株とキャリアのプロに聞く、年収ダウン転職を「キャリアの投資」に変えてリターンを得る方法

やりたい仕事にチャレンジしたいと思っていても、未経験での転職は年収が下がるケースも多くある。生活のことを考えれば、目先の収入が減ることに不安を感じるものだ。
だが、もしも転職後に年収アップが狙えるとしたらどうだろう。
一時的に年収が下がったとしても、先々で得られる収入が上がるのだとしたら、それは「キャリアの投資」と言えるのではないだろうか。
株式投資の基本的な考え方を踏まえて、「キャリアの投資となり得る年収ダウン転職」について考えてみよう。
投資はギャンブルではなく、知識と根拠に基づく「長期的」なもの
株の「投資」と聞くと、「ギャンブル的な要素をはらむ危険なもの」と思う人もいるかもしれない。
しかし、個人投資家として活動しながら株専門スクール『トレーダーズアカデミー』で講師を務める長谷川祐子さんは、「投資のリスクは二つの要素によって変わる」と話す。
前提として、株式投資で利益を出す仕組みを理解していること。
そして、投資先の業績について積極的に情報を収集したり、株価チャートを見て過去の傾向を分析したりと、リスクを想定できるだけの知識が必要です。

その上で、もう一つ重要なのが投資を行う「根拠」だと続ける。
「なぜ投資をするのか」「この投資先の何が良いのか」という、自分なりの根拠は不可欠です。
その根拠と知識を掛け合わせ、「リスクを上回るリターンがあり、チャレンジするだけの価値があるのか」を自分で判断した上で、投資すべきかを決めることが重要です。
長谷川さんは、「この二つの要素が、投資とギャンブルの大きな違い」だと指摘する。
「何となく」「人からお勧めされたから」という理由で投資をする人がいますが、この場合、投資先の良し悪しを判断するだけの知識も、自分の頭で考えた理由もありません。
根拠がない投資は、いわば運任せのギャンブルのようなものです。
とはいえ、未来が不確かである以上、株式投資にリスクは付き物だ。そのリスクを最小限に抑えて安定的な運用をするには、長期的な視点を持つことがポイントとなる。
例えば株価が下落した場合、短期的に見ると不安になってしまうかもしれませんが、長期的に見れば、先々のリターンを見据え、価格が下がっているうちに株を買い足す判断もあり得ます。
つまり、目先の損得に左右されないためには、投資をする理由を踏まえ、長期的な視点で考え、判断する必要があるのです。
「キャリアの投資」も基本の考え方は同じ

投資のリスクを抑えるには、「知識」「根拠」「長期的な視点」を持つことが必要だと分かった。
こうした投資の考え方を踏まえ、「キャリアの投資となり得る年収ダウン転職」について考えてみよう。
まずは「知識」について。キャリアアドバイザーの藤井佐和子さんによると、「その企業・職種で働いた場合、どのように年収アップできるのか」を事前に確認しておくことが大切だという。
「やりたい仕事だから」というだけでなく、どのように自分の頑張りが評価され、それがきちんと年収に反映されるのか、見極めることが大切です。
モデル年収や昇給・昇格の条件、評価基準のほか、エンジニアの場合は資格手当、営業職の場合はインセンティブなど、求人票の情報をチェックしましょう。
先輩社員のインタビューから「何をすれば年収が上がるのか」を読み解くのも有効です。
求人票に記載された情報で判断が難しい場合は、面接で「具体的に何をすれば、どのくらい年収が上がるのか」を聞くのも一つの手。
その際のポイントが、「なぜ年収について聞きたいのか」を前向きに説明することだ。
面接でお金の話をすることをためらう人もいますが、「未経験転職なので年収が下がるのは問題ないですが、入社後は成果とともに年収を上げていきたいと考えています」といった説明であれば、意欲が伝わります。
ネガティブな印象にもなりません。
また、情報収集の際は、業界の将来性、職種の特性など、「長期的な視点」を意識することも重要だ。
例えば事務職の場合、将来の年収が大幅にアップすることはほとんどありませんが、エンジニアや営業の場合は、スキルや経験に応じて年収も上がる傾向にあります。
たとえ未経験からのキャリアチェンジで一時的に年収が下がってしまったとしても、その後の年収アップの可能性は高いのです。
続いて「根拠」については、キャリアでも同じく、「なぜ年収ダウンを伴う転職をするのか」を明確にすることが大切だと藤井さん。
年収を下げてまでかなえたいことは何なのか、まずははっきりさせること。
そもそもお金に対する価値観は人それぞれですから、自分にとってお金はどのくらい重要なのか、いくら必要なのかを改めて考え、周囲の声や同世代の平均年収に惑わされず、自分の軸で選択しましょう。
年収が下がることに不安を感じる場合は、その不安を紐解くことも重要だ。
転職後の未来の年収が心配なのであれば、情報を集めましょう。先述した通り、ある程度は予測が立ちます。
一方、今この瞬間の年収に不安がある場合は要注意。
目の前の収入が減ることで困りごとが発生するような場合、たとえ先々で年収を上げる見込みがあるとしても、年収ダウン転職はあまりおすすめできません。
不安の正体が未来の年収にあるのなら、ここでも投資と同じく「長期的な視点」でキャリアを考えることが鍵となる。
今の仕事を続けた場合と、キャリアチェンジした場合のそれぞれで、5年後、10年後の年収を予想してみましょう。
仮に一時的な年収ダウンのリスクを取った方が将来の年収が高くなるのであれば、早めに挑戦してもいいと思います。
一般的に年齢に応じて年収も上がっていきますから、20代のうちの方が年収の下がり幅は少ないですよ。
キャリアの投資は「ワクワク」を起点にしよう

