カリスマダイエット講師・松田リエが“育休復帰後すぐ起業”を選んだ理由「子どもとの時間も、仕事の充実感も諦めたくなかった」

「女性が時短勤務」だけじゃない。
変わる、育休後の働き方

コロナ禍以降に浸透した時間・場所にとらわれない働き方や、国が力を入れて取り組んでいる男性育休の取得促進によって、育休復帰後の女性の働き方が多様化している。「女性が時短勤務をする」以外に今はどんな選択肢が生まれているのか、識者・経験者が語る実例を通して紹介しよう

松田リエさん

患者の健康管理・指導を行う保健師として働いていた松田リエさんは、育休後に病院勤めを辞めて「起業」を選択した一人だ。

起業から8年たった現在は、YouTube、ブログなどで食事改善による健康的なダイエット方法を発信し、2,000人以上のダイエットを成功に導いたカリスマダイエット講師として、オンラインサロンの運営や書籍出版など活躍の幅を広げている。

育休に入る前は、起業しようなんて全く考えていませんでした」そう話す松田さんが、復職のタイミングで起業を選択したのはなぜだったのだろうか。

「自分でビジネスを始めたら、家にいながら新しい世界が広がっていきました」と笑顔を見せる松田さんに、育休復帰直後の起業が彼女のワークライフにもたらした影響について聞いた。

松田リエさん

<プロフィール>松田リエ(まつだ・りえ)

看護師・保健師・ダイエット講師。Belle Life Style協会代表理事。1986年生まれ。看護師としてがん患者のケアを担当後、保健師として従事。成人の健康教育、メタボリック症候群や糖尿病患者への保健指導の経験から食事改善の重要性を痛感。自身も食事改善を行い、運動をせず自然に12kgのダイエットに成功。その経験から食べやせダイエット専門講師として、起業。受講生2000名のダイエットを成功へと導く。Amebaブログや各種SNSでダイエットに関する情報を発信。著書に『ずぼら瞬食ダイエット』(小学館)、『1日1杯でデブ味覚をリセット!やせ調味料ダイエット』(マガジンハウス)など YouTubeInstagramTwitter

「ダメなら会社員に戻ればいい」意気込まずに、一歩ずつスタートした起業

―― 松田さんは育休前は保健師として病院で働いていたとのことですが、育休後に起業することは当時から考えていたのでしょうか?

育休に入る前は、起業しようとは全く考えていませんでした。

ただ、保健師として復職すると朝7時に出勤しなければならず、家庭との両立は難しいかな……とは思っていました。

職場に仕事と育児を両立している女性もいなかったので、正直、復職している姿を想像できなかったですね。

―― では、育休を取得する時は、復職後のことは決めていなかった?

明確には考えていなかったですね。ただ「家にいられる仕事がしたい」とは思っていました。

私自身が共働きの家庭で育ったのですが、母は介護士として働いていたので、夜勤もあり、寂しい思いをすることが多かったんですよね。

だから私は、子どもが家に帰ってきたときに家にいて「おかえり」と言ってあげられる生活がしたかったんです。

―― 仕事を辞めて、専業主婦になる選択肢もありましたか?

20代の頃は専業主婦に憧れている時期もありました。ただ、結婚してから半年くらい実際に専業主婦をやってみた時期があって、私には向いてないなと思いました(笑)

社会に貢献している実感が持てず、だんだん「何のために生きてるんだろう」と思うようになってしまって。

私は仕事をしている方が精神的に安定するんだと、この期間に知りましたね。

―― 松田さんの中に「起業」の選択肢が生まれたのはいつ頃だったのでしょうか?

育休中ですね。自分が何をしたいのか分からず、ファイナンシャルプランナーの勉強をしてみたり、アンチエイジングの資格を取得したり、いろいろな方面で可能性を探っていたんですが、どれもピンとこなくて。

そんな中、ふとブログを書き始めたんです。以前、Woman typeでも記事にしていただいたのですが、私自身、12キロのダイエットに成功したことがあり、それをもとに健康的に食べて痩せる方法について発信し始めたのですが、想像をはるかに超えた反響があって。

たくさんいただいたメッセージの中に「痩せ方を教えてください」というものがあり、その方のダイエットをサポートし始めた時に「これを仕事にしたい!」と思ったのが、起業を意識し始めたきっかけです。

――起業はどのように進めていったのでしょうか?

