29歳・貯金なしでも年収20%ダウン転職を決意できた理由「やりたいこと、環境、動ける自分の三つがそろう機会はめったにない」

希望の仕事ができる環境に転職できるチャンスがあったとして、もし年収が大きく下がってしまうとしたらーー。

現実問題として頭を悩ませる、お金のこと。このような場面に直面したら、どのように判断をすればいいのだろうか。

スタートアップで働く藤本恵子さんは、実際に年収ダウン転職を経験した一人。29歳で現職への転職を決意し、20%もの年収ダウンを経験した。

「正直、悩んだ」と振り返る藤本さんだが、転職後は順調にキャリアアップを果たし、入社4年目の現在は執行役員を務めるまでに成長。

当時の決断と、現職に入社してから約140%の年収アップを果たし、過去最高水準にまで年収を上げることができた要因を探る。

29歳・貯金なしでも年収2割減の転職を決意できた理由

株式会社ウィファブリック 執行役員
藤本恵子さん

2012年、製薬会社に入社。店舗営業を2年半経験したのち、14年に文具・家具の卸販売事業を展開する企業へ転職し、新規事業のクラウド系サービスの営業を約3年担当。17年広告代理店に転職し、ディレクターとしてデジタルマーケティング領域に携わる。19年12月、 1人目のマーケティング担当者として株式会社ウィファブリックにジョイン。22年より現職

仕事もポジションも会社も理想的だったけれど……

ーー今の会社に転職したきっかけを教えてください。

現職がマーケティングのポジションを探していた際に、知り合いから声を掛けてもらったことがきっかけです。当時の私はちょうど転職を考えていたタイミング。

広告代理店でデジタルマーケティングを通じたお客さまの課題解決をしていましたが、外注の立場ではなく、自社サービスを運営する会社で自らマーケティング戦略を立て、施策を回してみたい思いがあったんです。

その点、当社は自社サービスを持つスタートアップで、マーケティングのポジションは私が1人目。今後のキャリアを築いていく上で必要な経験が積めると思いました。

ーー藤本さんがやりたいことと、それができる環境の二つがあったのですね。

加えて、会社のビジョンにも共感したんです。

当社はアパレル業界で衣類廃棄の課題解決に取り組んでいますが、実は私の実家はネクタイの縫製工場。以前から業界の課題は感じていて。

30歳を目前にして、「これまでは自分のキャリアだけを考えてきたけれど、社会課題に対してアプローチをしなくていいのだろうか」と考えるようになった矢先だったこともあり、ご縁を感じたのも大きかったですね。

ーー運命的なお声掛けでしたね……!

そう思います。自分がやりたい業務とポジションがあって、会社の方向性に共感できて、さらにメンバーに対しても「この人たちとなら一緒にやっていけるな」と思えた。

他の会社も見ていましたが、ここまで条件がそろうことはなかったです。

29歳・貯金なしでも年収2割減の転職を決意できた理由

ーーただ、年収は20%下がったと聞きました。年収400万円であれば80万円、年収500万円であれば100万円とかなりの下げ幅ですよね。

正直、年収は悩みました。

それまでに2回転職をしましたが、年収は据え置きで入社し、入社後に年収が上がり、その年収額の据え置きで転職して……と順当に年収を上げてきたので、下がってしまうことへの抵抗がなかったといったらうそになります。

また、提示された年収額は許容できるギリギリのラインでもありました。今であればもっと良い条件のオファーが出せますが、当時はまだ社員数6名と、これから事業を伸ばしていく段階でしたから。

ーー最終的な決め手は何だったんですか?

目先のお金へのこだわりよりも、「20代のうちにキャリアを積んでおきたい」という気持ちが勝ったことですね。

仕事内容と会社の事業、ポジションが、自分の希望とここまで合致することはそうそうありません。そんな環境で経験を積める機会の方が年収以上に貴重だと考えて、転職を決意しました。

年収アップ&役員就任の要因は「初心」の意識

ーー転職後の年収の変遷について教えてください。入社してどのくらいで元の水準に戻りましたか?

前職と同じ年収の水準に戻ったのは、入社1年後です。その後、2年目に執行役員のオファーをいただき、執行役員に就任する3年目のタイミングでもう1段階上げていただきました。

ーーすごい……! 入社後間もなく年収をアップさせ、役員に抜てきまでされた理由は何だと思いますか?

二つあって、まずは結果を出せたことが大きいと思います。

当社はファッションの廃棄ロスを目的としたEC版アウトレットモール『SMASELL』を運営しているのですが、そこで商品を購入してくださるお客さまを集客するのが私の業務です。

『SMASELL』の画面

『SMASELL』の画面

それに対してデジタルマーケティングはもちろん、それだけでは補えない部分は広報やSNS運用でカバーするなど、幅広い領域からアプローチをし、目標数字を達成することができました。

入社10カ月目ごろにはマーケティングの重要性を組織に理解してもらうこともでき、それが最初の昇給にもつながっています。

ーーもう一つは何でしょう?

自分の領域外の業務も積極的にやってきたことです。そこもプラスアルファで評価をしていただいたと思います。

特に誰の仕事なのかが曖昧になりやすいプロジェクトで、積極的にリーダーの役割を担ってきました。スタートアップはあらゆるリソースが足りませんから。

ーー口で言うのは簡単ですが、本来の業務がある中で、自分の負荷を増やしたくない気持ちはなかったですか……?

