「子どもができたら採用されない」ってホント? 女性にありがちな転職の勘違い六つ/キャリアアドバイザーえさきまりな

コロナ禍の3年間でどう変わった?
転職ニュースタンダード

時間と場所にとらわれない働き方が現実的になり、転職もオンライン化する中、転職のやり方や企業から求められるスキルやマインドはどう変わったのだろう。コロナ禍も3年目となり、ようやく見えてきた「新しい転職のかたち」を紹介する

えさきさん

一社でずっと働き続けるより、転職を重ねてキャリアを築いていく人が多数派の時代。

転職のハードルは年々低くなっているけれど、転職・中途採用に関する知識をアップデートしきれていない人も少なくない。

Twitter等で転職やキャリアについての知識を発信し続けているキャリアアドバイザーのえさきまりなさんは、「ひと昔前の転職観を引きずっていたり、自分の思い込みや勘違いで転職の可能性を狭めてしまっている女性は多い」と話す。

えさきさんの経験から、20~30代の働く女性にありがちな転職・中途採用に関する勘違いと、“実際のところ”を教えてもらった。

えさきさん

<プロフィール>SHE株式会社 えさきまりなさん

1986年生まれ。短大卒業後、自動車ディーラーでの事務職、エステティックサロンでの接客・店長経験を経て、2016年株式会社キャリアデザインセンターへ入社。キャリアアドバイザーとして実績を残し、2020年に退職。現在はSHE株式会社にてキャリアコーチングを担いながら個人でも人材紹介を行うなどキャリアアドバイザーとして活躍している ■Twitter

勘違い1:「転職する」決意がないと、転職活動をしてはダメ

キャリア相談に訪れる女性たちに多いのが、転職することと、転職活動をすることをイコールで考えてしまっている人。

「転職する意志がしっかり固まっていないと、転職活動すらしてはいけない」と思っている女性が、意外と多いんですよ。

でも、全くそんな必要はありません。転職活動は、自分の視野を広げたり、キャリアの棚卸しをしたりするために、いつでも行っていいものなんです。

最近は、本選考に進む前にカジュアル面談をしてくれる企業も増えていますから、そういう場を利用して、他社の情報を仕入れたり、自分の市場価値を確かめたり、現在の待遇の良しあしを判断したりしてもいいと思います。

その結果、今の会社にいるのがベストだと分かれば、それも転職活動を行ったからこそ得られた成果。

より一層納得感を持って現職の仕事に向き合えるようになると思います。

えさきさん

もやもやしたまま立ち止まっているくらいなら、「良いところがあったら転職しよう」くらいで転職活動を始めてみる方が、良い結果につながりますよ。

勘違い2:30歳を過ぎたら、女性は転職しづらくなる

次に、年齢と転職に関する勘違い。よく、「30代になると20代の頃より転職しづらくなるのでは?」と心配される方がいるのですが、どんな転職をしようとしているかによって回答は変わります。

例えば、未経験の業界・職種にチャレンジしようとしているなら、20代の方が採用されやすいのは確かです。

一方で、これまでの経験を生かした転職をするなら、30代の女性を欲しがる企業は山ほどあります。

また、販売職から営業職に転職するなど、職種が変わる転職であっても、前職までの経験を応用できる要素が多いキャリアチェンジなら、30代になっても採用されるチャンスは広がります。

えさきさん

また、20代の転職と、30代の転職で企業が求めるものの違いは「経験」以外にもあります。それは、「セルフマネジメントができる人かどうか」というポイントです。

20代であれば、ある程度は精神面でのマネジメントも上司や先輩が力を貸してくれると思いますが、30代に期待するのは「マネジメント不要」と言えるくらいのセルフマネジメント力や自走力。

