新卒で入った会社に“長く居すぎた”女性たちの後悔「居心地の良さに流されてしまった」
転職してキャリアを築くのが当たり前になった今、同じ会社で長く仕事をする意味って? キャリアの専門家、人事、先輩女性たちの話から「1社で長く働く」を見つめ直そう
新卒社員を大切に育てる文化がある日本。最初に入った会社に思い入れがある人は多いだろう。
だからこそ、転職という選択肢が頭をよぎったときに、今いる会社を離れがたく感じてしまうこともある。
もちろん同じ会社で腰を据えて働くからこそ得られる仕事のチャンスや人間関係、職場環境があるのは事実。1社で長く働くのは、決して悪いことじゃない。
ただ、「漠然と長く居てしまう」ことの弊害があるのもまた事実。
新卒で入った会社に「長く居すぎた」という後悔を抱える3人の女性の体験談から、最初の会社で良いキャリアを築くための「長く働く」を考えよう。
新卒入社7年目に転職「正直、3年目に辞めても一緒だった」
大手商業施設を運営する企業に新卒入社し、約7年勤めた橋田さん。テナントの売り上げ支援やイベント企画など、施設運営を担ってきた。
入社当時は「10年は働こうと思っていた」が、振り返れば3年目のころから「この仕事は違うかも」という違和感を抱いていたと話す。
商業施設の運営は特殊なので、他社で生かせるスキルが身に付いている実感はあまりなくて。
だから入社して3年もたつ頃には、すでにこの仕事をずっと続けるつもりはありませんでした。
でも、当時のチームは楽しかったし、会社の福利厚生も良いし、「今さえ楽しければいいや」って思っちゃったんですよね。
それが崩れたのは入社6年目。異動先の上司は「最低限の仕事をしていればいい」というスタンス。
仕事への熱量が合わず、「もっと夢を持って働きたい」と思うようになった。
とはいえ、充実した福利厚生が魅力的なのは変わらず、「ここよりも良い会社はあるのだろうか」と踏ん切りがつかないまま約1年を過ごす。
ついに退職を決意したのは、「やばい」という危機感からだった。
入社7年目になると、「管理職に昇進させたい」という会社の期待を感じるようになりました。
そこでようやく片隅に追いやっていた「違うかも」という予感が現実になったんです。本格的に昇進の道をたどる前に、ここを出なきゃって。
熱量が高い人たちがたくさんいる環境を求め、ベンチャー企業に転職して約半年。こだわっていた福利厚生は、やはり前職の方が格段に良い。
でも、「今のところ困っていることはない」と橋田さんはあっさりしている。
例えば、前職では家賃はほぼ全額補助してもらっていたけど、今は全額を自分で支払っています。だからといってお金に困るわけではないんですよね。
それ以上に、シフト制から土日休みになって、友達と会いやすくなったり、お盆や年末年始に帰省したりできるメリットの方が大きいです。
福利厚生の面では下がったけど、働き方の面ではむしろ良くなった実感があります。
かつて重視していた福利厚生を手放した今思うのは、「もっと早く動けばよかった」ということ。
7年勤めた会社を辞める不安はあったけど、いざ転職してみたら何の後悔もありません。
むしろ7年間働いたからよかったと思うことはあまりなくて。これが3年でも5年でも、それほど変わらなかったのかなと思います。
最初に「違うかも」という違和感を抱いたのは、入社3年目。そこから転職するまでの約4年間は「なんとなく居続けてしまった」と橋田さんは振り返る。
今の私は30歳。これからいくらでも頑張れると思っていますが、チャレンジするなら若いに越したことはないなって思いもあります。
転職先でキャリアを積むにしても、4年前に転職していればその分上のポジションにいけたかもしれません。20代半ばだったら、もっと体力があった気もしますしね。
だから、入社3年目の時点で転職に踏み切ればよかったのかもなって思います。
現職では、未経験の広報にチャレンジしている。自らムーブメントを起こせる可能性があることに広報の魅力を感じ、転身を決意したという。
そもそも、自分の適性通りの仕事に1社目で就ける人って少数だと思います。