まずはダイエット講師として、マンツーマンの食事改善指導からスタートし、1年1カ月で100人以上のダイエットをサポートしました。その後、常時30人以上に受講していただけるようになり、法人化したんです。

2017年に「一般社団法人Belle Life Style協会」を設立してからは、全国各地で講師を育成し、全国規模でベルラスダイエット講座を行えるようになりました。

その他、YouTubeやInstagramなどSNSを通した発信も行っていて、40万人以上にフォローしていただいています。

着実に、健康的な食事によるダイエット法を伝えられる範囲が広がっているのを感じますね。

松田リエさん

―― 育休後は慣れた環境に復帰したいと考える人が多いと思いますが、松田さんが復帰後すぐに「起業」という選択をしたのはなぜでしょうか?

毎日子どもと二人きりで家の中にいる生活に息苦しさを感じていたので、田舎暮らしでも知識とパソコンさえあれば実現できるビジネスのイメージが湧いた時に、「絶対にこの事業をやってみたい!」と強く思いました。

「家で働ける仕事がしたい」という希望も満たせるので、とりあえず気持ちが向くままに始めてみた感じです。

また、最初から「起業しよう」と意気込んでいたわけではなく、「まずは3カ月頑張ってみて、ダメならまた会社員に戻ればいいや」くらいの気持ちで始めたので、「起業に踏み切った」なんていう大きな決断をした感覚はなかったんですよね。

―― 「まずは3カ月」と考えることで、一歩目を踏み出しやすくなりそうですね。

この考え方は、何かにチャレンジする時はいつも大切にしているんです。ダメだったときの逃げ道をつくっておくと、前進しやすくなります。

「完璧にできるようになったらやろう」とか「このスキルを身に付けてからスタートしよう」と考えると、その道で生きていく覚悟ができないと一歩を踏み出せないので。

最初はうまくいっても、ゆくゆくダメになる可能性だってありますし、そういう不安は今もあります。

ただ、何か起きたらその時に考えればいいし、この先「起きるかもしれないこと」への不安って、取り越し苦労で終わることが多いんですよね。

分からないことだらけの起業でも、新しい世界との出会いは楽しかった

松田リエ

―― 初めての育児と初めての起業。両立生活は大変なことも多かったのではないでしょうか。

最初は大変なことだらけでした。

保健師はパソコン業務がほとんどないので、まずはパソコンの立ち上げ方が分からなくてサポートセンターに電話するところからのスタートでしたね(笑)

パソコンスキルがなかったので、ブログを書くだけでも1記事に7日くらいかかることもザラで。「画像ってどうやって貼り付けるんだろう?」「申し込みフォームってどうやって作るの?」とつまずく度に調べて……なんてやっていると、とてつもない時間が掛かってしまい、よくパソコンの前で泣いていました。

はじめのうちは自分のペースでやればいいんですが、お客さまが来てくれるようになるとそうもいかなくて。お客さまの需要に提供できるサービスが追いつかなくて、夜中に授乳した後にそのままパソコンに向かうことも珍しくありませんでした。

子どものペースに合わせた生活リズムの中で仕事に割く時間を捻出しなければいけない点が、一番大変だったかもしれません。

―― なぜ乗り越えられたのでしょう?

確かに大変だったけれど、充実感があったんです。

子どもを産んだら子育ての人生しか想像できていなかったんですが、目の前にパーッと未知の世界が広がっていくような感じがして。

毎日が新しいことの連続で、苦しいことよりも楽しいことの方が多かったですね。

専業主婦をしていて、自分の存在意義を感じられなかった時の方がずっとつらかったように思います。

成果が目に見えるやりがいも、理想のワークライフバランスも実現できた

―― 起業をしてから、どんなやりがいを感じられるようになりましたか?