キャリアを築くことを目的に入社したので、成長につながる業務なのであればやりたいという前向きな姿勢でしたね。

「あらゆる経験は無駄にはならない」という実感が私にはあって。

私は1社目が製薬業界、2社目が文具・家具業界、3社目が広告業界、4社目の現職がアパレル業界と、全く違う業界を渡り歩いてきました。

でも、それらは点ではなく、製薬会社で経験したことが今になって役に立つなど、意外なところで自分のキャリアに生きている。

だから、あらゆる経験は決して無駄になることはなく今後に必ず生きるはず。そう考えているので、自分の領域以外の仕事をすることに対しての抵抗もなかったですね。

ーー「なぜこの会社に入ったのか」という初心を忘れずにいたから、やるべきことを冷静に見極められたのですね。

「そもそも私は何がしたかったんだっけ?」と、最初の目的に立ち返るのはとても重要だと思っています。

特に転職当初、慣れない環境で仕事をしていれば、つらいこともたくさんあります。

年収ダウン転職であればなおさら、「この給料に対して、ここまでやるべきなのか」とネガティブな気持ちになってしまうことだってあるかもしれません。

でも、「キャリアアップを目的に転職をした」という初心に立ち返れば、お金をもらってチャレンジさせてもらえる環境はむしろ恵まれていることに気付けます。

29歳・貯金なしでも年収20%ダウン転職を決意できた理由

ーーそもそも給料に見合った働き方をしたいのであれば、年収ダウンしてまでスタートアップに転職しないですもんね。

あとは私の場合、これまでは「この環境では私のやりたいことはできない」という理由で転職を重ねてきました。

そこから次のステップに行くには、「今いる環境の中で自分のやりたいことをどう実現できるか」を考えながら働く経験が必要だと思っています。

そういう考えもあってスタートアップに転職をしたので、つい会社や周りの人のせいにしてしまいそうなときほど、「私がこの仕事をやることが、私にとって必要だと思ったから転職したんだ」と初心を思い出すことを意識していましたね。

「年収が上がらない=自分が会社を成長させられていない」

ーー藤本さんは結果的に順調に年収アップを実現していますが、「もしも年収が下がったまま上がらなかったらどうしよう」という不安はなかったですか?

あまりなかったです。むしろ「自分が企業を成長させるんだ」という気概を持って転職しました。

自分が事業に貢献し、会社が成長すれば、年収も必然的に上がります。さらに上場すれば、ストックオプションは大きな収益にもなる。

逆に言えば、「年収が上がらない=自分が会社を成長させられていない」ということ。自分の頑張り次第ですから、そこにチャレンジしたい気持ちの方が強かったですね。

それに人材不足の今の時代、万が一うまくいかなかったとしても路頭に迷うわけではありません。

食べるだけならアルバイト先はいくらでもありますし、派遣社員から正社員になった方もたくさん知っていますから、何かあっても大丈夫かなと思っていました。

それに、すでに年収は下がっているので、もし再び転職するとしても、これより下がることはないだろうとも思っていましたね。

ーーとはいえ、1年目は大きく年収が下がったわけですよね。当時を振り返って、生活面で苦労したことはありますか?

好きなものを思うように買えないなど、がまんをする場面はありました。お昼ごはんをお弁当にしたりと、節約をしながら過ごしていましたね。

ただ、それが苦になることはなくて。というのも、今は4社目ですが、2社目から3社目にかけてグロービス経営大学院の経営学修士に働きながら通っていたんです。

学費のために生活費を切り詰め、卒業後に年収ダウンを経験したので、そういう意味ではそれほど生活に変化はありませんでした。

ーーということは、貯金があったわけでもない?

貯金は全然なかったです。

ーーそのような中で年収を下げることに不安はなかったですか……?

「こんなにお金なくて大丈夫かな?」っていう不安はもちろんありました(笑)。でもお話しした通り、最終的にはやってみたい気持ちが勝ちましたね。

29歳・貯金なしでも年収20%ダウン転職を決意できた理由

私はとにかく、動けるうちにキャリアを積みたかったんです。この先、出産や子育ての兼ね合いで、思うように動けない場面がいずれ来るかもしれません。

だからこそ、自分にやりたいことがあって、それがやれる環境が目の前にあり、さらに自分が動ける状態にあるのなら、チャレンジをした方がいいと思っています。

それに、そういう条件がそろった機会は常にあるわけではありません。半年後、そのポジションはもうない可能性が高いですから。

そう考えれば、たとえ年収が一時的に下がったとしても、そこで先々の糧となるスキルや経験を得られるのであれば、むしろ良い出会いとも言えます。

そうやって自分に力をつけて、どんな場面であっても自立して生きていける自分でありたい。そういう思いは強くあって、そのために目先のお金よりも、自分に力をつけることに振り切ってきたかなと思います。

ーー自分に力をつけるための今回の転職、当初の目的はどのくらいかなえられていますか?

80%くらいはかなえられたと思います。役員になったことは予想外でしたが、役職が自分を成長させてくれるのを実感していますし、この経験はいかようにも今後のキャリアに生きるはず。

社員数は約4年間で3倍以上になり、会社の成長に合わせて自分の仕事の領域や規模感も変わっていきます。常に新しい経験を積み重ねながら、成長している実感が持てるのは純粋に楽しいですね。

ライフイベントに応じて、できること・できないことの変化はこれからも生じると思いますが、今の自分に満足することなく、さまざまなことに挑戦しながらスキルを磨いていきたいと思います。

取材・文/天野夏海