能條桃子が“25歳は不受理”になると知りながら県知事に立候補した真意「女性・若者のいない政治はフェアじゃない」
コロナ禍によって政治への関心は社会的に高まったものの、「政治に関心がありますか?」と聞かれて自信を持ってうなずける女性は、まだ少ないかもしれない。
しかし、自分の人生に対して普段から感じているモヤモヤの原因が、実は政治にあると知ったらどうだろう?
「結婚や子育て、キャリアに関して女性が抱えるさまざまな悩みは、政治の場における若者や女性の少なさが背景にある」と話すのは、若者の政治参加を促す一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN代表の能條桃子さんだ。
現在25歳の能條さんは2023年3月、被選挙権の引き下げを目指して国に対し集団訴訟を起こすことを発表した。
実は昨日、神奈川県知事選挙に立候補届を出しに行きました。が、被選挙権年齢(選挙に立候補できる年齢)が30歳なので、先日25歳の私は不受理になりました。
これから被選挙権年齢の引き下げに向けて、仲間たちと一緒に公共訴訟という形で問題提起をすることを計画中です。 pic.twitter.com/HD1pro50zt
— 能條桃子 \NO YOUTH NO JAPAN/ (@momokonojo) March 24, 2023
年齢制限があることを知りながらあえて神奈川県知事選挙(立候補できるのは30歳以上)の審査を受け、不受理となったニュースを耳にした人は多いのではないだろうか。
社会を変えるために大きなアクションを起こした能條さんの原動力、そして「若者や女性のいない政治」が20代の働く女性にもたらす影響について話を聞いた。
若者が立候補できない国では、若者の声が政治に届きにくい
ーー今回、神奈川県知事選に立候補できないのは理解した上で、あえて審査を受けた理由を教えてください。
被選挙権年齢の引き下げを求めて訴訟を起こすためです。
日本には違憲審査制というルールがあり、一度不受理にならなければ訴訟を起こせない仕組みがあるため、25歳という年齢では立候補が受理されないのを知りながら審査を受けました。
今日本では18歳から投票ができますが、衆議院議員や市区町村議員は25歳から、参議院議員や都道府県知事は30歳からしか立候補ができません。
つまり18歳の人は、できるだけ自分たちに近い立場の人を支援したくても、一番近くて7歳上や12歳上の議員を選ばざるを得ない状況に置かれています。
こうした制度を変え、若者の声がきちんと政治に届く社会にする必要があると思ったことから訴訟に踏み切りました。
ーー日本の被選挙権年齢は、諸外国と比べると高いのでしょうか?
はい。すでに世界194カ国のうち3分の1の国では18歳から、その他の3分の1の国では21歳から立候補ができるので、25歳からしか立候補ができない日本は少数派です。
日本では被選挙権年齢のルールは1945年から変わっていませんが、海外では2000年代に入ってから引き下げが進んでいます。
フランスやイギリスでは18歳から立候補できるようになりましたし、2022年には韓国でも被選挙権年齢が18歳に引き下げられ、たくさんの若い人が政治に加わりました。
先進国はどの国も少子高齢化の問題を抱えています。高齢者の人口比が増え続ける中で、どうやって若者の声を政治に届けるかが大きな問題になっているのです。
その解決策として被選挙権年齢の引き下げがヨーロッパで始まり、世界中に広がっているという背景があります。
ーー被選挙年齢を定めた法律を変えるためのアプローチはいくつかあると思いますが、今回訴訟という手段を選んだのはなぜですか?
