何かを始める“恐さ”はどう乗り越える? 起業、独立、大学院進学…働く女性3人の「挑戦してみた」座談会
「私なんて……」つい口にしてしまうこの言葉。それを「私ならできる」に変えたなら……? 本特集では、常識にとらわれないチャレンジで自分らしいキャリアを切り開いた女性たちのストーリーをお届けします

前からやってみたかったこと、興味はあるけど挑戦できずにいること。そんな胸の中に秘めた夢や目標を持つ人は、きっと少なくないだろう。
それを「私には今の仕事があるし」「きっと才能がないし」と言い訳するのは容易い。けれど、一歩踏み出してみることで、思いもよらなかった新しい道が開けるかもしれない。
今回はその「一歩」を踏み出し、大きくキャリアを変えた3人の女性が集合。彼女たちはどのようにチャレンジに向き合ってきたのか。「やってみたらできた」と語る彼女たちの体験談と、挑戦した後の変化を聞いた。

太田冴(おおた・さえ)さん
1989年生まれ。早稲田大学卒業後、大手金融機関に8年間勤めた後に退職。30歳で早稲田大学大学院修士課程に入学し、社会科学の分野で女性管理職の働き方や公共政策について研究。2022年4月に修士課程を卒業。現在はフェムテック系スタートアップにて働く他、ライター、読者モデルとしても活動中 ■Instagram/Twitter

寺尾彩加(てらお・あやか)さん
1994年生まれ。新卒で動画コンサルティングを行うベンチャー企業に入社し、クリエーティブコンサルタントとして女性商材の動画プランニングに従事。在職中の2018年に日本初の吸水ショーツブランドであるPeriod.を創業し、20年に独立 ■Twitter

ぼのこさん
子ども向けアパレルショップで約7年勤務し、店長職を経験。その後フリーランスのクリエイターとしてブログやInstagramで漫画を執筆中。自身の経験をもとにした漫画『ぼのこと女社会』シリーズが人気を呼び、読者は月間10万人に上る。著書『女社会の歩き方』(KADOKAWA出版) ■ブログ/Instagram/Twitter
大胆に見える挑戦、あったのは勢いだけ
——今回は「思い切った挑戦」をした経験を持つお三方に集まっていただきました! まずは皆さんがどんな挑戦をしてきたのか教えてください。
私にとっての一番の挑戦は、日本初の吸水ショーツブランド『Period.』を立ち上げたことですね。 前職で女性向け商材のプロモーションに携わっていた時、海外のトレンドをリサーチする中で吸水ショーツの存在を知って。
試しに実際に自分で使ってみると、あまりの快適さにびっくり。これまで「仕方ない」と諦めていた不快感が一気に解消したんです。 当時、日本にはまだ吸水ショーツがそれほど流通していなかったので、「私が広めないと!」という使命感に駆られたんですよね(笑)
そう思ってからは頭より先に体が動いてしまって、気付いたら副業でブランドを立ち上げていました。完全に勢いでしたね。今は前職を退職し、『Period.』に専念しています。

勢いでチャレンジした、という意味では私も寺尾さんと同じですね。
私は前職で子ども服の販売店で働いていたのですが、人間関係に悩んで体調を崩してしまったことがあります。その経験をもとに、「働きやすい職場をつくりたい」と思うようになりました。
入社4年目で店長になり、環境改善について会社に働き掛けたり、店舗のメンバーと根気よく接していくうちに、働く人をエンパワーメントすることのやりがいを感じるように。 ただ、一企業に属しているだけではできることに限界があると考え、思い切って退職する決断をしました。
今はフリーランスのクリエーターとして、私の経験をベースにした漫画をブログやSNSで発信しています。
ーー寺尾さんとぼのこさんは独立という共通点がありますね。太田さんの挑戦についてもぜひ教えてください。
実はぼのこさんと同じように、新卒入社した金融機関で体調を崩してパニック障害になった過去があるんです。男性中心の世界だったので、ジェンダーバイアスによるストレスもあったように思います。
休職し、それまで当たり前にできていたことができない、いわば社会的マイノリティーの立場に。その時、「この社会は元気な人を中心につくられてるんだ」と感じました。
誰もが生きやすい社会を作りたい。けれど、知識がない状態では社会を変えられない。そう考えるようになったことを機に、会社を辞め、大学院への進学を決めました。
女性の働き方や公共政策について学び、今年の4月に卒業してからは、学んだことを社会に還元していくためにフェムテック企業で働いています。
自分にはたくさんの選択肢があることに気が付いた
ーー皆さん大胆なチャレンジをされていますが、不安や怖さはなかったのでしょうか?
不安よりも「やりたい」っていう気持ちの方が大きかったですね。私が吸水ショーツに出会った時の感動が忘れられず、「私が広めなくて、他に誰が広めてくれるんだろうか?」という思いで頭がいっぱいでした。
それに、当時はまだ20代の半ば。もし思うような結果が得られなかったとしても、いい経験になるんじゃないかな、という確信があったんです。
失敗しても、その経験を生かしてまた新しいことに挑戦すればいい。今思えば、若さゆえの勢いだったのかもしれません(笑)

