22 SEP/2023

新卒入社した会社で働き続ける? 転職する? キャリアアドバイザーが判断軸を解説

何を得て、何を失う?
転職時代の「1社で長く働く」を考える

転職してキャリアを築くのが当たり前になった今、同じ会社で長く仕事をする意味って? キャリアの専門家、人事、先輩女性たちの話から「1社で長く働く」を見つめ直そう

転職するのが当たり前の時代。

「転職=ステップアップ」というイメージが一般化したことで、逆に「1社で長く働いていると将来の可能性が狭まるのでは?」と不安に思う人もいるかもしれない。

そこで、この転職時代に新卒入社した会社で長く働くことのメリット・デメリットや、転職した方がいい人・しなくてもいい人の傾向について、キャリアの専門家である株式会社キャリエーラ代表、藤井佐和子さんに聞いてみた。

株式会社キャリエーラ 代表取締役 藤井佐和子(ふじい・さわこ)さん

<プロフィール> 株式会社キャリエーラ 代表取締役
藤井佐和子(ふじい・さわこ)さん

大学卒業後、カメラメーカー海外営業部にて3年半従事、その後、前職インテリジェンス(現:パーソルキャリア)では、創業期の1994年から8年間派遣事業部と紹介事業部の立ち上げに携わる。2002年株式会社キャリエーラを立ち上げ、キャリアアドバイザーとして1万7000人以上のカウンセリングを行う

「人的資本の情報開示義務化」が新卒のキャリアアップの追い風に

新卒入社した会社で長く働くことのメリットとして、まず最初にあげられるのは、「管理職や幹部候補としてキャリアアップしやすい」こと。

2023年3月期より上場企業などを対象に人的資本の情報開示が義務化されました。これを背景に、多くの企業で管理職や経営層に女性を抜てきする動きが活発化しています。

そのため、特に若手の女性社員に対し、長期的な視点で大切に育てようとする傾向が強まっていますね。

中でも新卒入社者は将来重要なポストに就くことを見越して採用されているケースが一般的です。

「頑張って管理職にチャレンジしてみない?」なんていう声掛けがされるのは新卒入社者が多いという話も、よく聞きます。

転職が一般的な世の中になり、重要なポストに就く即戦力を中途採用するケースも珍しくなくなりましたが、それでもまだまだ日本企業では、新卒入社者を会社のコアパーソンへと大切に育てていくという考え方が根強いようです。

ポストに就いてもらうことを前提に育成しているからこそ、キャリアアップの機会が与えられることが多く、その分昇進・昇格につながりやすいのです。

藤井佐和子

もう一つのメリットは、長年築いてきた人脈や信頼により、柔軟な対応を受けやすいこと。

例えば、産休・育休後も同じポストで働けたり、責任ある仕事を任せてもらったりするには、会社からの信頼と実績が判断材料の一つになります。勤続年数が長くなればなるほど実績や信頼も築きやすいですし、長く働いてきたことがプラスに働く可能性は高いでしょう。

また、今までとは違う仕事にチャレンジしたいと思ったとき、30代以降に転職して未経験職種に就くハードルは決して低くありません。

しかし長年1社で働いてきた人であれば、実績や信頼により「異動」という形で未経験職種にチャレンジできる可能性があります。

これも1社で長く働いた人ならではのメリットではないでしょうか。

一社で長く働くデメリットは、自分を客観視しにくくなること

デメリットは「自分のキャリアを棚卸しする機会が少ないこと」です。

転職経験がある人は、転職活動を通じて市況感や自分のキャリア、将来のビジョンについて考える機会を得られ、自分の市場価値を目の当たりにするため、広い視野で自分の価値をとらえることができます。

それに対して、1社で長く働いてきた人は世の中の状況をあまり理解していなかったり、自分の市場価値を客観的に把握できていなかったりするケースが多い印象です。

その結果、30代になってからいざ転職しようと思った時にうまく自己分析ができず、壁にぶつかる人が多いですね。

自分の市場価値を正しく理解できていないため、「自分がこれまで培ってきた経験やスキルが他社では通用しない気がして、転職するのが怖い」と言う方も珍しくありません。

このように、今の環境に満足しているわけではないのに、「今いる場所から出るのが不安」と転職へのハードルが上がってしまうのは、新卒入社した会社で長年働いてきた人に多い傾向です。社歴が長い、かつ転職未経験者特有のデメリットと言えるでしょう。