世論を喚起するためです。これまで私たちは、アドボカシー活動の一環として国会議員との対話も行ってきました。
しかし、そこで一番に言われるのは「世の中にたくさんの課題がある中で、被選挙権年齢の引き下げはどうしても優先順位が上がらない。若い人たちは本当にそれを求めているの?」ということでした。
国会議員の方たちは、私たちの主張に強く反対しているわけではありませんでした。しかし、それと同時に世論がなければ政治家は動けないとも言っていました。
では世論を動かすためには何をするべきなんだろう? と考えた結果、たどり着いたのが訴訟でした。
日本では今、同性婚や選択的夫婦別姓を求めて訴訟が行われており、その裁判の結果はニュースとなって多方面で世論を喚起しています。
それと同じように、被選挙年齢の問題も裁判を通じてニュースになることで、より多くの人に問題を知ってもらえるきっかけをつくれると考えました。
また裁判が進めば、国側と弁護側の議論によって論点が整理されるというメリットがあります。それはこの問題を解決する上で大切なプロセスだと考えました。
政治と若者が互いに遠ざけあっている状況で、損をするのは若者だけ
ーー能條さんは2019年に一般社団法人「NO YOUTH NO JAPAN」を立ち上げました。何がきっかけで若者の政治参加に取り組むようになったのですか。
最も直接的なきっかけは、大学2年生の秋に参加した選挙活動のインターンです。
そこで分かったのは、ビラを受け取ってくれる支援者も、事務所で選挙を手伝っているスタッフも、ほとんどが高齢者だということでした。
「こういう環境で当選した政治家が、子育て世代や若者よりも高齢者のために活動するのは当然だ」と心から思いましたね。
ところが大学の友人にこういう話をしたら、選挙のボランティアに参加したというだけで「意識高いね」なんて言われてしまった。
今の日本では、若者と政治がお互いに遠ざけ合っている。でもその状況によって損をするのは私たちです。この埋まらないギャップをなんとかできないかなと思うようになりました。
ーーインターン活動を通じて立候補側の視点で選挙を見たことで、若者と政治の間にある距離に気づいたのですね。
そうなんです。もう一つのきっかけはデンマークへの留学です。日本と違って若者の投票率が80%を超えていると知り、どんな国なのか知りたくて留学しました。
そこで目にしたのは衝撃的な光景でした。デンマークでは若い人たちが学力に関係なく政党の違いを理解していて、「次の選挙ではどこに投票する?」という話を当たり前のようにしていたんです。
しかも、ある授業が終わった後に「今の授業あまり面白くなかったね」とクラスのみんなで話していたら、その中の一人が私たちの意見をメモにまとめて、それを先生に届けに行きました。
もし日本だったら、学生は隠れて愚痴を言うだけで、次の授業でも同じことが繰り返されると思います。
でもデンマークの人たちには、自分たちのコミュニティーは自分たちで変えられるという成功体験があるので、日本人が驚くような行動を当然のように取ることができるんです。
こういう民主主義の根付いた社会は、とても風通しが良くて居心地がいいなと感じましたね。
ーー帰国後に「NO YOUTH NO JAPAN」を立ち上げました。活動を始めて3年がたちましたが、手応えはいかがですか?
「NO YOUTH NO JAPAN」では、若い人に政治に関心を持ってもらうために、政党の違いや投票の仕方などをインフォグラフィックで分かりやすく伝える活動を続けてきました。
そしてコロナ禍を経て、若い人の政治に対する関心は高まってきていると感じます。
ある自治体とキャンペーンを組んで活動したときは、若者の投票率が7%も上がりましたし、全体で見ても若い人の投票率は選挙の度に上がっています。
また、私と同年代や下の世代にも、政治に関して声を上げる人が増え始めています。活動を始めた頃はこんな変化が生まれるとは思っていなかったので、本当にうれしいです。
一方で、せっかく若い人が政治に関心を持ち始めているのに、その声を受け止めてくれる人が政治の世界に少ないことは大きな問題だと捉えています。
もっと当事者と近い人が政治家にいてくれたら、若者を取り巻くさまざまな問題が一気に前進するはずです。今回の訴訟によってこの問題の解決に少しでも近づければと思っています。
共感してくれる人の声が、批判を上回るエネルギーになる
ーー若者の政治参加を促し、政治の世界に若者の声を届ける……一筋縄ではいかない活動だと思うのですが、能條さんはすごく楽しそうに取り組まれていますよね。そのエネルギーはどこから湧いてくるのでしょうか?