自分の仕事の成果が「目に見える」ようになったのは大きな変化だと思います。

組織に属していると、「こうした方がいい」と思うことを実行していくには、組織自体を変化させなければならないケースもあり、少なからずハードルがあります。特に保健師は行政職なので、よりそのハードルが高い。

その点、起業家であれば、自分が最良だと思う手法を取れますし、やりたいと思ったらすぐに実現できます。

そしてそれが結果につながるのを見届けられるのは、この仕事ならではの醍醐味です。

―― 自分の仕事の成果を実感できるのは、どういうときですか?

私の事業の場合だと、SNSのフォロワー数やYouTubeの再生回数など、成果が数字にはっきり表れるので、これだけの人に自分の思いを届けられているんだなという実感があります。

例えば、YouTubeで投稿した動画が何十万回も再生されていると、それだけ需要があるテーマなんだなということが分かるので、よりニーズに合ったサービスへとつなげられるのも良い点ですね。

あとはやっぱりお客さまの変化が見える時が、何よりもうれしい瞬間です。

長年ダイエットに苦しんできた方が、健康的に体重を落としている姿を見られたときは「この仕事を始めて良かった」と心から思います。

最近はダイエットのためだけでなく、健康や予防医療のために取り入れてくれる50代、60代の方も増えていて、社会全体で食事に対する意識が高まっているのも感じます。

このような世の中の変化に対して、私が与えられている影響はわずかかもしれませんが、ダイエットや健康の悩みから解放される人を増やすことができているのだとしたら、こんなにうれしいことはありません。

―― 起業のきっかけの一つでもあったワークライフバランスは、起業後どのように変化しましたか?

事業を立ち上げたばかりの頃は、うまくいかないことも多くて睡眠を削ることもありましたが、少しずつ理想のワークライフバランスを取れるようになってきました。

働き方の面においても、最初から完璧を求めずに、少しずつ理想に近づけていったイメージですね。

夫も個人事業主なので、家事や育児においては、お互い空いている時間にやるべきことを見つけて臨機応変に分担していますし、最新家電を取り入れて家事そのものの負担も減らしているので、今は家族との時間を大切にできています。

今の働き方なら、いずれ子どもが大きくなって学校に通うようになっても、帰ってきたときに家にいて「お帰りなさい」と言ってあげられる生活を送れるはず。出産前に思い描いた理想の働き方が実現できていると感じますね。

松田リエさん

20代のうちに「やってみたらできた」経験をたくさん積んでおく

―― 松田さんが「起業」という自分らしい育休後の働き方を見つけることができたのは、なぜだと思いますか?

20代のうちから、少しでも興味があることは「とりあえずやってみる」ことを繰り返してきたからかもしれません。

まずはやってみないと、自分には何が向いているのか、何なら頑張れるのかも分かりません。

私がこの働き方と出会えたのも、育休中にいろいろな資格の勉強をしてみたりブログを書いてみたりしていたからこそ。

まずは手数を打ってみて、その中から自分らしいなと思うことが見つかれば、まっすぐに進んでいけばいいと思います。

また、「とりあえずやってみる」ことで“小さな成功体験”が積めるのもポイント。

例えば、20代の頃に貯金して海外留学をしたことがあるのですが、その過程を見てみると、「一人で飛行機に乗れた」「外国人に話しかけることができた」などの小さな成功体験がたくさんあるんですよね。

こういったものの積み重ねが、今新しい挑戦をする上で自分の背中を押してくれているのを感じます。

何か大きなことを成し遂げなくても、「チャレンジしてみたらできた」経験が、未来の自分のチャレンジを支えてくれることってあると思うんです。

―― 20代の頃の小さなチャレンジと成功体験の数々が、今生きているんですね。

そうですね。20代後半で結婚してからは高齢化が進む町に引っ越しをして、育休中は毎日家の中で子どもと二人だけで過ごして……と息が詰まりそうになることも多かったのですが、こういう経験も無駄ではなかったなと思っています。

あの時期があったからこそ、「家で何かできることはないか」という考えを持つことができたし、結果的にオンラインをベースにした今のビジネスの立ち上げにつながりました。

「自分の状況だとできることは限られている」と思う人も多いと思いますが、何かしら道はあるはず。まずは小さな一歩を踏み出すことから始めてみてほしいですね。

取材・文/光谷麻里(編集部) 画像提供/松田リエさん