それなら転職なり異動なり、「いろいろ試しながら自分にとって最適な仕事を見つける」って発想があってもよかったなと。
そういう意味でも、「早く動けば良かったな」っていう後悔がありますね。
新卒入社10年目で転職「産休を取らなきゃ損だと思った」
新卒入社した人材系企業で、一貫して法人営業を行っていた田川さん。「入社当時は3年くらいで転職するつもりだった」が、結局10年間在籍した。
3年目で一通りの仕事が一人でできるようになって、役職もついて、後輩もできて、楽しくなってきちゃったんです。上司にも恵まれていましたしね。
その後、会社の体制や組織編成の変化に不満を抱き、転職を考えるタイミングは何度もあった。それでも10年居続けたのには、大きく二つの理由がある。
一つは、入社5年目で結婚をしたこと。転居によって通勤は往復3時間を超え、続けるのは無理だと上司に相談した結果、時短勤務を提案された。
入社以来ずっとお世話になっている上司から、「結婚しても営業を続ける姿を、田川さんが先駆者となってみんなに見せてほしい」と説得されて。
信頼している上司がそう言うならと思ったし、営業として最も脂が乗ったタイミングでもあったし、この先いつ妊娠するかも分からない。
「それなら苦労して新しい環境に飛び込まなくてもいいか」って思っちゃったんです。
「ある種、楽な道を選んだ」と田川さんは当時の選択を評する。
ただ、実際にはなかなか子どもに恵まれず、第一子を出産したのは入社8年目のこと。結婚からすでに3年がたっており、想定外の空白の期間が生じてしまった。
正直、結婚した5年目の時点で、仕事には完全に飽きていました。
もうやれることはなく惰性で仕事ができてしまう状態で、キャリアを考えれば転職した方が絶対にいい。
でも、「ここまで頑張ったんだから、どうせなら産休を取ってやろう」っていう意地があって。
結局、仕事と妊娠出産と切り離して考えたときに、「この会社に残りたい」って気持ちはなかったんです。
10年居続けたもう一つの理由は、信頼する上司や同僚の存在。ところが、最終的には彼ら・彼女らの退職が相次いだことで、いよいよ残る理由はなくなってしまう。
自分の人生の大事な意思決定を外部要因に委ねてはいけないと、今は強く思います。
周りの人たちと一緒に働きたくてずるずる残ってしまったけど、その人たちがずっと会社にいるとは限らない。
何より、上司や同僚が私のキャリアに責任を取ってくれるわけではありませんから。
退職後はベンチャー企業や大手企業、スタートアップと3回の転職をし、各フィールドで営業経験を積んできた。
転職後も1社目の同僚と仕事をする機会があり、「会社を離れても関係性が続く人たちと出会えたのは大きな財産」と田川さん。
その一方、特に最初の転職先では、新しいものをキャッチアップする力が足りないことを痛感した。
1社目では、高速でPDCAを回す、新しいやり方を取り入れて業務改善をするといったことをせず、10年間同じようなことを繰り返していました。
それでも慣れ親しんだ仕事だから成果は出るし、勤続年数が長いから昇進もする。
結果、もらっている年収額とスキルが見合わなくなっちゃって、転職先の期待値と実力のギャップが生じやすいのを感じました。
1社目で同じ仕事を10年間続けたことを、今の田川さんはこう振り返る。
「人材業界の営業」が確固とした私のスキル。10年間の業界の変化を経験してきたからこそ、自信を持ってそう言えます。
ただ、ずっと同じ会社で、同じ価値観の人たちに囲まれて、惰性で仕事をしていたところから転職をするのは、だいぶ負荷が高い。覚悟も必要です。
だから今の私が20代の自分にアドバイスを送るとしたら、「会社に染まり切らない努力が必要だよ」ってこと。
副業で他社の仕事を経験するなど、1社目に居たままできることはいくらでもあったなと思います。
新卒入社13年目、転職未経験「人事にキャリアを任せちゃダメ」
大手通信会社に新卒入社し、勤続13年目となる妹尾さん。就職活動では長く働くことを前提に、女性が働きやすそうな会社を選んだ。