もちろんうまくいかないこともたくさんあるので、いつも明るいわけではありません。
私も大学時代1~2年生の頃なんかは特に、社会に対して希望が持てず、暗い気持ちで過ごしていましたから。
でも「NO YOUTH NO JAPAN」の活動を始めてからは、着実に変化を起こせている部分がありますし、やればやるほど新しく取り組むべきことが見つかるので、それがすごく楽しいんです。
まだできていないことだけではなく、前進している部分に目を向けることでポジティブになれるので、それが原動力になっている側面はあると思います。
また、私たちの活動に対して批判の声が上がることもありますが、それと同じぐらい「私も同じことを問題だと思っていた!」「応援しています」といった共感の声をいただく機会も多いです。
一緒に活動しているメンバーはもちろん、応援してくれる方も含めて「一人じゃない」と思えることは、この活動を続ける上で大きな支えになっています。
ーー応援してくれる方からの共感が、批判をはね返すエネルギーになっているのですね。
そうですね。その他には、自分たちの活動を長期的な視点から眺めるのも、心を落ち着けて冷静になるべきことに向かうためには大切なことかもしれません。
例えば、日本で婦人参政権が認められた時代には、女性の中にも「女性に参政権なんていらない」「政治は男がやってくれればいい」と思っている人が少なからずいたと思うんですよ。
それを考えると、当時の活動家たちは、同時代の人たちからはあまり感謝されていなかったかもしれません。
でも私は今、女性参政権のために声を上げてくれた当時の人たちにものすごく感謝していますし、多くの皆さんがそう感じているのではないでしょうか。女性に選挙権がないなんて、今や考えられませんからね。
だから私たちの活動も、「今すぐに世の中に理解されるものではないかもしれないけれども、長い目で見たときに価値が認められることがあるかもしれない」と信じて、前向きに取り組んでいます。
人生のモヤモヤの背景に「政治」あり。苦しさの原因と向き合うために
ーーただ、まだまだ政治家として活躍する女性や若者は少ないのが実情ですよね。
はい。もしこの記事を読んでいる皆さんが、自分の人生にモヤモヤしていることがあったら、そこに政治が関係している可能性は高いです。
ーーそれはどういうことですか?
例えば、結婚・出産に関して言えば、法律婚をしたら姓を変えるのが大変だし苦痛があるとか、子どもができたら仕事と育児の両立負担が大きいとか……。
仕事に関しては、女性にはガラスの天井があってキャリアアップしづらいとか、実はセクハラがあるとか、「女性が職場にいると華があっていいね」なんて言われていやな気分になるとか。
こうした問題は、もちろん自分の家庭や会社内の課題でもありますが、それが許される空気を生み出す社会の制度や文化を政治がつくってきたからという部分もあるわけです。
女性が家庭で家事をすることを前提に、あらゆる制度をつくる意思決定をしてきたのは政治ですからね。
多くの若い女性が感じている不合理は、大事な意思決定の場に若者や女性が極めて少ないためにもたらされたものだと言えます。
今も衆議院議員のうち女性の割合はわずか9%台、市区町村の首長に至っては3%にも達していないのが現状なんです。
ーー個人的な問題だと思っていたことが、実は政治によってもたらされた問題だったと気付く若者や女性が増えれば、政治に関する関心は一気に高まりそうですね。
そう思います。でも日本では、若者や女性向けの政策があまりにも少ないので、「こんな対策を政治がしてくれないのが問題だ」という声が出る土壌すら整っていないのが現状です。
例えば北欧では、うつ病になる人が多いという現状を受けて、所得の低い若者をサポートするために25歳以下の人は無料でクリニックに行けるようにするなどの政策が充実しています。
しかし、日本にはこういった政策はありませんよね。海外の事例を知ることは、政治に対する目を向ける一つのヒントになるはずです。
そして、自分が今抱えているモヤモヤが政治とつながっていることに気付いた皆さんには、まずは気になるテーマについて、自分の考えを人に話してみる機会を持ってもらえるといいなと思います。
例えば、「何で結婚したら姓を変えなきゃいけないの? 何で姓を変えるほとんどが女性なの?」っていうことにモヤモヤを感じているなら、身近な友人でもいいし、選択的夫婦別姓の実現に向けて動いている団体の人でもいいし、SNSなどで仲間をみつけてみてほしい。
同じ問題意識を持つ仲間が見つかると、課題解決に向けて何か行動したくなることもあるでしょうしね。
そして、個人的におすすめなのは「推しの政治家」を持つこと。政治家の問題意識や活動内容を調べてみて、「この人は応援したい!」という政治家が見つかったら、署名活動に参加したり、選挙を手伝ったりすることができると思います。
ーー自分たちの手で自分たちの生きやすい社会をつくっていくために、政治に対する関心を一人一人が持ち続けたいですよね。能條さんは今後、どんな活動に力を入れていく予定ですか?
まずは被選挙権年齢の引き下げを求める訴訟ですね。被選挙権の問題を、できるだけ多くの人に知ってもらいたいです。
同時に、政治分野のジェンダーギャップをなくす「FIFTYS PROJECT」も推進しているので、この取り組みを通じて20代、30代の若い候補者を増やし、それを応援する人を増やす文化を作っていきたいですね。
政治の場における若者や女性の存在は、私たちが生きやすい社会を作る上で欠かせないもの。
若者の政治に対する関心を引き続き高めるとともに、多様な人を政治の世界に送り出すことで、フェアで風通しの良い社会づくりに貢献していきたいと思います。
取材・文/一本麻衣