一方、金融商品の投資とキャリアの投資の違いとして、藤井さんは「選び方」を挙げる。
一般的に金融商品の投資先はロジカルに考え、明確な根拠を持って選ぶものですが、キャリアの場合は「ワクワクするかどうか」も大切なポイント。
長期的に年収アップを実現するには、自分自身に「その仕事をやりたい」という気持ちがあることが重要です。
藤井さんが過去に相談を受けた中には、こんなミスマッチの事例があったという。
手に職をつけて年収を上げたいという理由で、一般事務から経理にキャリアチェンジし、年収ダウン転職をした方がいました。
ただ彼女の場合、経理の仕事がしたいわけではなかったんです。結果、続けるのがつらくなってしまい、再び転職することになってしまったのです。
将来的な年収アップだけを考えた結果、「その仕事をやりたい」という自分の気持ちが置き去りになってしまったケースだ。
藤井さんは、「年収ダウン転職でうまくいく人は、自分のやりたいことに挑戦している人」だと続ける。
面白い、楽しい、向いているなど、ワクワクする仕事であれば成果が出るまで頑張れますし、本気で頑張っている人には周囲が味方をしてくれます。
サポートや応援が得られれば、モチベーションを維持することにもつながりますよね。そうした好循環が生まれた結果として、年収アップにつながっていることが多いのです
実は、前半で投資について解説してもらった長谷川さんも、美容部員から金融業界に未経験転職し、一時は大幅に年収を下げた経験がある。
その際に金融業界を選んだきっかけは、「株や投資への好奇心」からであり、関心があったからこそ知見を溜めることができ、今の仕事につながっている。
「自分のワクワク」を起点に、「知識」「根拠」「長期的な視点」を踏まて最終的な判断をする。それが、先々のキャリアのリターンを生み出す可能性を上げるのだろう。
そして、たとえその判断の結果が思うようなものでなかったとしても、「それは必ずしも失敗ではない」と藤井さん。
キャリアの投資で大切なのは、失敗で終わらせないことです。
うまくいかなくても、それは自分らしい働き方を模索する試行錯誤の一つであり、若いうちであればいくらでもやり直せます。
挑戦すべきか悩んでいる人に向けて、「『挑戦しなかった未来の自分』を想像してみて」と、最後に藤井さんはメッセージを送る。
年齢を重ねて感じることですが、若い皆さんには「やりたいことに挑戦しておけばよかった」という後悔を抱えることなく生きてほしいと思っています。
その後悔は他人をうらやんだり、ねたんだりすることにもつながりかねませんから。ぜひ若いうちに、やりたいことに挑戦する道を探ってみてください。

トレーダーズアカデミー
インストラクター
長谷川 祐子さん
短大卒業後、美容業界に就職。自分の働き方や将来のお金に疑問を感じて金融業界へ転職。金融商品販売に従事し、育休中にファイナンシャルプランナーの資格を取得。その後、30代でゼロから株式投資を学び、株式投資を資産運用として確立。現在は個人投資家として活動しながら、トレーダーズアカデミーやShe moneyで講師を務める。自身のゼロから学んだ知識・経験を活かし、一人でも多くの人に投資の楽しさを伝えることをモットーに、投資教育の活動を行っている

株式会社キャリエーラ
代表取締役
藤井佐和子さん
キャリアアドバイザー/ダイバーシティコンサルタント。大学卒業後、カメラメーカーに入社し、海外営業部にて3年半経験を積む。その後、1年間の派遣勤務を経験した後、インテリジェンス(現:パーソルキャリア)に入社。創業期の1994年から8年間派遣事業部と紹介事業部の立ち上げに携わる。2002年(株)キャリエーラを立ち上げ、「日経課長塾」をはじめとする企業研修・講演、「日経×woman」にてキャリアデザインに関する動画配信などを手掛ける。個人向けカウンセリングの実績は、延べ17000人以上にのぼる。著書は『どんな職場でも求められる人になるために いますぐはじめる47のこと(ディスカヴァー・トゥエンティワン)』、『女性社員に支持されるできる上司の働き方(WAVE出版)』など多数
文/上野 真理子