出産前と出産後、どっちのタイミングで転職する? 「妊娠と転職」への人事の本音

大きな声では言えない本音、ぶっちゃけます!
採用担当者の覆面ガチトーク

表立って聞きにくい「これってどうなの?」という転職にまつわる女性たちの疑問を中途採用担当者に直撃!人事のリアルな見解とは……?

覆面人事座談会

日本人女性の第一子出産時の平均年齢は30.9歳(出典:2021年人口動態統計)。子どもを持つことを望んでいるアラサー女性にとって、転職のタイミングは悩ましいもの。

「出産前に転職した方がいいのか、それとも出産後に考えた方がいいのか」「入社直後に妊娠が分かったら迷惑をかけてしまうかもしれない……」

本記事では前回に引き続き、そんな悩みに対する3名の中途採用担当者の回答を紹介する。

>>前回の記事はこちら
女性転職者の「妊娠の可能性」を採用側はどう考える? アラサー女性に人事が送る、選考時の心構え

<お話を聞いた中途採用担当者>
●IT系メガベンチャーの採用担当者・加賀さん(仮名)
●大手アパレル企業の採用担当者・中野さん(仮名)
●スタートアップの採用担当者・石田さん(仮名)

「新しい環境でのストレス」を考慮した方がいい

編集部

子どもを持つことを考えている女性の場合、転職のタイミングは悩ましいものがあります。

妊娠はコントロールできるものではないという前提ですが、どう考えたらいいと思いますか?

石田さん

正直にお話しすると、転職するなら妊娠は少し待った方がいいんじゃないかなと思います。

会社員になるからには、その会社に対して給与以上の貢献をしなければいけない。それには最低でも1年はかかります。

その間しっかり頑張って、周りの信頼を得て認められた上で産休育休を取る方が、自分も周りも楽だとは思いますね。

加賀さん

転職直後は絶対にストレスが掛かりますから、そういう意味でもご自身の体調が万全であることは大切だと思います。

慣れている環境の方が負担は少ないことを考えると、今いる会社の環境が厳しい場合は別として、現職で産休育休を取った方が本人にとってはいいケースもあるでしょうね。

石田さん

環境の変化は大きなストレスですからね。その中で子どもを産んで育てる大変さは考えた方がいい。

妊娠に限らず、プライベートと仕事はある程度連動するから、新しい職場で緊張している中での妊娠は、本人にとってしんどいことも多いんじゃないかな。

石田さん

特に初めての妊娠の場合、仕事とプライベートで同時に「初めて」が起きるわけですから。

そういう意味でも、転職後1年間は環境を整えることを優先した方がいい気がします。

加賀さん

産休育休のブランクができる前に転職したいと考える人もいますが、「30歳で産休育休を2回取って、働いていたのは実質4年間」であったとしても、「4年間の実務経験がある人」として選考をします。

ブランクがない30歳の人と比べることはしないので、その点は安心してほしいですね。

「出産前の転職」と「出産後の転職」を経験して思うこと

中野さん

私は1回目の転職後約1年で第一子を妊娠し、第二子の育休復帰3カ月後に2回目の転職をしています。

どちらの転職も経験して思うのは、職場環境を変えたい意志が固まっているのであれば、先に転職しちゃった方が楽だということ。そして、1年間は仕事に集中することをお勧めします。

中野さん

うちの子は1歳と3歳ですけど、めちゃくちゃ手が掛かります。「出産後に落ち着いたら転職しよう」なんて、そんなタイミングは当面訪れないですよ。

編集部

確かに……!

中野さん

それに、子どものことに関しては、自分の頑張りだけでカバーできないことがたくさんあります。会社の制度やチームメンバーに頼らざるを得ない場面が増えるんです。

一方、子どもがいない状態での転職であれば、次の職場になじめるかどうかは自分の努力でカバーできます。家庭など、プライベートとの調整も容易です。

中野さん

そういう意味で、子どもがいない方が環境や仕事に順応しやすい。良くも悪くも無理できるうちに転職しちゃった方が、結果的に楽だと思います。

実際に私は最初の転職時、転職の時点で妊娠を考えていましたが、あらかじめ「1年間は仕事に集中しよう」と決めていました。

編集部

「仕事と育児を両立できる会社に転職する」だけでなく、周囲からの信頼を得たり仕事で成果を出したりと働く環境を自ら整えることによって、本当の意味での「子育てと仕事の両立がしやすい環境」が得られるわけですね。

中野さん

だからこそ、身軽なうちに動いちゃうのがいいと思いますね。1年あれば人間関係も仕事も自分次第でどうにでもできますから。

それに、迷っている時間がもったいないですよ。いつか子どもが欲しいと思っているのであれば、早めに産んだ方が体力的には絶対いいですから。

編集部

仕事は何歳からでも頑張れるけど、妊娠・出産はそういうわけにいかないですもんね……。

中野さん

目の前のキャリアを考えるとちゅうちょしてしまう気持ちはよく分かりますが、キャリアの歩み方は多種多様。今はフリーランスなど、働き方の選択肢も増えています。

ずっと会社勤めをする必要もないし、視野を広げて考えれば、生きていく方法はたくさんある。

だからこそ、年齢のリミットがあることを優先した方がいいと私は思います。

妊娠に関して、会社の都合は考えなくていい

編集部

転職後1年間は仕事に集中しようと思っていたのに、予期せず入社後早々に妊娠が判明することもあります。

コントロールできるものではないので仕方がないと頭で分かっていても、申し訳なさを感じてしまう女性もいますが、人事の皆さんはどう思いますか?

石田さん

それはそれですよね。妊娠は運命だから、しっかりお休みを取って戻ってきて、その後長く働いてくれればOKです。

中野さん

人事として日々いろいろな女性と接していますが、妊娠に対して遠慮する女性が多いのはすごく感じています。

でも、私は会社の都合は考えなくていいと思っています。

予想外のタイミングで産休育休に入ったとしても、それでもチームが回るようにコントロールするのは上司や会社の責任です。

申し訳なく思い過ぎずに、自分の都合で人生を進めちゃっていいんじゃないかな。

石田さん

産休育休の取得や子育てをしながら働く人の実績ができるのは、会社にとって良いことでもありますしね。

加賀さん

ただ、ギブ・アンド・テークの精神や、会社への誠実さはあってほしいなと思います。

テイクしているだけだと本人の居心地が悪くなってしまうので、自分の身を守るためにも誠実さは大事です。

石田さん

「与えられることが当たり前」のスタンスは、組織のバランスを崩すんですよ。

時短勤務の人の業務をカバーしている人もいるので、そこへの感謝や別の形でのギブは意識してほしいですね。

加賀さん

友達やパートナー、家族でも、家事をやるのが当たり前だと思われたら腹が立つ。会社も一緒ですよね。

石田さん

制度やルールのベースになるのは思いやりです。自分が休んだからこそ、誰かが休まなければいけなくなった時に支えてほしい。

実際に休職しないと分からない感覚もあると思うので、産休育休を取得したことで得たものを組織に還元するマインドを持ってくれるとありがたいなと思います。

企画・取材・文・編集/天野夏海