ファーストサマーウイカ「キャリアはどれだけ流されるか」漂流スタイルで手にした唯一無二のポジション

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Another Action Starter

日々の暮らしの中で、ちょっとしたチャレンジをすること。それが、Woman typeが提案する「Another Action」。今をときめく女性たちへのインタビューから、挑戦の種を見つけよう!

ファーストサマーウイカさんの肩書を説明するのは難しい。

女優・歌手・バラエティータレント。それぞれ違う筋肉が求められるフィールドを縦横無尽、神出鬼没に駆けめぐっている。どうして彼女は、こんなにもボーダーレスに自分のキャリアを広げることができるのだろうか。

ファーストサマーウイカさん
ウイカさん

私、鼻が利くんです。上京とか、転職とか、いい男を捕まえるとか(笑)。何か新しいことをするときって、必ず選択肢がある。何をつかんで何を手放すか。この嗅覚に敏感でいたい。

チャンスってためらっていると、どんどん逃げていく。自分の嗅覚を研ぎ澄ませて、これはいけるというものは取り逃さない。そうやってここまでやってきました。

そう明るく言い切るウイカさん。自分に何ができるのか、これからどのような道を進むべきかと悩んでいる全ての人へ、漂流するようにキャリアを築く彼女のチャレンジマインドを紹介したい。

自分の軸は、ゴム製だからこそ折れにくい

ファーストサマーウイカさんが“世間に見つかった”のは、2019年。バラエティー番組で披露したコテコテの関西弁によるヤンキーキャラが話題を呼び、スポットライトの中心に躍り出た。

しかし、キャリアの出発点は小劇場だった。大阪を拠点とする劇団レトルト内閣で芝居に打ち込み、上京後はアイドルグループ・BiS、そしてBILLIE IDLE(R)の一員として数々のステージに立った。

一見すると、彼女の生き方はいつも行き当たりばったり。何を軸にこれまでのキャリアを歩んできたのだろうか。

ウイカさん

私、これといった軸を持ったことがないんですよね。

強いて言えば、芸能以外の道で生きる予定はないっていう気持ちがあるくらい。かなりゆるい軸ですね。

そうウイカさんは軽やかに笑い飛ばす。

ウイカさん

私の軸は免震構造になってるんです。柔らかいゴム製の軸で、あえてグニャグニャとブレさせる。

ファーストサマーウイカさん
ウイカさん

それこそ、最初の夢は声優になることでした。そこから劇団行っちゃえ〜、アイドルやっちゃえ〜、テレビ出れちゃった〜、で今に至っています。

だから、肩書は何? って聞かれたら、「どれでもいいです!」っていう感じです(笑)

テレビで見ているキャラクターそのまま。突き抜けるほど明快なウイカさんのキャリア論。ともすると、適当そうに聞こえるスタンスも、掘り下げていくと理にかなった根拠がある。

ウイカさん

もしガチガチの鉄とか木でできた軸だったら、ボキッて折れたらもう修復不可能になっちゃう気がするんですよね。

でもグニャグニャのゴムの軸なら折れにくいし、むしろ反動を利用してもっと動ける。

おかげで私、今までの人生で大した挫折をしたことがないんです。反省や後悔は人並みにあるし、挫折するほど追い込めてなかっただけかもしれないですけど(笑)。でも、描いたものを諦めたことは一度もない。

てっきりバラエティーで名前を売ることは、やりたいことに近づくためのステップなのだと思っていた。

でも、そうじゃない。ウイカさんは、その時その時で、やりたいと思ったことに素直に飛び込んでいるだけなのだ。

ウイカさん

私にとってキャリアって、“どれだけ流されるか”なんです。長い人生、ずっと自分の力で泳いでいたら体力がもたない。

ふわ〜っと流れに身を任せていた方が、いろんな岸や港について、そこで思ってもみない方向に行けるかもしれない。その方が面白いじゃないですか。

ファーストサマーウイカさん

世のキャリア論は、自分の軸を持てと口を酸っぱくして唱え続けている。それをうのみにして自分の軸を探すあまり、キャリア迷子になっている人も多い。

でも迷子になっている状態も「あえて流れに身を任せている」と思うだけで視界が変わってくる。

ウイカさんがいつもパワフルなのは、そんなふうに自分の状態をプラスに置き換える視点を持っているからかもしれない。

ウイカさん

何も考えていないわけではないんですけどね。こっちの方向に行きたいなという、うっすらとした希望はある。その上で流される。

流木くらいの感覚でいたいんです、私は。その方が何かマイナスなことがあっても腹も立たないでしょ?

他人の「模倣」をしても個性は消えない

そんな戦略的漂流でたどり着いた新しい仕事が、10月7日(金)公開のアニメーション映画『バッドガイズ』。嫌われ者の大悪党たちが世界を脅かす陰謀に立ち向かう痛快エンターテインメントだ。

ウイカさんは本作で、“天才ハッカー”の毒舌ガール・タランチュラの日本語吹替にチャレンジした。

ウイカさん

小さい頃に声優になりたいと思っていた私にとって、アニメの声をあてるのは一つの夢。でも、前回は映画『100日間生きたワニ』でイヌを演じて、今回はタランチュラ。なかなか人間の役が来ないんですよ……(笑)

でも、まだまだこの先もかなえたい夢があるというのはありがたいですね。

ファーストサマーウイカさん

毒舌ガール・タランチュラのポーズ

吹替の難しさは、オリジナルキャストが演じたセリフ、つまり原音があること。今回で言えば、英語版でタランチュラ役を演じたオークワフィナの声に寄り添うことが求められた。

