「新卒入社10年目、初転職の女性」を企業はどう評価する? 人事がチェックする三つのポイント
転職してキャリアを築くのが当たり前になった今、同じ会社で長く仕事をする意味って? キャリアの専門家、人事、先輩女性たちの話から「1社で長く働く」を見つめ直そう
一つの会社で腰を据えて働くことは、決して悪いことではない。
そう分かってはいても、1社で勤め上げる時代ではなくなったからこそ、転職経験がないことを不安に感じてしまうこともある。
実際のところ、新卒入社した会社で長く働いている女性を、企業はどう評価するのだろう。
3名の中途採用担当者の見解を紹介しよう。
●大手アパレル企業の採用担当者・中野さん(仮名)
●スタートアップの採用担当者・石田さん(仮名)
「新卒入社10年目、初めて転職する女性」への印象
「新卒入社した会社で10年働いた女性」から応募があった場合、どのような印象を受けますか?
マイナス要素は何もないですよね。
会社に居れば嫌なことなんてたくさんあるはずで、転職という方法に逃げず、それだけ長く勤めたこと自体に価値があると思います。
忍耐力がありそうですよね。
仕事でつまずいたり、会社に不満を抱いたりしたときに、それを乗り越えてきたわけですから。
環境や社風がハマれば、長く貢献してくださる方なんだろうなと思います。
私もお二人と同じ意見です。同じ会社に10年居れば、いろいろあるはずですし。
基本的にはポジティブな印象ということですね。
チェックポイント1. 柔軟性はある?
強いてマイナス面をあげるなら、10年間ずっと同じ仕事をやり続けてきた方の場合、少し不安に思うかもしれません。
当社はIT企業かつメガベンチャーで動きが速いので、「同じ業務を10年間やってきた人が適応できるのか」という懸念はある。
うちもスタートアップなので、柔軟性は気になりますね。ただでさえ初めての転職は入社後のギャップが生じやすいので、そこは念入りにチェックします。
例えば、老舗企業に10年いた方から応募があった場合、それを理由に書類選考で見送ることはないけれど、「本人が望んでいるキャリアがスタートアップでかなえられるのか」は面接で重点的に確認するでしょうね。
人事の皆さんは、どういうところから「この人には柔軟性がある」と判断するのでしょう?
アンラーニングできるか、ですね。
特に他業界や別職種への転職となる場合、「新しい風を取り入れる気持ちがあるか」を意識して選考をします。
長く同じ会社で活躍してきた人ほど、プライドがあると思います。それは悪いことではないですが、環境が変わればこれまでの成功体験が通用しない瞬間も出てきますから。
どういうポイントで「この人は大丈夫そうだな」と判断するのですか?
過去の経験や実績について、「こういうやり方もあったのでは?」「こういうケースだったらどうします?」といった質問を投げかけたときの反応を見ています。
それに対して、「なるほど。そういう考え方は頭になかったです」などポジティブに受け止められる人はいいのですが、時々ムッとする人もいて。そういう人は心配かな。
たまにいますよね。
予期せぬ突っ込みで不機嫌になるような人は、私も不安になります。
私は、労働市場における自分のポジションをきちんと把握できている人は、結果的に柔軟性があるなと思います。
どういうことでしょう?
10年も同じ会社に居ると、どうしてもその会社のやり方が自分にとっての当たり前になってしまいます。
それに対し、世の中で求められているスキルを理解した上で「今居る会社でしか通用しないもの」と「他社でも通用するもの」を冷静に見極めている人は、自分の立ち位置がよく分かっているということ。
だから選考で正しいアピールができるし、入社後のギャップを小さくすることにもつながるわけで。自分の立ち位置を把握することが入社後の適応につながるのではと思うんです。
漠然と「このスキルは今の会社でしか通用しないのでは?」と不安を感じているだけでなく、「何が通用して、何が通用しないのか」を客観的に理解しているから、結果的に転職後も柔軟に仕事に向き合える、と。
そう。それが「柔軟性がある」ということなのではないでしょうか。
チェックポイント2. なぜこのタイミングで転職したいの?
「今の会社を辞めたい理由」を正しく理解していることも重要です。
「飽きたから」「やり切ったから」ではなく、10年も勤めた会社を辞めて次に何がしたいか。
世の中から見た自分の立ち位置を踏まえた上で自己分析をし、それを元に次のことを考えられている人は安心できるし、転職後に「こんなはずじゃなかった」というギャップを感じにくいんじゃないかな。
そもそも「なぜこのタイミングで10年働いた会社から転職をしたいのか」はどうしたって気になりますよね。
同感です。
長く同じ会社に居た分、「転職したい理由」は絶対に気になりますし、そこをしっかり話せないと、他の話がどれだけ良くても今ひとつ納得できない気がしちゃう。
転職を考えるきっかけは「飽きた」「やり切った」で構いませんが、それだけで終わらせないことは重要だと思います。
以前「転職理由の伝え方」で教えていただいた通り、「転職のきっかけ」と「キャリア軸」を切り分けて整理することが大切ですね。
チェックポイント3. 在籍年数に見合う経験はある?
あとは「長く働いただけの実績やスキル、経験があるか」をしっかり見ます。
役職や実績などから判断するのでしょうか?
もちろん見ますが、それだけでは一概に分からないと思っているので、面接で探りますね。
一つ一つの仕事にどう向き合い、苦労を乗り越え、実績につなげたのか。
それをどれだけ話せるかは、特に1社での経験が長い人の場合はしっかり確認します。
ただ長く勤めただけの人と、きちんと考えて頑張ってきた人では、やはり差がありますから。
あとは、自分のスキルや経験を踏まえ、その延長線上で「次は転職先でこういうチャレンジがしたい」という話が聞けると、「この人は今の会社で着実にキャリアを積み上げてきたんだな」と納得できます。
漠然と長く同じ会社に居れてしまうからこそ、「主体性を持って仕事をしてきたのか」が評価を左右するわけですね。
役職がある、表彰されたといった話ではなく、「今の会社でどれだけ試行錯誤してきたのか」が気になります。
たとえ単純作業がメインの部署であったとしても、10年居ればいくらでも工夫はできるはず。
メンバーも替わるだろうし、より効率的にしようと思えば何かしら改善の余地はあるでしょう。
だからこそ、言われたことをただこなしてきた人は不安です。転職しても、本人がつらいだろうなと思う。
結局のところ重要なのは在籍年数ではなく、「責任を持ってきちんと業務を行っていたか」なのでしょうね。
それさえあれば、1社にどれだけ長く居ようと何の問題もないと思います。
企画・取材・文・編集/天野夏海
『転職時代の「1社で長く働く」を考える』の過去記事一覧はこちら
>> http://woman-type.jp/wt/feature/category/work/tenshokujidai/をクリック