会社員こそ最先端のワークスタイル!? 奥田浩美さんが語る「2015年以降、会社で働き続けるメリット」
学校を卒業して就職をするとき、会社員になる道を選ぶ人は多い。だが、実際に会社員として働いている女性270名に会社員に対するイメージについてアンケートを実施してみると、約6割の人が会社員以外の働き方を望んでいることが判明!
Q. あなたは、生涯十分な収入が得られる保証があるとしたら、会社員を辞めて独立したり、フリーランスになりたいと感じますか?

理由を聞いてみると、「時間を自由に使えないため、無駄が多いと思う」(営業/29歳)、「自宅でもできることはたくさんあるのにわざわざ通勤するのが苦痛」(一般事務/28歳)、「雇われている以上、ある程度の収入しか得られない」(31歳/接客・販売)など会社員を辞めたい理由はさまざま。
その中でも特に目立ったのが、「会社員でいる以上、会社の方針に従い、上司に従い、自分の好きなことはできないから」(営業/28歳)、「自分のやりたいことは二の次で、会社に振り回されることに苦痛を感じることがあるから」(営業事務/35歳)という類の声。
「融通がきかない」「自由がない」、こうしたイメージに加えて、「会社員である以上好きなことできない」というのが働く女性たちが抱く本音のようだ。
だが、そうした会社員に対する否定的なイメージに懐疑的な姿勢を示す人がいる。会社員やフリーランスを経て起業し、現在はIT業界で活躍する奥田浩美さんだ。
奥田さんは著書『会社を辞めないという選択--会社員として戦略的に生きていく』(日経BP)の中で、「会社という組織こそ、自分がやりたい大きな仕事を実現できる場だ」ということを主張している。
上記で示したアンケート結果のように、一般的なイメージとは真逆の考え方にも捉えられるが、そう主張する理由は何なのだろうか。これからの時代、女性が会社員という働き方を選択するメリットや、会社でやりたいことを実現していくための方法について詳しくお話を伺った。
これから会社員の“自由度”は増していく!

株式会社ウィズグループ、株式会社たからのやま
代表取締役
奥田浩美さん
1989年、国際会議の企画運営会社に入社。91年、ITに特化したイベントサポート事業を設立。2001年、株式会社ウィズグループを設立。IT系大規模コンファレンスの事務局統括・コンテスト企画などを行う。13年には株式会社たからのやまを設立。徳島県の限界集落に高齢者のタブレット使用のサポートを行う拠点を設け、高齢者との共同製品開発事業を開始。14年より、情報処理推進機構(IPA)の未踏IT人材発掘・育成事業の審査委員を務め、若い世代の新たなチャレンジを支援
奥田さんが、会社員という働き方に注目している理由は大きく分けて2つ。1つ目は、社会経済の変化とともに会社の経営そのものが大きく変化していることだ。
「どんな会社でも、利益を上げ、経営を拡大していくことを目的にしています。そのために今、会社がすべきことは何なのか。それを考えたとき、絶対にキーワードになるのが“多様性の尊重”です。多くの経営者たちが、その事実に気付き、人材活用の方法や経営方針を転換させているところです」
“会社の駒”という表現もあるように、これまでは経営層が決めたことを従順に遂行してくれる社員を求める会社も多かった。だが、なぜこれからは“多様性の尊重”が会社の経営に欠かせないのだろうか。また、“多様性を尊重する”とは具体的にどのようなことを言っているのだろうか。
「流通・サービスのグローバル化が急速に進み、消費者の志向も細分化を極めている現代社会。日本は今後ますます少子化で人口が少なくなっていきますから、国境を越え、多様な価値観を持ったさまざまな人種の顧客の囲い込みに挑まなければなりません。そうなると、サービス・商品の作り手である社員も、多様な価値観を持っている人たちが集まっていることが会社にとっての強みになることは間違いありません。これまで欠けていた女性的な視点、幅広い年齢から見た視点の重要性も、ますます高まっていくでしょう」
とはいえ、こういった危機感を持って経営改革を進めているのは一部の企業だけではないかという気もしてしまう。しかし、奥田さんは「会社全体にそういう考え方が広がっていないということはあり得ますが、ほとんどの経営者がこのような課題を認識していますよ」と主張する。
「会社が生き残っていくためには、多様な価値観を持った社員が一人一人のアイデアを生かして働ける環境作りが急務。子育てや介護などの経験がある人の考え方も、企業にとっては欠かせないものになります。多様性という強みを持ち続けるためにも、社員が自由度の高い働き方ができるように会社は変わっていくはずです」
奥田さんが会社員という働き方に注目する理由の2つ目は、最先端の働き方をしてきた起業家たちの動向だ。自身も起業経験を持つ奥田さん。周囲には起業家仲間が大勢いる。IT業界をはじめ、各界の最先端を走ってきたその仲間の一部が、“会社員回帰”を始めているというのだ。
「私の知人には、さまざまな働き方をしている人たちがいますが、みんな『やりたいことをやる』ために会社員を辞め、独立したり起業したりするんです。でも、自分が創ったサービスを企業に売却する形で、再度 “会社員”という枠に戻る人が最近とても増えている印象があります。“会社員回帰”といっても、チームリーダーやプロジェクト管理者というポジションです。なぜ再びそのポジションに戻るかというと、これからの時代、さまざまな価値観を持った人が集まる “チーム”で大企業のリソースを使って仕事をしていく方が、やりたいことをやるための最短ルートだと多くの人が気付き始めているからなのでしょうね」
チームを持たない働き方のデメリットにも目を向けよう

