育休明けに男が時短・女がフルタイム選んだ夫婦の“超合理的”な選択「周囲とは違っても、自分たちにメリットは大きい」
コロナ禍以降に浸透した時間・場所にとらわれない働き方や、国が力を入れて取り組んでいる男性育休の取得促進によって、育休復帰後の女性の働き方が多様化している。「女性が時短勤務をする」以外に今はどんな選択肢が生まれているのか、識者・経験者が語る実例を通して紹介しよう
育休復帰後、家庭の状況に応じて夫が時短勤務を選択し、妻がフルタイム勤務で働くケースも目立つようになってきた。この記事で紹介する玉置夫妻も、そんな夫婦の一組だ。

新聞社で記者として働く玉置太郎さん(左)と、小学校教諭として働く妻のひかるさん(右)
「僕らのような夫婦も中にはいますけど、育休復帰後は『女性が時短勤務で男性がフルタイムで働くもの』と考える人もまだ多い。
自分たちは“デフォルトとは逆パターン”を選んだからこその苦労も実際のところありましたが、家族にとってはメリットの方が大きいですね」(太郎さん)
そう明かしてくれた太郎さん。
“デフォルトとは逆パターン”の働き方を、二人が選んだのはなぜだったのだろうか。今の共働きのカタチを選択することで得られたメリットと合わせて聞いた。
妻がキャリアの転機を迎えていたから、このカタチがベストだった

―― お二人が育休復帰後に「夫が時短勤務、妻がフルタイム」の共働きスタイルを選択した理由は何だったのでしょうか?
太郎さん:育休は妻と私で順番に取得したのですが、ちょうど妻の育休が明けるタイミングで、もともと保育士だった妻が小学校教諭になったんです。
ですから、妻にとっては人生の転機でしたし、新しい職場や仕事に慣れる意味でも、とても大事な時期でした。
一方、私は今いる新聞社ですでに10年以上記者として働いてきました。
シンプルに考えて、新しい職場に移ったばかりの妻よりも、慣れた環境で仕事を続ける私が時短勤務にした方が合理的だと思ったんですよね。それで妻に「自分が時短勤務にしようか」と提案して。
ひかるさん:今このタイミングを逃したら、いつまたフルタイムでしっかり経験を積めるのか分からない。
そう感じていたので、夫から「自分が時短で働く」と言ってもらえた時は、素直にありがたいなと思いましたね。
―― では、特にその決断に葛藤はなかった?
ひかるさん:周囲の人と違う選択をすることへの葛藤は特になかったですね。
ただ、保育園のお迎えもご飯の準備も夫に任せているので、「本来私がやるべきなのかな……」という気持ちが湧いてくることはあります。ちょっとした後ろめたさのような気持ちはどこかにあるんですよね。
太郎さん:でも、こういった性別役割分業の考え方って、明確な理由はないんですよね。出産と授乳以外は男性でもできるはずですし、本来ならばどちらが時短勤務を取得してもいいはず。
フラットに考えて、わが家の場合は私が時短勤務を取得する方がいいと判断したので、特に話し合いを重ねることもなくて、あっさり決まった感じです。
ただ、私の職場には長期の育休を取得したり、時短勤務を選択したりする男性がいなかったし、上司は専業主婦やパートで働く妻がいる人が多いようなので、「時短勤務にしたい」と言い出すことにためらいはありました。
―― 実際、職場の反応はどうでしたか?
太郎さん:何しろ事例がなかったので、多少戸惑いはあったかもしれませんが、特に非難されることはなく、すんなり受け入れてもらえましたね。
ひかるさん:私も「お子さん小さいんでしょ? 帰らなくて大丈夫なの?」と聞かれることはありましたが、「夫が時短勤務なので大丈夫です」と答えると、それ以上聞かれることはなかったです。
むしろ、「男性が時短勤務を取得する」という選択肢もあるんだということを身近なところで広められたのは良かったのかなとも思います。
お互いの立場を交代で経験したことで、理解し合えるように

―― 太郎さんが時短勤務、ひかるさんがフルタイムの働き方で職場復職してから、何かぶつかった壁はありましたか?
ひかるさん:私は復職ではなく、育休後のタイミングで転職したので、まずは新しい環境に慣れるストレスがありました。
一方で夫も仕事をしながら子どものお迎えに行って、ご飯を作って……という生活で疲れもあり、お互い余裕のなさからぶつかることが増えました。
つい、「あなたはフルタイムで働いているわけじゃないんだから頑張ってよ」なんていう気持ちになっちゃったりして(笑)
太郎さん:たしかに、ぶつかることは多かったですね。
同僚がまだ忙しく働いている16時に片づけを始めて、外が明るいうちに帰宅することに引け目を感じながら、強制的に頭を家事育児モードへと切り替えなければいけないことがすごく大変で、一時期イライラしていたんですよね。
それに加えて子どもがイヤイヤ期(子どもが成長する過程で自己主張が激しくなる時期)に入っていたこともあり、精神的に追い込まれてしまって。
そのイライラの矛先が妻に向いてしまって、妻は妻で持ち帰りの仕事があり、忙しくてピリピリして……という状況に陥ることが多かったです。
―― こういった状況はどのように打開していったのでしょうか?
ひかるさん:私たちの場合、育休を交互に取ったことでどちらも「育児をメインで担当する」経験をしていたので、お互いの立場や気持ちを理解できたのは、状況を改善していく上で良かったと思います。
きっと今、相手は「ここが大変だろうな」と想像ができるからこそ、建設的な話し合いができる。
「自分が稼いでるんだから、家のことは全部やれよ」なんていう考え方になることはまずありませんし、給料が発生しない家事・育児をメインでやる大変さを分かり合えるのは、私たちのスタイルを選択したからこそのメリットですね。
太郎さん:育児を平等に、夫婦交代でやるというのはすごく大事だと思います。
相手の状況を理解してあげられるからこそ抑えられる感情もあるし、できる声掛けもありますから。
―― たしかに、相手の立場を想像できるのは大きなメリットですね。太郎さんが、時短勤務を選んで良かったと思うときは?
太郎さん:一番良かったのは、育休をとって自分が時短勤務にしたことで、子どもと過ごす時間をたっぷり持てたことです。
一番成長が著しい時期に、「こんなことができるようになった」という瞬間を見届けられるのはやっぱりうれしいですし、保育園の帰りに公園に寄って近所の子どもたちと遊んで帰る時間も尊いなと感じます。
そして、時短勤務を始めてから、これまで仕事に費やす時間と子どもと過ごす時間のバランスが仕事に偏り過ぎていたことにも気付きました。
改善されてきてはいるものの、日本の社会では、特に男性のワークライフバランスはまだまだ仕事への比重が大きすぎると思います。

