性起業家支援を行うWomen’s Startup Labの堀江愛利さん。

彼女は2022年3月、日本女性の起業を支援する団体「Women’s Startup Lab Impact Foundation Japan」を設立し、「女性が自らの冒険心と共に未来を切り開いてほしい」という願いを込め、女性初の大西洋横断を成し遂げた飛行士Amelia Earhastの名前をとった『Amelias(アメリアス)』という活動を始めた。
私なんかに起業は無理。そう思っている女性たちに、堀江さんからの力強いメッセージを送ろう。
日本は「女性が起業する」道が極めて細い
私は2013年からシリコンバレーで女性起業家支援の活動を行ってきました。なぜならば、起業家へのお金のつき方には、かなりの男女差があるから。
チームを作ったばかりの男性起業家に億単位の出資がなされる一方、結果が出ているにもかかわらず、女性たちにはなかなかファンドがつかない現状があるのです。
それは日本も同じ。さらに日本の場合、女性たちには「女性だから」という表に出ないサイレンスバイアスが存在し、レッテルが貼られてしまっています。
その事実に気づいていない人もいますし、気づいてもレッテルを外すことで周りとの折り合いがうまく付かなくなってしまうこともある。
つまり、日本は社会構造的に「女性が起業する」道が極めて細いのです。周りを説得し、ジグザグな道を切り開きながらではないと、女性は起業ができない状況が続いています。

そんな状況を変えるには、女性起業家を応援すると同時に、環境そのものを変える必要がある。そうすれば道は広がり、その道を舗装していくことで、女性起業家たちが純粋に“速く走る”ことに集中できるようになります。
だから、日本で開始した『Amelias』の活動は、「環境を変える」という大きな課題とともにスタートし、自治体や大手企業とともに、女性起業家育成のエコシステムをつくろうとしています。
今年6月から7月にかけて、『Amelias』では高校生を含めた450名もの女性起業家を集めた日本初のイベントを全国4カ所で行い、九つのプログラムを実現しました。これは、自治体や企業などあらゆるステークホルダーを巻き込んで、準備期間わずか10カ月で実施した、かなりクレイジーなプロジェクトです。
最初は無謀だという声もありました。でも、協力してくださった自治体の皆さんは、「日本のことを分かっていない」と私を非難するのではなく、「愛利さんはめちゃくちゃなリクエストをするけど、何かを起こしてくれるかもしれない」と期待をかけてくださった。ありがたかったですね。
「自分が見たい世の中」から絶対に目をそらさない
起業は大それたことに思われがちですし、中には「起業なんて無理」と思う女性もいるかもしれません。
私もシリコンバレーでWomen’s Startup Labを始めた時は、「他にもっと成功した人がいる中で、私がやる意味はあるのかな?」と自分でも思ったくらいです。

でも、周囲の女性を見渡すと、同じようなことをしている男性と比べても、彼女たちの収入は半分ぐらいだったんです。
男性はある程度の地位についたら遊んだり、余剰資金でベンチャーを始めたりするけれど、女性は本を書いたりボードメンバーになったりと、経済的安定を構築するのに必死。そこにもまた、男性と同じようなチャンスが女性には訪れていない状況がありました。
そうやって次のフェーズに行こうとしている女性が、他の女性起業家の支援なんて泥臭いことはなかなかできない。「それならまず、私が始めてみよう」と思い、一歩を踏み出した経緯があります。
つまり、大事なのは「自分が見たい世の中」から絶対に目をそらさないこと。そのためにできることが小さくても、スローでも、「No matter what(どんなことがあっても関係ない)」の精神です。
そもそも起業の一歩目は、「自分の行動によって、たった一人でも誰かが喜んでくれる」ような、素朴なことでもいいんですよ。何より、始めてみること。そこから次にやるべきことや目指すべきことが見えてきます。
いきなり「世界を変えてやる」なんていうビッグドリームを広げることで、先が見えなくなり不安になるのは当たり前。外からの評価に目がいきすぎると、自分の足元を見失うことにもつながります。
だからこそ、まず目標はずっと身近なものに。目線は高く持ちつつも、「これだけ実現できればいい」と自分が納得できるボトムラインをきちっと引きましょう。
「うまくいかなかったらどうしよう」と不安に思うときは、「たった一人の心が動けばOK」というベースに戻ればいいのです。
それに、自分が消えても世の中は続きます。だから私は不安になったとき、「自分がいなくなっても社会は動くし、失敗したってみんな忘れてくれる」と思うようにしています。

