07 FEB/2023

批判殺到の「異次元の少子化対策」働く女性のキャリアに与えるメリットが実は大きい? 【田中美和】

「従来とは次元の異なる少子化対策を実現したい」ーー岸田首相が通常国会での施政方針演説で語り、各種メディアやSNSなどでも大きな話題となりました。

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2022年の日本人の出生数は、前年比5.1%減の77万人前後となる見通しで、初めて80万人を割り込むと推計されています。

下図のグラフを見ると、16年以降、出生数は年率マイナス3.5%のペースで減少。

特に、コロナ禍における婚姻数の減少が急速な少子化につながっていると考えられます。

1970年代に出生数が200万人を超えていた頃と比較すると、ここ数年の急速な減少ぶりが目立つようになりました。

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出典:厚生労働省『令和2年版 厚生労働白書

少子化は経済の成長力を左右するほか、年金や社会保障制度の仕組みにも大きく影響するので政府としては危機感を強めています。

では、この「異次元の少子化対策」は、働く女性の仕事やキャリアにはどんな影響を与えるのでしょうか?

岸田首相が言う「次元の異なる少子化対策」の内容は?

そもそも、「異次元の少子化対策」とはどんな政策なのでしょうか。

岸田首相はその基本的な方向性を、23年1月4日に行われた「年頭記者会見」で大きく三つ示しています。

一つ目は児童手当を中心とした経済的支援の強化です。

児童手当支給にあたっての所得制限の撤廃や、対象年齢の引き上げなどが想定されます。

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二つ目は学童保育や病児保育、幼児教育や保育サービスの量・質両面からの強化です。

岸田首相は「年頭記者会見」で、伴走型支援、産後ケア、一時預かりなど、すべての子育て家庭を対象としたサービスの拡充を進めると話していました。

三つ目が、働き方改革の推進とそれを支える制度の充実です。

この政策に対してさまざまな意見が飛び交い、批判も目立ちますが、どの方向性も女性の「産む」と「働く」の両立にとって必要不可欠ですし、実現されれば私たち働く女性にとって非常に心強いものになると私自身は感じています。

特に「働く」との関係では、三つ目の働き方改革の推進とそれを支える制度の存在が大きいのではないでしょうか。

出産・育児をキャリアのマイナスにしないためには、フレキシブルな働き方がカギ

『女の転職type』による755名の女性を対象とした調査では、約2割が「キャリアのために、妊娠の機会を先延ばしにしたことがある」と回答。

「子どもがいることでキャリアのマイナスになる点」として「勤怠の乱れ」や「体力的なつらさ」を挙げる人も半数以上いました(下図)。

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出典:『女の転職type

先日、ジャーナリスト・浜田敬子さんの『男性中心企業の終焉』(文春新書)を読んだのですが、その中で紹介されていたとある大手の通信会社の事例が非常に印象的でした。

コロナの感染拡大とともにリモートワークを定着させた結果、「毎年行っている従業員満足度調査で、女性たちの職場や働き方への満足度が上がった」というのです。

この企業では働く時間と場所の柔軟性を追求した結果、「育児のために短時間勤務制度を利用する女性社員の数が減り、フルタイムに戻す人が増えた」そうで、著者の浜田さんは「従業員調査で特に女性たちの満足度が上がった背景には、働きやすさだけでなく、自身のキャリアへの展望が広がったことが大きいのではないか」と分析しています。

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私自身、これまで10年にわたりリモートワークやフリーランスなどフレキシブルな働き方を女性の皆さんにご紹介する事業を展開してきましたが、こうした「働き方のフレキシビリティー」が女性たち一人一人が自分らしく、生き生きと働き続けるカギになると痛感しています。

政府の「異次元の少子化対策」において、時間・場所にとらわれない働き方がより多くの方にとって可能になることを期待しています。

そして、こうした「働き方改革」は決して育児中の女性だけの問題ではありません。

男性も含めた「全ての人」が利用可能な、ユニバーサルな設計にすることも大切なポイントです。

なぜなら育児中の女性ばかりの働き方がフレキシブルになっても、男性の働き方が変わらず「長時間労働&オフィス出社必須」では、いつまでたっても「育児・家事の主な担い手は女性」という状態から抜け出せないからです。

育児と仕事を両立させるために、子を持つ前から知っておきたい三つのこと

最後に「出産しても、育児と仕事を両立して長く働き続けたい」という女性が、実際に子どもを持つ前に知っておきたい三つのことをお伝えします。

【1】出産前に“倍速で”キャリアを構築する

いくら制度が拡充しても、出産するとなると、現実的にはその前後で1年ほどキャリアにブランクができてしまうのは避けようがありません(もちろん育児経験がその後の仕事やマネジメントに生きる場面はありますから、そのこと自体がマイナスだと言っているわけではありません!)。

それを考慮に入れて、ライフイベントが発生する前の20代~30代前半の時期にできるだけ多くの経験を積めるよう意識的に仕事に取り組むことが重要です。

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難易度の高い仕事にチャレンジしたり、部署異動や社内横断型のプロジェクトに自分から手を挙げたり……育児との両立生活が始まる前に、できるだけたくさん仕事の経験を積むことをお勧めします。

【2】リモートワーク可能な環境へキャリアチェンジする

先ほどもお話ししたように、「働き方のフレキシビリティー」は「産む」と「働く」の両立を考えると、強い後押しになります。

現状の会社でリモートワークが難しいようでしたら、リモートワークの導入を会社に働き掛けてもいいですし、実現が難しいようでしたら将来のことを考えてリモートワーク可能な会社への転職を検討してもいいでしょう。

実際、コロナ禍で出社ベースの働き方を見直して、リモートワークができる仕事にキャリアチェンジする人たちもいます。

そんな中で、IT業界は相対的にリモートワークしやすいこともあり、他業界から転職してくる女性が増えています。

【3】パートナーとお互いに「シェア」し合える関係づくりをする

「産む」と「働く」の両立をしている30代~40代の女性たちの話を聞いていると、パートナーシップの重要性を強く感じます。

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もちろん、さまざまな家庭のかたち、夫婦のかたちがありますから、完全に平等に育児・家事をやりましょう、ということを言いたいわけではありません。

でも少なくとも女性が「主」でパートナー側が「ヘルプ」するだけの関係だと、やはり女性側が苦しくなってしまうものですよね。

仕事に加えて育児・家事もメインで担当……となると、体力的にも時間的にも両立が難しくなってしまうのは事実です。

ですから「ヘルプ」ではなく「シェア」の姿勢で、一緒に「家庭」というチームを運営していけるように、日頃から協力体制をつくっておくことが大事です。

ぜひ将来を見据えて、パートナーとの関係を捉え直してみてください。

田中美和

【この記事を書いた人】
Waris共同代表・国家資格キャリアコンサルタント
田中美和

大学卒業後、2001年に日経ホーム出版社(現日経BP社)入社。編集記者として働く女性向け情報誌『日経ウーマン』を担当。フリーランスのライター・キャリアカウンセラーとしての活動を経て2013年多様な生き方・働き方を実現する人材エージェントWarisを共同創業。著書に『普通の会社員がフリーランスで稼ぐ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。一般社団法人「プロフェッショナル&パラレルキャリア フリーランス協会」理事