ーーひかるさんはいかがでしょうか。フルタイム勤務をご自身が選ぶことで得られたメリットについてどう感じますか?
ひかるさん:やはり、新しい仕事に思い切り集中できることはメリットですね。そこは思っていた通りでした。
あともう一つ、夫も先ほど話していましたが、父親が子どもと過ごす時間を増やせたことで、子どものことをより深く理解できるようになったことも二人で選んだこのワークスタイルのメリットだなと感じます。
やっぱり子どもって、お母さんに甘えたいことが多いので、女性が時短勤務を取得してべったりになると、父親が入り込む隙がなくなってしまうことがあると思うんです。
でもうちの場合だと、子どもが私にべったりになることがあっても、「普段お母さんと過ごす時間が短いからかな」という考えになるので、夫が育児から遠ざかってしまうことはないんですよね。
子どもが私に甘えている間に夫が皿洗いをしたり部屋を片付けたりと、臨機応変に役割分担ができるようになったと思います。
―― 二人がそれぞれ育児の主担当になることで、いいチームワークが生まれたんですね。
太郎さん:ええ。あとは、直接影響を与えているわけではないのですが、間接的に職場にも何か変化を与えられたのかな、とは感じています。
私が育休を取得した後、男性社員の育休取得が増えてきましたし、夫婦で2カ月ずつ交代しながら時短勤務を取得する、なんていう事例も出てきました。
新聞社はまだまだ男性社会な面があるので、これまでは「男性が外で働き、女性が家事を担う」というような価値観も根強くあったと思います。
でも、そうではないカタチがあることも、身をもって提示できた。それをきっかけに、これから先の持続可能な働き方について考えるきっかけにもなったんじゃないかと思います。
ひかるさん:ある意味、夫が今回経験したような「職場を早く出なければいけない申し訳なさ」とか、育児と仕事を両立するストレスって、多くの女性たちが経験してきているものなんですよね。
だから、そういう立場の女性に対する理解を深めてくれたこともうれしいし、男性もこういう状況を経験することで、性別に関係なく子育てと仕事の両立に「申し訳なさ」を感じなくていい職場づくりをしていくきっかけになるといいなと思います。
太郎さん:たしかに、女性で時短勤務している先輩・後輩もいたんですけど、自分が経験するまでは「こういうことが大変だろうな」とか想像をめぐらせるようなことはあまりなかったんですよね。
それが今はすごく具体的に苦労が分かる。それは自分にとっても価値のあることだなと思います。
「女だから・男だから」ではなく、個人としてベストな選択は何かを考える

―― お二人にとって今の働き方は「合理的な選択だった」というお話がありましたが、なぜ自分たちらしい選択ができたと思いますか?
ひかるさん:周囲に流されずに、自分たちがどうしたいかという芯を持てていたからかなと思います。
「自分たちらしい選択はこうだ」と貫こうとすると、どこかしらからネガティブな反応も起こるんですよね。
「女が子どもを育てなきゃ」と言ってくる人もいるかもしれないですし、「うちはそんな選択できないのに」と思う人もいるでしょうし。
私たちもそういった周囲の目を感じることはありましたが、「自分たちはこうしていきたい」という意志をしっかり持っていたので、今こうやって自分たちらしい働き方を選択できたのかなと思います。
―― たしかに、世間の常識とされていることから外れると、ネガティブにとらえられることはあるかもしれませんね。
ひかるさん:女性が自分らしく生きようとすると、反発って起きやすいんですよね。でも大事にしたいものをしっかり持っておくと、それに流されずに自分らしい選択ができると思うんです。
太郎さん:うちは「男性は仕事がメインで、女性は家庭がメイン」という固定観念をいったん取り払った上で、自分たちはどう生きていきたいのかをすり合わせられたのが良かったのかもしれません。
性別による固定観念にとらわれすぎずに、「個人と個人」でどうしていきたいのか。二人と子どもにとって一番いい選択ができるといいですよね。
編集・取材・文/光谷麻里(編集部) ご本人画像/玉置さん提供
『変わる、育休後の働き方』の過去記事一覧はこちら
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