02 MAR/2023

未経験転職で年収が下がる前に知っておきたいお金のこと「無理な節約は早期退職のリスクも」【マネーの専門家・FP監修】

未経験の業界に転職する場合、どうしても気になるのが年収ダウン。やりたい仕事に挑戦するのはいいけれど、転職後の思わぬ出費や、生活水準の維持に不安を感じる人は多いかもしれない。

松本穂香

そこで、年収ダウン転職をする前に知っておきたいお金の注意点や、転職後に実践したい家計の見直し方について、女性のキャリアとお金に関するアドバイスを行っているファイナンシャルプランナーの高山一恵さんにお話を伺った。

高山一恵さん

<プロフィール>高山一恵さん
CFP(日本FP協会認定)/1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)/DCプランナー1級所持。慶應義塾大学文学部卒業。2005年に女性による女性のためのファイナンシャルプランニングオフィス、株式会社エフピーウーマンの設立に参画し、10年間取締役を務め、退任。15年に株式会社Money&Youの取締役就任。女性向けWEBメディア『FP Cafe®』や『Mocha』を運営。また、『Money&You TV』や「マネラジ。」などでも情報を発信している。「女性」にお金の知識を伝えるべく精力的に活動を展開している

転職して年収が下がっても住民税は減額されないので要注意

転職にまつわるお金の問題で、真っ先に対処すべきは無収入となる期間の過ごし方です。ブランクがなければこの問題はクリアできますから、その場合は年収ダウンの短期的な影響はそれほどありません。

ただ、注意したいのが住民税の問題です。なぜなら、住民税は「前年の収入をもとに計算される」から。

転職先の給与から毎月天引きされるのは変わりませんが、転職して年収が下がったからといって、住民税も減額されるわけではないことは知っておきたいところ。

年収の下がり幅が大きいほど、転職後の収入に対する住民税の負担額は大きくなるのです。

自治体によっては、昨年の源泉徴収票の内容(収入や所得控除など)を入れることで今年度の税額をシミュレーションできるシステムをWebサイトで公開していますので、事前におおよその税額を把握しておくと安心です。

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また、未経験転職をする際の年収ダウンの下げ幅を小さくする、あるいは入社後のキャリアアップを容易にするために、「教育訓練給付制度」を利用してあらかじめ即戦力として生きるスキルを身に付けておくのも一つの手です。

この制度では、厚生労働大臣が指定する一般教育訓練を受講して修了した場合、受講料の20%(年間上限10万円)が支給されます。

プログラミングのように専門性が高い講座であれば70%(年間上限56万円)が支給される場合もあります。

支給の条件は厚生労働省のHPでチェックすることができます。

該当する場合はかなりおトクな給付金ですので、スクールに通ったり資格を取得したりすることを考えている方はぜひ調べてみてください。

年収ダウンに備えて知っておきたい「就業促進定着手当」

年収ダウン転職を不安に感じている人の場合、転職前のブランク期間を長く空ける人は少数だと思います。

ただ、会社が倒産したり、ご家族の問題で転居せざるを得なくなったりと、急に会社を辞めなければいけない不測の事態は誰にでも起こり得ます。

そのような場合でも、国から支給される手当をうまく活用することで、やりたいことを実現するための未経験転職をあきらめずに済むかもしれません。

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もしもの場合の年収ダウン転職に備えて、知っておいていただきたい制度が「就業促進定着手当」です。

就業促進手当を受け取るには、「失業手当」と「再就職手当」の受給者であることが条件の一つとなります。それぞれについて簡単にご紹介しましょう。

まず一つ目の「失業手当」は、退職後にブランクが空いてしまう場合に申請できるものです。

退職の理由を問わず課される「7日間の待機期間」をへて、自己都合退職の場合はその2カ月後、会社都合退職の場合はその翌日から受給することができ、給付期間は退職理由と雇用保険の加入期間によって決まります。

二つ目の「再就職手当」は、再就職時に受給中の失業手当が3分の1以上残っている場合に受け取れます。

なるべく早く再就職をして税金を納めてもらうために生まれた手当で、新しい職場でお給料を貰いながら、失業手当の残りも一部受け取れるというものです。

この「失業手当」と「再就職手当」を受給しており、新しい職場で6カ月以上雇用されていて、かつ前職より給与が下がる場合に受け取れるのが、「就業促進定着手当」。

離職前にもらっていた収入との差額を受け取れるイメージですね。

【就業促進定着手当の給付条件】
■失業手当と再就職手当を受給している

■再就職後、6カ月以上同じ職場で働き、かつ雇用保険に加入している

■給与が前の職場より下がっている

【就業促進定着手当の支給額の算出方法】
(離職前の賃金日額-再就職後6カ月間の賃金日額)×再就職後6カ月間の賃金の支払基礎日数

フィナンシャルプランナーとしていろいろな方の相談に応じていますが、失業手当はご存じでも、他の手当は「知らない」という方がほとんどです。

よく言われることですが、国から税金の通知はキッチリ来ても、手当の通知はきません。

知らずに損してしまうことを防ぐには、自ら情報を取りにいく姿勢が必要です。

おすすめは、転職を検討している段階からハローワークに足を運ぶこと。

ご紹介した制度も全てハローワークで申請ができますし、国の制度は意外とひんぱんに変わりますから、ぜひ手当へのアンテナを張って、最新情報をキャッチアップする意識を持ってみてください。

無理な支出削減が早期退職のリスクになる?