新卒入社した会社で長く働くメリットを最大化する三つの行動

藤井佐和子

1社で長く働くメリットを最大化し、デメリットを最小化するために必要なことを三つ紹介します。

【30代以降のビジョンを明確にする】

1社で長く働き続けることのメリットとして、管理職や幹部への道が開きやすいことや、産休・育休後に希望のポストに就きやすいこと、異動希望に柔軟に対応してもらいやすいことをお話ししました。

こういったメリットを最大限享受するには、自分がどうなりたいのか、何を実現したいのかといったビジョンを明確にしておくことが必要不可欠。

ビジョンが明確であれば自分の目指す姿に近づくために最適な戦略を練り、自社内で実現していくことができます。いずれ転職するにしても、そのために必要な経験を積むことができますよね。

自社内で希望のキャリア実現に向けたステップを踏むチャンスを棒に振らないためにも、30代以降のビジョンを明確にしておくことは大切です。

ビジョンと言われてもピンと来ない人は、どんな業界・職種でキャリアを積みたいのか、どんな専門性を身に付けたいのか、どういうポジションで働きたいのか、どんな働き方をしていたいのか……など、まずは言語化してみましょう。

【転職しなくても、転職エージェントに登録する】

自分の30代以降のキャリアビジョンを明確にし、なおかつそれを実現できる市場価値を得られているかを確認するためには、定期的な「キャリアの棚卸し」が重要です。

自分でキャリアの棚卸しをする自信がない人は、転職する・しないにかかわらず、転職エージェントを利用するのがおすすめです。

キャリアのプロフェッショナルにアドバイスしてもらいながら、自分のキャリアビジョン実現に向けて、今の会社で力を入れるべきことを、整理してもらえますよ

例えば、今の会社では電話をピックアップする早さが評価されるけど、いざ転職活動を始めてみたらそれほど高く評価されなかった、なんて声を聞くことが多々あります。

もちろん、「会社の要望に応えること」は大切です。ただ、それが自分のキャリアビジョンの実現において必要ないのであれば、全力を注ぐ必要はありません。

自分のキャリアにとって、何が必要なのかを戦略的に見極め、業務の中で力を注ぐことのバランスを変えてみてもいいと思います。

【外部セミナーやワークショップに参加する】

一社で長く働いていると、どうしても視野が狭くなってしまうことがあります。それを払拭するには、転職せずとも外の世界と接点を持つことが有効です。

そこでおすすめなのは、社外の人が参加するセミナーやワークショップに参加すること。

他業界の人の話を聞き、自社以外の常識を知るいい機会になるはずです。

講演会やワークショップに参加することで、自主的に学ぶことを習慣化すれば、自身のキャリアアップにもつながって一石二鳥ですよ。

藤井佐和子

転職すべきか迷ったら「今いる環境」を冷静に分析しよう

周囲に転職経験者が増えると、つい「自分も転職した方がいいのかな?」と不安に感じてしまうこともありますが、そんな時は「今いる環境」に目を向けてみましょう。

「自分のキャリアは自分で何とかしなきゃ」と思っている人は多いですが、キャリアを形成していく上で、実は環境による影響は大きいもの。

そして、環境は自分でコントロールし切れるものではありません。唯一コントロールできるのは、身を置く環境を選ぶことです。

転職するにせよ、今の会社で働き続けるにせよ、まずは自分のいる環境を冷静に見つめ直すことがファーストステップ。

ビジョンや目標から逆算して、自分はどのような経験を積んでこれたのか。そのペースは順調なのか。

それらに目を向けてみて、満足できる状態なのであれば、転職を焦る必要はないと私は思います。

逆に、市場価値が上がらない仕事ばかりを任されるような部署や上司のもとで働いている人は、転職を検討してもいいかもしれません。

今自分がいる環境は、自分のキャリアビジョンにとってプラスになるのか。

それをじっくり考えていけば、「自分も転職した方がいいのかな?」というモヤモヤへの答えは自ずと見えてくるはずです。

取材・文/赤池沙希 編集/光谷麻里(編集部)

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