実際に2021年には産休育休も取得し、現在は法人営業の仕事と子育てを両立中。
その点では想定通りのキャリアを歩んでいるが、「このままでいいのだろうか」という葛藤もあると明かす。
私は法人営業をしていますが、希望していたわけではなく、正直、営業を続けるのは避けたくて……。本当は新規事業の仕事がしたいんです。
自身が希望するキャリアと現状のズレを感じると同時に、スキル面にも不安がある。
当社は大手有名企業なので、必死に営業をしなくても受注できてしまう。
それはすごいことだけど、このまま続けても他社で通用する営業力は得られません。
「これは果たして普遍的な業務スキルなんだろうか」という疑問があります。
働きやすい環境があり、会社に愛着もある。だけど、長く居すぎたのかもしれないーー。
妹尾さんは、そんな複雑な心境を吐露する。
当社はホワイト企業として有名です。働きやすく、充実した福利厚生もあるけれど、それは「ぬるま湯に漬かっている」とも言える。
大した営業スキルが身に付いているわけでもないし、「他社では通用しないのでは?」という不安は年々大きくなります。
育休復帰後は転職活動もしたが、書類が通過するのは営業の仕事ばかり。子育て中で働き方に制約がある中、思い切って環境を変える踏ん切りもつかない。
そこで妹尾さんは、嫌だった営業の仕事への向き合い方を見直した。
自分がやりたいことを積極的に提案している人が別の部署にいて。
その姿を見て、私も営業という枠組みはあれど、何かしらトライはできるのかもと気付かされました。
ただ提案して売るだけでなく、他社との業務連携を検討したり、新たなマネタイズの仕組みを考えたり。
そうやって新しい取り組みを始めた結果、「営業が少し楽しくなってきた」と明るい表情を見せる。
「やりたくない仕事」で終わらせず、自分が前向きにやれそうなことを考えれば、楽しむ余地はある。
もっと前から、こういう発想を持てればよかったなと思います。
この先もずっと営業を続けるのは違うという思いは変わらない。
でも、今は営業の面白さを見いだせるようになったことで、仕掛けている施策が数年後にどう花ひらくのか、見届けたい気持ちも芽生えている。
今後は社内副業制度に応募し、メインの営業職の傍ら、興味がある分野の新規事業にも携わる予定です。
この先転職をするにしても、今のままだと「営業の人」になってしまう。社内副業をすれば、副業先の部署に異動がしやすくなるとも聞いたので、いずれは新規事業の部署で経験を積みたいと考えています。
入社13年目にして痛感するのは、「人事に任せていては、思うようなキャリアは築けない」ということ。
これまでのキャリアでよかったなと思うのは、過去に出向をして外の世界を見たこと。それも振り返れば、社内公募に自ら応募したことで実現しています。
そうやって社内の充実した制度をフル活用して、この先は自分の意思でキャリアを築いていきたいですね。
3人の共通点は、会社にとどまる理由を周囲の人や福利厚生など「自分以外の要因」に見いだした結果、「自分はどういう仕事がしたいのか」から一時的に目を背けてしまったこと。
会社で働く上で、環境はとても大切だ。長く働く中で良好な人間関係を築き、居心地の良さを手にしたからこそ、安心して仕事にチャレンジができる面もある。
だが、その心地よさが、時に自分の本心を曇らせることもあるのだろう。
だからこそ「今いる会社で働き続けたい理由」と「自分はどんなキャリアを歩みたいのか」を切り離して考えることが鍵となる。
その結論は必ずしも会社を辞めることに限らず、3人目の妹尾さんのように、現職ですべきことがクリアになるケースもあるはずだ。
自分の人生のかじは自分で取る。そんな当たり前に立ち返ることが、「1社で長く続けるのが不安」なときの指針になるに違いない。
企画・取材・文・編集/天野夏海
『転職時代の「1社で長く働く」を考える』の過去記事一覧はこちら
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