07 MAR/2023

平日は会社員、週末はカフェ店主。「やりたいと思ったら、すぐやっちゃえ」パラレルキャリアが与えてくれた度胸と自信

「やりたい」を欲張ろう!
会社員のパラレルキャリアライフ

新しいことを始めたい。別の環境に身を置いてみたい。でも、今の仕事を辞めたいわけではない……。そんな時、選択肢の一つになり得るのが「パラレルキャリア」。会社員としての本業を持ちながら、それ以外の活動をやる。それは一体どんな人生なのだろう。

稲増 祐希さん

稲増 祐希さん(@nyara_masu
農学部を卒業後、カフェ店員としてアルバイトをする。その後、LEDの水耕栽培装置を展開する企業で野菜の収穫・販売を担う。2015年に株式会社クラウドワークスに入社し、広報職に従事する傍ら、間借りカフェをスタート。17年に株式会社マネーフォワードに入社し、プロダクト広報を担当。広報職を継続しながら21年、白楽に『にゃらや』をオープン

白楽駅を出て数分歩くと、土日のおやつどきから夜だけ開店する、カウンターのみの小さなカフェがある。

中をのぞくと、かっぽう着姿で来店客との会話を楽しむ店主、稲増祐希さんの姿が。

実は彼女、平日は広報の仕事を手掛ける会社員だ。

10年以上前から「カフェを開きたい」と言い続けてきた稲増さんは、なぜパラレルキャリアを選択したのだろうか。

広報とカフェ、両方やるための方法しか考えなかった

学生時代にカフェでアルバイトをしていたことがきっかけで、「いつか自分のカフェを開きたい」と思うようになりました。

そう言うと、「コーヒーが好きなの?」「料理やお菓子作りが好きなの?」と聞かれることが多いのですが、そういうのとは少し違っていて。私が好きなのは、ゆるやかな時間の流れやおもてなしをする空間なんです。

そんな私ですが、大学在学中から6年ほどカフェでアルバイトをした後に選んだのは、会社員の道でした。

飲食の道でやっていくこともできましたが、そこまでしっかりと考えられていなかったので、転職したくなった時に、やりたいことを選べるようにしておきたいと考えたのです。

稲増 祐希さん

そうしてたどり着いたのが、広報職。自社の魅力を社外に向けて発信し、認知度やブランド力を高めていく仕事です。

スポットが当たっていない商品やサービスに日を当てる仕事内容に引かれて始めた広報の仕事は、すごく楽しくて。

いざカフェを始めようと思った時も、「会社を辞める」という選択肢は全くありませんでした。「どうしたら両方続けられるかな?」と考え抜いた末にたどり着いたのが、週末だけオープンする「副業カフェ」だったのです。

「やりたい」と口にしていたからこそ、舞い込んできたチャンス

私のパラレルキャリアがスタートしたのは、会社員として働き始めて10年ほどたった頃。「カフェをやりたい」という話は常日頃からいろんな人たちにしていたのですが、ある時知人がカフェのオーナーにつないでくれたのです。

やりたいことを常に口にしておくって実はすごく大事。いい話が出てきた時に「あの子そういえばやりたいって言ってたな」って思い出してもらえますから。

そうして「日曜定休だから、その日だけ自分のお店をやってみない?」と声をかけていただき、間借りカフェからスタート。

間借りであればリスクなく始められますし、会社員の生活サイクルにも合わせやすくて、ちょうどよかったんです。

1日店主として、コーヒーはもちろん、自分で考案したフードメニューやデザートを提供しながらお店を運営する経験をさせてもらえたことは、本当に幸運でした。

でも私にとって、間借りカフェはちょっと広すぎたんですよね。お客さま一人一人とコミュニケーションを取りながら、コーヒーも料理も自分で提供したかった私には、5~6人入れるくらいの広さがちょうど良かった。

そこで、間借りカフェを始めて3~4年たったころ、自分のお店を持つために物件探しを始めました。

自分のお店を持とうと思ったきっかけの一つがコロナ禍かもしれません。

間借りカフェを1年お休みしたのですが、この間に「やっぱり自分のカフェをやりたい!」という思いが強くなったんですよね。世の中では閉店するお店も増えていて、物件が空き始めているタイミングでもありました。

目指したのは、焼き鳥屋や深夜食堂のようなカフェ。のれんをくぐって、「やってる?」っていう感じのカフェ。お酒を飲む人も飲まない人も、大人だけでなく子どもも皆同じ空間を楽しめる、そんなカフェです。

稲増 祐希さん

幸運なことに良い物件との出会いもあり、まずはやってみることに。

開業資金は自分の貯金と、足りない分は親戚から融通してもらったりもしました。まずは2年やってみて、ダメだったら潔くやめよう。そんな風に思い切れたのも、本業の収入があるという安心感があったからかもしれません。