ウイカさん

テンションや感情を、原音になぞらえて表現しなければいけないことが難しかったです。

映像だけ観るとテンション高めに感じるところも、原音だと淡々と話していたり。そこを埋める作業は、実写吹き替えと異なる苦労がありました。

だからこそ、徹底的にオークワフィナの声を聞き込んだ。

ウイカさん

実はオークワフィナが演じた役の吹き替えをするのは2回目だったので、感覚をつかみやすいところはありました。

彼女の特徴は、あのハスキーな声。そのままなぞるとテンションが低くなりすぎるので、あの声をベースに、私は少年風のちょっと勇ましい声を出しながら、日本語吹替版ならではのオリジナリティーを意識しました。

自分以外の誰かをモデルケースにしながら、自分の色を出す。それは、ウイカさんがキャリアを積み上げていく上でも大事にしていることだ。

ウイカさん

私が今までやってきたことって、全部模倣から始まっているんです。

仕事のチョイスの仕方はこの人で、パブリックイメージ、ポジショニングはこの人を参考にしようとか。そうやってカテゴリー別にいろいろなモデルケースを見つけて、その人のまねをしてきました。

ファーストサマーウイカさん

自分にしかないものが求められるエンターテインメントの世界では、模倣品なんて最も価値がないもののように見える。だけど、ウイカさんの考えは違う。

ウイカさん

芸能界に限らず、オリジナリティーとか個性を求められるけど、変に意識しなくていい。「ああなりたい」の模倣から始めてもそのうちちゃんと個性がにじみ出してくる。

この『バッドガイズ』でも、原音をなぞりながらも、ちゃんとそこにファーストサマーウイカの個性は刻まれている。

ウイカさん

同じ役を他の役者さんが演じても、必ず違うものになる。模倣したって、全く同じものにはならない。古典芸能が良い例ですよね。

自分の個性は絶対に消えないから、憧れの存在をどんどんハッキングしていったらいいと思います。

ウイカさん

自分だけの軸を探すより、うまく先人たちの知恵と技術をハッキングした方がずっと効率的。

そうやって他の人たちが持っていたものを自分のものにしていったら、いつの間にか周りの人が言ってくれるんですよ。「すごくしっかりした軸を持ってらっしゃいますね」って。

だから最初から「自分だけの軸」にとらわれる必要はないと思います。

器用貧乏という特技は、ずっと私の欠点だった

流れに身を任せながら、さまざまな分野で結果を残し続けるウイカさん。次々に新しいジャンルの仕事に挑戦し、未知の場所でも成果をあげられるのはなぜなのだろうか。

ウイカさん

もともと生まれ持った気質もあるかもしれません。私、何事も70点を出せるっていう特技があるんですよ。

ファーストサマーウイカさん

思わず「うらやましい」と口にしそうになったところで、ウイカさんは「でも」と続けた。

ウイカさん

この器用貧乏な体質は、ずっと私の欠点でした。芸事の世界は何か一つでも秀でているものがあったら、それが突破口になる。私にはそれがなかった。

中も外も平均的。100点を取れる教科がないって、武器がないということ。イコール埋もれやすいということなんですよね。

しかし挑戦を重ね、その都度環境が変わることでコンプレックスが武器になった。

ウイカさん

「何事も70点」という短所が、タレントの世界においては「融通が利く人」という長所になった。 何でもそうなんですよね。あるところでは短所だったことが、別のところでは長所になる。

だから、まずは長所も短所も含めて自分の特性を理解しておくこと。その上で、強みや弱みを生かせる環境を見つけられたら最強ですよね。

よく「私なんて短所だらけで……」って言う人がいますけど、その短所を全部武器に変えられたら、めちゃくちゃ武器のある人間になれるんです。

ファーストサマーウイカさん

場当たり的に見えたファーストサマーウイカさんのキャリアは、実は信念によって築き上げられたものだった。

耐震機能付きの軸を持つこと、先人たちの知恵と技術をどんどんハッキングすること、短所も武器に変えること。

もし挑戦を目の前にしておじけづいているならば、まずこの三つを実践してみるといい。そうすれば、あとは流れに身を任せても、そこでサバイブしていけるはずだ。

ファーストサマーウイカさん

<プロフィール>
ファーストサマーウイカさん

1990年6月4日生まれ。大阪府出身。舞台女優として地元の大阪で活動した後、2013年5月、BiSの新メンバーに加入、メジャーデビューを果たす。14年にBiSが解散。15年からはBILLIE IDLE(R)の一員として19年末の解散まで活動を行う。「女が女に怒る夜」への出演をきっかけにバラエティーで大きくブレークし、タレント、女優、歌手として幅広く活躍。22年10月よりドラマ「ファーストペンギン!」に出演。公式Webサイト、Instagram:f_s_uika、X:@FirstSummerUikaYouTube

取材・文/横川良明 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER) 編集/柴田捺美(編集部)

作品情報

ファーストサマーウイカさん

映画『バッドガイズ』
2022年10月7日(金)TOHO シネマズ 日比谷他 全国ロードショー
■声の出演:尾上松也、安田顕、河合郁人(A.B.C-Z)、長田庄平(チョコレートプラネット)、ファーストサマーウイカ
■監督:ピエール・ペリフェル
■配給:東宝東和、ギャガ
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