私も先のことをあれこれ考えるより、直感や自分の心に従うタイプなのですごく分かります(笑)。「飛び込んでしまえばなんとかなるだろう」って考えなんですよね。
私は、具体的にどう活動していくかも決まっていない中で前職を退職しました。あったのは、「もっと多くの人に影響を与えられる活動がしたい」という目標だけ。 正直言うと、今のように漫画を描くようになったのも成り行きなんです。
ーーもともと絵が得意だったり、漫画が好きだったわけではなく?
はい。むしろ、漫画を読んだことはほとんどないくらいでした。
ただ、試行錯誤しながら情報発信を行っているうちに、漫画が一番多くの人の目にしてもらえるということに気付いて。そこから、絵や漫画の描き方を練習するようになりました。もし会社を辞める前にきちんと戦略を立てていたら、漫画なんて選択肢は出てこなかったと思います。
やってみて初めて出会える選択肢って、意外と多いんじゃないでしょうか。

ーー太田さんは大学院で学び直す決断をした時、仕事を辞めることへの不安はありませんでしたか?
まったく不安がなかったわけではないですが、体調を崩して休職したことで、ある意味吹っ切れたんですよね。すでに一回休んでるわけだし、もう少し別の道を見てみてもいいんじゃないかな、って思えたんです。
それまで大きな挫折を経験したことがなくて、敷かれたレールの上を歩んでいれば人生は成功できると思って生きていました。だから、「このままでいいのかな」という疑問が頭の中を過っても、あえて別の選択肢を考えることはしてこなかった。
でも、一度立ち止まったことで、世界が急に広がって見えたというか。いろいろな選択肢があることに気が付いて、私はどう生きたいのかを自問することができました。
ーー挑戦したことで、ご自身のキャリアや仕事にどんな良い変化がありましたか?
本当にやりがいを感じる仕事に出会えて幸せだな、という気持ちでいっぱいです。
私がPeriod.を立ち上げた頃と比べると、生理を取り巻く課題を「社会問題」として扱うメディアも増え、フェムテック領域への関心も高まっています。「この吸水ショーツに出会えてよかった」とお客さまから言っていただくことも増えました。
最初のうちは、「本当にニーズはあるのか? 日本で受け入れられる商材カテゴリなのか?」と常に不安を感じていました。それでも、少しずつ世の中が変わっている実感が持てるようになった今、挑戦して良かったなと思いますね。
私も、自分の発信によって「価値観や人生が変わった」と言ってもらえるのが一番うれしいです。
以前、「ぼのこさんの漫画を読んで、私も店長を目指すようになりました」っていうメッセージをくださった方から、その1年後に「店長になれました!」という報告をいただいて。 そういった声を聞くたびに、自分の選択は間違っていなかったな、と思います。
私は、大学院で学ぶという選択を経て「自分は何がしたいのか」が明確になったことが一番の成果かもしれません。
「女性のキャリア」という大きなテーマについて知識を深めていくうちに、課題の根深さを知り、この課題を解消するためには長い時間と労力がかかると感じるようになりました。
でも、ライターとして情報を発信したり、フェムテック関連の企業に就職してイベント運営に携わったりすることで、少しずつですが、かつての私のように課題を抱えた女性が生きやすく、働きやすい社会づくりに貢献している実感が持てています。
「私なんて」は人と比べたときに生まれる
ーー挑戦したいことがあっても、自信が持てず一歩踏み出せない人もいると思います。皆さんは「私なんて」という思考にならないために、意識していることはありますか?
「私なんて」って思うことだらけですよ。よく「頑張ってるね」「すごいですね」と言ってもらうことが多いけど、全然そんなことないんです。
本当は毎日コツコツ何かをやることは苦手だし、早起きも得意じゃない(笑)でも、私は自分の短所を知っているのと同じだけ、長所や強みも知っている。だから、「これならできる」ってものが分かるし、自分のことが信じられるんです。
きっと、誰にだって得意なことの一つや二つあるはず。どんなに小さいことでもいいから、まずは自分の強みをちゃんと見つけることが大事だと思います。それが、「私なんて」思考から脱するきっかけになるから。
私も以前は自分に自信が持てないことが多かったですね。でも、それって人と比べているからだって気付いたんです。
学歴や収入は分かりやすい指標なので、ついつい比べそうになってしまう。他人と比べる前に「私はどうしたい?」と心の声を聞いてみるようにしてからは、とても楽になりました。

太田さんが言うように、「私なんて」は他人と比較した時に生まれる言葉だと思います。でも、誰しも見えている部分だけがすべてじゃないんですよね。
例えば、私にとって寺尾さんは「何でもできるパワフルで明るい女性」というイメージでしたが、実際にお話ししてみたら「早起きは苦手」という意外な一面を知ることができて親近感が増しました(笑)
活躍してキラキラ輝いている人の一面だけを見て「私なんて」って卑下してしまうのって、すごくもったいないことだな、って今日改めて思いました。
最初から大胆な行動を起こすことが怖いなら、スモールステップでチャレンジしてみるのもいいですよね。私も、いきなり独立するのは不安だったので、最初は会社員を続けながら副業でブランドを立ち上げました。
一人一人に合ったチャレンジの仕方があるはずなので、何はともあれやってみて、試行錯誤しながら自分なりの道を見つけていくのがいいと思います。
取材・文/安心院 彩 編集/秋元 祐香里(編集部)
『サヨナラ、“私なんて”』の過去記事一覧はこちら
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