こうして週末カフェ『にゃらや』はスタートを切りました。

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月曜から木曜は広報業務に集中。仕入れをするのは金曜の夕方。土曜の午前中に仕込みを行ってから、15時頃にオープン。日曜の午前中はまったり過ごして、また15時頃にお店を開けるというのが、稲増さんの一週間のスケジュールだ。「忙しそうに見えるかもしれませんが、本業がフレックス制なので、メリハリをつけて働けています。ちゃんと休む時間も確保できていますよ」(稲増さん)

カフェで得た情報を広報に、広報で学んだノウハウをカフェに生かす

私がパラレルキャリアを選択した理由の一つに、「副業の経験を本業に生かせるかもしれない」という思いもありました。

私が働いている会社は、会計ソフトを提供しているのですが、カフェでユーザーとしてサービスを利用すれば、実際の使用感も広報できます。

自分がサービスについてしっかり語れるようになることで、仕事の質を一段上げられるのではないかと思ったんです。

この考えは、間違っていませんでした。メディアの方々に対して「こんな風に使うといいですよ」と実体験にもとづいた話をしたり、新しい機能をいち早く試したりすることで、これまでよりも一歩踏み込んだ仕事ができている実感があります。

また、飲食業を営んでいる人たちのコミュニティーに参加するようになり、会計ソフトを使っている人たちの動きをダイレクトに見られるようになったのもメリットの一つ。

「△△ソフトを使っていた○○さんが最近全部キャッシュレスに移行したらしい」とか、「○○社のサービスと○○社のサービスを組み合わせて使っている」とか。

現場で聞いた話は会社にフィードバックし、本業に生かしています。

稲増 祐希さん

また、本業では家計簿アプリも運営していますが、こちらはコンシューマー向けのサービスになるため、老若男女さまざまなお客さまと触れ合うことも、本業にいい影響を与えています。

一つ例を挙げると、広報の仕事では、サービスを広めるための記事を出す際に、どんな人に読んでもらうのかターゲットを設定します。そのターゲット像の解像度が上がりましたね。

「最近はこんなテレビ番組が人気なのか」「子どもにはこんなものがはやっているのか」「主婦の方はこんな話をしているのか」といった具合です。

また、「家計簿アプリは面倒で使ってないんだよね」なんていう率直な声を聞く機会も増えました。

IT業界の外の世界を知ることで、広報の仕事にも深みが出たなと感じています。

稲増 祐希さん

逆に、広報の経験もカフェの仕事にうまく生かせています

例えば、広報の仕事って1人よりもチームで動く方ができることも増えるのですが、ふと「これってカフェも同じじゃないかな?」と思ったんです。

そこで、「誰かと一緒に動く」という試みをしてみることに。

最近やってみたことを例に挙げると、平日は遊休スペースとなっている店舗を利用して、コワーキングスペースを開いてみました。

私は平日は仕事があるため、にゃらやのコーヒー豆を焙煎(ばいせん)してくれている友人に1日店主をお願いしたのですが、すごく好評でしたね。

こんな風に、「誰かの力を借りることでできることの幅が広がる」という考え方は広報の仕事をしていなければできなかったはず

広報とカフェ、全く違う仕事ではあるのですが、相互作用させながらお互いの仕事をより良くしていくことができるのは、私にとってうれしい発見でした。

パラレルキャリアによる一番の収穫は、やりたいことを行動に移す勇気

パラレルキャリアを始めてからの一番大きな変化は、自信と度胸がついたことじゃないでしょうか。

これまでも「やってみたい」と思ったことは、なるべく口にするようにはしていましたが、行動に移す勇気をなかなか持てずにいました。

でも今は、「やってみたいと思うなら、その瞬間にやればいいじゃん!」と言える自分になれている

これはきっと、思い切って踏み出したフィールドで、やりたいことを実現できたことで、自信が付いたからだと思います。

多くのお客さまが足を運んでくれて、お酒を飲む人も飲まない人も同じ空間を楽しんでいる。

ふと見れば、お父さんがお酒を飲んでいる横で子どもがケーキを食べていて……。

そんな夢に見た光景を目の当たりにできている今は、「もっと早く始めればよかった!」と思うくらい毎日が楽しいです。

休日もたくさんの人たちと触れ合うため、孤独を感じる暇もありません(笑)

自分のお店を持つのはリスクもありますし、勇気がいることではありますが、「ダメだったらやめればいい」と腹をくくれるのも、本業を持っているパラレルキャリアならではのメリット。

ローリスクでやりたいことにチャレンジしたい方には、本当におすすめです。

稲増 祐希さん

今後も、パラレルキャリアは続けていきたいと思っています。

先ほどお話ししたような、誰かと協業した取り組みにもチャレンジしながら、サービスの幅を広げていきたい。やりたいことは、まだまだ尽きません。

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取材・文・撮影/光谷麻里(編集部)