他人の力を借りなければ自分をモチベートできない、メンタルの浮き沈みが激しく仕事に支障が出てしまうなどの傾向が見えてしまうと、転職しづらくなります。

周囲の人や、環境任せにせずに自分をうまくセルフマネジメントするスキルを日頃から磨いておきましょう。

勘違い3:転職先に選ぶなら、リモートワークができる会社が良い

また、「今の会社はリモートワークができないから、転職がしたい」という相談も、コロナ禍以降は急激に増えました。

それと同時に、「リモートができない会社って、ブラックなんですか?」という質問をされる機会も増えています。

ただ、これも大きな勘違い。リモートワークを取り入れるかどうかは会社ごとの状況によりますし、「出社して働く」を良しとしている会社がむしろホワイトだと考えることもできます。

例えば、オフィスを借りる賃料、一人の社員に自席を設けるコストなど、社員が出社できる環境を整えるには、それなりの投資が必要です。

そうまでしてでも、対面でみっちり社員教育を行ったり、チームワークを高めるような働き方を推進したりしているのであれば、20代の若手社員にとってはリモートワークで働くより成長環境として適しているかもしれません。

えさきさん

また、現職で「リモートワークができない」と言って転職活動を始めた女性たちに、「そのことを上司に相談してみましたか?」と聞くと、ほとんどの人がノーと答えます。

「うちの会社はどうせだめだ」と決めつけて、何の相談もしていないことが多いのです。

でも、あなたがその会社に必要な即戦力なのであれば、個別対応をしてくれる可能性は十分にあります。

上司にちゃんと事情を話せば、「君はいつもよく働いてくれているから、ぜひここに長くいてほしい。そのためにリモートワークをする必要があるなら、環境を設けるよ」と言ってもらえるかもしれませんよ。

勘違い4:女性比率が高い会社に転職すれば働きやすい

男性が多い職場で働いている女性の中には、「女性が多い職場に転職すれば、働きにくさが解消される」と思い込んでいる人も少なくありません。

ただ、働きやすさは男女比率で決まるものではなく、現職で感じている働きにくさは女性が多い職場に移っても存在する可能性があります。

また、女性が多い職場には、その職場ならではの課題があることも。

例えば、「女性の方が女性に厳しい」というケースもあるでしょうし、資生堂ショック(※)などに代表されるように、女性が多い職場では産休育休に入る人や時短勤務の女性が増え、それ以外の人にしわ寄せがいくケースも見られます。

(※)時短勤務者が増えて現場の業務遂行が難しくなった資生堂は、2014年4月、子育て中の女性社員にも他の社員と同様にシフトやノルマを与えるという方針を発表した

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ですから、自分が今の会社で感じている働きにくさが本当は何に起因するものなのかをしっかり見極めて、どうすれば解消できるのかを考えてから転職先を見つけることが重要です。

勘違い5:人事・採用担当の要求は全て飲まないと内定が出ない

続いて、面接の場での言動や振る舞いについての勘違いです。よく相談されるのが、「面接で自分の希望をどこまで本音で伝えていいのか」というもの。

仮に「年収はこれくらいでいいですか?」と人事に言われたら、「はい、いくらでもいいです」と言わないと内定をもらうことができないと思い込んでいる女性は多いのです。

でも、企業の要求を全て飲まないと内定が出ないなんていうことはありません。むしろ、転職者側が自分の価値を正しく伝えるための交渉をすることが大事です。

ここで気を付けてほしいのは、交渉を行うタイミング。

NGなのは、一次面接のしょっぱなから、「給料はこれくらいじゃないと嫌だ」「リモートワークじゃないと嫌だ」など、自分の要望を一方的に伝えてしまうこと。

まだ候補者の力量もよく分からない状態で「権利ばかり主張する人」だと人事の目に映ってしまうと、やはり心象は良くありません。

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最近は、転職活動をなるべく効率良く終わらせるために、一次面接の時点で全てクリアにしようとする転職者が多くいます。

確かに、2回、3回と面接に行ったのに、最後に条件が合わずに内定が出ない・辞退することになるのはコスパが悪いように感じてしまう人もいるかもしれませんが、条件を交渉するのは内定をもらった後がベストです。