さらに、奥田さんは次のように付け加える。
「自由な働き方に憧れ、フリーランスや自営業を目指す人がいるのも事実。でも、今の日本では組織に属さない個人が生きていくのは非常に大変なことだということを忘れてはいけません。女性であれば、出産や子育てを経験すると特にそれを痛感すると思います。フリーランスで働く人を見て、『自由に時間が使えるから子育てもしやすそう』と思う人も多いかもしれませんが、一方でその人には仕事を代わってくれる人がいないというリスクもあります。育児や家庭のことをどうしても優先しなければいけないとき、自分の仕事を任せられる仲間がいるというのは、とても心強いことですよ。
改めて、本文最初の質問に目を向けてください。『あなたは、生涯十分な収入が得られる保証があるとしたら、会社員を辞めて独立したり、フリーランスになったりしたいと感じますか?』という質問。リスクなき独立はゼロなので、ナンセンスな質問ではありますが……(笑)。
ただ、ここには大きなヒントがあって、“生涯十分な収入が得られる保証”は会社であれば会社全体で保証し合えばいいですが、個人や自分が経営者側であれば“生涯十分な収入が得られる保証”をする側にまわらなければならない。私や私の周囲はその保証を確実なものにするために、結果としてチームを作っているんです」
チームでお互いに助け合い、それぞれの欠点を補えること。その中で、大きなインパクトを社会に与えられる仕事ができること。普段は見落としがちかもしれないが、会社員として働くことを選択するメリットは確かにある。
さらに、大手人材系企業が2015年10月から全社員を対象とした在宅勤務制度をスタートする決断をしたように、今後ますます会社員の働き方が自由度の高いものになっていくことは間違いなさそうだ。
奥田さんも、「こうした変化はあと2~3年のうちに、かなり多くの企業へと浸透していく」と予想する。上記のような条件が揃ったとき、冒頭で出た多くの女性たちの会社員としてのあり方が変わるだろう。
「会社員として働くことに不自由を感じたり、やりたいことができずに不満を感じたりしている人も今はまだ多いかもしれません。でも、会社員が自由度の高い環境でやりたいことにどんどん挑戦できるようになる時代はもうすぐそこまできています。
逆に、自由度が高くなると『あなたが本当にやりたいこと、社会に貢献できることはなんですか?』と会社から突き付けられる時代が到来するでしょう。そのとき、ちゃんと会社内でやりたいこと・やるべきことを言えますか? 今、私たちがやりたいことをやるためにすべきことはたった一つ。とにかく、目の前にある仕事一つ一つと誠実に向き合い、その状況の中で『自分がやりたいこと・やるべきこと』を考え抜くことです」
そして、「会社員という働き方を自分で選んでいるという意識で仕事に向かい合っている方が、自分の生き方に納得感が出るはず」と奥田さん。会社員であることの不自由さに目がいきがちだが、会社員であることのメリットも再認識してほしいという。
「『会社を辞めないという選択』とは、嫌なことがあっても会社にしがみつけという意味ではありません。会社の中にいても外にいても、どんな立場でも社会は変えられる。だから、『会社にいるからこそできること』にも目を向けてみてほしいのです」
近い将来、会社員として社内も社外も交えたチームで働くことが最先端のワークスタイルになる日が来るかもしれない。今の自分に何ができるか、どんな風に会社を活用できるか、近い将来のことを考えてみるだけで、ワクワクしてこないだろうか。

【著書紹介】
『会社を辞めないという選択--会社員として戦略的に生きていく』
著・奥田浩美/出版:日経BP社/価格:1,512円(税込)
「会社にいるとやりたいことができない!」と思っていませんか? 自分だけの強みを活かして大きな仕事を成し遂げる方法を、スタートアップ企業1000社の栄枯盛衰を見続けてきた起業家・奥田浩美さんが伝授!
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取材・文/吉戸三貴 栗原 千明(編集部) 撮影/赤松洋太