年収ダウン転職前に知っておきたいお金の知識について整理したところで、次にやるべきは家計の引き締めです。

Aさんの毎月の支出を例に、詳しく説明しましょう。

Aさん(28歳、手取り月収25万円)の毎月の支出:
家賃:8万円(都内一人暮らし)
食費&日用品:4万円
光熱費:8000円
通信費:1万円
交際費(飲み会など):2万円
その他:6万円(洋服や美容、習い事や趣味などの娯楽費)

…毎月の支出:22万円

家計を引き締めるセオリーにおいて、まず取り掛かるべきは「固定費の削減」です。

Aさんの場合、通信費の1万円は、格安SIMに乗り換えれば半額ほどに抑えられます。

家賃に関しては「手取りの25%」が目安となりますので、手取り25万円のAさんの場合は約6万円。8万円というのは、ちょっと高めの印象です。

再就職先の立地やAさんのライフスタイルにもよりますが、今よりも比較的賃料が安いエリアに引っ越すことを検討してもいいかもしれません。

もしくは、シェアハウスに住んで家賃を抑えるのも一つの手です。

固定費以外だと、「その他:6万円(洋服や美容、習い事や趣味などの娯楽費)」も少し抑えられそうですね。

ただ、ここに手を付けるなら注意したいのが「ストレスなく抑えること」です。

趣味にかかるお金って、人によって優先順位が違うんですよ。

例えば「推し活が生きがい」という人がむやみに娯楽費を削ってしまうと、ストレスをため込んでしまいます。

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実は年収ダウン転職でよくある失敗が、「娯楽費や食費を無理に削ってしまった結果、日々の生活にストレスがたまってしまった」というケース。

その結果、心身ともに調子を崩してしまうこともあります。

理想のキャリアを求めて転職したはずが、早期退職につながってしまったら元も子もありませんよね。

家計のひきしめで大切なのは、「自分軸」で整理することです。固定費削減などのセオリーはあくまでも目安。

参考にしつつも、最終的には「どう生活すればストレスがたまらないのか」を自分で判断しましょう。

推し活の例で言うと、「これまでグッズは全種類買っていたけれど、次からは1種類でいい」と思えるのか、「どうしても全種類買いたい!」なのかによって、家計の見直し方は変わります。

ストレスなく支出を削れるラインを考えた上で、削れない分は他の支出を見直すことでカバーするといいですね。

そこまで考えられたら、転職前に「出費を抑えた後の生活」を実際にやってみることをおすすめします。

転職後の手取りが3万円減るならば、今の生活費から3万円を差し引いた額で過ごしてみる。

そうやってストレスが掛かりすぎていないかを確かめてみてください。

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節約について、もう一つ。転職先を選ぶ際には、福利厚生もしっかりチェックしてください。

最近は各社がユニークな手当を支給していることも多く、家賃補助や社員食堂などのメジャーなものに加えて、会社の保養所を格安で使えたり、書籍の購入費を支給してくれたりします。

例えばAさんの趣味が「読書」なら、書籍の購入費補助は家計の節約にもつながります。

そういう視点で転職先を絞り込めると、「年収ダウン転職」のダメージを少し和らげることができます。

年収ダウン転職前の貯蓄の目安は「今の手取り月収の3カ月分」

「税金・手当」「節約」に続き、考えたいのが「貯蓄」のこと。

若い方だと、日々の生活を楽しむのに夢中で「貯蓄ゼロ」という方も珍しくありません。

無鉄砲は若さの特権ですが、年収ダウン転職となれば話は別。

これまでは特に心身の不安なく生活できていた人でも、環境がガラリと変われば調子を崩し、予期せぬ出費があるかもしれません。

仮に体調不良などで連続して3日間休み、4日目以降も仕事に復帰できなかった場合は「傷病手当金」を受け取りながら休養することになりますが、ここで受け取れるのは月額報酬の3分の2。

残り3分の1は、これまでの貯蓄から穴埋めして生活しなければならないのです。

病気やケガの心配がなくても、アラサー世代はいわゆる結婚ラッシュ。冠婚葬祭が立て続けに入れば、予想外の出費に悩まされるかもしれません。

それらを考慮すると、最低でも「現在の手取り月収の3カ月分」を貯蓄しておくと安心です。

先ほどのAさんの場合なら、「手取り月収25万円×3カ月=75万円」以上あるのが望ましいですね。

とはいえ、若い方にとって手取り月収の3カ月分は大金です。「貯まるまで転職できない」と思い詰めてしまうと、得がたいチャンスを逃すことになりかねません。

もちろん貯蓄も大切ですが、それ以上に考えるべきは、年収ダウンを一時的なものにとどめ、いずれはもとの水準、もしくはそれを上回る水準に戻すこと

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そこで提案したいのが、その期間を「3年以内」など明確に設定することです。

期限が決まっていれば、多少生活水準を落としても「この期間だけの生活だから」と納得しやすいもの。

自分の可能性を広げるための転職のはずですから、生活水準を落としたままズルズル10年……といった事態を避けるためにも、「いずれは年収が上がる見込みだから」ではなく、「この時期までに年収を今以上の水準にする」と決めましょう。

年収が下がってしまうことが分かっているのなら、備えることができます。

それに、たとえ一度年収ダウンを経験したとしても、自分の努力次第で取り返すことも可能です。

まるでスポンジのように知識を吸収できるのは、20代の特権です。

転職先の将来性や昇給のチャンス、次の会社で経験を積んだのちの自身のキャリアプランなど、長期的に年収を上げられる見込みがあるのかを冷静に考えながら、ぜひやりたい仕事への挑戦をあきらめずに済む道を探っていただければと思います。

取材・文/夏野かおる