内定をもらっている状態であれば、交渉をしても内定取り消しになることはほぼほぼありません。

その業界・会社の給与水準や、自分の市場価値から明らかに逸脱した範囲でなければ、年収を上げる交渉をぜひ行ってほしいと思います。

例えば、「希望は年収は400万円以上です、ただ、前職では年収350万円だったので、それ以上であれば検討可能です」というように、最低限キープしたいラインと、希望年収をセットで伝えると企業も検討しやすいはずです。

勘違い6:子どもがいる&時短勤務だと採用されない

さらに、「子どもができる前に転職しなきゃ」「時短勤務になったら、条件の良い転職ができなくなる」と、将来のライフステージの変化を恐れて転職を焦る人もいます。

ですが、昨今は時短勤務の女性であっても、歓迎してくれる企業はたくさんあります。私の知人や、相談者の方も、時短勤務だった人たちが転職に成功していますし、焦る必要はありません。

えさきさん

しかも、最近はベンチャー企業などでリモートワークやフルフレックス制度を組み合わせて使えるケースが増え、「通勤時間が無くなった分、子育てと両立しながらフルタイムで働けるようになった」という転職パターンも見られるようになりました。

また、企業がその人を採用するかどうか決める軸はさまざま。

「子どもがいるかどうか」より大事なのは、その人が社内で成果を上げてくれる人なのかどうかというポイントです。

例えば、ポジションに合う能力・スキルが十分あるかどうか、カルチャーマッチするかどうか、セルフマネジメントや自走力があるかどうかなど、そちらの方がよほど大事だと考える採用担当は多いでしょう。

なので、もし1社選考を受けて、それがダメだったとしても「子どもがいたからダメだった」ということにはならないはず。

子どもがいない人だって、何社も選考に落ちるものですから、基本的には一緒です。

仮に「時短だから採用されない」ことがあるとしたら、どうしても夜勤が必要な仕事であるとか、シフトをどうしても調整できないとか、その職場の事情によるものです。

そういう特別な状況でない限り、あなたを「ぜひ採用したい」とその企業が思ってくれれば、多少の勤務時間の調整は受け入れてくれるはず。

「求人票には●時~●時勤務と書いてあるけれど、▲時~▲時なら働けますがいかがですか?」など、遠慮なく相談・交渉をしてみましょう。

本格的に転職活動を始める前に、人と話してみるのがおすすめ

今回、転職検討中・転職活動中の女性によくある六つの勘違いポイントについてお話ししました。

転職に対する思い込みを捨てると、きっと皆さんのキャリアの可能性もぐっと広がるはずなので、ぜひ見直してみてほしいです。

特にこうした思い込みを捨てる上でおすすめなのは、転職活動を本格的に始める前に、いろいろな人と話をしてみること

えさきさん

例えば、あなたが理想とするような転職に成功した人など、身近な人でもいいし、SNSでフォローしている人でもいいし、思い切って話を聞いてみましょう。

「こうやったら転職できたよ」「こう思っていたけど、いざ転職してみたらこんなふうだったよ」と、実例を教えてくれると思います。

あるいは、気になる企業の採用HPや、ビジネスSNSなどをのぞいてみると、カジュアル面接の機会に恵まれることがあると思います。

そこで、他社の人事や社員に、気になっていることや不安に思っていることについて聞いてみてください。

人と対話することで、自分の強みや、自分の希望が、だんだん見えてくるはずです。

えさきさん

あとは、最近はキャリアに悩む人向けのコーチングやカウンセリングサービスを提供している企業も増えています。

どんな軸で転職活動をしようか、そもそもどんな自分になりたいのか……と迷っていることがあるなら、プロに相談するのも一つの手。

良い提案や、考えを整理するためのヒントが得られるはずです。ぜひ、思い込みを外して、良い転職をかなえてくださいね。

取材・文/栗原千明(編集部)