愛利さんは、不安を感じたときはイタリアの田舎の風景を思い出すそう。「イタリアでワインを飲んで、イタリア語を話せるようになりたいな……って考えたりするんですよね。そんな逃げ場のようなものを持つことも大切なのかもしれません」
会社で働きながらのプチ起業もあり。「こっそりビジネス」のすゝめ
私が女性に起業を勧める理由は、自由です。そして、インカムが増えるポテンシャルも大きい。
特に今はまだ女性起業家が少ないから、誰かに必要とされる機会も多い。世の中には埋まっていない穴がたくさんあるんです。
ユニークなブランド、ユニークなカスタマー対応、ユニークなこだわり……。皆さんの豊かな感性から生まれる個性こそが、大きな武器になります。
そして、起業と一言にいってもその方法はいろいろあることも知ってほしい。一念発起していきなり大きなことを成そうとせずとも、会社で働きながら小さく起業することもできる。
たとえ自分に自信がなくても、オンラインのツールを使えば、こっそりスモールスタートでビジネスを始めることができます。
それに、自信はもともとあることが大切なのではありません。自信がなくても「行動する」ことで、少しずつ得られるものです。
逆に、「自信がないから」といつまでも動かなければ、そのまま変わりません。
動いた結果、成功しなくてもいいんですよ。「行動した」ことが大事で、そこで新しいことを学ぶこともあれば、「私ってすごいじゃん」と思えることもあるかもしれない。
大きな成果を出すことができなくても、行動して何かを学べたのなら、それも一つの成功です。
例えば、今の時代、自分の顔や名前を出してサイトを立ち上げたりせずとも、『メルカリ』のようなサービスを使って自分がショップオーナーになって何かを売ることもできますよね。
売るものだって何でもいいんですよ。自分が作った折り紙をネット上で世界中の人に売ることだってできる。
何も、すごいことだけがビジネスじゃない。ネットを通して、ありきたりの良いものに感動してくれる人を探せばいい。今はそんなことができる、デジタルフリーダムな世の中なんです。
そして、もっと興味が持てたら、ぜひプログラミングを趣味としてでもいいから、始めてみてください。
プロフェッショナルのプログラマーにならなくても、デジタルを使えば自分が作りたい世界を作れる可能性が見えてくる。その事実に気づいてほしいです。

実は私も育児中、いろいろ試してみたんですよ。25セントくらいのアメリカの小物を買って、ネットで日本人向けに売っていたこともあります。
その時は、子どもを寝かしつけた22時以降に、こっそりとビジネスを始めて。それが結構売れて、会社勤めの時と同じぐらいの収入を得ることができたんです。全くもって、テクノロジーは最高だなと思いましたね。
自分が何か商売を始めるために無料で使えるオンラインツールも年々増えていますし、うまく利用すれば可能性は無限大。世界中の人が皆さんのお客さんになり得る可能性があるのです。
本当に、便利でうれしい時代に私たちは生きているなと思います。
今は「わがままが許される」良い時代
最後に一つお伝えしたいことがあります。それは、「私なんて」と思っている人でも、起業はできるということ。
いいですか? 起業は、誰でもできます。
それでも無理だと思ってしまう人は、「私なんて」と「〜したい」の間を埋めてみてください。
・「私なんて、〇〇ができないけど、今は無料で使えるツールがあるから、〜がしたい」
・「私なんて、〇〇だけど、自由がほしいから、〜になりたい」
間に入る言葉は何でもいいから、「私なんて」で止まらないことが大切です。
これは若い頃の私の話ですが、昔の私は英語力が全然ありませんでした。メールもまともに打てず、「もう一度英語を学び直しなさい」と怒られ、それがストレスになり、考えすぎるあまり、会社に向かう高速道路から降りられなくなったこともあります。
でもある日、上司のさらに上のマネジャーが「君にしかできないことでキャリアを積むことが重要だから」と、他の部署に引っ張ってくれたんです。
とはいえ、その当時は「そうは言うけど……」と思っていました。「これはできるけど、これはできない」は通用しないと思っていたんです。

でも、今の時代はそれでいいんです。できないことはテクノロジーが解決してくれますから。
例えば、オンラインツールで言語を翻訳したり、文法をチェックをしたり。苦手なことをカバーするソリューションが今はたくさんあります。だから、できないことがあっても問題ありません。
繰り返しますが、今はとにかくツールが豊富です。「私はこれが好き」「この作業が得意」という人たちにリーチできるサービスが、ネット上にはたくさんあります。
さらに、「1週間のうち5時間しか働きたくない」というようなリクエストも許される。また、そういうニーズを持っている人が、リモートで起業をサポートしてくれるかもしれません。そうやって、ベストマッチが生まれることもあるわけです。
ね、本当に良い時代でしょう?
だからこそ、私は「わがまま」を勧めたい。「我が思うまま」に、皆さんには生きてみるチャレンジをしてほしいと願っています。
Women's Startup Lab Impact Foundation 代表取締役 堀江愛利(Ari Horie)さん
取材・文/天野夏海 撮影/竹井俊晴 編集/栗原千明(編集部)
『サヨナラ、“私なんて”』の過去記事一覧はこちら
>> http://woman-type.jp/wt/feature/category/rolemodel/sayonara/をクリック